佐藤正午の7年ぶりの新作長篇。「月の満ち欠け」「身の上話」「鳩の撃退法」と傑作を連発する佐藤の、何度も言うようにわたしは大ファンなのだ。
今回もかなり高度なテクニックが使われていて、この部分の話者はいったい誰なんだろう、と読者を戸惑わせながらストーリーは進む。
そのストーリーの核となるのが、まさしく
・この言葉は誰によって語られているのか
・この地の文は誰による描写なのか
に集約される。
ふたりの丸田という少年。雰囲気も容姿もよく似ている。その名前から、クラスメイトの佐渡くんはふたりにそれぞれマルユウ、マルセイというあだ名をつける。丸田ふたりと佐渡くんは、何かに引き付けられるように近所の山に登り、ある体験をし、結果的に新聞に載ることになる。その体験は、彼らにどんな影響を与えたのか……
キャラの設定があいかわらずうまい。
大人になった彼らを取材しようとする女性記者や、取材を受けるようにすすめる元教師の“いやな感じ”など、絶妙だ。
ある人物の号泣で終わる展開だけれど、読み終えて幸福感が味わえます。またしても傑作。佐藤正午はいい。
「冬に子供が生まれる」というタイトルは、「月の満ち欠け」につづいて、実は倫理的にやばいんだろと思いますが。引用しているのはもちろん「E.T.」あるいは「未知との遭遇」そして「天国から来たチャンピオン」でしょう。そのセンスもうれしいです。
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