語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】電力改革に必要な3つの条件 ~不良債権処理と国民負担~

2012年07月21日 | 震災・原発事故


(1)本質的な選択肢
 東京電力改革は、次の3つの条件を同時に満たさなければならない。
 (a)経営責任と貸し手責任を問う。
 (b)原発事故被災者を救済する賠償費用や除染費用を最大限捻出する。
 (c)東電処理を将来の前向きな電力改革と結びつけていく。

 ①東電および財務省によるズルズル国有化路線は、3つの条件のいずれも満たさない。1990年代の不良債権処理問題の二の舞となり【注1】、「失われた30年」をもたらす。
 ②東電の破綻処理は、責任問題という観点からは、もっともスッキリしている。しかし、4兆4,000億円に及ぶ電力債は、電気事業法第37条で優先弁済が決まっている。(b)の条件を満たすのが困難になる。
 ③したがって、(a)とともに、発送電分離を行い、資産売却と原子力予算を組み替える方式がもっとも望ましい。不十分ながら3つの条件を同時に満たすからだ。
 ③-2 貸し手責任を問い、債権放棄をさせて債務を削減することで、(a)と(b)の条件を満たす。ついで(c)を満たすため、発電会社と送配電会社の所有権を分離させ、それを全電力会社の発送電改革に結びつけていく。そのうえで、発電施設や送配電会社自体を売却するか、新会社を立ち上げて発行新株を売却する。なお、単に発電部門と送配電部門を会計上分離したり、社内で形式上分社化するだけでは(b)や(c)の条件を満たさない。
 ③-3 さらに、原子力予算【注2】の大幅な組み替えも行い、(b)の費用を捻出する。それでも、事故処理や被害者救済に必要な資金額には達しまい。最後は、国(原子力政策を推進してきた)が、除染を含めて最終責任を負うことを明確にしなければならない。

(2)(1)-(c)のために発送電分離が必要な理由
 2012年7月に再生エネルギー法が施行される。まずは、事業が成り立つのに十分な買い取り価格と短い固定期間を設定することで、再生可能エネルギーへの転換を急がねばならない。しかし、現行の電力供給体制は、総括原価方式を採り、10電力会社が地域独占している。これでは再生可能エネルギーの急速な普及は望めない。
 そこで、発送電分離が必要になる。発電を自由化しないと再生可能エネルギーの事業者が新たに参入しにくい。他方、発送電は国ないし特別な機関が送配電網を統一的に適用しコントロールしなければならない。再生可能エネルギーは、それぞれが小規模で不安定な面があるから、できるだけ広いネットワークでつなげる必要があるのだ。加えて、現行再生エネルギー法には、電力供給が不安定になる場合に電力会社は買い取り拒否ができる例外規定が定められている。系統接続には一定のコストがかかるので、電力会社が投資をサボり、接続を拒否すれば、再生可能エネルギーの普及は望めない。東電の国有化を、この発送電分離につなげていく必要がある。

(3)原発という不良債権処理と国民負担のあり方 ~残る問題~
 原発=不良債権【注3】をいかに処理するか、という問題は、国民負担のあり方と深く関わる。どこまで国民負担とするかは、国民的な合意に依存する。国民負担のあり方は、(a)即時脱原発か、(b)前進的脱原発か、という選択肢によって違ってくる。倫理的には即時脱原発が望ましいが、原発廃止の速度を速めれば速めるほど、原発=不良債権処理のコストがかさむ。この矛盾を直視しなければならない。 
 (a)の場合、電力会社が保有する原発=不良債権の処理のため、一定の国民負担が生じる。銀行の貸し手責任を問いつつ、税金によって東電の事故処理費用・賠償費用・除染費用【注4】を負担することが求められる。相当額の公的資金注入が避けられない。少なくとも、優先弁済を保証している電力債の返済、賠償費用・事故処理費用、除染費用が必要となる。発電施設や送配電施設の売却でも調達できない分は少額ではない。それを税によって負担するしかない。
 原発に過剰依存している関西電力や九州電力は、「ミニ東電化」せざるをえない。(a)を実行するには、原発に過剰依存してきた経営の失敗を問うとともに、公的資金を投入して、これら電力会社の経営再建を図らねばならない。少なくとも、この点について国民的合意を作る必要がある。しかし、今のところ十分に踏み込んだ議論はない。
 (b)の場合、賠償費用・除染費用に関する国民負担は急激には生じない。ただし、一定の原発を再稼働させる以上、安全性をどう確保するか、という問題が発生する。その場合、どのようにして危険な原発を特定するのか、どの程度の原発を残すのか、という問題が発生する。
 (b)の路線をとった場合に一定の原発を再稼働させなければならないが、現行のストレステストと急遽3日間で作成した暫定基準による、なし崩しの原発再稼働は、当然、許されない。では、拙速な再稼働手続きに代わってどのような手順を踏むのか、という問題が残る。

 【注1】「【原発】不良債権処理と原発事故処理の類似点
 【注2】「【原発】原発は不良債権 ~異常な原子力予算~
 【注3】「【原発】不良資産になってしまった原発 ~電気料金値上げの真の理由~
 【注4】「【震災】原発>賠償・除染の費用を出せなくなる東電 ~債務超過~

 以上、金子勝『原発は不良債権である』(岩波ブックレット、2012)の「四 いかなる電力改革が必要か」に拠る。
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