川上弘美著「夜の公園」2006年4月、中央公論社発行を読んだ。2002年から中央公論に断片的に連載されていた短編をまとめたものだ。
リリの夫幸夫がリリの親友春名と、そして春名は若者悟とも関係を持ち、悟の弟暁がリリとと、ぐるりと循環する関係になる。最近の小説は皆そうであるが、登場人物は皆、こだわりがなくさっぱりしていて、もつれた人間関係があってもドロドロとした悩みが主題ではない。
リリと幸夫はたがいに優しいが、もはや愛し合ってはいない夫婦で、ためらいもなく不倫をする。リリが美しく清楚でか弱く、春名はあでやかで積極的。悟はまともな会社員で暁は体育系のフリーター。
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読めば)
川上弘美というと、SF的な変わった小説をイメージするが、この小説はだれでもが書くような題材、テーマだ。硬質で明解な文章、さっぱりした情景描写が川上さんらしさを多少出しているくらいだ。
川上弘美の従来からのファンには共感されず、新しい路線はまだはっきりしていないといった印象を持った。
主人公のリリには、生活観が感じられない、というか感じさせない。社会との係わりもなく、自分に正直にということだけしか考えていない。従来の川上さんの小説の、世の中から浮いた、聖的とも言える主人公のファンタジー的雰囲気を多少引き継いでいると言えなくもない。
川上弘美の略歴と既読本リスト