文庫本とはいえ700ページを超えるとかなりの重量。そして物理的な重さ以上に、心にずん!と来ます。朝方に読み終えてため息をつく。大傑作。今年のマイベスト確定。
ドン・ウィンズロウといえば、近ごろは「犬の力」The Power of the Dog に始まるアメリカとメキシコの麻薬戦争もので世間を圧倒。だから彼のことを暴力描写と怨念の作家だと思っている人が多いかも。
しかしわたしにとっては何と言っても探偵ニール・ケアリーが成長する「ストリート・キッズ」の作家だ。全5作。若くて傷つきやすく、悲惨な家庭環境にいたニールを、隻腕の探偵グレアムが導いていく物語。創元推理文庫で読めますよ。
そして他にも、角川文庫でどかどか刊行された「歓喜の島」「ボビーZの気怠く優雅な人生」「カリフォルニアの炎」などの洒脱な作品群もすばらしかった。
この「壊れた世界の者たちよ」は中篇が六つから成っており、冒頭のタイトル作こそ弟を殺された警官の壮絶な復讐劇(壊れた世界とは、アメリカであり、現代の世界すべてだ)だが、スティーブ・マックィーンに捧げられた「犯罪心得一の一」は、それだけに「ブリット」「華麗なる賭け」「ゲッタウェイ」のエッセンスをつめこんだ犯罪小説。
つづく「サンディエゴ動物園」はエルモア・レナードに捧げられているだけあってレナードタッチのコメディ。なにしろ失恋したチンパンジーが拳銃をもっと動物園を脱走することに始まるてんやわんや。
レイモンド・チャンドラーに捧げられた「サンセット」は、タイトルどおり人生の後半戦に向かう苦みがすばらしい。魅力的だけれどもジャンキーな登場人物の名前がテリーなのは「長いお別れ」よね。
最後の「ラスト・ライド」に泣けない人はいないはず。最後の騎行に向かう主人公がいいんですよ。
そして、これらの作品にはかつてウィンズロウの小説に出てきた面々が(ニール・ケアリーをはじめとして)大挙して登場するんです。ああ、彼のファンでよかったとつくづく。彼の作品を詠んだことがない人にも絶対のおすすめです。
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