hiyamizu's blog

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森絵都『風に舞いあがるビニールシート』を読む

2024年08月03日 | 読書2

 

森絵都著『風に舞いあがるビニールシート』(文集文庫も20-3、2009年4月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

文藝春秋BOOKSでの担当編集者より

才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり……。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い、第135回直木賞受賞作。解説・藤田香織

 

また、第6話の表題作は、2009年、NHKの土曜ドラマで5回に渡り放送された。

 

初出:「別冊文藝春秋」2005年3月号~2006年1月号(一部改題)。

単行本:2006年5月文藝春秋刊

 

 

「器を探して」:最後が意外で、恐ろしい。

「犬の散歩」:恵利子と義母が二人して競い合うようにビビちゃんの良い所を挙げて、最後はヴィヴィアン・リーだの、原節子だのとエスカレートしていくのが笑えた。

「ジェネレーションX」:若い石津がいい味出していて、一方、最後の一言が切なくて、笑っちゃう!

「風に舞いあがるビニールシート」:確かに難民保護のUNHCRの現実は抑えても抑えても舞いあがるビニールシートなのだろう。死を賭してその中に入り込んで行く人々が現実に存在するのだ。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

森絵都は、童話作家で、優しさ、暖かさがあるとは思っていたが、リアルな描写もうまく、「何なんだこの人は?」と思う。

 

森絵都の略歴と既読本リスト(明日UPします)

 

以下、私のメモ

 

いつも、読んでもらうには長々と書きすぎるのは分かっているが、この作品だけは私のためにここに充分書き残して置きたい。

 

「器を探して」

天才的ケーキ職人でお嬢様経営者のヒロミに、美濃焼の器を探しに行って欲しいとクリスマス・イヴの朝に唐突に言われた黒子役の弥生は憤ったが、信奉するヒロミに観念して多治見へ出張した。婚約者の高典からはたびたびのメールがあり、今夜はプロポーズで「僕を選ぶのか、あの女を選ぶのか」と迫られている。
多治見の窯元で、弥生を釘付けにした瀬戸黒は、引出黒というめちゃくちゃ手間がかかる技法で作られていた。ヒロミのプディングと融合した光景を想像した弥生は、30万円、しかもフィーリングのあった客にしか売らないという男に……。

 

「犬の散歩」

昭和チックな「スナック憩い」のホステスの恵利子は何のために水商売を始めたかというと、ワンちゃんのためだという。32歳の主婦・恵利子は、捨て犬や迷い犬など行き場のない犬を自宅で預かって里親を探す活動をする「仮宿クラブ」のボランティア活動をしているのだ。
八幡山の保健所の施設には、昨年1.5万匹の犬猫が収容され、1.2万匹が殺処分されたという。収容された犬に残された時間は7日間だけ。家庭犬として再出発をはかれると認められた犬だけはしつけ訓練を施される。保護団体は譲渡先を探したり、微妙なラインにいる犬を引き取ったりする。
長くこの活動をしている恵利子の友人の尚美は云う。「自分はこの犬たちの1割を救っているんだって思いじゃなくて、ここにいる9割を見捨てているんだって思いなの」

 

「守護神」

裕介は、日中はホテルでバイト、夜は夜間大学と時間がなく、卒業のためにはまだ4本もレポートを書かねばならない。1本だけでも代筆を依頼するため伝説的な代筆の達人学生・ニシナミユキを探す。
ようやく見つけた彼女に2年続けて断られたが、心の内をしゃべることになって、結局なにも得るものはなかった。しかし、唯一もらったダサい二宮金次郎の携帯ストラップが裕介には意外なほどたくましい守護神に感じられた。

 

「鐘の音」

仏像・不空羂索観音像の修復に尋常ではないほどに思い込みを持って情熱を燃やす本島潔は、マニュアル通りに修復しようとする親方・松浦に反抗し、本体修復から外される。
25年後、潔は当時の同僚・吾郎に会って、昔を思い起こす。仏像の種類、修復師の仕事内容の解説が興味深い。

 

「ジェネレーションX

雑誌社の40歳に近い野田健一は、直立不動で詫びて低頭するが図太さが透けて見える新人類の若い玩具メーカーの石津と共に、車で2時間以上のクレーム先に謝罪に行く。
途中、あきらかに私用電話がかかってくる。「じゃあ、もう一件だけ、いいっすか」と、気楽な調子で次々と電話を掛けまくる石津。「君、仕事中だよ」の言葉を飲み込んだ健一も、青空同窓会でも計画しているのか、などと思わず想像してしまう。
「フジリュウは放っときゃいいんじゃないのか」と、つい引き込まれて思わず話に乗ってしまった健一に、石津は「普段は放ってるんです。けど……」……「高校時代の野球部メンバーと草野球するんですよ」

……「あの……野田さん、野球やってたんすか」

その後の話もここに書きたいが、あまりにも長くなったので。是非本を読んでください。いい話で、しかも最後の一言が切なくて、笑っちゃう!

 

「風に舞いあがるビニールシート」

里佳は、使えない社員は解雇され、使われ過ぎた社員の多くは過労で退社する投資銀行で5年勤めたが、仕事に誇りを持てず、難民を保護し支援する国連機関UNHCRの応募し、一般職員として内勤勤務していた。里佳はエドと結婚するが、再び専門職員となったエドは次から次へと、危険な紛争地へでかけ、7年、間の東京生活で里佳と過ごす日は数えるほどで、すれ違いのまま離婚した。世界の紛争は常にどこかで燃え盛っている。風は止まらないし、ビニールシートは抑えても抑えても風に舞い上がってしまう。
そして、エドがアフガンで死んだという知らせに里佳は立ち直れない。一般職員の里佳に上司のリンダは専門職員の資格を取って、紛争地へ出ていくことを勧めるのだが……。

 

 

 

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