ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

我慢しなきゃダメだぞ

2011-06-26 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
ピカッ…バリッ、ガッ、雷が近くに落ちた。
義経「え…?」大きな雷鳴で聞き取れなかったわけじゃなかった。が…「今、何て?」
義隆「だから、匠兄ちゃん、好きなんだって」
義経「どういう…」意味か分からない。それを聞き返そうとしたら、再び、ゴロゴロ…と雷が嘶いた。こりゃ「やべッ」と義隆の手を引き、急いで登頂した。
そこには、小さな社がポツンとあるだけで、中の広さは子供が二人入れる程度だった。義隆を社の中に濡れないように押し込め、俺は体半分はみ出した状態で、
義経「はい…」と、ます寿司をお供えするよう促した。その間に、剣に稲荷の真言を記した紙を巻いて、クルッとこちらに向いたと同時にそれを渡し、お供え物の隣に置かせた。
ポツ、ポツ、と屋根と背中に雨が落ち、ザァア…雨が降ってきた。
義隆「…」剣をじぃーっと見つめて「何も聞こえない…」んんー?と耳に手を当てていた。
義経「この手の奴らは、テレ屋なんだ」
義隆「テレ屋?」
義経「あぁ。見つめられたり、耳澄まされると、逆に隠れる」
義隆「ふぅ…ん」つまらないな、という顔で、いじけるように小さく太鼓座りをした。
義経「なぁ。義隆」俺も、腰を下ろして「母上の事、話そうか…」背中を合わせて座った。
はみ出した足だけ、雨に濡れていた。それを眺めながら、義隆の反応を待った。
義隆「どっち…の?ほんとの?それとも、今の?」
義経「どっちも、ほんとの母上だろ。お前を生んだ山吹も、お前を育てる葵も、同じ母上だ」
義隆「じゃ…父上も?」
義経「同じだ」雨音の速度につられて、早口になった。
義隆「じゃ…」合わせた背中が一層丸くなるのを感じた「どうして、教えてくれない?」
義経「だから、今、こうして話を…」
義隆「違うッ!」鋭く、俺に言葉をぶつけて、そして、声を小さくして「刀…」と、いじける様に、言葉を放り投げた。ぽーんと、向こうに行っちまった言葉を拾おうか、迷った。
義隆の言いたい事は、分かっていた。刀の稽古つけて欲しんだって、知っていた。でも、俺は気付かないフリをしていた。クッと頭を持ち上げ、分厚い雨雲を眺めようとして、
ゴッ、義隆「テェッ」頭がぶつかった。
義経「分かった。教える…ただし、イテェ事、我慢しなきゃダメだぞ」
義隆「うん」