(1)経済対策
(a)デフレ解消が先
デフレでは財政再建はうまくいかない。OECD加盟国を1960年代から見ると、名目成長率が高くなった国が財政再建に成功している。名目成長率は翌年の基礎的財政収支と強い相関がある。増税の前に、名目成長率を先進国並みに4~5%にしてプライマリー収支を改善し、デフレから脱却しておく必要がある。日本のデフレはマネー不足でおきている。ちなみに、1997年に消費税率を3%から5%に引き上げたが、それ以来デフレが続き、税収は1997年度の水準を下回っている。
(b)財政再建の必要性が乏しい
日本の財政状況は、財政当局がいうほど悪くない。日本経済の潜在力や政府資産の大きさなどから、欧州の国ほど深刻でない。欧州で緊縮政策が否定されている中、日本が増税政策を採るべきではない。10年くらいで財政再建する必要性はあるが、急に行えばかえって財政再建自体ができなくなる。
先進国各国の財政状態の深刻さは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の数字(その国の国債の危険度に応じた数字)が一つの参考になる。米国0.4%、英国0.7%、日本1.0%、独国1.1%、仏国2.2%、伊国5.5%だ(6月11日現在)。ギリシャは100%に近く、事実上デフォルトだ。
(c)迫る欧州危機時にやることでない
欧州危機が迫っている中、日本で増税してはならない。
リーマンショックの時、震源地でもない日本が世界最悪のGDPギャップを抱えてしまった。デフレを脱却していないにもかかわらず2006年3月に、日銀が量的緩和を解除してしまい、その半年後あたりから景気が下降局面に入っているときに、リーマンショックという外的ショックを受けたからだ。今回、まだ東日本大震災の傷がまだ完全には癒えていない。にもかかわらず消費税増税を強行するのは、経済政策として信じがたい。
(2)税理論
(a)不公平の是正が先
税率を上げる前に、税(保険料を含む)の不公平を直しておくべきだ。①今の不公平のうち大きいのは、社会保険料の徴収漏れだ。国税庁が把握している法人数と年金機構(旧社保庁)が把握している法人数は80万件も違う。労働者から天引きされた社会保険料が、年金機構に渡っていない可能性がある(推計10兆円程度)。②クロヨンといわれる所得税補足の格差、③インボイスを採用していない消費税の徴収漏れもある。税徴収の観点からみても今は「穴の空いたバケツ」だ。税率を上げる前に穴をふさぐのは常識だ。
(b)歳入庁の創設が先
不公平の解消のためには、①歳入庁(国税庁と年金機構の統合)、②消費税にインボイス方式の導入・・・・という先進国では当たり前のことをやれば、かなり解消でき、税・保険料も20兆円近く増収になる。
税・保険料の徴収インフラとは、国税庁と年金機構が一体化する歳入庁だ。歳入庁は国民にとっても一ヵ所で納税と保険料納付が済むし、行革の観点からも行政の効率化になる。歳入庁による徴収一元化は世界の潮流と言ってよい。
しかし、歳入庁の創設は財務省にとって都合が悪いらしい。国税庁は財務省の植民地になっており、国税権力を財務省が手放さない。安倍政権で旧社保庁を解体し、歳入庁を創設しようとした時にも激しく抵抗した。今の野田政権は、財務省のシナリオ通りに動くので、歳入庁が創設されるだろうか。
(c)社会保障目的税化の誤り
増税案では消費税を社会保障目的税化しているが、そうしている国はない。社会保障は所得の再分配なので、国民の理解と納得が重要だ。
日本を含めて給付と負担の関係が明確な社会保険方式で運営されている国が多い。もっとも保険料を払えない低所得者に対しては、税が投入されている。ただし、日本のように社会保険方式といいながら、税金が半分近く投入されている国はあまりない。
消費税の社会保障目的税化は、社会保障を保険方式で運営するという世界の流れにも逆行する(ドイツのように消費税引き上げの増収分の一部を、特定用途に使った国はある)。
消費税の社会保障目的税化が間違いというのは、1990年代までは大蔵省の主張でもあった。しかし、1999年の自自公連立時に、財務省が当時の小沢一郎自由党党首に話を持ちかけて、消費税を社会保障に使うと予算総則に書いた。
(d)消費税は地方税とすべき
消費税は、地方分権が進んだ国では国でなく地方の税源とみなせることが多い。これは、国と地方の税金について、国は応能税、地方は応益税という税理論にも合致する。
(3)政治姿勢
(a)無駄の削減・行革が先
無駄の削減が不徹底だ。水面下の天下りを放置し、その上に現役出向というウラ技を正面から容認し、民間企業にまで現役天下りを拡大させてしまった。独立行政法人というシロアリの巣も手つかずだ。特別会計というシロアリへのミルクも温存されている。
1981年から始まった土光臨調をまねて行革をやるというが、土光臨調は「増税なき財政再建」だった。だが、今回は「まず増税ありき」で、増税のためのアリバイ作りにすぎない。
(b)資産売却・埋蔵金が先
やっていない。
(c)マニフェスト違反
①民主党は消費税を増税しないといって政権交代した。ちなみに、2009年9月9日付け3党連立政権合意書では「現行の消費税5%は据え置くこととし、今回の選挙において負託された政権担当期間中において、歳出の見直し等の努力を最大限行い、税率引き上げは行わない」と明言されている。
②今回の消費税増税法案は2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げるので政権担当期間中の引き上げにならない・・・・というのは詭弁だ。
③民主党代表戦で野田佳彦総理が増税を掲げたので増税は正当化されている・・・・というのは、民主党内の身内の論理だ。
④消費税は社会保障に充てる・・・・というのは、社会保障目的税にするという会計操作を説明しているだけだ。2001~08年度の自公政権(リーマンショック時の麻生政権を除く)の平均歳出総額は83.6兆円。一方、2010~12年度の民主党政権の平均歳出総額は94.3兆円。その差は10.7兆円もある。消費税増税はその穴埋めと言ってもおかしくない。
以上、高橋洋一(嘉悦大学教授)「6・13国会公聴会 私が述べた消費税増税反対の10大理由 ~俗論を撃つ【第41回】 2012年6月14日~」(DIAMOND online)に拠る。
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(a)デフレ解消が先
デフレでは財政再建はうまくいかない。OECD加盟国を1960年代から見ると、名目成長率が高くなった国が財政再建に成功している。名目成長率は翌年の基礎的財政収支と強い相関がある。増税の前に、名目成長率を先進国並みに4~5%にしてプライマリー収支を改善し、デフレから脱却しておく必要がある。日本のデフレはマネー不足でおきている。ちなみに、1997年に消費税率を3%から5%に引き上げたが、それ以来デフレが続き、税収は1997年度の水準を下回っている。
(b)財政再建の必要性が乏しい
日本の財政状況は、財政当局がいうほど悪くない。日本経済の潜在力や政府資産の大きさなどから、欧州の国ほど深刻でない。欧州で緊縮政策が否定されている中、日本が増税政策を採るべきではない。10年くらいで財政再建する必要性はあるが、急に行えばかえって財政再建自体ができなくなる。
先進国各国の財政状態の深刻さは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の数字(その国の国債の危険度に応じた数字)が一つの参考になる。米国0.4%、英国0.7%、日本1.0%、独国1.1%、仏国2.2%、伊国5.5%だ(6月11日現在)。ギリシャは100%に近く、事実上デフォルトだ。
(c)迫る欧州危機時にやることでない
欧州危機が迫っている中、日本で増税してはならない。
リーマンショックの時、震源地でもない日本が世界最悪のGDPギャップを抱えてしまった。デフレを脱却していないにもかかわらず2006年3月に、日銀が量的緩和を解除してしまい、その半年後あたりから景気が下降局面に入っているときに、リーマンショックという外的ショックを受けたからだ。今回、まだ東日本大震災の傷がまだ完全には癒えていない。にもかかわらず消費税増税を強行するのは、経済政策として信じがたい。
(2)税理論
(a)不公平の是正が先
税率を上げる前に、税(保険料を含む)の不公平を直しておくべきだ。①今の不公平のうち大きいのは、社会保険料の徴収漏れだ。国税庁が把握している法人数と年金機構(旧社保庁)が把握している法人数は80万件も違う。労働者から天引きされた社会保険料が、年金機構に渡っていない可能性がある(推計10兆円程度)。②クロヨンといわれる所得税補足の格差、③インボイスを採用していない消費税の徴収漏れもある。税徴収の観点からみても今は「穴の空いたバケツ」だ。税率を上げる前に穴をふさぐのは常識だ。
(b)歳入庁の創設が先
不公平の解消のためには、①歳入庁(国税庁と年金機構の統合)、②消費税にインボイス方式の導入・・・・という先進国では当たり前のことをやれば、かなり解消でき、税・保険料も20兆円近く増収になる。
税・保険料の徴収インフラとは、国税庁と年金機構が一体化する歳入庁だ。歳入庁は国民にとっても一ヵ所で納税と保険料納付が済むし、行革の観点からも行政の効率化になる。歳入庁による徴収一元化は世界の潮流と言ってよい。
しかし、歳入庁の創設は財務省にとって都合が悪いらしい。国税庁は財務省の植民地になっており、国税権力を財務省が手放さない。安倍政権で旧社保庁を解体し、歳入庁を創設しようとした時にも激しく抵抗した。今の野田政権は、財務省のシナリオ通りに動くので、歳入庁が創設されるだろうか。
(c)社会保障目的税化の誤り
増税案では消費税を社会保障目的税化しているが、そうしている国はない。社会保障は所得の再分配なので、国民の理解と納得が重要だ。
日本を含めて給付と負担の関係が明確な社会保険方式で運営されている国が多い。もっとも保険料を払えない低所得者に対しては、税が投入されている。ただし、日本のように社会保険方式といいながら、税金が半分近く投入されている国はあまりない。
消費税の社会保障目的税化は、社会保障を保険方式で運営するという世界の流れにも逆行する(ドイツのように消費税引き上げの増収分の一部を、特定用途に使った国はある)。
消費税の社会保障目的税化が間違いというのは、1990年代までは大蔵省の主張でもあった。しかし、1999年の自自公連立時に、財務省が当時の小沢一郎自由党党首に話を持ちかけて、消費税を社会保障に使うと予算総則に書いた。
(d)消費税は地方税とすべき
消費税は、地方分権が進んだ国では国でなく地方の税源とみなせることが多い。これは、国と地方の税金について、国は応能税、地方は応益税という税理論にも合致する。
(3)政治姿勢
(a)無駄の削減・行革が先
無駄の削減が不徹底だ。水面下の天下りを放置し、その上に現役出向というウラ技を正面から容認し、民間企業にまで現役天下りを拡大させてしまった。独立行政法人というシロアリの巣も手つかずだ。特別会計というシロアリへのミルクも温存されている。
1981年から始まった土光臨調をまねて行革をやるというが、土光臨調は「増税なき財政再建」だった。だが、今回は「まず増税ありき」で、増税のためのアリバイ作りにすぎない。
(b)資産売却・埋蔵金が先
やっていない。
(c)マニフェスト違反
①民主党は消費税を増税しないといって政権交代した。ちなみに、2009年9月9日付け3党連立政権合意書では「現行の消費税5%は据え置くこととし、今回の選挙において負託された政権担当期間中において、歳出の見直し等の努力を最大限行い、税率引き上げは行わない」と明言されている。
②今回の消費税増税法案は2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げるので政権担当期間中の引き上げにならない・・・・というのは詭弁だ。
③民主党代表戦で野田佳彦総理が増税を掲げたので増税は正当化されている・・・・というのは、民主党内の身内の論理だ。
④消費税は社会保障に充てる・・・・というのは、社会保障目的税にするという会計操作を説明しているだけだ。2001~08年度の自公政権(リーマンショック時の麻生政権を除く)の平均歳出総額は83.6兆円。一方、2010~12年度の民主党政権の平均歳出総額は94.3兆円。その差は10.7兆円もある。消費税増税はその穴埋めと言ってもおかしくない。
以上、高橋洋一(嘉悦大学教授)「6・13国会公聴会 私が述べた消費税増税反対の10大理由 ~俗論を撃つ【第41回】 2012年6月14日~」(DIAMOND online)に拠る。
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