(1)2013年の日本経済は、厳しい状況に置かれている。<例>製造業の海外移転は大企業のみならず部品メーカーを始めとする中小企業もこれに続く。
(2)こうした状況に対して本来必要なのは、経済構造の改革、規制緩和による新しい雇用機会創出だ。
(a)ただし、こうした政策は、すぐには効果をもたらさない。
(b)その半面、退出しなければならない産業や企業は、大きな痛み(<例>失業)を経験しなければならない。
(3)金融緩和は、当面の直接的なコストはゼロだ。したがって、政治的には最も採りやすい。
しかし、金融緩和するだけで経済の改革が実現できるはずはない。事実、これまで金融緩和が進められてきたにもかかわらず、実体経済に何の影響も及ぼさなかった。
【理由】日本経済の低迷が続いた。 ⇒ 投資需要がない。 ⇒ 資金需要がない。 ⇒ 日本銀行がマネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えない。 ⇒ 実体経済に何の影響も及ぼさない。
総選挙で自民党が圧勝後、大幅な金融緩和に向けた政策が採られることを期待して値上がりした株式市場が忘れているのは、まさにこのことだ。
(4)他方、財政再建の行方はまったく絶望的だ。
【理由】これ以上の消費税率引き上げはほぼ不可能だし、相続税などの増税は多額の税収を期待できないし、社会保障制度の抜本的改革は行われそうもなくて社会保障支出は増大を続け、他の歳出も膨張し続け、国債発行も増加し続ける。
(5)日銀に対する国債購入の圧力は今後ますます強まる。毎年の新規国債発行額のすべてを日銀が購入するような事態になる。
しかし、日銀が現在方式での国債購入を際限なく続けることができるか、疑問だ。応札額が買い入れ予定額に届かない「札割れ」はすでに何回か生じている。
これまで深刻な問題が生じなかったのは、ユーロ危機で南欧国債から逃避した資金が日本に流入しているからだ。
現在の状況は「国債バブル」状態だ。金利高騰は、深刻な影響をもたらす。(a)現在方式での国債購入を進められなくなる。(b)国債価格の暴落によって銀行に巨額の損失が発生する。メガバンクは保有国債の短期化を図っているが、地方銀行・生命保険会社は長期国債の保有が多いので、問題が生じる可能性がある。
かくて、日銀引き受けが検討される。 ⇒ 実施されると、財政規律がこれまでにも増して弛緩する。 ⇒ 国債発行額はとめどもなく増加する(悪循環の発生)。
(6)日銀の目標(消費者物価上昇率1%)は、従来方式の国債購入を続ける限り、達成できない。
むろん、2%も達成できない。
物価上昇率は、金融政策とは無関係に決まるからだ。<例外>原油価格上昇(近い将来には起こりそうもない)。
物価上昇率目標はいつになっても達成できず、「国債購入を無制限に続ける」ことを正当化することになる。
金融緩和の本当の目的は、物価上昇率引き上げではなく、経済活性化でもなく、日銀が国債を購入することなのだ。
(7)それが仮に(5)の日銀引き受けまで進んだ場合、インフレが引き起こされることが予想される。 ⇒ 資本逃避が生じる。
現時点で資本逃避が生じていないのは、(a)ユーロ圏からの資金(南欧国債からの流出資金)が日本に流入しているからだ。また、(b)米国が金融緩和を進めているため、米国への資本流出が抑制されているからだ。
しかし、(a)、(b)のいずれかが大きく変わると、事態は大きく変わる((a)も(b)も状況変化は現実にあり得る)。 ⇒ 資本が流出する。 ⇒ 円安が進む。 ⇒ 輸入価格が高騰する。 ⇒ インフレが輸入される。 ⇒ 国債の実質価値は減少する(長期金利が高騰する)。
実は、財政危機から脱出する唯一の方法は、これだ。しかし、資本逃避は、いったん始まると加速するので、止められなくなる。2011年以降、日本の証券市場には巨額の短期資金が流入している(日本国債の外国人保有率が高まった)ので、このシナリオは現実的なものだ。
日本経済は、いま重大な岐路に立たされている。
□野口悠紀雄「金融緩和で日本経済は海図なき航海に出る ~「超」整理日記No.642~」(「週刊ダイヤモンド」2013年1月12日号)
↓クリック、プリーズ。↓
(2)こうした状況に対して本来必要なのは、経済構造の改革、規制緩和による新しい雇用機会創出だ。
(a)ただし、こうした政策は、すぐには効果をもたらさない。
(b)その半面、退出しなければならない産業や企業は、大きな痛み(<例>失業)を経験しなければならない。
(3)金融緩和は、当面の直接的なコストはゼロだ。したがって、政治的には最も採りやすい。
しかし、金融緩和するだけで経済の改革が実現できるはずはない。事実、これまで金融緩和が進められてきたにもかかわらず、実体経済に何の影響も及ぼさなかった。
【理由】日本経済の低迷が続いた。 ⇒ 投資需要がない。 ⇒ 資金需要がない。 ⇒ 日本銀行がマネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えない。 ⇒ 実体経済に何の影響も及ぼさない。
総選挙で自民党が圧勝後、大幅な金融緩和に向けた政策が採られることを期待して値上がりした株式市場が忘れているのは、まさにこのことだ。
(4)他方、財政再建の行方はまったく絶望的だ。
【理由】これ以上の消費税率引き上げはほぼ不可能だし、相続税などの増税は多額の税収を期待できないし、社会保障制度の抜本的改革は行われそうもなくて社会保障支出は増大を続け、他の歳出も膨張し続け、国債発行も増加し続ける。
(5)日銀に対する国債購入の圧力は今後ますます強まる。毎年の新規国債発行額のすべてを日銀が購入するような事態になる。
しかし、日銀が現在方式での国債購入を際限なく続けることができるか、疑問だ。応札額が買い入れ予定額に届かない「札割れ」はすでに何回か生じている。
これまで深刻な問題が生じなかったのは、ユーロ危機で南欧国債から逃避した資金が日本に流入しているからだ。
現在の状況は「国債バブル」状態だ。金利高騰は、深刻な影響をもたらす。(a)現在方式での国債購入を進められなくなる。(b)国債価格の暴落によって銀行に巨額の損失が発生する。メガバンクは保有国債の短期化を図っているが、地方銀行・生命保険会社は長期国債の保有が多いので、問題が生じる可能性がある。
かくて、日銀引き受けが検討される。 ⇒ 実施されると、財政規律がこれまでにも増して弛緩する。 ⇒ 国債発行額はとめどもなく増加する(悪循環の発生)。
(6)日銀の目標(消費者物価上昇率1%)は、従来方式の国債購入を続ける限り、達成できない。
むろん、2%も達成できない。
物価上昇率は、金融政策とは無関係に決まるからだ。<例外>原油価格上昇(近い将来には起こりそうもない)。
物価上昇率目標はいつになっても達成できず、「国債購入を無制限に続ける」ことを正当化することになる。
金融緩和の本当の目的は、物価上昇率引き上げではなく、経済活性化でもなく、日銀が国債を購入することなのだ。
(7)それが仮に(5)の日銀引き受けまで進んだ場合、インフレが引き起こされることが予想される。 ⇒ 資本逃避が生じる。
現時点で資本逃避が生じていないのは、(a)ユーロ圏からの資金(南欧国債からの流出資金)が日本に流入しているからだ。また、(b)米国が金融緩和を進めているため、米国への資本流出が抑制されているからだ。
しかし、(a)、(b)のいずれかが大きく変わると、事態は大きく変わる((a)も(b)も状況変化は現実にあり得る)。 ⇒ 資本が流出する。 ⇒ 円安が進む。 ⇒ 輸入価格が高騰する。 ⇒ インフレが輸入される。 ⇒ 国債の実質価値は減少する(長期金利が高騰する)。
実は、財政危機から脱出する唯一の方法は、これだ。しかし、資本逃避は、いったん始まると加速するので、止められなくなる。2011年以降、日本の証券市場には巨額の短期資金が流入している(日本国債の外国人保有率が高まった)ので、このシナリオは現実的なものだ。
日本経済は、いま重大な岐路に立たされている。
□野口悠紀雄「金融緩和で日本経済は海図なき航海に出る ~「超」整理日記No.642~」(「週刊ダイヤモンド」2013年1月12日号)
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