語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【米国】トランプ大統領が描く従来と違うレッドライン ~北朝鮮は世界の問題に~

2017年11月11日 | 社会
 (1)10月22日の衆議院議員選挙では、「お願い」が多く、北朝鮮問題を語る候補が極めて少なかった。日本単独では何かをするのは難しいが、最大の外交問題として、その現状や国際的な取り組みについて語るべきではないか。日本の国会議員は、「平和」に慣れ過ぎていないか。

 (2)9月下旬、ワシントンで、米下院議員のテッド・ヨーホー・アジア太平洋小委員会委員長(フロリダ州選出)を記者団が取材した。9月15日、北朝鮮が発射した大陸間弾道ミサイルが北海道上空を通過し、襟裳岬の東約2,200キロメートルの太平洋上に落下した直後だ。米国民が、「今や、北朝鮮は、アジアだけの問題ではない」と自覚し始めた。
 同議員によると、選挙区であるフロリダ州で、7万5,000人の共和党員、民主党員、無党派層に電話調査をした結果、現在最も憂慮すべきこととして、北朝鮮問題が「ナンバーワン」に浮上した。
 「テロリズムなどの国家安全保障問題は、過去も常にナンバーワンだったが、北朝鮮に特定してというのは初めて」(同議員)

 (3)また、米大統領に対して「緊急時の特権」として連邦議会が承認する軍事力行使権使用承認(AUMF)についても、驚くほどあっさりと踏み込んで答えた。
 「AUMFが議会に要求されれば、おそらく可決されるだろう。現段階で、金正恩・北朝鮮最高指導者がやっていること以上に挑発的なことがあるとは思いたくはない。だが、万が一、北朝鮮が今よりもっと挑発的なことをすれば、私たちは何をするべきか、予想し、そして決めなくてはならない。しかし、その前に日本、韓国、同盟国、そして私たちの軍隊を攻撃するという布告があるだろう」
 ヨーホー・下院議員がここまで答えるということは、連邦議会全体での認識とみてもいいだろう。また、上下院議員は、与野党いずれであっても、有権者にこれだけの説明をする用意はあるということだろう。

 (4)さらに、現在の大統領がトランプ氏という従来の政治家ではないことで、「レッドライン(軍事行使に移る限界)」をどこに置くかも、これまでとは異なってくる。
 「過去の政権では、レッドラインは、見えないインクで描かれていた。しかし現在の政権は、何かをなすべきだと判断すれば、行動する政権だ」
 「例えば、シリアで4,000~5,000人の市民が化学兵器で虐殺されたという証拠が挙がった際、化学兵器使用禁止の条約があり、多くの国が署名していた。しかし、どの国も国際連合も何もしなかった。だから、トランプ大統領がミサイル攻撃を実行した」
 北朝鮮が核兵器を保有し、しかも、水爆実験まで行ったとなれば、米政権の出方は、日本を含め全世界が注視するところだ。

 (5)ヨーホー議員は、最終的には国際社会が経済制裁の重要性を理解するべきだと強調しながらも、これだけのことを話した。
 取材は、わずか20分。しかし、北朝鮮問題に対する有権者の懸念への答えを、明確に示した20分だった。

□津山恵子(ニューヨーク在住ジャーナリスト)「トランプ大統領が描く従来と違うレッドライン/北朝鮮は世界の問題に」(「週刊ダイヤモンド」2017年11月4日号)
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【欧州】英航空・防衛大手企業が受注苦戦で大リストラ ~英国のEU離脱も影響か~

2017年11月11日 | 社会
 (1)10月10日、英国の航空・防衛大手BAEシステムズは、来年1月から国内で約2千人の人員整理に着手する方針を発表した。本件は、7月に就任したウッドバーン新CEOが進める構造改革の一環と位置付けられている。

 (2)英国のGDPに占める製造業の比率は10%(2015年時点、以下同じ)で、ユーロ圏の17%や日本の20%と比べて小さい。
 しかし、航空、防衛、製薬といった先端分野では世界トップクラスの企業が存在している。特にBAEシステムズは、米国のロッキード・マーチン、ボーイングに次ぐ世界第3位の軍需企業であり、英国最大の製造業の一つに数えられる。同社の国内従業員数は約3万5千人と、英最大手自動車メーカーのジャガー・ランドローバーとほぼ同規模であるだけに、今回の人員整理計画は大きな波紋を呼んでいる。
 部門別の人員削減数は、航空機部門が1,400人、艦船部門が375人、サイバー/インテリジェンス部門が150人で、航空機部門の比率が高い。その背景にあるのは、戦闘攻撃機ユーロファイター・タイフーン(以下、ユーロファイター)の受注減少だ。ユーロファイターは、英・独・伊・スペインの4カ国が共同開発した機体で、これらの国では2000年代前半から導入が始まったほか、オーストリアや、サウジアラビアなどの中東諸国でも採用されている。
 ただし調達のピークは過ぎており、BAEシステムズの受注残は、現在確定しているものに限ると19年にはゼロになる見通しだ。9月にカタールがユーロファイターの購入を決定したことはプラス材料だが、今のところ導入スケジュールは未定であり、またサウジからの追加発注獲得交渉も遅延している。特に、サウジとカタールは6月に国交を断絶し、関係が大幅に悪化しているため、カタールへのユーロファイター供給が今後のサウジとの交渉に悪影響を及ぼす可能性も懸念されている。

 (3)人員整理計画に対して労働組合は強く反発しており、最大野党である労働党も政府に支援を要求している。しかし、ペリー産業担当大臣は、一企業の経営合理化の取り組みに政府が介入するのは適切でないとして、関与しない方針だ。

 (4)本件に関連して、雇用喪失という短期的な影響だけでなく、英国の戦闘機開発・生産能力の低下という中長期の影響も懸念されている。
 英国は、次世代戦闘機として米国等と共同開発したF35を導入するが、同機の開発主体はロッキード・マーチンであり、BAEシステムズを含む英国企業は部品の約15%と制御システムの一部を供給するにとどまる。
 また、ドイツとフランスが7月に発表した新型戦闘機の共同開発計画も英国にとっては打撃だ。ユーロファイターの共同開発時には方針の違いからフランスが離脱し、英独が開発の主軸となったこととは対照的な動きだ。直接には言及されていないが、英国の欧州連合(EU)離脱決定以降の英・大陸欧州間の隙間風や、マクロン・フランス大統領誕生を契機とした独仏の接近といった、欧州の外交的地殻変動の影響は否定できない。

 (5)航空機部門はBAEシステムズの売上高の半分以上を占めるため、その動向は同社の今後の命運を大きく左右することになるだろう。

□高山真(三菱東京UFJ銀行経済調査室ロンドン駐在)「英航空・防衛大手企業が受注苦戦で大リストラ/英国のEU離脱も影響か」(「週刊ダイヤモンド」2017年11月11日号)
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【南雲つぐみ】「ながら聞き」は時間の無駄 ~聞こえにおける「図と地」~ 

2017年11月11日 | 医療・保健・福祉・介護
 忙しいという人の話を「ながら聞き」したくなることがある。効率を考えたつもりなのだが、実は話が頭に入っておらず、「ごめんね、もう一度」と謝ることもある。なぜ、ながら聞きはうまくいかないのだろう。これは、だまし絵や隠し絵などと呼ばれる、一つの絵の中に2種類の図柄が描かれたものを見ているのと同じ感覚なのだそうだ。
 「老女と若い娘」というタイトルの絵を知っているだろうか。2人の女性の横顔が両方描かれているのに、老女の顔が見えているときは若い女性の顔は見えず、若い女性の顔を見ようと意識すると、今度は老女の姿が見えなくなる。
 このように、人間の脳は二つの情報を同時に受けると、どちらかが「図(絵柄)」になり、一方は「地(背景)」になるという。二つとも「絵」として処理できないということは、どちらかが一方にしか意識を集中できないということなのだ。
 同様に人の話を聞くときは、たった2~3分だけと割り切って作業の手を止め、話に専念したほうがむしろ時間を無駄にしないことになる。

□南雲つぐみ(医学ライター)「「ながら聞き」は無理 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年11月5日)を引用
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