長きを以って貴しとせず 週のはじめに考える (2019年11月17日 中日新聞)

2019-11-17 09:33:07 | 桜ヶ丘9条の会

長きを以て貴しとせず 週のはじめに考える 

2019/11/17 紙面から

 安倍晋三首相の通算在職期間が歴代最長になります。「長きを以(もっ)て貴しとせず」ですが、なぜ長期政権を維持できたのか。分析する必要はあります。

 現時点で通算在職期間が最も長いのは明治大正期の桂太郎首相です。三次にわたって通算二千八百八十六日間、首相を務めました。一九〇一(明治三十四)年から一三(大正二)年まで西園寺公望首相と交互に政権を担当した十年余りは「桂園時代」と呼ばれます。

 安倍首相は二十日、その桂首相を抜き、歴代最長となります。

 

通算在職期間が最長に

 

 安倍氏が最初に首相に就任したのは二〇〇六年九月。戦後最年少で、戦後生まれ初の首相でした。

 しかし、年金記録問題や相次ぐ閣僚不祥事で政権は不安定化し、〇七年参院選で自民党は惨敗します。約一カ月半後、体調悪化を理由に退陣を表明しました。

 政権に復帰したのは五年後の一二年です。その年九月の自民党総裁選で総裁に返り咲き、十二月の衆院選勝利を経て、再び首相に就きました。以後、一四、一七年と二度の衆院解散・総選挙と三度の参院選で勝利し、今に至ります。

 連続二期六年までしか認められていなかった党総裁任期も、安倍氏の二期目途中に連続三期九年とする党則改正が行われました。

 総裁任期を全うすれば二一年九月まで首相を務め、歴代最長記録を更新し続けます。

 かつての竹下登首相は「歌手一年、総理二年の使い捨て」と嘆きました。第一次内閣の安倍首相退陣後はしばらく約一年での首相交代が続きました。そうした中、安倍氏はなぜ、これほど長く首相を続けられるのでしょうか。

 最も大きな理由として挙げられるのは、安倍首相に交代を迫るような圧力が、自民党内部にも、野党の側にも存在しないことです。

 

首相交代の緊張感なく

 

 安倍首相は違憲とされた「集団的自衛権の行使」を一転容認。安全保障関連法や特定秘密保護法など国民の反対が強い法律の成立を強行しました。成長重視の経済政策も十分な成果は出ていません。公的行事である「桜を見る会」の私物化も明らかになりました。

 政権が失政をした場合、野党に政権担当の準備があり、首相にふさわしい指導者がいれば、政権交代が起こります。〇九年の民主党への政権交代や一二年の自民党の政権復帰はそれに当たります。

 野党に政権が移らなくても、次の首相にふさわしい人物が自民党内にいれば総裁・首相が代わります。「疑似政権交代」です。自民党は一九五五年の結党以来、そうして政権を維持してきたのです。

 共同通信が十月下旬に行った最新世論調査では、安倍内閣を支持する理由に「ほかに適当な人がいない」を挙げた人が最も多く49・6%に達します。次が「外交に期待できる」の13・3%ですから後継不在の深刻さがうかがえます。政権運営が強引でも、安倍氏に代わる人材が見当たらず、消極的な支持で安倍政権が続く構図です。

 では、どうしてそうなってしまったのか。それは「平成の政治改革」と無縁ではありません。

 かつての五五年体制下では政権が野党に移る緊張感がなく、金権腐敗が自民党で横行しました。ロッキードやリクルート、東京佐川急便事件などの汚職事件です。

 衆院小選挙区制導入は政党・政策本位の制度への移行で政権交代可能な状況をつくり出し、政治に緊張感を生み、腐敗をなくすのが狙いです。政党交付金制度も無理なカネ集めをやめ、企業などとの癒着を断ち切るためでした。

 こうした一連の政治改革で、昭和から平成初期に起きていた大型疑獄事件は鳴りをひそめています。政治改革の「成果」と言えなくもありません。

 一方で、政権中枢への過度の権力集中という「副作用」も生みました。選挙での公認や政治資金の配分など議員の政治生命を左右する権限を首相を頂点とする権力中枢が握ることになったからです。

 その結果起きたことは、首相らの意向に過度に配慮する忖度(そんたく)政治であり、財務官僚が公文書を偽造する統治機構の根腐れです。

 

権力集中の弊害随所に

 

 安倍氏自身、第一次内閣の反省に立って政権を運営していると言いますが、政権は長ければいいというわけではありません。

 頻繁な首相交代は、政治の安定性を損なうとはいえ、長期政権には必ずひずみが出ます。政治腐敗の温床になり、時には独裁政治に至ることもあります。

 腐敗や独裁を防ぎ、政治に緊張感を与えるためには、適度な権力の交代が必要です。それを阻む要因が「平成の政治改革」にあるとしたら、その「弊害」をなくすことも必要です。歴代最長政権を生み出した構造的な問題にも、冷静に目を向ける時に来ています。