ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

誇り高き化粧

2011-06-18 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
「たっぷり聞かせてやるよッ」と門番を投げ飛ばし、さらに、奴を引き回し、これより24年後に起こるだろう和田合戦(1213)の鎌倉 北条攻め 南大門を破った時の『朝比奈の門破り』を語ってやったさ。そして、
朝比奈「さて、俺を極楽まで案内しなッ。それくらいの仕事は出来るだろ?地獄の門番さん」
閻魔大王「あ…(#・・#)」バレてたの…?
結局、地獄の閻魔大王が、24という若さで命散らした朝比奈将軍を親切御丁寧に極楽浄土まで御案内する羽目になった、という話で、強いはずの閻魔が弱々しく、亡者が威風堂々と立ち振舞うという、その逆転劇が滑稽で、ワアッと場内を沸かせていた。
能子「あははっ」と明るい声を出して、笑っていた。
池田「…」声は、高く明るかった…ただ、表情は、暗くて、見えなかった。
狂言は、物まねや道化(ピエロ)が多く写実的、風刺や失敗談などを盛り込み、笑いを誘う笑劇が中心である。笑い…とりわけ、笑顔は、人の心とそこに住まう神の御霊を癒すとされる。
その笑いと対照的なのが、能だ。
能は見えない世界を抽象的に表現し、その演目には悲劇が多い。悲しみや憂いが、神人の御心を震わせ、涙を誘う。その涙が、人を慈しむ心 慈悲を育てるという…ここに鎮守する春日 鹿嶋の神が、慈悲なる神といわれる由縁でもある。常に、人の心に、慈悲を問う。
その時は、気付かなかった。
“俺たちが”春日 鹿嶋の神に、その心問われていた事を…。
能子「さ、私たちの出番よ」クルッとこちらに顔を向けた時”いつもの表情”に戻っていた。
池田「はい…」彼女の表情を確認し、そ…っと手を伸ばし、彼女の能面を手に取った。
15、6の若く美しい少女のような小面(こおもて)には、身分の高さを証明するお歯黒の化粧を施されている。政略結婚の際、名高い武将の息女を示す化粧であり、男子家系、特に、平家貴族では、首をはねられた際、見苦しくないようにと、お歯黒化粧を施す。
誇り高い化粧であり、悲しい化粧でもある。
そっと、思い出を包み隠すように、彼女の顔に、その面を付けた。
ここから、彼女は、自分を隠す癖が付いてしまったのかもしれない。
能子「懐かしいわね」すっと手を伸ばした。しかし、
池田「そうですね」と彼女の手を交わし、自分で面を付け、お囃子の合図を待った。
能子「もう…」と小さく怒って、手を引っ込め、彼の背中に語り掛けた。しかし、
フッと場内暗くなり、お囃子と謡いが始まって、その声はかき消された。