語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】スペインのご馳走 ~ドン・キホーテ~

2013年01月24日 | 小説・戯曲
 ミゲル・デ・セルバンテス・サベードラ『才智あふるる郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』において名高い場面は、やせ馬ロシナンテにまたがって風車と戦うドン・キホーテだ。その滑稽にして悲壮、勇敢だが、ばかばかしいアイロニカルな英姿は、いまや人類の宿命のシンボルとしても読める。

 本書の前編が出版されたのは1605年。10年後に後編が出版された。両方合わせるとたいへんな分量になり、全編通読している人は、スペイン本国でも案外少ないらしい。
 書き出しのところで、郷士ドン・キホーテの貧しい食生活の記述がある。
 <昼は羊肉よりも牛肉を余分につかった煮込み、たいがいの晩は昼の残り肉に玉ねぎを刻みこんだからしあえ、土曜日には塩豚の卵あえ、金曜日には扁豆(ランテーハ)、日曜日になると小鳩の一皿ぐらいは添えて、これで収入の四分の三が費えた>(会田由訳)

 しかし、田舎の大金持ちの婚礼祝いとなると、料理場を覗きこんだサンチョ・パンサが狂喜するほどだ(後編第20章)。そこにくりひろげられる料理は、質量とも世界文学の大古典にふさわしい豪壮なものだ。
 <例>楡の木まるまる一本を焼き串につかった仔牛の丸焼き。<この犢(こうし)の大きな腹のなかには、十二匹のやわらかい仔豚をつめて、うえで縫い合わせてあったが、これは牛の肉に、風味をつけ、やわらかくするためであった>
 途方もない手間をかけた料理なのだ。

□篠田一士「「憂鬱な騎士」の食事 --セルバンテス『ドン・キホーテ』」(『世界文学「食」紀行』、講談社学芸文庫、2009)

 【参考】
書評:『世界文学「食」紀行』 ~日本文学史上最高の巨漢による文学の食べ方~

 写真(上) ラ・マンチャ地方の風車。
 写真(下) やせ馬ロシナンテにまたがるドン・キホーテと従者サンチョ・パンサの銅像。  

  

  

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