『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  251

2014-04-15 07:55:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 まずパリヌルスが発言した。
 『今日の集散所の売り場を見てみると、地元の漁師が個々に売り場を開いていると思われるます。スダヌスに聞いてみる必要があるように感じています。パンの売り場のように我々だけがやっているというわけにはいかないのではないかと考えています。我々が魚の売り場を開く、漁師たちの売り場と競合する。問題はこの競合にあります。彼らは反感感情を抱くと考えられます。この点を問題として検討すべき事項であると思われるのですが』
 次いでオキテスの発言である。
 『我々のやっている魚の取り方と彼らの魚の取り方に根本的な違いがあると思われます。我々は、漁師ではありませんが、糸に釣り針をつけて海にたらして魚を釣るところまでは同じですが、全く異なっているといって過言ではありません』
 『ほっほう、どう違う?』
 『結果を違わせるだけのやり方の決定的なスケールと海との取り組み方です』
 『そうか』
 『そのようなわけで、我々が獲った魚の売りさばき方を考える必要があると考えられます。一度、この点について、スダヌスにクレタの事情を詳しく聞き、話し合いたいと考えています』
 『よしっ、いいだろう。詳しいことをスダヌスに聞いてみよう。今度、話し合う機会にだ』
 彼らは結論を後日とした。
 『しかしだな、売値を決めるということは、むつかしいことだな』
 『それはそうだが、そんなにむつかしいことでもなさそうだ。集散所で、売値を決めた時、ハニタスらは、そんなにむつかしく考えずに、パン1個、木札1枚ときめた。彼らの価値判断と値決めをよ~く考えてみる必要がある。明日の課題ができたな。明日あたりから、彼らの値決めの物差しについて、じっくり観察しようではないか。今日はクリテスを同道せずに仕事をやってみた、我々でできるという感触を得た。明日はクリテスを連れていく』
 『そうか、集散所に行くのに俺も俺もでは物々しすぎる。オキテス、どうする?』
 『そうだな、俺は、もう少しつめてみたいことが1つ、2つある、明日は俺が行く。統領、軍団長が行かれるのなら、三、四日、間をおいて、行かれるほうがいいのではと考えられます』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  250

2014-04-14 07:45:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルス、オキテスもともにオロンテスの話に耳を傾けていた。
 彼ら一同は、時代が変わろうとしている予兆を感じとっていた。取引の形態が変わる、アヱネアス、イリオネスは、国を富ませる『財』とは何なのか、何をもって『財』としていくかについて深く考える必要を感じた。
 パリヌルス、オキテス、オロンテスの三人は、何を『財』として獲得していくか、自分たちが生産する物の価値決めについて、よくよく考えねばならないことを痛感するに至った。物と物との交換の不合理に気づき始めてもいた。
 価値決めについての物差しがそこにあった。あのパン1個が木札1枚、その実質的価値が、どれだけの金か銀になるのか。また、そこに存在する世の中が認めるその物の価値観が存在しているということも理解した。
 話し合っている五人の者たちが『世の中が変わる』時代の変化を感じていた。イリオネスが口を開いて言う。
 『明日からは、こうだと、急激に変わることもないだろう。パンの取引、これをチャンスとして事の本質について深く考えていこうではないか。我々が事を処する知恵も出てくる。そこで我々が事に処する姿勢をつくることができる。と俺は考える』
 パリヌルスが相槌を打った。
 『そうですね。軍団長の言われる通りです』
 オキテスもオロンテスもイリオネスの言ったことに同調した。
 彼らは集散所の取引の形態に携わって、目からウロコの剥がれ落ちる体験をしようとしているのである。この話題について、イリオネスが締めの言葉を言った。
 『オロンテス、この仕事を手ぬかりなく進めていってくれ、この仕事を通じて、我々は取引の本質を見極めるであろう。とにかく気張っていこう。一同も頼むぞ』
 『判りました』オキテスが代表して返事をした。
 『ところでだ、集散所を見学してきた諸君、話することはあるか』と言って、イリオネスは、一同の顔を見た。
 『俺は、、、』とオキテスは、声を出して一瞬言いよどんだ。彼は言いかえた。
 『私は、魚の売り場、売り方、買う客は?とこの三つの事を気にかけて観察をしたのです。感じたままを話します』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  249

2014-04-11 07:59:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一同は、昼めしを終えた。オロンテスは、セレストスとひざを交えた。
 『おう、セレストス、やったぜ!といった感覚だ。ところで、明日の事だ。持ち込むパンの数の事だが、そうだな、今日の1割増しで行こう。とするとだな、120個プラス注文分30個ということになる。いいだろう150個だ。150個でいってくれ。あ~あ、そうだ、あの籠、ちょうど具合がよかった。籠に余分があるか?』
 『え~え、大丈夫です。あと5~6個できたのがありますから。明日のパンの総数150個了解しました。早速、下仕事にかかります』
 『じゃ~、頼んだぞ』
 『判りました』
 『あ~あ、それからだが、明日以後のパンの製造個数だが、120個プラス注文受け数でいく。向こう10日ぐらいは、このペースだ、判ったな。以上だ』
 『判りました』
 打ち合わせを終えたオロンテスは、イリオネスの許へと3人連れ立って出向いた。イリオネスとアヱネアスが何事かを話し合っている。オロンテスを場にむかえたアヱネアスは、立ちあがり、声をかけた。
 『おっ!オロンテス、ご苦労であった。ズバリ一言だ、快挙であったな。初めての仕事が、いい結果に終わった。このうえなく喜んでいる。これこの通りだ!』と言って、オロンテスの肩を力を込めて抱いた。互いの胸の鼓動が共鳴した。
 オロンテスは、パリヌルス、オキテスを交えて、今日のキドニアの集散所の事を話した。アヱネアスら二人は真剣に耳を傾けた。オロンテスは事細かに話したあと、明日からの対処について話した。アヱネアスが感じたままを口にした。
 『いや、考えてみれば、物々交換という手法は、何かと不便で納得のいかない取引方法であると言える。オロンテスの話を聞いて時代の流れを感じ取ったというところだ。時代が変わろうとしている。それを、ひしっと感じる。俺自身、いずれ集散所へ出向いてこの目で確かめたい』
 『それは、いいことです。百聞より一見です』と答えた。イリオネスが口を開いた。
 『オロンテス、ご苦労であった。心からお前の労をねぎらう。お前のやったことの証として、木札105枚を預かった。取引の手法が変わろうとしている、これが、どれだけの金か銀に代わるかだ。テカリオンから預かった小麦の決済もどのようにやるか、見えてきたような気がする。オロンテス、いま、お前がやっていることは、大変だと思う。手ぬかりなくしっかりやってくれ。頼んだぞ!』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  248

2014-04-10 07:27:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、では、ひきあげるぞ!』オロンテスの声が飛んだ。
 彼ら一行は、からになった籠を肩にして集散所をあとにした。オロンテスは、スタッフらに命じた。集散所から十数歩、歩き出て全員一列に並んだうえ集散所に向けて深く一礼して踵を返し帰途についた。
 この光景を目にしたものが少なからずいた。その者たちはその光景に目を見張った。
 オロンテスは、『これは、集散所、そこを訪れる人たちへの感謝であり、集散所攻略の戦略の一つでもある』と胸中に秘していた行動であり、我々集団を印象付ける所作でもあった。
 引き上げる者たちの足取りは意気揚々と軽々としていた。船だまりに着く、舟艇に乗り込む、ギアスの掛け声一発で舟艇は岸を離れた。風は北西から吹いている、帰りの漕走はきつかった。
 『ギアス隊長、東からの風がほしかったですね』
 『望んではいる、事は思い通りにいかないことのほうが多い』
 『はい、心します』
 このキドニア往復に要した時間は、ギアスが予想していた約2時間といったところであった。
 ニューキドニアの浜へは無事の帰着であった。彼らの帰着を知ったセレストスとその部下たちが揃って出迎えた。
 『棟梁、お帰りなさい。結果はどうでしたか?』セレストスが心配顔で尋ねた。
 『おう、喜べ!結果は重畳であったぞ!売れ残る心配、それがなかった。うれしい限りだ。しかし、晴れの日ばかりではないと自分を戒めている。ところでだ、セレストス、明日、届ける注文を持ってきている、昼めしを済ませたら打ち合わせだ』
 『判りました』
 オロンテスからの話を聞き取ったセレストスは、傍らの者に一行22人の昼めしの支度を指示した。オロンテスは、ギアスに声をかけ、パリヌルス、オキテスにも食事を一緒にと話しかけた。
 『俺は、軍団長に報告を終えて、そちらへ行く』と告げて、道を急いだ。
 『おお~っ!オロンテス、帰りが早いではないか、どうであった?』
 『はい、結果は、いい報告ができます。詳しいことはのちほどにして報告いたします。私らが考えていた時間より短い時間で全品を売り切りました。これがその成果です。木札が105枚あります。ということは、パンを105個売ったということになります。この木札は、集散所が後に金か銀に交換してくれることになっています』
 『ほっほう、そうか。詳しい話はあとで聞くとして、これは、物々交換ではないということか』
 『そうです。時代が変わるきざしのように思えます』
 『お前、めしを済ませたのか?』
 『まだです。いま、一行の分も合わせて準備してくれています』
 『早う、めしを済ませて来い。詳しいことを聞きたい』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  247

2014-04-09 07:51:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 売り場に帰ってきた者たちが話し合っている。
 『おう、ところで、今何時だ』
 『昼少し前ぐらいだろう』
 『昼はどうする?』
 『浜へ帰って食べる』
 『そうか、それで決まりだ。見学を終えて引き上げるとしよう』
 衆議は一決した。集散所の売り場を一巡りしてきたオロンテスは、残っていたスタッフに質した。
 『木札は、何枚であった?』
 『はい、105枚です』
 『おっ、そうか、やったな!ご苦労であった。その後どうであった?客は来たか』
 『え~え、来ましたよ。20人余りです。皆さん肩を落として帰っていかれました。味見に切ってあったパンもすべてなくなりました。明日の注文をいただきました。3人で10個です』
 『ほう、そうか、それは重畳、うれしいね。俺は、ハニタス殿のところへ行ってくる。皆が戻ったらひきあげる、売り場を片づけてきちんとしてくれ』
 『はい、判りました』
 売り場を見に行った連中は、まだ帰っていない。
 オロンテスはハニタスのところへと歩を運んだ。
 『ハニタス殿、ありがとうございました。終わりました、結果は重畳といったところです。お客から受け取った木札の枚数は、105枚です。ありがとうございました。私どもは、今日はこれにて引きあげます。明日も宜しくお願いします』
 『木札が105枚とな、それは、いい売上でしたな。オロンテスさん、いい売上でしたですね。よろしかったですな、私としてもお世話した甲斐がありました。ところで、ガリダ頭のところから注文が来ています。明日、持参ください。パンが20個です』
 『そうですか。それはありがたいことです。明日、間違いなく持参いたします。こちらへ届ければよろしいですか』
 『え~え、そうしてください。私らもこれから昼に、ここにいる者らで食べることにしています』
 『そうですか、それはありがとうございます。今日は、お世話になりました。では、これにて失礼いたします』
 『木札を交換されるときは、前もって連絡してください』
 『判りました。では』
 オロンテスは礼を言ってその場をあとにした。ギアスたちは売り場に戻っていた。
 『おう、一同揃っているな、今日はご苦労であった。これにて、ここをひきあげる。売り上げは、木札105枚、売れ残りなしだ。明日、お客に渡す注文を受けている、売り場で10個、ガリダ頭から20個、合わせて30個だ。明日も力いっぱい頑張る。以上だ』
 『おうっ!』
 勢いよく返事が返る、オロンテスの心は晴れがましかった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  246

2014-04-08 07:48:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 最後の客が訪れた。
 『おう、パン屋さん。よく売れたかね。いやね、交易をやっているテカリオン、奴から聞いていたんだ。集散所にパン屋が売り場を開くってね。どうだい、よく売れたかね?』
 『はい、おかげさまといいたいですな、売れました。もしを考えたらとても心配しました。明日も今日のようにが私どもの願いです』
 『お前さんの言うとおりだよ。今日よりも明日だ。パンはいくつある?みんな、買おうじゃないか』
 『それは、ありがとうございます。5個あります』
 『おっ、そうかい!』と答えて、伴の者に言った。
 『木札5枚を渡して、パンを受け取れ』
 『判りました』と返して、木札を5枚を取り出した。
 『ありがとうございます。いや、木札は4枚いただきます。パン1個はお客様への感謝です、お受け取りください』
 『そうかい、それはありがとう。お前、なかなかやるな、客の心をつかむのがうまい!喜んで受け取るよ。また来る、ありがとよ』
 と言い残して客は、立ち去った。
 オロンテスは、スタッフたちに告げた。
 『お前らご苦労であった。パンはここに完売した。今日までのあれやこれやの苦労がいっぺんに吹っ飛んだ。重畳の結果であった。皆で喜ぼう。いい報告ができるというもんだ。明日への張りが出る。ありがとう!それでだな、おい、木札の枚数を数えて俺に聞かせてくれ。あとは、ここを片づけてお前らも集散所を見て廻って来い、以上だ』
 『おう、オロンテス、やったな!どんな結果になるか気をもんでいたが、重畳といえる結果になった。皆で喜ぼう』
 パリヌルスが声をかけ、オキテスとオロンテスは感動の握手を交わしていた。
 『お~、ご両人、ありがとう、心配しただけに、この結果に感激ひとしおだ。ではいこうか、集散所の見学に』
 三人は歩き出した。スタッフ連とギアスも集散所の中を歩いた。一同の気持ちは晴れ晴れとしていた。
 オロンテスの心は弾んでいた。
 『ご両人、俺がこんな気分になる、仕事をやったって気分だ。こんな感動といおうか、感激といおうか、この達成感は、生まれて初めてのものだ。ご両人に心からありがとうを言わせてもらう。ありがとう!』と述べて二人の手を力強く握った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  245

2014-04-07 06:53:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人は、魚種のチエックではなく、魚の売り方、売れ方に注意を集中した。客の買い方から見ると家庭用であると察せられた。二人は顔を見合わせて頷き合った。大量に買おうとする客筋が無いようである。『少量、多数の客に魚を売る』この考え方で対応して事に当たり、捨てるを惜しまない売り方の覚悟がいると判断した。次いで塩干魚は、どうであろうかと売り場を見て廻った。こちらの客筋は違うようである。客が求める量の希望を満足させていない様子が見受けられた。二人は小声で話しながら、あちこちを見て歩いた。あとは思考で答えが出せるようにと観察して見て廻った。
 『パリヌルス、向こうの青物の方も見てみないか』
 『おう、そうしよう』
 二人は、青物の売り場に足を向けた。
 『こちらは我々が買い人になるように感じられる、今の俺たち青物の食べ方がちい~と少ないように思う。俺たちが生きていくうえでの栄養の事だ』
 『そうだな、お前の言うとおりだ』と頷いた。ほか、いろいろと売り場を見て歩いた。
 二人は、パンの売り場に戻ってきた。
 『売り場を見て廻られて、どうでしたか?』
 『おう、少しは学習したようだ。明日の思案に役立つか、どうかは別にしてだ。パンの売れゆきはどうだ?』
 『え~え、いいですね。あともう少しです。終わり次第、三人で売り場を見て廻りましょうや』
 『おう、そうしよう。売り場にけっこういろいろな物が揃っている』
 『それは便利といえますね。私たちが買い付ける物もあるようですかな?』
 『それは三人で見て廻ろう』
 『砦建設に必要とする物も取り扱っている売り場がありましたか』
 『おっ、それは気が付かなかったな俺らとしたことが』といってオキテスは頭を軽くたたいた。
 『お~、オロンテス、パンの残りが少なくなったじゃないか。あと数人の客で終わりだな』
 『そうですよ』
 『あとをスタッフに任せないのか』
 『え~え、任せません』
 『最後のお客さんを見送るのが、私の今日の役目なのです。感謝しなくっちゃ。それで明日につながっていく。私の思いです』
 オロンテスは会話を結んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVED FROM TROY   第7章  築砦  244

2014-04-04 07:50:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パンが売れ始めた。味見用にまたパンを切った。今度は違った、味見用のパンを手渡すことはない。客の方から手を伸ばしてきた。客はパンをほおばりながらパンを買っていく。オロンテスは、パンを商うのに腐心することなくパンが売れていく。客に『群れ』の力学が働いてきているようであった。飛ぶようにというわけにはいかないが、パンは売れた。パンが売られること事態がこの集散所では珍しいことであったようである。そのめずらしさがパンが売れるに相乗したようであった。
 売れる第一波が通り過ぎたようである、オロンテスは、この時点でパンのさばけ具合をチエックした。持ち込んだ総量の3分の2くらいがさばけていた。
 『物が売れるということは、こういうことか』とオロンテスは感じ入った。
 この状況を目の当たりに見ていたパリヌルスとオキテス、ギアスの三人も感じ入っていたようであった。
 来客の雰囲気に変化が見え始めた。ポツリポツリと客が来る、ポツリポツリとパンが売れていく、集散所の各所で話題になっているらしい。第一波の客と客筋が違ってきたようである。
 客が言葉をかけてくる。
 『おう、味見のパンをもっと大きく切れよ!したら、パンを買わずに済む』
 『はっはっは、私たちはパンを売るのが仕事です。お客さんがそのように望まれても、それはできませんな。はっはっは』と微笑みで笑い返した。
 客もジョークのつもりであったらしい。
 『ほっほう、まあ~、そうだわな』
 客は、木札を3枚さしだして、でっかいパンを3個手にして『お~、これはずっしりくるわ』といいながら場を離れていった。
 パリヌルスとオキテスは、オロンテスに声をかけた。
 『オロンテス、俺たち集散所の中を廻ってみてくる』と言ってパンの売り場を離れた。
 二人は、集散所の中を歩いて廻った。取り扱う品目別に売り場が作られている。二人は、初めに鮮魚類の売り場に足を踏み入れた。いろいろな魚が並んでいる。オキテスが口を開いた。
 『へえ~、ここの海に、こんなにいろいろな魚が住んでいるのかな』
 『どうもそうらしい、いろいろな魚がいるもんだな。そういえばトロイにもいろいろな魚がいたな』と返事を返した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  243

2014-04-03 08:06:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ハニタスは同行している二人の意見を聞いた。
 『お前の考えではそのような判断か。おまえは、どうだ?』
 『私もそれでいいのではないかとゆう思いです』
 『では、それでいこう』と言ってハニタスは、オロンテスのほうへ顔を向けた。
 『オロンテスさん、決まりました。パン1個、木札一枚ということでいきましょう、いいですかな』
 『いいでしょう。それが相場ということですね。判りました』
 値決めが終わった。オロンテスは、ハニタスらの値決めを素直に受け入れた。彼は、それが妥当であるか妥当ではないのか、ハニタスらの意向を受身のカタチで受け入れた。あとは、木札一枚がどれだけの金銀に変わるかであった。物々交換時代の転機がここに存在していた。オロンテスらのやっていることの結果がどのようなカタチになるか、それは先にいかねばわからない。
 『とにかくやるのだ!』オロンテスらが踏み出した第一歩であった。
 『では、ハニタス殿、宜しくお願いします』
 『こちらこそですな。もし判らないことがあったら遠慮なくたずねてください』
 彼らはその場から引きあげた。
 オロンテスはしばしの間、場を眺めて『どうして売るか』と思案した。彼は、事務所風のところへ足を運んで、大きな木の板一枚を準備してきた。また、忘れることなく右手に木炭を握っていた。
 彼は木板に大きく字を書いた。
 <これは、うまいっ!デカパン 1個 木札1枚>と大書して、パン籠にたてかけた。次にしたことは、パン3個を細かくといってもやや大きめに切り分け、立ち止まる人、通り過ぎようとする人に『焼きたてパンの味見を!』と声をかけて手渡した。
 売り場の前は、たちまち人だかりができた。見知らぬ者どうしが目を合わせてうなづき合っている。
 『おう、これは、旨い!』『このパン。いけるぜ!』
 彼らがやったことがヒットした。
 オロンテスは、スタッフ一同に声をかけた。
 『今日は、初日だ。思いついたことをやるのだ』
 パンが売れ始めた。ひとつ、ふたつと売れていく、うまくいきそうだ。彼が作った立て看板、味見策が好評であった。
 これは製品に自信がなければやれない。物に自信があるから披露することができる。彼の自信のできる技であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  242

2014-04-02 07:30:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 与えられた売り場に品物を並べ終えたオロンテスは、ハニタスとの打ち合わせに出向いた。
 『あ~あ、オロンテスさん、こちらへどうぞ。オロンテスさん、この集散所においての取引のカタチについて説明いたしましょう。手に取ってみてください。この木札で取引をします。両面にこの焼き印が押してあります。この木札はこの屋根の下だけで通用します。いいですか。取引は物と物との交換でやりません。この木札と交換するといったことで取引をします。では、この木札をどうして手に入れるかと言います。この木札を手に入れるときの一つは、この屋根の下に売り場を持たない人が物を持ち込んできて、持ってきた物を木札と交換します。二つ目は、金銀のいずれかを持ってきて、この木札と交換します。この二つの事は、この集散所が行います。オロンテスさんのところの場合は、物を求める人に物を渡す、その人から木札を受け取る。または、物を求める人から金銀を受け取って物を渡す、この二つの方法で物の取引をしてください。金銀を持ち込んでの取引は大口の取引の場合が多いのです。その時は集散所の者が立ち会います。貴方がたが取引をして受け取った木札で集散所に並べている物を求められても結構ですし、この木札を集散所で金銀に替えることができます。私が言ったことが判ってもらえたでしょうかな』
 『よく、判りました』
 『それでは、物の値決めをやりましょう。と言うことはですな、この木札一枚で貴方が人にどれだけの物を渡すかということです。私とその役をしている者二人が、あなたに立ち会って、それを決めます。いいですね』
 『判りました。ではお願いします』
 オロンテスとハニタスら三人がオロンテスらの売り場に向かった。
 『お~お、これは見事なパンですな。ここの屋根の下の売り場のどこにもない、ここだけの品物です。貴方のところで食べた、あのすばらしく旨いパンですな』
 『え~え、そうです』とオロンテスが答えて、傍らに立っている者から小剣を借りて、パンを切り三人に渡した。
 『どうぞ、まずは、味わってみてください。家で焼くパンとパンの味が違うはずです』
 彼らはおもむろに口に運んだ。
 『おうっ、これは旨い!』
 『これはこれは、実にうまいパンですな!』
 ハニタスはパンの味を知っているが、他の二人は初めて口にするパン味に感動した。
 『ハニタスさん、これはいけますな』
 『また、このパン、ボリュウームもありますな』
 『ハニタスさん、パン一個、木札一枚ということでどうですか。私の判断です』
 ハニタスに同行した一人が言った。