hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

酒井順子『ズルい言葉』を読む

2012年10月18日 | 読書2


酒井順子著『ズルい言葉』2010年7月角川春樹事務所発行、を読んだ。

私達が生活の中でよく使う言葉を挙げて、それを使う私達の気持ちが、実は意味をぼかす、逃げ道を作るなどのズルい目的のためであることをユーモアにくるんで語る45編のエッセイ集。

関東の言葉の野蛮に関する話
「“おバカ”の“お”は“バカ”という言葉の語感のキツさを薄めるためにある・・・逃げの“お”でもあります。」・・・
「しかし、・・・いくらあずま人は野蛮だから言葉もキツいと思われようと、物事をオブラートに包まずにポンと言い切るのが江戸の人々の特徴。バカだのブスだの言っても、そもそもはその言葉の中に、江戸の人々は愛嬌とか愛情を内包させていたのではないか。・・・落語の中の人々のことを“おバカな熊さん”“おバカな八つぁん”では気持ちが悪いではありませんか。」(おバカ)

へりくだっている言葉に関する話
料理番組で、「じゃがいもはね、熱いうちに皮をむいてあげてくださいね。むき終わったら、マッシャーで軽くつぶしてあげます」という。食材は“物”なのに生き物扱いすることに気持ちの悪さを感じる。犬を鎖でつないでいるのに“ワンちゃん”というのに似ている。(してあげる)

芸能人が「この度、女優の◯◯さんと結婚させていただきます・・・」と言う。また、絶対に断られないのに、店の人に「グラスワインをもう一杯いただいてもいいですか?」と言ったりする。謙譲語というのは、相手を立てているようでいながら、実は相手の攻撃から身を守るための、防御の言葉なのかもしれません。(していいですか?)

決まりきった言葉の良し悪しに関する話
何人かで蟹を食べている時、誰かが「蟹食べてる時って、みんな無口になるよね」とつい言ってしまう。その台詞は、皆、何回も聞いて「もういいい加減、そのことを言うのはやめようや」と思う。(蟹食べてると・・・)

白濁したスープに入った鶏の水炊きなどが出てくると、店の人は必ず「コラーゲン、たっぷりですから」という。
女性客は「うわぁ、嬉しい!」「じゃあ、明日の朝は、起きたらお肌がプリップリですね~」と定型文まで言うのが礼儀になっている。そうやって、女性たちは自己暗示をかける。(コラーゲン、たっぷり)

文章を書く仕事をする身としては、赤子の頬はマシュマロのようであり、下町の商店のコロッケは食べる前から人情の味がするというような紋切り型の表現はどうかと思い、他の言い回しに苦労する。
著者の友人は、温泉に入れば必ず「身体が芯から温まった」、お酒を飲むと「飲みやすい!」、食事を大勢で食べる時は「みんなで食べるとおいしいね!」と言い、極めて健康的な言語生活を送っている。著者は、彼女の紋切り型通りの幸せな人生がどうも恥ずかしいながらもちょっと羨ましい。(みんなで食べるとおいしいね)

恋人同士での私のこと、好き?」との質問は、絶対に、「イエス」としか相手に言わせない命令形だ。男性は「そんなこと、いちいち言わなくてもわかっているだろう」と思うのですが、女性は「そんなことは見ればわかる」的なことを、いちいち口に出していうことによって、満足を得る生きものなのでした。(私のこと、好き?)



「広告」「料理通信」「ランティエ」に2005年から2010年にかけて書いた「言葉」に関するエッセイを集めた。

酒井順子の略歴と既読本リスト

1つだけおまけ
昔、喫茶店に入ると、女性が男性に「お砂糖、いくつ?」と聞いて入れてあげていた。この光景は20年以上前に消えていた。(お砂糖、いくつ?)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする