流出土砂、基準超なかったが・・・ 台風19号後、福島でセシュウム測定 (2019年11月19日 中日新聞

2019-11-19 08:45:53 | 桜ヶ丘9条の会

流出土砂、基準超なかったが… 台風19号後、福島でセシウム測定 

2019/11/19 

 福島県の山が台風19号の大雨で崩れ、阿武隈川や支流も氾濫して大きな被害が発生した。東京電力福島第一原発事故で汚染された土砂が流れ出たのかどうか調べようと、独協医科大の木村真三准教授(放射線衛生学)と合同で県内十五カ所の土砂を採取し、放射性セシウム濃度を測定。放射性廃棄物の基準を超える汚染は見つからなかったものの、事故から九年近くたっても放射能が暮らしに影響することを物語る結果になった。

 採取現場に車で向かう途中、県内の道路沿いの斜面はあちこちで崩れ、路面が茶色い砂で覆われていた。除染で出た汚染土を中間貯蔵施設に運ぶダンプが列をなして走る。土砂崩れで道が狭くなった所では、ダンプ同士がすれ違えない。時折立ち往生を強いられながら時速三十キロほどでのろのろと進み、予想以上に時間がかかった。

 測定の結果、最も高濃度だったのは、南相馬市小高区の川房川沿いの一キログラム当たり約三〇〇〇~五〇〇〇ベクレル。山の斜面が崩れて川に流れ落ちる手前、アスファルト路面にたまっていた土砂だった。小高区は放射線量が高く、山あいの一部は帰還困難区域に指定され、他の地域は二〇一六年七月に避難指示が解除された。山林は縁から二十メートルより奥が未除染で、高濃度の放射能汚染が残る。

 台風の通過直後にこの場所で土砂を採取し、自宅の測定器で一万一〇〇〇ベクレル超を検出した小高区の会社員白髭(しらひげ)幸雄さん(69)は「台風の影響を判断するには、まだデータが足りない」と前置きしながら、「山あいはもともと汚染がひどく、一万ベクレルと聞いても驚かない。その汚れた土砂が大雨で生活圏に出て、汚染が拡散したり、たまったりした恐れがある」とみる。

 同様に原発事故で汚染されたいわき市川前町志田名(しだみょう)地区で、崩れた斜面と、水田に流れ込んだ土砂を測ってみると、流入したのは汚染度が低い砂と分かった。田の持ち主の大越キヨ子さん(70)は「せっかく除染した田んぼが、また汚染されたら嫌だなと思っていた。意外に汚染されていないので逆に驚いた」と話した。

 原発事故後に地元の除染に携わった住民の大越勝彦さん(52)が、測定結果を聞いてこう語る。「志田名に残っているのは砂ばかり。セシウムは砂より細かい泥と一緒に、下流、もしかしたら海まで流れちゃったんじゃないの? この辺は台風前より、むしろ汚染度が低くなったんじゃないか」

 

◆住民「生活圏への拡大心配」

 

 そこで、河川の中・下流域の二本松市や南相馬市原町区で、川から流れ出て堆積した土砂を調査することにした。住宅地に流れ込んだ土砂が汚染されていれば、片付けの人たちの被ばく対策が重要になると考え、本宮市では住宅地にたまった泥を採取。駐車場の地面の粉じんも掃除機で吸い取って調べた。

 氾濫、決壊で大きな被害をもたらした阿武隈川の中流域、二本松市平石高田の農業杉内鉄幸さん(72)の畑は一面、泥に覆われ、作物のネギが茶色く腐っていた。川から流れ、道路沿いの電柱に引っ掛かった草は、大人の背丈のはるか上。地面から四メートルはある。

 「ここは何度も氾濫して土砂がたまっているが、こんなに深く浸水したのは初めて」と杉内さん。畑に足を踏み入れると軟らかい泥に長靴が埋まり、足が抜けなくなった。ここではコアサンプラーと呼ばれる採取器具を地面に打ち込み、深さ六十センチまで土砂を採り、五センチ刻みで十二検体に分けてセシウム濃度を測った。

 畑では、原発事故後にトラクターで深さ十五センチまで耕した土が、今回の台風で五センチほど流されていた。そこへ、川から流れ込んだ土砂が十五センチほど堆積し、その汚染は一五〇〇ベクレル程度。台風前は表面に出ていた深さ十五~二十五センチの土に、原発事故による三〇〇〇ベクレル超の汚染が確認され、その下には、四十年以上前の大気圏内核実験の影響が残っていた。

 原発事故で畑の土が汚染され、その上に台風でそれほど汚染されていない土砂がたまり、覆ったという構図だ。とはいえ氾濫で堆積した土砂も、原発事故前に比べれば汚染は激しい。結果を知った杉内さんは「作物がセシウムを吸収しないよう、農地管理や作物の測定をしっかりしないと」と語った。

 調査時も泥の臭いが立ち込め、ほこりっぽかった本宮市の住宅地では、たまっていた泥が一五〇〇ベクレル程度に汚染されていた。百メートルほど離れた駐車場の地面に残っていた粉じんは、一・五平方メートル当たり半分の七五〇ベクレル。場所を少し移れば、汚染状況が大きく違っていることをうかがわせた。

 南相馬市原町区では、あちこちで氾濫や決壊した新田川沿いの公園で、遊歩道にたまった土砂から二〇〇〇ベクレル超を検出した。放射性廃棄物の基準の八〇〇〇ベクレルほどではないが、ある程度の汚染が台風で広範囲に拡散したと分かった。

 原町区の氾濫現場近くで軽油を配達していた男性(72)は「原発事故での汚染が比較的低い地域では『野生の山菜やキノコは汚染されているから食べちゃだめ』という放射能への意識が薄い。台風で汚染が広がると、住民の被ばくにつながりやすいのではないか」と不安を口にした。

 木村准教授は「台風19号の水害を受けた地域には原発事故の汚染が色濃く残り、それが下流に広がった。農地の管理、宅地の放射線量測定、食べ物は食べる前に測るといった、放射能への警戒を怠るのは危険だ」と話した。

 (大野孝志)

 

 【調査手法】 10月24~29日、山から路上に流れ出たり、川が氾濫してたまったりした土砂を採取。場所は、福島県南相馬市小高区の林道やいわき市川前町志田名地区の水田、新田川が氾濫・決壊した南相馬市原町区の河川敷、阿武隈川の濁流が押し寄せた二本松市の畑、その支流が氾濫した本宮市の住宅地の計15カ所。いずれも乾燥させた後、独協医科大国際疫学研究室福島分室(二本松市)に設置されたゲルマニウム半導体検出器で1検体当たり4時間かけ、放射性セシウム濃度を測定した。