思いやりすぎ❓4倍増を要求 米軍駐留経費2000億円 (2019年11月20日 中日新聞)

2019-11-20 08:53:56 | 桜ヶ丘9条の会

思いやりすぎ?4倍増を要求 米軍駐留経費2000億円 

2019/11/20 朝刊


 米外交誌が「米政府が在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)の四倍増を要求している」と報じた。日本側は事実でないと否定するが、米国は北大西洋条約機構(NATO)加盟国や韓国にも同様に要求しており、日本だけ例外なわけがない。トランプ大統領流の「観測気球」などという見方もあるが、本当にそうか。拒否してもまた米国製兵器を買わされたり、貿易交渉での譲歩を迫られたりしないか。世界でも突出して高い駐留経費負担を考える。

 米外交誌フォーリン・ポリシーは十五日、複数の米政府関係者の話として、米トランプ政権が日本政府に対し、思いやり予算を現在の約四倍の年八十億ドル(約八千七百億円)に増やすよう求めていると報じた。同誌は、七月に訪日したボルトン大統領補佐官が伝達したとしたが、当時、外相としてボルトン氏と会談した河野太郎防衛相は十七日、訪問先のバンコク市内で、「事実関係はない」と記者団に否定した。

 エスパー国防長官が十五日、「米国の立場は全ての同盟・友好国の負担増を主張することだ」と発言した通り、トランプ大統領は就任以来、防衛費の「公平な負担」を各国に要求してきた。今年二月の一般教書演説では、NATO加盟国に防衛費を一千億ドル(十一兆円)追加負担させると発言。三月には、韓国の負担を年約八億ドル(八百八十億円)から約十億ドル(千百億円)近くに増額させた。

 このような全方位的要求とはいえ、トランプ政権が日本に特に強く出ているのは確かだ。六月の大阪での二十カ国・地域首脳会議(G20サミット)直前にも、トランプ大統領は米メディアに「日本が攻撃されたら米国はすべてを犠牲にして戦うが、われわれが攻撃されても日本は助ける必要がない」と不公平だと強調。米通信社もトランプ大統領が側近に日米安保は「一方的すぎる」と条約破棄に言及したと報じた。

 この際、菅義偉官房長官は「条約の見直しといった話は一切ない」などと火消しを図ったが、トランプ大統領は記者会見で破棄は考えていないとしつつ「不公平な条約だ。変えないといけないと、安倍晋三首相に伝えた」と明かした。

 そもそも日本は、基地従業員の給料や社会保険料、光熱費、施設整備費などの「思いやり予算」約二千億円の他に、沖縄県名護市辺野古の新基地建設費を始めとした米軍再編経費などを負担。在日米軍関係費として、年計六千億円近くを負担している。なのに、この上、思いやり予算「四倍増」とはどういうことか。

 東京大の西崎文子教授(米国外交史)は「来年の大統領選挙のこともあるが、自分は一貫して米国ファーストを貫いている、筋を通していると言いたいのだろう」とみる。西崎教授は、敵国だけでなく同盟国であろうと、圧力をかけるのがトランプ大統領のやり方とした上で「同盟の本質を理解しようとしていない。国際秩序がどうなるかも二の次。自分が得することならいい。米国の国益になっているのかすら疑問だ」と述べる。

 その上で、日本は足元を見られていると指摘する。「安倍首相を『シンゾウ』と呼び、親しみを示すが、それは米国の願いを聞いてくれるからだ。日米安保条約や両国の経費負担の経緯を顧みず、米国の言うままに経費がつり上がっていくのは危機的だ。アジア諸国との関係悪化もあり、日本の米国一辺倒ぶりが進み、多角的に自国の安全保障や外交関係を積み上げてこなかったことが、ここにきて出てきた」

 在日米軍の駐留経費は、日本の二〇一九年度予算では、米軍施設で働く日本人の人件費や水道・光熱費など千九百七十四億円。防衛省試算で、一五年度の駐留経費のうち日本の負担割合は約86%。米国防総省が〇四年に発表した報告書によると、〇二年当時の日本の負担割合は74・5%。韓国40%、ドイツ32・6%と比べて突出して高く、その傾向は変わっていないとみられる。

 そもそも日米地位協定上、在日米軍の駐留費用は日本に支払い義務はない。ただ、日本は一九七〇年代後半から「思いやり予算」として負担を拡大。八七年度以降、日米で特別協定を結び米軍を厚遇してきた。

 なぜ、日本は負担を続けるのか。琉球大の我部政明教授(国際政治学)は「日本政府は長年、安全保障を米軍に担わせている後ろめたさがあり、米軍が日本にいないと不安な状態。米軍を引き留めるため、多額の負担をしている」と言う。

 米軍の日本駐留は、必ずしも日本の防衛のためではない。冷戦時、東西対立の最前線だったドイツや韓国と比べ、日本は直接的な危機がなく、米軍は駐留しやすい面があった。「現在も米国は、韓国などアジア諸国や中東への防衛関与の拠点として日本の基地は役立つと考えている。日本の駐留経費負担は、米国の都合で増え続ける恐れがある」

 ただ、在日米軍基地の約七割が沖縄に集中し、「本土を中心に、多くの日本人は多額の負担をしている感覚に乏しい」と我部教授。「米軍にどの程度駐留してほしいのか、駐留経費をどれだけ出せるか問い直すべきだ」と話す。

 こうした重い負担に見合うだけ米軍に口を出せるかというと、実態は逆だ。沖縄県の調査によると、米軍が駐留するドイツやイタリアでは、米軍機事故をきっかけに地位協定を改定するなどし、駐留米軍の訓練や演習には許可や承認が必要になっている。一方、日本では日米地位協定で在日米軍には原則、日本の法律が適用されない。米軍による重大事故や事件が起きても、日本は捜査を十分にできない。

 日米関係に詳しいジャーナリストの吉田敏浩さんによれば、六〇年に旧日米安全保障条約が改定された際、日本政府に日米地位協定の改定を目指す動きがあったが、その後、停滞した。「自民党政権が長く続き、日本の政治家は米国の後ろ盾を得て権力を握り、政権を運営することが固定観念のようになったからだ」

 近年は、地位協定改定の機運はさらに遠のいたとする。「安倍政権は米国に追従し、軍事大国化を目指す考えが著しい。日米の軍事一体化が進み、米国は駐留経費などを搾り取れるだけ取ろうとしている」

 事実、安倍政権はこれまでにトランプ政権の求めに応じてF35戦闘機百五機や、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の導入を決めた。今回の「駐留経費の四倍増要求」も、「ビッグディール(大きな取引)を引き出すためのトランプ大統領の戦術」(日本政府筋)との見方がある。吉田さんも「負担増を拒否しても、米国がさらなる兵器購入などを求めてくる可能性はある」とみる。

 シンクタンク・新外交イニシアティブ(ND)代表の猿田佐世弁護士は「日本はすでに過剰な経費を負担しており、駐留経費増の要求に応えてはならない」と訴える。「本来は現状の八割負担が本当に必要なのか議論せねばならないが、日本政府はこうしたそもそもの主張から逃げ、米国の要求があればすぐに応じてきた。今回は、日本政府が真に国民のための外交をやる気があるのかが問われている」

 (片山夏子、中山岳)


安倍内閣最長に 慎み忘れた政治を憂う (2019年11月20日 中日新聞)

2019-11-20 08:45:56 | 桜ヶ丘9条の会

安倍内閣最長に 慎み忘れた政治を憂う 

2019/11/20 紙面から

 政治は最高の道徳とされる。政権を担当した長さよりも、その治世の中身が問われるのは当然だ。安倍内閣は長期政権ゆえの高慢さから、慎みを忘れてはいまいか。政治への憂いは強まるばかりだ。

 安倍晋三首相の通算在職日数がきょう二千八百八十七日となり、明治大正期の桂太郎首相を抜き、歴代最長となった。自民党総裁としての任期は二〇二一年九月まであり、このまま首相を続ければ、歴代最長を更新し続けることになる。

 内閣支持率は、共同通信社が十月下旬に実施した全国世論調査では54・1%だが、支持する理由で最も多いのは「ほかに適当な人がいない」の49・6%で、政権の命脈は、消極的な支持で保たれているのが実態だ。

 官邸で首相を支える菅義偉官房長官は「さまざまな指摘や批判もいただくが、謙虚に受け止め、丁寧に説明しながら、政策を前に進めることが大事だ」と述べた。

 「謙虚に丁寧に」は安倍内閣の常套句(じょうとうく)だ。実際の政治は、言葉とは裏腹に、謙虚さや丁寧さからは程遠いと言わざるを得ない。

 例えば国会運営である。安倍政権は、それまで憲法違反とされていた「集団的自衛権の行使」を一転容認し、安全保障関連法の成立を強行した。国論を二分する法律を強引に押し通す手法は、特定秘密保護法やカジノ解禁法、「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法などでも乱用された。

 審議では、野党議員の質問に正面から答えようとせず、時には自席からやじを飛ばす。行政府による立法府形骸化の罪は重い。

 森友・加計問題は国有地売却や大学の学部新設を巡り、公平・公正であるべき行政判断が、首相らへの忖度(そんたく)で歪(ゆが)められたか否かが問われた国の根幹に関わる問題だ。

 しかし、首相は自らの関与を否定するばかりで、国民が抱く疑問に答えたとは言い難い。真相の解明は依然、途上にある。

 国民が期待する外交政策でも、政権が誇示するほどの成果が上がっているとは言い難い。成長重視の経済政策「アベノミクス」も同様だ。

 選挙は国民の意思表示には違いないが、勝てばすべて許されるという独善的な考え方が、政治から慎みや廉恥を奪い去った。長期政権の歪(ひず)みである。

 歴代最長となる直前に「桜を見る会」を巡る首相の公私混同ぶりが表面化したのも、必然だったのかもしれない。これを、政治に慎みを取り戻し、国民と真摯(しんし)に向き合う機会としなければならない。


流出土砂、基準超なかったが・・・ 台風19号後、福島でセシュウム測定 (2019年11月19日 中日新聞

2019-11-19 08:45:53 | 桜ヶ丘9条の会

流出土砂、基準超なかったが… 台風19号後、福島でセシウム測定 

2019/11/19 

 福島県の山が台風19号の大雨で崩れ、阿武隈川や支流も氾濫して大きな被害が発生した。東京電力福島第一原発事故で汚染された土砂が流れ出たのかどうか調べようと、独協医科大の木村真三准教授(放射線衛生学)と合同で県内十五カ所の土砂を採取し、放射性セシウム濃度を測定。放射性廃棄物の基準を超える汚染は見つからなかったものの、事故から九年近くたっても放射能が暮らしに影響することを物語る結果になった。

 採取現場に車で向かう途中、県内の道路沿いの斜面はあちこちで崩れ、路面が茶色い砂で覆われていた。除染で出た汚染土を中間貯蔵施設に運ぶダンプが列をなして走る。土砂崩れで道が狭くなった所では、ダンプ同士がすれ違えない。時折立ち往生を強いられながら時速三十キロほどでのろのろと進み、予想以上に時間がかかった。

 測定の結果、最も高濃度だったのは、南相馬市小高区の川房川沿いの一キログラム当たり約三〇〇〇~五〇〇〇ベクレル。山の斜面が崩れて川に流れ落ちる手前、アスファルト路面にたまっていた土砂だった。小高区は放射線量が高く、山あいの一部は帰還困難区域に指定され、他の地域は二〇一六年七月に避難指示が解除された。山林は縁から二十メートルより奥が未除染で、高濃度の放射能汚染が残る。

 台風の通過直後にこの場所で土砂を採取し、自宅の測定器で一万一〇〇〇ベクレル超を検出した小高区の会社員白髭(しらひげ)幸雄さん(69)は「台風の影響を判断するには、まだデータが足りない」と前置きしながら、「山あいはもともと汚染がひどく、一万ベクレルと聞いても驚かない。その汚れた土砂が大雨で生活圏に出て、汚染が拡散したり、たまったりした恐れがある」とみる。

 同様に原発事故で汚染されたいわき市川前町志田名(しだみょう)地区で、崩れた斜面と、水田に流れ込んだ土砂を測ってみると、流入したのは汚染度が低い砂と分かった。田の持ち主の大越キヨ子さん(70)は「せっかく除染した田んぼが、また汚染されたら嫌だなと思っていた。意外に汚染されていないので逆に驚いた」と話した。

 原発事故後に地元の除染に携わった住民の大越勝彦さん(52)が、測定結果を聞いてこう語る。「志田名に残っているのは砂ばかり。セシウムは砂より細かい泥と一緒に、下流、もしかしたら海まで流れちゃったんじゃないの? この辺は台風前より、むしろ汚染度が低くなったんじゃないか」

 

◆住民「生活圏への拡大心配」

 

 そこで、河川の中・下流域の二本松市や南相馬市原町区で、川から流れ出て堆積した土砂を調査することにした。住宅地に流れ込んだ土砂が汚染されていれば、片付けの人たちの被ばく対策が重要になると考え、本宮市では住宅地にたまった泥を採取。駐車場の地面の粉じんも掃除機で吸い取って調べた。

 氾濫、決壊で大きな被害をもたらした阿武隈川の中流域、二本松市平石高田の農業杉内鉄幸さん(72)の畑は一面、泥に覆われ、作物のネギが茶色く腐っていた。川から流れ、道路沿いの電柱に引っ掛かった草は、大人の背丈のはるか上。地面から四メートルはある。

 「ここは何度も氾濫して土砂がたまっているが、こんなに深く浸水したのは初めて」と杉内さん。畑に足を踏み入れると軟らかい泥に長靴が埋まり、足が抜けなくなった。ここではコアサンプラーと呼ばれる採取器具を地面に打ち込み、深さ六十センチまで土砂を採り、五センチ刻みで十二検体に分けてセシウム濃度を測った。

 畑では、原発事故後にトラクターで深さ十五センチまで耕した土が、今回の台風で五センチほど流されていた。そこへ、川から流れ込んだ土砂が十五センチほど堆積し、その汚染は一五〇〇ベクレル程度。台風前は表面に出ていた深さ十五~二十五センチの土に、原発事故による三〇〇〇ベクレル超の汚染が確認され、その下には、四十年以上前の大気圏内核実験の影響が残っていた。

 原発事故で畑の土が汚染され、その上に台風でそれほど汚染されていない土砂がたまり、覆ったという構図だ。とはいえ氾濫で堆積した土砂も、原発事故前に比べれば汚染は激しい。結果を知った杉内さんは「作物がセシウムを吸収しないよう、農地管理や作物の測定をしっかりしないと」と語った。

 調査時も泥の臭いが立ち込め、ほこりっぽかった本宮市の住宅地では、たまっていた泥が一五〇〇ベクレル程度に汚染されていた。百メートルほど離れた駐車場の地面に残っていた粉じんは、一・五平方メートル当たり半分の七五〇ベクレル。場所を少し移れば、汚染状況が大きく違っていることをうかがわせた。

 南相馬市原町区では、あちこちで氾濫や決壊した新田川沿いの公園で、遊歩道にたまった土砂から二〇〇〇ベクレル超を検出した。放射性廃棄物の基準の八〇〇〇ベクレルほどではないが、ある程度の汚染が台風で広範囲に拡散したと分かった。

 原町区の氾濫現場近くで軽油を配達していた男性(72)は「原発事故での汚染が比較的低い地域では『野生の山菜やキノコは汚染されているから食べちゃだめ』という放射能への意識が薄い。台風で汚染が広がると、住民の被ばくにつながりやすいのではないか」と不安を口にした。

 木村准教授は「台風19号の水害を受けた地域には原発事故の汚染が色濃く残り、それが下流に広がった。農地の管理、宅地の放射線量測定、食べ物は食べる前に測るといった、放射能への警戒を怠るのは危険だ」と話した。

 (大野孝志)

 

 【調査手法】 10月24~29日、山から路上に流れ出たり、川が氾濫してたまったりした土砂を採取。場所は、福島県南相馬市小高区の林道やいわき市川前町志田名地区の水田、新田川が氾濫・決壊した南相馬市原町区の河川敷、阿武隈川の濁流が押し寄せた二本松市の畑、その支流が氾濫した本宮市の住宅地の計15カ所。いずれも乾燥させた後、独協医科大国際疫学研究室福島分室(二本松市)に設置されたゲルマニウム半導体検出器で1検体当たり4時間かけ、放射性セシウム濃度を測定した。

長きを以って貴しとせず 週のはじめに考える (2019年11月17日 中日新聞)

2019-11-17 09:33:07 | 桜ヶ丘9条の会

長きを以て貴しとせず 週のはじめに考える 

2019/11/17 紙面から

 安倍晋三首相の通算在職期間が歴代最長になります。「長きを以(もっ)て貴しとせず」ですが、なぜ長期政権を維持できたのか。分析する必要はあります。

 現時点で通算在職期間が最も長いのは明治大正期の桂太郎首相です。三次にわたって通算二千八百八十六日間、首相を務めました。一九〇一(明治三十四)年から一三(大正二)年まで西園寺公望首相と交互に政権を担当した十年余りは「桂園時代」と呼ばれます。

 安倍首相は二十日、その桂首相を抜き、歴代最長となります。

 

通算在職期間が最長に

 

 安倍氏が最初に首相に就任したのは二〇〇六年九月。戦後最年少で、戦後生まれ初の首相でした。

 しかし、年金記録問題や相次ぐ閣僚不祥事で政権は不安定化し、〇七年参院選で自民党は惨敗します。約一カ月半後、体調悪化を理由に退陣を表明しました。

 政権に復帰したのは五年後の一二年です。その年九月の自民党総裁選で総裁に返り咲き、十二月の衆院選勝利を経て、再び首相に就きました。以後、一四、一七年と二度の衆院解散・総選挙と三度の参院選で勝利し、今に至ります。

 連続二期六年までしか認められていなかった党総裁任期も、安倍氏の二期目途中に連続三期九年とする党則改正が行われました。

 総裁任期を全うすれば二一年九月まで首相を務め、歴代最長記録を更新し続けます。

 かつての竹下登首相は「歌手一年、総理二年の使い捨て」と嘆きました。第一次内閣の安倍首相退陣後はしばらく約一年での首相交代が続きました。そうした中、安倍氏はなぜ、これほど長く首相を続けられるのでしょうか。

 最も大きな理由として挙げられるのは、安倍首相に交代を迫るような圧力が、自民党内部にも、野党の側にも存在しないことです。

 

首相交代の緊張感なく

 

 安倍首相は違憲とされた「集団的自衛権の行使」を一転容認。安全保障関連法や特定秘密保護法など国民の反対が強い法律の成立を強行しました。成長重視の経済政策も十分な成果は出ていません。公的行事である「桜を見る会」の私物化も明らかになりました。

 政権が失政をした場合、野党に政権担当の準備があり、首相にふさわしい指導者がいれば、政権交代が起こります。〇九年の民主党への政権交代や一二年の自民党の政権復帰はそれに当たります。

 野党に政権が移らなくても、次の首相にふさわしい人物が自民党内にいれば総裁・首相が代わります。「疑似政権交代」です。自民党は一九五五年の結党以来、そうして政権を維持してきたのです。

 共同通信が十月下旬に行った最新世論調査では、安倍内閣を支持する理由に「ほかに適当な人がいない」を挙げた人が最も多く49・6%に達します。次が「外交に期待できる」の13・3%ですから後継不在の深刻さがうかがえます。政権運営が強引でも、安倍氏に代わる人材が見当たらず、消極的な支持で安倍政権が続く構図です。

 では、どうしてそうなってしまったのか。それは「平成の政治改革」と無縁ではありません。

 かつての五五年体制下では政権が野党に移る緊張感がなく、金権腐敗が自民党で横行しました。ロッキードやリクルート、東京佐川急便事件などの汚職事件です。

 衆院小選挙区制導入は政党・政策本位の制度への移行で政権交代可能な状況をつくり出し、政治に緊張感を生み、腐敗をなくすのが狙いです。政党交付金制度も無理なカネ集めをやめ、企業などとの癒着を断ち切るためでした。

 こうした一連の政治改革で、昭和から平成初期に起きていた大型疑獄事件は鳴りをひそめています。政治改革の「成果」と言えなくもありません。

 一方で、政権中枢への過度の権力集中という「副作用」も生みました。選挙での公認や政治資金の配分など議員の政治生命を左右する権限を首相を頂点とする権力中枢が握ることになったからです。

 その結果起きたことは、首相らの意向に過度に配慮する忖度(そんたく)政治であり、財務官僚が公文書を偽造する統治機構の根腐れです。

 

権力集中の弊害随所に

 

 安倍氏自身、第一次内閣の反省に立って政権を運営していると言いますが、政権は長ければいいというわけではありません。

 頻繁な首相交代は、政治の安定性を損なうとはいえ、長期政権には必ずひずみが出ます。政治腐敗の温床になり、時には独裁政治に至ることもあります。

 腐敗や独裁を防ぎ、政治に緊張感を与えるためには、適度な権力の交代が必要です。それを阻む要因が「平成の政治改革」にあるとしたら、その「弊害」をなくすことも必要です。歴代最長政権を生み出した構造的な問題にも、冷静に目を向ける時に来ています。


浸水、地下街も警戒を 雨+風+高潮、リスク深刻 (2019年11月16日 中日新聞)

2019-11-16 08:09:58 | 桜ヶ丘9条の会

浸水、地下街も警戒を 雨+風+高潮、リスク深刻 

2019/11/16

 大雨による被害に泣かされた今年の秋。各地で河川が氾濫し、鉄道が寸断された。そんな中でも真っ先に水が流れ込みそうな地下鉄、地下街に大きな被害はなかった。実は、国は地下の大規模な浸水を想定している。専門家は「災害は起こらないと楽観するのは、やめるべきだ」と警告する。

 荒川上流の三日間雨量が五〇〇ミリに達した午前四時、東京都北区で堤防が決壊。町にあふれ出た茶色い濁流は、地下鉄の駅入り口へと一気に流れ込み、巨大「水道管」と化した線路を伝って都心に到達。東京駅の改札は冠水し、中央区、千代田区のオフィス街はすべての機能を失った-。

 国土交通省荒川下流河川事務所が動画サイト・ユーチューブで公開中のフィクション動画「荒川氾濫」の一場面だ。

 

◆最悪の場合

 

 二〇一七年に公開され、再生回数は五十万回近い。足立区や江東区などの海抜ゼロメートル地帯を中心に数十万人が孤立し、駅や車が水没する。CG映像でその様子を衝撃的に伝える。「不安をあおるつもりはない。最悪の場合を知ってもらい、自主的な行動につなげるのが狙い」(同事務所防災企画室)という。

 ただ、この映像は決して大げさではない。国の中央防災会議の大規模水害対策に関する専門調査会も〇九年、荒川が氾濫した場合の地下鉄の被害想定を公表している。

 それによると、北区志茂の荒川右岸で堤防が決壊した場合、約十分後に水が赤羽岩淵駅に到達。六時間で西日暮里駅、九時間で上野駅、十二時間で東京駅、十五時間で銀座や霞ケ関駅などに達し、最終的には十七路線の九十七駅(延長約百四十七キロ)が浸水、うち八十一駅が水没する。

 元東京都職員の土木専門家で公益財団法人・リバーフロント研究所(東京)の技術参与、土屋信行さんは「東陽町駅など江東区の地下鉄駅の多くは、海抜がマイナスの所にある。北千住駅(足立区)も五メートル以上の浸水エリア。駅構内にいれば逃げるのも危うい」と予測する。地下鉄が水没すれば、地下で縦横無尽につながる大手町や銀座の地下街も水没する。「オフィスビルの多くは地下に電気設備があり、復旧は長引く。日本経済は大損害だ」

 

◆三点セット

 

 さらに不安視されるのは、台風に伴う高潮が河川の洪水と重なった場合だ。

 都が一八年三月に発表した高潮の想定によれば、墨田、葛飾、江戸川区の陸地の90%以上は浸水し、江東区では深さ十メートルになる場所も。「今年の台風はたまたま東京湾を直撃しなかっただけ。雨、風、高潮は三点セットで想定するべきだ」と土屋さんは言う。

 温暖化の影響で海水温も上がり、巨大台風の危険性は高まっている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)も警告している。

 環境保護団体「気候ネットワーク」東京事務所の桃井貴子所長は「荒川氾濫はいつ起きてもおかしくない。堤防などのハード整備に目が行きがちだが、化石燃料に依存し二酸化炭素排出を続ける現状を見直さなければ、想定を超える災害は繰り返される」と指摘する。

 地下鉄や地下街の浸水は決して絵空事ではない。

 一九九三年の台風11号で冠水したのが、東京都心の地下鉄赤坂見附駅。線路から一・二メートルの高さにまで達した。九九年には集中豪雨で溜池山王駅も水浸しになった。二〇〇四年の台風22号では、麻布十番駅に雨が流れ込んだ。一五年には東急電鉄渋谷駅で地下二階にある改札付近まで水に漬かった。

 首都圏以外でも被害は相次いでいる。一九九九年と二〇〇三年には、JR博多駅近くを流れる御笠川の水が豪雨によってあふれた。駅周辺の地下街が水浸しになり、一九九九年は死者も出た。二〇〇〇年の東海豪雨では名古屋の地下鉄で浸水が起き、一四年にも地下鉄名古屋駅で線路や改札付近が冠水した。

 一時間の雨量が六〇~一〇〇ミリに及んだ時に浸水被害が目立つ。そんな豪雨が近年増えている。気象庁によると、一時間に五〇ミリ以上の「滝のように降る雨」は、〇九年から十年の平均で年間三百十一回。統計を取り始めた一九七六年からの十年間と比べ一・四倍に増えている。地下浸水のリスクは高まっている。

 関係機関は対策に追われる。東京メトロは駅の出入り口と換気口、地上から地下へ向かうトンネルを通って水が入ると想定。駅の出入り口向けに止水板や防水扉を用意し、換気口には下から上にドアを閉めるような形になった浸水防止機を設置。トンネルには防水ゲートを設けている。

 

◆出入り口 

 

 ただ、駅の出入り口に関しては、予定の四割しか整備が済んでいない。完了は二〇二七年度の見通しだ。設置済みでも手作業で操作しなければならない設備もある。操作の遅れは、浸水被害につながりかねない。

 東京・八重洲地下街では、浸水対策計画をまとめている。「注意」「警戒」「非常」の三段階を想定し、それぞれに応じて情報収集や出入り口の警戒、利用者の避難誘導などを行うことにしている。

 出入り口の止水板は警戒段階で設置することになっている。広報担当者は「十月の台風19号では三十七カ所中、三カ所で設置した」と説明する。

 地下街特有の苦労もある。東京都の小島俊之・都市基盤部担当課長は「店の入れ替わりが少なくなく、連絡先の共有が難しい。共有できていないと、利用者の避難が必要な場合でも、店に情報が伝わらないおそれがある。大きな台風によって横並びで休業する場合ならまだしも、ゲリラ豪雨のように突発対応が必要な時にどうするか」と語る。

 こういった対策に、厳しい目を向ける専門家がいる。関西大社会安全研究センター長の河田恵昭さんは「そもそも地下水没の危機意識が薄い。起こると思っていないから対策も詰め切れていない」と指摘する。

 「東京は駅とビルが複雑につながっている。全ての出入り口で浸水を防ぐことができるのか。バリアフリーが進む中で水自体が入りやすくなっている。これにどう備えるのか。資機材も、稼働させるための人手も本当に足りるのか。排水用のポンプや配管も十分とは思えない。復旧に時間がかかる公算が大きい」

 さらに河田さんは「深刻な事態が起きたらどうしようもないと考え、『そんなことは起こらない』と楽観したがる。どこかで災害が起きても自分の地域で起こると真剣に考えない。政治家も一通りの被災者支援をして終わり。そんな体質を改めないと」。リスクに向き合おうとしない社会全体に危機感をあらわにする。

 (安藤恭子、榊原崇仁)