「戦争のための原子力利用は犯罪」 ローマ教皇が長崎、広島から警鐘
2019/11/25
ローマ・カトリック教会の頂点に立つ教皇(法王)フランシスコは二十四日、被爆地の長崎と広島を相次いで訪問し演説、核廃絶を訴えた。長崎では「核兵器のない世界を実現することは可能であり必要不可欠だと確信している」と強調。広島では「真の平和は非武装の平和以外にあり得ない」として、核兵器を含む大量破壊兵器の保有や核抑止も否定、被爆地訪問は自らの義務だと感じていたと述べた。
教皇として故ヨハネ・パウロ二世以来、三十八年ぶり史上二度目の被爆地訪問となった。
二十四日午前、原爆落下中心地碑がある長崎の爆心地公園に到着した教皇は、長崎について「ここは核攻撃が人道上も環境上も破滅的な結末をもたらすことの証人である町だ」と指摘した。平和実現のため「核兵器禁止条約を含む国際法の原則にのっとり飽くことなく迅速に行動していく」と強調。米国の「核の傘」に依存し、同条約に参加していない日本に対応を促す発言とみられる。
軍拡競争は無駄遣いとして、武器の製造や維持、改良は「とてつもないテロ行為だ」と批判。来春の核拡散防止条約(NPT)再検討会議を前に核保有国と非保有国側との間にある溝が浮き彫りになっている現状を念頭に「相互不信によって兵器使用を制限する国際的な枠組みが崩壊する危険がある」と警鐘を鳴らした。
午後には広島に移動。平和記念公園での集いでは戦争のための原子力利用は「犯罪以外の何ものでもなく倫理に反する」と強調。最新鋭の兵器を製造したり、核の脅威を使って他国を威嚇したりしながら「どうして平和について話すことができるのか」と述べ世界各国の指導者に核廃絶に向けた具体的な行動を迫った。
さらに、原爆と核実験、あらゆる紛争の犠牲者の名により「戦争はもういらない」と叫ぶよう呼び掛けた。
教皇は二十六日までの滞在中、東京都内で東日本大震災被災者との交流を行い、天皇陛下との会見や安倍晋三首相との会談も予定されている。
<解説>危機感が首脳に届くか
ローマ教皇(法王)フランシスコが二十四日、被爆地から世界に向け強い言葉で核兵器廃絶を迫った。演説で示した「不退転の決意」は、袋小路に陥る核軍縮の現状に対する危機感の表れだが、日本を含む各国の指導者に実効性のある影響力を及ぼせるのかどうかが焦点だ。
来年春に国連本部で開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議は合意文書の採択が危ぶまれている。NPT体制の一層の形骸化が懸念され、米ロが新型核兵器開発など戦力増強を進めていることも念頭に「核兵器は安全保障上の脅威から私たちを守ってはくれない」「国際的な枠組みが崩壊する危険がある」と指摘した。
既に核兵器を使用しなくとも保有だけで非難されるべきだと歴代教皇で初めて明確な姿勢を打ち出していたが、今回世界的な注目を集めた被爆地からのメッセージであらためて核保有や抑止論を否定した意義は大きい。
訪問前には、二〇一七年のノーベル平和賞授賞式で被爆者として初めて演説したサーロー節子さん(87)や、同賞受賞の非政府組織(NGO)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のフィン事務局長が相次いで教皇に会い、核兵器禁止条約に全ての国が署名するよう指導者らに働き掛けてほしいと要望した。
その通りの訴えを行った教皇の言葉に各国首脳は耳を傾けるのか。問われているのは「国々の運命に特別な役割を負っている者たちの良心」だ。
(共同・津村一史)
(共同)