語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】震える牛 ~安い食品の危険~

2013年01月06日 | 小説・戯曲
 映画や本(ミステリーなど)を5点法で評価する例を時々見かける。
 あの1点・・・・5点は、「比率尺度」ではあるまい。乗除の演算はできない。5点は1点の5倍評価できる、とは言えない。「間隔尺度」ですらないだろう。平均をとっても意味がない。せいぜい「順序尺度」ではあるまいか。5点は4点よりも良く、4点は3点よりマシ、といった尺度だ。

 ここでは、小説の評価は二分法で行う。
 とても奇妙な言い方になるが、もし仮に私=「語られる言葉の河へ」管理人1がその小説をまだ読んでいないと仮定した場合、私=「語られる言葉の河へ」管理人2=未読の私に対してその小説を読んでみるとよいと薦める場合には○で、読まなくてよいと斬って捨てる場合は×とする。

  ○ 読んでみてよい小説
  × 読まなくてよい小説

 他人に薦めることは考えていない。性格や好み、生活歴や読書環境が一人ひとりによって違う以上、万人に推薦できる小説なぞない。
 A・ティボーデによれば、スタンダリアンは『赤と黒』党と『パルムの僧院』党にハッキリと分かれるそうだ。同じスタンダール愛好者でもそうなのだから、ましてや、スタンダールを好むか嫌うか不明な人に『赤と黒』を薦めるわけにはいくまい。

 ところで、この二分法によれば、『震える牛』は○だ。
 ミステリーだから、あまり細かいことは書けないが、食の問題が犯行の動機づけに大きく関係している。食の問題とは、簡単にいえば「安かろう、悪かろう」ということだ。例えば、
 <例1>売価500円の牛肉・・・・店の利益が出るためには原価は100円以下、そうなると安い輸入牛肉でもまず無理で、混ぜものと添加物を増やした代用肉になる。メニュー表示に100%ビーフとあっても、老廃牛の皮や内臓から抽出した「たんぱく加水分解物」でそれらしい味を演出している。そこに牛脂を添加して旨味を演出するから一応100%らしい食べ物になっているだけのこと。
 <例2>3個250円のおにぎり・・・・原価80円程度。間違いなく古々米が原料で、乳化成分、ブドウ液糖、増粘多糖類を加えていなければ、とても食べられるシロモノにはならない。
 <例3>小エビの載った海鮮サラダ・・・・次亜塩素酸ナトリウムという消毒剤、アスコルビン酸ナトリウムという酸化防止剤のプールに浸けている。サラダの野菜が1日経っても黒ずんだりしないのは、ちゃんと理由がある。

 フィクションに書かれた話なので、鵜呑みにする必要はない。しかし、読んでいるうちに胃が落ち着かなくなってきて、突っ込んで調べてみたくなる人もいるだろう。
 T.S.エリオットは、チェスタートンを論じて、純文学より大衆小説のほうが影響力が大きいと言った。
 少なくとも食の問題に関して、『震える牛』は読者に影響力を発揮すると思う。

□相場英雄『震える牛』(小学館、2012.2)
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