hiyamizu's blog

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ローレンツ『ソロモンの指輪』を読む

2012年10月27日 | 読書2

コンラート・ローレンツ著、日高敏隆訳『ソロモンの指輪 ―動物行動学入門― 』2006年6月早川書房発行、を読んだ。

「刷り込み」理論を提唱し、動物行動学をうちたて、ノーベル賞を受賞したローレンツが、けものや鳥、魚たちの生態を、共感をもってユーモアあふれる筆致で描いた永遠の名作。

小さな綿毛のような生まれたばかりのハイイロガンのヒナは、大きな黒い目でこちらをじっとみつめていた。著者がちょっと動いて話しかけたとたん、ヒナも挨拶のひと鳴きを返した。この瞬間から、著者は母親と認知された。このヒナはよちよち歩きで必死についてくるようになる。昼間は2分ごとに、夜は1時間毎に気分感情声「私はここよ、あなたはどこ?」と問いかけ、返事を要求する。途方も無い義務を負わされたが、それはなんと素晴らしく、愉しい義務だったことか。

著者は、高等動物を自由な状態にするために、鳥や動物を家の中で放し飼いにする。ネズミは家中を齧りまわり、オウムは洗濯物のボタンをすべて食いちぎり、小鳥がカーテンや家具に落ちない青いシミをつける。
長女が幼い頃、放し飼いの動物に怪我をさせられないよう、妻は長女を檻に閉じ込めてしまったという。

宝石魚という魚は、日暮れ時になると、親が子魚を口の中に入れて巣穴に戻す。子魚が巣穴に戻ったとき、父親が餌であるミミズを見つけて、口をいっぱいにしてモグモグ噛んでいた。そのとき、一匹の迷子の子魚を見かけた彼は慌ててその子を口に入れた。親魚は噛むことも飲み込むこともせずに葛藤し、しばらくじっとしていた。やがて彼は口の中のものを全部吐き出した。眠ると浮き袋がしぼむ子魚は水底に沈んだ。父親は片目で絶えず子魚を見つめながら、ミミズを食べ始めた。食べ終わると父親は子魚を口に吸い込み巣穴へ届けた。

旧約聖書のソロモン王が「ソロモンの指環」をはめて、けものたちと話したことから題名は「ソロモンの指環」となっている。著者は、親しい動物となら指環なしでソロモン以上に話せるという。ドイツ版の題名は「彼、けものども、鳥ども、魚どもと語りき」。

本書は、1963年12月に早川書房から単行本で刊行、1998年に文庫化されたものを、2006年に再度、単行本の新装版で刊行されたもの。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

はるか昔に読んだはずだが、十分楽しく再読できた。ボケもまた良し。
なにしろ、ノーベル賞受賞者が書き、あの日高さんが訳した本だ。まったく難しいところはない。
しかし、家中めちゃくちゃにされ、動物の世話にあけくれる毎日を過ごし、しかも学者として優れた業績を残すなど考えられない。たしかに、犬のようにひたむきに著者を頼ってくる動物には応えざるを得ないだろうし、幸せを感じるだろうとは思うのだが。

カラスにメスと思い込まれ、唾でどろどろになった餌のイモムシを耳の奥に詰めこまれるなど私にはとても耐え切れない。



コンラート・ローレンツ Konrad Zachrrias Lorenz
1903年オーストラリアのウィーンに生まれ。
ウィーン大学医学部卒、医学博士、その後、動物学博士。
ケーニヒスベルク大学教授、オーストリア科学アカデミーの動物社会科学研究所長等を歴任。比較行動学の創始者、刷り込みの研究者として、1973年にノーベル賞(医学・生理学)受賞。1989年死去。
著書に、『ヒト、イヌに会う』『攻撃』『文明化した人間の八つの大罪』『鏡の背面』など。

日高敏隆(ひだか としたか)
1930年東京生れ。東京大学理学部動物学科卒。
東京農工大学、京都大学教授などを歴任。2009年11月死亡。
著書に『人間は遺伝か環境か?遺伝的プログラム論』『生きものの流儀』など。
訳書に『裸のサル 動物学的人間像』『利己的な遺伝子』など。



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