hiyamizu's blog

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篠田節子『純愛小説』を読む

2021年02月15日 | 読書2

 

篠田節子著『純愛小説』(角川文庫し31-5,2011年1月25日角川書店発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

純愛小説で出世した女性編集者を待ち受ける罠と驚愕の結末、影のように慎ましく生きてきた女性が抱く最初で最後の狂おしい想い、息子の恋人に抱いてしまったときめき、年齢を超え理不尽なまでの磁力で惹かれあう男女……成熟したからこそ逃れがたい「恋」という名の愚行がときに苦く、ときに危険なほど甘やかに綴られる4篇の物語。直木賞作家、円熟の筆が冴える、ほんとうの大人のための“ロマンティック・ラヴ”。

 

いわゆる純愛ではないが、これも中年の大人の愛の形、一種の“純愛”なのだという4編の短編小説集。

 

『純愛小説』
妻から離婚を迫られている柳瀬はその理由に見当が付かない。バブルの時代、若いころの柳瀬はイケイケの遊び人で、派手な女性関係を繰り返し、奥さんも諦めていた。40歳間近になり、10年ほど前からは家庭第一の生活に態度を改めていた。中学からの付き合いで気の置けない友人である出版社勤務の香織は柳瀬の相談にのってやり、あれこれと原因を探る。
香織の中学の同級生の山下真由の娘・藍子が母の13回忌終了の報せとともに香料・ローズウオーターを送ってきた。柳瀬のところにも送られてきたこれが……。

『鞍馬』
校長をしていた優子は徳之島にフリースクールを立ち上げようとしていたが、300万円不足していた。長姉の静子は20代で仕事を止めて結婚もせず、母を看取ってくれたので、優子と末の妹は東京・杉並の家と土地を譲った。そこで、優子は姉・静子に300万円の融通をお願いしたが、はっきりとした返事はもらえなかった。
電話しても出ない静子を心配して、東京に実家を訪ねると、家のあったところは更地になっていた。
子供の頃から優秀で社会に出てからも上り詰めた優子の視点から見ると、気弱で優しいが世間知らずの静子はすっかり若い男・吉田に騙されて資産を失った哀れな老女となる。視点を静子に取ると、妹二人を母代わりに育て、母を看護し、看取っただけのつまらない人生の最後のこの時期が、破滅へ進んでいくことは解っていても、唯一の短い華やかな時期だったのだ。吉田との最後の旅の宿は鞍馬だった。

『知恵熱』
高広の次男の大地は東大に入り、井の頭線・東松原の学生用マンションに一人住まいしている。連絡がつかないで3日になり心配して電話すると、今大阪へ旅行中だという。1か月後、残業で10時過ぎになって高尾からバスで自宅へ帰るのもおっくうで、突然息子の部屋を訪れた。そこには屈託なく、なにげない様子の彼女・清家可奈子がいた。化粧気はないが芙蓉のような匂(にお)やかな女性で、高広はこんな娘が欲しかったと思った。大地は母親にはしゃべらないでといい、高広は「無責任な真似だけはするな」という。結局、……。
(知恵熱とは、生後1年以内の、知恵がつき始める時期の乳児が出す熱で、原因がわからず短時間で治まるもの。医学用語ではない。大人に対して「無理して頭を使ったから知恵熱が出たんじゃない」とからかったりする)

『蜂蜜色の女神』
メンタルクリニックの44歳の医師・尚美は、辻井光奈子の訴えを聞いている。35歳の夫・和臣が47歳の女性・希恵(のりえ)に夢中で異常なのだという。夜中でも会社でも、急にそういう状態になって、その女性の肉体を求めて我慢できなくなってしまうらしい。希恵は有名なデザイナーで、蜜蜂色の肌をして、ハーブティーでもてなすという。

原因についての妻の解釈と弟・浩二の解釈は違う。尚美は思う。浮気を巡る解釈のいずれが正しいかは重要ではない。治療するにあたってはそう意味はない。正常か異常かは社会や家庭での生活に支障があるかないかの基準に過ぎない。医師は患者の困った症状を治療するために診断を下すが、正常か、異常か、異常なところを直して正常にするなどという抽象的なことではない。

 

この作品は2007年5月角川書店より単行本として刊行。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

著者の言わんとするところは明快で、どちらかと言えば理知的な小説だ。一見異常な中年の男女の恋愛感情を描いているが、その心理解析に主眼が置かれていて、恋愛小説だが抒情的ではない。

「純愛小説」の改心した柳瀬が抜け殻かのように受け取れる表現があるが、それも違うのではと思った。

「鞍馬」一見誠実そのものに見える吉田はサプリメントを一瓶渡されて、どうしたのだろう?

「知恵熱」での母の「大地、たぶんふられるわね」という言葉が染みる。

「蜂蜜色の女神」は理解不能だが、単なる麻薬中毒で済まされるのでは面白くない。

 

 

篠田節子の略歴と既読本リスト

 

コメント
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