ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

神使

2010-06-08 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
顔を合せないと「八」の字にならず意味がない“八幡の鳩”なのに、いがみ合っている。
郷「兄弟向き合い、力合わせないと駄目ッ!」と言い聞かせているが耳が遠い鳩だった。
聞いちゃいない…。しかし、耳の遠い鳩には、欠点を超越した程の優れた力がある。
地球の磁場(パワースポット?)を察知し、そこから方角を知ることが出来る。それによりどんなに遠く離れても”巣に帰る”ことが出来るのだ。それを帰巣(きそう)本能という。
方位磁石が体内に埋め込まれているのかもしれないし、直感かもしれないし、それは分からないが、羽をパトパトとバタつかせと「九九(くく)ルー、ポッ」と、我に帰る鳩なのだ。
※「ハト」という呼び名、泣き声「九」が語源の「鳩」である。
そんな鳩の使役マスターとなった郷16歳の時、実家 武蔵を離れ、京の義経の許に嫁ぐことになった。そこで、鳩の帰巣本能を利用して「大(おお)ちゃん」なる人物と文通し開始したという経緯である。それに鳩に文を握らせているのには訳がある。実は、大ちゃん…当時、まだ鳩の足に文を上手く括り付けて結ぶことが出来なかったのだ。出来るようになった頃には鳩が上手く文を握れるようになっていた。つまり、鳩が技を習得する方が早く、今更、足に括り付けなくても「いいんじゃねぇ?」みたいな話になり、今でも文を握らせ飛ばしているという訳である。しかし、飛び立つ時は、どうしてもバランスを崩すので、義経の目には怪しく映るらしい。
この鳩を郷に譲った人物 熊谷直実(くまがや なおざね)であるが、彼は郷の実家 武蔵の有名な武将である。彼は、郷が源氏氏神の神使マスターとなり、鳩の飼い主になった経緯に深く関わっている。それは、奥州合戦(1189年)から遡ること9年前、郷12歳の時に武蔵で広がった噂話によるものだった。巷では『頼朝は八幡神の化身!?』などと囁かれた。
この噂の発端は、彼 武蔵国大里熊谷郷の武将 熊谷直実である。
彼は、平氏方の平貞盛の孫であり「一の谷の合戦」前まで平家方に付いて源氏討伐のため戦っていた。しかし、後に頼朝と主従関係を結び、倶利伽羅の合戦や義経ら共に壇ノ浦で大活躍している。彼が頼朝に従うきっかけとなったのが、この「二羽の鳩」なのである。
戦いの最中、敵に追われ洞穴に潜み身を隠す頼朝の傍から二羽の鳩が飛び立った。
熊谷「ハッ!!」と飛び立つ鳩にビックリ。そして、ここで気付いた「八幡信仰」。“頼朝は八幡神の神使に守られている!?”と、勝手に思い込んだ熊谷は、洞穴に潜む頼朝の逃走を助けた。その後、頼朝の信用を得て源氏方の御家人となった。つまり、この二羽の鳩がいなかったら頼朝は救われなかった。それは、当時平安、武将たちの中で「八幡信仰」が広がっており、熊谷もそれを厚く信仰する武将の一人だったからである。神には逆らえん、と。