hiyamizu's blog

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藤沢周平『時雨のあと』を読む

2015年11月19日 | 読書2

 

藤沢周平生著『時雨のあと』(新潮文庫ふ-11-3、1982年6月25日発行)を読んだ。

 

ドナウ河クルーズ中、備え付けの本をベッドで寝転んで読み、帰ってから図書館で借りて、思い出しながら、書いた。

 

裏表紙にはこうある。

身体を悪くして以来、すさんだ日々を過す鳶の安蔵。妹みゆきは、兄の立ち直りを心の支えに、苦界に身を沈めた。客のあい間に小銭をつかみ兄に会うみゆき。ふたりの背に、冷たい時雨が降りそそぐ…。表題作のほか、『雪明かり』『闇の顔』『意気地なし』『鱗雲』等、不遇な町人や下級武士を主人公に、江戸の市井に咲く小哀話を、繊麗に、人情味豊かに描く傑作短編全7話を収録。

 

 

「雪明かり」

 280石の芳賀家に婿入りし、35石の実家との交流を絶たれた兄・菊四郎。一方、血のつながらない妹・由乃は嫁ぎ先・宮本家での辛い仕打ちに病を得て、汚物にまみれ、骨と皮だけになっていた。菊四郎は病の由乃を婚家から救出し、茶屋へ運び込む。菊四郎は雪乃のいる茶屋通いを宮本家の母や婚約者の朋江から責められた。

立ち止まるその場所から、その先はひと跳びの距離に過ぎなかった。だが菊四郎は繋がれていた。跳べば由乃もろともその裂け目に堕ちるのがみえている。
「跳べんな」

 

「闇の顔」

 志田弥右衛門と大関泉之助が相討ちとなって死んだ。二人の死にもう一人、剣術に優れた者の存在が浮かび上がった時、泉之助の婚約者・幾江には石凪(いしなぎ)鱗次郎の顔が浮かんできた。

68ページの長編。犯人は誰かというサスペンス風。

 

「時雨のあと」

 安蔵は博奕にはまり、妹のみゆきは錺師(かざりし)の見習いで金がいると信じて、女郎屋で働いた金を渡している。みゆきの風邪で寝込む姿を見て、安蔵は思い出した。子供のとき二人は親戚に預けられた。叱られて夜飯を抜かれ泣いている安蔵の傍で、幼いみゆきが云った。「兄ちゃんが食べないから、あたいも食べない」

屋根を叩いていた時雨は、遠く去ったらしく、夜の静けさが家のまわりを取り巻いている気配がした。

 

「意気地なし」

 歳は27,8、腕の良い蒔絵師という伊作は、妻を亡くし赤子を抱えて、情けないことに一人泣いていたりする

。隣に住むおてつは腹立たしく、いらいらしていた。 赤子を連れては仕事に行けないと知ったおてつは赤子を預かる。おてつは婚約者でモテ男の作次 と一緒にいても赤子のことが気になりだす。

 

 

「秘密」

 76になる由蔵は、近頃ぼんやりしだした頭で、手代だったころ悪事を見つけられた女が誰だったか思い出そうとしていた。嫁のおみつに心配されて声を掛けられて・・・

 

「果し合い」

 58の庄司佐之助は、若い頃剣術に優れしかるべき家の婿になると思われていた。しかし、果し合いで足を不自由にし、依頼30数年、甥の弥兵衛の厄介者として部屋住みで過ごした。大叔父の佐之助に唯一優しい甥の娘美也は松崎信次郎に思いを寄せ、縄手達之助との縁談を断った。達之助は剣技が不得手の信次郎に果し合いを申込んだ。美也は佐之助に助けを求めた。左之助にはその昔、女性との過去に悔悟があった。

 

「鱗雲」

 小関新三郎は城下へ帰る途中、病で倒れている娘雪江を助けた。死んだ妹を思わせる雪江はまもなく目的地へ旅立った。中老・保坂のドラ息子が屋敷に上士の子女を集めて騒いでいたが、新三郎の婚約者・利穂(としほ)もいつしか参加するようになっていた。

 ラストシーンで、駆けてくる女を遠くに見た新三郎が、婚約者と雪江がいなくなってめっきり寡黙になった母につとめて平静に言う。「あなたの娘が一人、帰ってきたようです」。

 

初出:1976年立風書房より単行本発刊

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

あいも変わらず下級武士、慎ましく生きる市井の人を温かく見つめる眼がやさしい。人間の愚かさ、切なさ、どうしようもないやるせなさ、そして人情のあたたかさが見事に語られる。

高橋源一郎に「一億三千万人のための小説教室」で“伝統芸”とからかわれようが、面白く、心動かされる小説は読みたいし、多くの人が読んでいる。

 

 

藤沢周平の略歴と既読本リスト

 

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