ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

男の、拳と拳

2011-06-28 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
そういう婚姻がヤなんだと、単純にそう思っていたが、違っていた。
姉 山吹は、義仲の側室に入っていた。つまり、妹の自分が正妻となる事、二人の仲に割って入る事が嫌だったんだなと思う。だが、女が一人涙を流したって、政略結婚が流れる事はない。当時、男たちは政(まつりごと)に躍起になっていた。政の裏で多くの女が涙に濡れても、男は背を向けていた。ただ己の権力を保持、もしくは、それを奪還しようとして…。
そんな時代に生まれた女の、そういう姿を見て、
義隆「その時、母上を好きになったの?」
義経「うぅ…ん」子供に、この手の話は…「好きというか…」弱るな。
義隆「んー」好きじゃないの?ねぇねぇと答えを急かすように俺の背中を揺らして来た。
追い討ちをかけるように、ザァア…と激しい雨も、俺の心を急かしていた。
義経「泣いてたから…」俺も若く、言葉が未熟だった。慰めの言葉が見つからず、ただ抱いた…なんて言えず「幸せになって欲しいと思ったんだ」と曖昧に答えた。
義隆「幸せ…」という言葉に反応した。幸せという言葉の意味が分からないのかと思ったら、
続けて「与一兄ちゃん、幸せにしてもらうって」
義経「あん?」
義隆「だから、そういう女(こ)、見つけろって」
義経「あぁ」分かった…「男はな、女が笑えば、それで十分なんだ」って、いつだったか、与一に余計な事を教えてやったな、と苦笑した。
義隆「じゃ…」クルッと俺の背中に向かって「母上を、笑わせてよ」
義経「…」ゆっくり、義隆の方に向いて目線を同じにした。そして、泣かす事の方が多かったな…と反省した。
“義隆と、妹を、お願いね…”そう言った山吹にもここで「約束しよう」と拳を突き出した。
義隆「うん」キュッと唇を結び、一瞬俺を睨んだ。約束だからね、という意味を含んだ目だった。そして、ゴッと俺の拳を突いた。その目の奥に一筋の閃光が見えた。
いい目をしている。こんな風に男になっていくんだな…子供って。
向き合った男の、拳と拳がゆっくり離れ、それを見計らったように雨音も遠退き、雨が、
義経「上がったな」と窮屈な社から外に出た。空では雲の切れ間から、パァ…と線状の光が差し込み、まるで、金色の野を駆ける稲荷の「女神…」が見えた、そんな気がした。
義隆「あ!」と指差した方向を見ると、
義経「虹…」が架かっていた。