語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】不良資産になってしまった原発 ~電気料金値上げの真の理由~

2012年07月05日 | 震災・原発事故
(1)原発という不良資産
 (a)東電を除く電力9社の連結決算(2011年4~12月)は、7社で純損益が赤字となった。
  各社の財務状況を見ると、原発を持たない沖縄電力が、減益とはいえ黒字を出している。電源開発も同じだ【注1】。

 (b)燃料費値上げの影響が、ないわけではない。しかし、家庭向け電力に関しては、「(燃料費)調整額」という名目で、経産省令によってほぼ自動的に料金が引き上げられてきた。昨年も複数回引き上げられ、上昇した燃料費の少なくとも半分は吸収されている。燃料費値上げで問題になるのは、電力が「自由化」されている企業など大口利用者向け分だけだ。

 (c)重要なのは、原発が早く停止した電力会社ほど赤字傾向にある、という事実だ。
  安全性が担保できない原発は不良債権(不良資産)だ。これが問題の本質だ【注2】。
  原発は、1基につき3,000~5,000億円の建設費がかかる。何基も建てると兆単位の借金を負う。しかも、原発は普通の機械と違ってメインテナンスに莫大な費用がかかる。停止した原発は、借金がかさむだけの不良資産と化してしまうのだ。

 (d)(c)の本質的問題を隠すために、原発擁護派は根拠の曖昧なキャンペーンをいくつも繰り広げて、原発の再稼働を急いできた。例えば「原発が動かないと停電になる」と脅した。では一体何基の原発が必要なのか、と訊いても根拠となる数字は一切示さない。
  夏に原発が動かないで電力が足りると、原発がなくてもよいことが明らかになり、すべて不良債権になってしまう。だから、電力会社は夏までに原発を再稼働しようと焦ったのだ。

 (e)電力会社が焦る余り、
   ①電力会社自らがストレステストを実施。
   ②電力会社の仲間うちの、福島第一原発事故で信頼が地に堕ちた原子力安全・保安院と原子力委員会がそれをチェック。
   ③事故前の古い安全基準で再稼働。
  ・・・・といったことをやっているから、原発の安全性、信頼性はますます疑われてしまう。電力会社は、危機管理の原則がまったく分かっていない。

 (f)ここまで原発再稼働を急ぐ背景には、民間の電力会社が原発を運営する場合、減価償却が終わった原発ほどもうかる、という構造的な問題も隠されている。老朽原発ほど運転コストしか負担せずにすむから、すべてを再稼働したくなるのだ。

(2)再処理施設
 原発という不良債権の根は深い。
 六ヶ所村再処理施設は、当初7,600億円だった建設費が、今では2兆2,000億円に膨らんだ。それでもまだ稼働していない。
 総合資源エネルギー調査会電気事業分科会(2003年)において、電気事業連合会はバックエンド費用の試算18兆8,000億円という数字を出した。ところが、いつまでたっても再処理施設が稼働しないために、複雑な会計処理が行われるようになった。
  (a)日本原燃(六ヶ所村の再処理施設を経営)は、1兆円もの銀行借り入れをしている。しかも、電力会社に債務保証をつけさせている(稼働の見込みの立たない再処理施設は担保物件として意味がない)。
  (b)電力会社は、電気料金に上乗せして再処理費用への引当金を積む。この引当金のなかから前受け金として、日本原燃に10年返済で1兆円を貸し付けている(日本原燃は、電力会社の変則的な貸し付けなしには成り立たない存在と化した)。
  (c)(b)に加えて、日本原燃は2011年3月期に4,000億円の増資をし、またもや電力会社がそれを引き受けた。電力会社は自己資金(つまり国民の電気料金)を使って引き受けたのだ。にもかかわらず、国民に対して十分な説明はない。それどころか、日本原燃は、2010年10月期から有価証券報告書の開示をやめてしまった。稼働の見込みの立たない事業がますます不透明になった。
  (d)電力会社の引当金の一部は、15年間かけて原子力環境整備促進・資金管理センターの積立金に移し、電力会社はこの積立金を取り崩して日本原燃に支払っている。ところが、稼働していないにもかかわらず、減価償却や燃料プールの貯蔵などの名目で、すでに1兆6,000億円あまりお積立金が取り崩されて日本原燃に支払われている(機械は動いていないのに減価償却している)。
 稼働のため改めて更新投資すれば、明らかにコストオーバーになる(積み立て不足が生じる)。だからと言って、六ヶ所村の再処理施設が動かなければ、これまでに投じた12兆円もの電気料金が烏有に帰す。
 かくのごとく、六ヶ所村の再処理施設は電力会社と一連託生だ。六ヶ所村再処理施設は、つぶすにつぶせない巨大な不良債権となっている。

 【注1】第3四半期だけをみると、原発依存度の低い中国電力も黒字だ。【金子勝/神野直彦『失われた30年 ~逆転への最後の遺言~』(NHK出版新書、2012)】
 【注2】「【原発】継続的な被害調査の必要性 ~岐路に立つ原発「賠償」(2)~
    「【震災】原発>東電にメスを入れる東京都(その2) ~子会社の整理~
    「【震災】原発>賠償・除染の費用を出せなくなる東電 ~債務超過~
    「【震災】原発>なぜ東京で電力は余ったのか? ~原発の不良資産化~

 以上、金子勝「「脱原発」が国民負担を増す大いなるジレンマ」(週刊朝日臨時増刊「朝日ジャーナル」」2012年3月20日号)に拠る。
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