hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

冲方丁『もらい泣き』を読む

2012年10月07日 | 読書2

冲方丁(うぶかた・とう)著『もらい泣き』2012年8月集英社発行、を読んだ。

天地明察』で名を上げた冲方丁が、出会った人々から集めた実話を元に創作した33話の「泣ける」ショートストーリー&エッセイ集。

「金庫と花丸」
“お涙ちょうだいモノ“を扱うことが多いテレビ局の女性が言う。

「本当に同じような話がうじゃうじゃ集まるのよ。しかも、私のデスクの引き出しの数だけで間に合うくらいのパターンしかなくてさ。・・・人間みんな同じこと考えるのねって、そっちの方に感心しちゃう」

笑っちゃうのよという彼女の話は、一族みんなに恐れられていた厳格な祖母が亡くなり、遺品の金庫の中に入っていた意外なものの話だ。
「あとがき」で冲方さんは言う。
もちろん、一つ一つの話は、決してただのバリエーションではない。話してくれた一人一人にとって、ゆいいつ無二の、人生の物語である。


「ぬいぐるみ」
念願の生まれた子供が視力薄弱だった。その上、会社が危なくなり父親は参ってしまう。その彼を生き返らせた3歳の子供からの感動のプレゼントは・・・。

「女王猫」
死ぬ時は死ぬ。そういう覚悟で生きてきたんだ。

「爆弾発言」
KYのレベルを超えた空気そのものを吹き飛ばすような発言をする女性がいる。その人は・・・。

「教師とTシャツ」
パジャマにアイロンをかける厳格な父親と反抗する娘。そしてどこにでもある話なのだが。

「あとがき」
とにかく大勢から話を聞いて書いたにもかかわらず、あたかも、たった一人から、長い長い話を聞き続けた、という不思議な感覚もある。・・・その一人こそ、誰の心にも共通して存在する、「良心」なのかもしれない。そんなふうに思うだけで、私はなんだか、希望を得られたような気がするのだ。


巻末に、一般読者から募集した「泣ける話」が5編載っている。「お菓子と募金箱」が嬉しくなる。

初出:「小説すばる」2009年6月号~2011年10月号、12月号~2012年2月号



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

大変な事が起き、腹立つことも多い世の中だが、日常のささいな出来事の中で、人の温かみを知ると、世の中、捨てたもんじゃないとも思うことができる。そんな本だ。
しかし、個々の話は文字通り良い話なのだが、ベタな感動物語が、一つ二つならともかく、33連発では感動も、くたびれる。

「ぬいぐるみ」の話で思い出した。
放送作家で直木賞受賞の景山民夫は、おふざけが過ぎるし、幸福の科学に入信するなど私にはあまり良い印象はない。しかし、彼には生まれつき寝たきりで何の反応もない子供がいた。いつものように、その子の握った拳の中に指を入れて話しかけていたら、ある時、ちょっと指を握り締めて来たという。彼にはそれが嬉しくて、嬉しくてと、熱っぽく話していたことがあった。この話を聞いて、やはり人の親とは、と嬉しく、また哀しくなった。



冲方丁(うぶかた・とう)
1977年岐阜県生まれ。14歳まで、シンガポール、ネパールに在住。埼玉県立川越高校卒。
1996年早稲田大学在学中に『黒い季節』で第1回スニーカー大賞 金賞を受賞しデビュー
1997年ゲーム制作者としてデビュー。先鋭的なゲーム開発に多数関わる。
2003年小説『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞受賞
2010年『 天地明察』で本屋大賞1位、吉川英治文学新人賞受賞、直木賞候補


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