公約強行、世界で孤立 米、パリ協定離脱通告
2019/11/6 中日新聞
米トランプ政権が四日、地球温暖化対策の「パリ協定」からの離脱通告に踏み切った。世界で進む脱炭素の潮流に背を向けて看板公約の実現に突き進んだ形だが、国内でも離脱への支持は高くない。異論を受け入れないトランプ大統領の判断が、世界の温暖化リスクを拡大させる懸念が増している。
■国内も支持少数
「オバマ前政権の規制を取り払い、美しくきれいな石炭に対する戦争を終わらせた。素晴らしい炭鉱労働者が職場に戻っている」。協定離脱を通告後、トランプ氏は産炭地の南部ケンタッキー州での選挙集会で「成果」を誇示した。
協定離脱はトランプ氏にとって重要な公約の一つ。だが国内の強い支持があるわけではない。米エール大が二〇一八年に有権者千人余りを対象にした世論調査では、米国の残留を支持するとの回答が77%に上った。トランプ氏の共和党の支持者でも60%だった。
トランプ氏が離脱の方針を表明したのは一七年六月。当時は政権内に慎重論が根強く、決定まで暗闘があったと報じられた。その後ティラーソン国務長官ら残留を進言した幹部は次々と政権を追われ、同じく残留派の長女イバンカ大統領補佐官も最近は影が薄い。いさめる人がいない中、離脱手続きはトランプ氏の意のままに進んだ格好だ。
■山火事・洪水…
その米国も温暖化の脅威と無縁ではいられない。既に温暖化との関連が指摘される異常気象が猛威を振るい、西部カリフォルニア州では大規模な山火事がたびたび発生。強大なハリケーンや洪水被害も珍しくない。
世界全体で見ると、各国が対策を強化しなければ、産業革命前と比べた気温が三五年に一・五度、五三年に二度上がるとの予測がある。それぞれパリ協定が温暖化の深刻な被害を避けるために「努力目標」と「目標」に据えた水準で、温暖化はその後も悪化して今世紀末には約三度の上昇になると推定されている。
仮に気温上昇をパリ協定の努力目標である一・五度に抑えることができても影響は避けられない。。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、世界で豪雨の頻度や強度が増し、干ばつが深刻になる地域が出る。対策が不十分だと穀物価格が五〇年に最大23%上昇し、海面は今世紀末に一メートル強上昇する恐れがあるという
■同調の動きなく
多くの国は危機感を抱き、パリ協定を締結する百九十近い国に、米国に同調する動きは出ていない。
十二月開催予定の気候変動枠組み条約第二十五回締約国会議(COP25)を巡っては、南米チリが十月末になって、反政府デモを理由に地元開催を断念。だがすぐにスペインが代替を申し出て同じ日程での開催が決まり「温暖化に対処する多国間協調の精神の表れだ」(条約事務局)などと歓迎ムードが広がる。
一方、米国は一七年の離脱表明以降も国際会議に代表団を派遣し、実施ルールを決める議論に参加してきた。各国も米国を排除せずに対応している。世界の二酸化炭素排出の15%ほどを占める米国が長期間対策を怠れば温暖化を加速するとの認識が共有され、将来の復帰への期待が強いためだ。
米国の環境シンクタンク「世界資源研究所」のデービッド・ワスコウ氏は「深刻な悪影響を避けるには今後十年の取り組みが決定的に重要だ。世界が一体となって解決策を探す必要がある」と、米国を巻き込む重要性を強調した。
(ワシントン・共同)