hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

H.F.セイント『透明人間の告白』を読む

2012年10月11日 | 読書2

H.F.セイント著、高見浩訳『透明人間の告白 上、下』河出文庫セ3-1&3-2、2011年12月河出書房新社発行、を読んだ。

ウォール街の証券マン、ニック・ハロウェイはある研究施設を訪れ、偶然事故に巻き込まれる。事故で施設全体がすべて透明になり、彼自身も透明人間になってしまう。その事実を覆い隠そうとする情報機関に、彼はしつこく追い回される。逃亡に加え、透明人間であるからこそ、食事、買物、生活費の確保に苦労する。透明であるが故のリアルな生活上の悩みとサバイバル術、彼を追う情報機関との駆け引きが展開される。

「本の雑誌」が選ぶ30年間のベスト1に選ばれた。

原題は“Memoirs of an Invisible Man(1987)
新潮社から1988年6月に単行本で刊行、その後、新潮文庫となり、絶版。30年間のベスト1になり、新潮文庫と、河出文庫で復刊された。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

透明となった主人公の日常生活の悩みが変にリアルに描かれていて、想像力を刺激される。しかし、30年間のベスト1とは思えない。なにしろ、上下で800頁を超える長さだ。1/3で丁度良いと思える。例えば、情報機関の大佐と交渉する会話だけで24頁も費やす。

あとがきで訳者も言っているが、自分が透明になってしまったことに気がつくシーンは秀逸。足がないことに気が付き、足を失った人が、その後もあるような感覚を持つものだということを思い出す。そして、顔を触ると、顔はあることがわかるのに、指がない。そして、自分が死んだと思う。・・・

男性ならだれでも期待する女性の入浴シーンなどの盗み見も(私ではなく、上巻の解説の椎名誠による)、ちゃんと期待に応えているが、十分ではない(誰が?)。

ともかく全体に絵空事をリアルに描いている点は面白い。大部分を占める情報機関のしつこい追求をなんとか自分の才覚で逃れていく過程は、まあまあ。



H.F.セイント(H.F. Saint)
ドイツのミュンヘン大学で哲学を学んだという異色のニューヨーカー。長い間実業界で活躍し、アスレティック・クラブやコンピューター会社などを経営したのち、若い頃からの夢だった小説に挑戦。ほぼ四年かけて書きあげた処女長編の『透明人間の告白』は、刊行前から出版界の注目を集め、デビューと同時に一躍ベストセラー作家となり、映画化もされた。

高見/浩
1941年、東京生れ。東京外国語大学卒。出版社勤務を経て翻訳家に。訳書に『ヘミングウェイ全短編』『武器よさらば』『透明人間の告白』『ハンニバル』他多数。著書に『ヘミングウェイの源流を求めて』。



透明人間の日常の苦労を、あなたがなったときのために、以下羅列する。

透明人間が透明であるためには、熱帯ならともかく、いつも裸でいるわけにもいかないので、透明なものを身に付ける必要がある。町を普通に(?)歩きたいのならちょっと目立つが、仮面などで仮装する方法がある。寒い冬だったら、完全武装のスキーの格好をすることがお勧めだ。

郵便物、鍵などを持つときは、気付かれぬように床に置いて蹴っ飛ばすなど工夫が必要。

エスカレータを駆け登ってくる若者などに気をつけなくてはならない。なにしろ相手はこちらが見えないのだから。狭い道で突然うしろからくる自転車も危険だが、歩道が狭く自転車の多い吉祥寺の住人なら、この点だけは、普段どおりに気をつけていれば済む。

食物が口で細かくなり、食道から胃に落ちていくのを見られてはならない。消化するまで隠れていること。

歯間、爪の掃除も大切だ。汚れだけが浮かんで動いて行くことになるのだから。


コメント
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