『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  341

2010-11-16 07:49:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『両人、この男は、トビテスと言う。今度の船旅の漕ぎ手の頭をつとめる男だ。トビテス、こっちがアバス、こっちがダナンだ。先ほど指示したとおり、二人をエブリジエまで頼む。それからの段取りは判っているな。お前に渡した書付けは、リブレジエの浜頭に渡せば、お前をはじめ7人の身柄を、この二人が帰ってくるまで預かってくれる手はずになっている。判ったな。アバス、ダナン、トビテス、昼めしを終えたら、直ぐに出発しろ。早ければ夕方、薄暮の頃にはエブリジエの浜に着く、三人とも頼むぞ。全員生きて帰ってくるのだぞ』
 オキテスは、三人に言い含めた。
 『あ~あ、それから、アバスにダナン、これは、エブリジエ、ケシャン、リブレジエの簡単な地図だ。道中充分気をつけて、帰って来い。俺が待っている』
 アバスにダナン、トビテス以下7人の漕ぎ手の者たちは、砦の浜をあとにした。陽は頭上にあった。
 ダナンは驚いた、漕ぎ手の数で考えた船足の速さの比ではなかった。船足は想像を絶する速さであった。岸寄りの海風は西からの風であった。快速艇の帆は風をはらんでいる、船尾の三角帆もはらんでいた。艇は波を割って海上を走った、いや、走ったというより、すべったという表現の方が合う。
 陸の波打ち際から、50メートルから100メートルぐらいしか離れていない海面をすべるようにエブリジエを目指した。

第2章  トラキアへ  340

2010-11-15 07:28:27 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 兵に呼びにやらせた浜衆が来た。オキテスは、両手を広げて彼を迎えた。
 『お~お、来てくれたか、ダナン。今日は忙しかったのか』
 『え~え、今は毎日が忙しい。アーモンドの群生地への食糧の調達に浜は多忙です』
 『そうか。ダナン、お前に頼みたいことがある。4~5日、ちょっと身体を貸してほしい』
 『いいですとも、用件は何です』
 『ここにいるのは、俺の部下のアバスだ。一緒にエブリジエまで出向いてほしい。用件は、このアバスに伝えてある、頼めるか。お前の身の安全は、こいつが護る。しかし、互いに用心するにこしたことはない』
 それだけ言うと、傍らの兵に言いつけて準備しておいた旅装をダナンに渡した。
 『アバス、ダナン、近くに寄れ。エブリジエには、船で行け。エブリジエの浜に着いたら、船をリブレジエまでに返して、そこで待たせておけ。いいな。帰ってくるときは、そこから、船で帰ってくるのだ。船は、海賊退治のときにせしめてきた、あの快速艇を使う。漕ぎ手は8人、手配してある』
 オキテスは、部屋の隅にいるひとりの男を手招きで呼び寄せた。

第2章  トラキアへ  339

2010-11-12 09:04:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
アバスの背中を見送ったオキテスは、エブリジエへまでの道中のことを考えた。砦の浜からエブリジエまでは、今のキロ表示で言うと60キロ余りである。その中間地点にリブリジエがある。オキテスの考えはまとまった。
 アバスが嬉々とした表情で現れた。扮装はなかなか似合っている、干草で編み上げたずた袋をせなかにして、農家の主夫といった風情である。
 『お~お、アバス、その姿、なかなかいい。ところで武器はどこだ』
 『このずた袋の中に入れています。一振りの短めの剣と『ロムフアイア』という武器です。この武器、使い勝手がなかなかなんです。今度のアーモンドの群生地への道作りで一部の者が使っていたはずですが』
 『まあ~、見せろ』
 オキテスは、その ロムフアイア を手にとって見た。
 『使ってみなければ判らんが、なかなか鋭い刃物だな。ひと風変わった武器だな。材質は何だ、青銅ではないな』
 『え~え、それは鉄です。青銅に比べて軽い上に丈夫です』
 『お前が帰って来てからでいいから、俺の分を一振り準備してほしい』
 『判りました。これは柄の部分をいれて長さが1メートルぐらいですが、長いものになると2メートルぐらいのものもあります。トラキアの部族が使っている武器です。対手の喉を掻き斬るのにとても使いいい武器なのです』

第2章  トラキアへ  338

2010-11-11 07:21:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、オデッセウスの情況調査をどのようにやるか考えていた。とりあえず、兵の一人に言いつけて知り合いの浜衆を呼びにやらせた。彼は、表情に緊張感を漂わせて調査に向かわせるメンバーを考えた。
 『これにはアバスを使う』 兵をアバスを呼びに走らせた。息せきってアバスが駆けつけてきた。
 『お~お、アバス来たか。もうちょっとこっちによれ。今朝、捕らえた不審者の言ったことの中にただならぬ事があったのだ。それで、今、兵の一人に浜衆の一人を呼びにやっている。その浜衆とお前の二人で、その情況を調べに行ってもらいたいのだ。判るか』
 『判りました。その情況とは何です』
 『実はだな、オデッセウスの軍団の者どもがトラキアに上陸して、落人狩りをやったらしい。リブレジエからの風聞では、そのようなことを耳にしていないから、もっと東の方、湾の奥の方、エブリジエ辺りではないかと俺は思う。その情報を集めて、その後どうなっているか探ってくれ。浜衆と一緒に行くのは、土地の者を装って出向くからだ。武器はツトに包んで隠し持って行け。いいな。旅に出る準備をして来い』
 『判りました』 アバスは踵をかえした。

第2章  トラキアへ  337

2010-11-10 07:33:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、広間を出て館に一旦戻り、ユールスを連れて浜に向かった。
 波打ち際に立って朝陽に輝く海をすみずみまで心いくまで、何かを捜し求める視線で目にする風景を見つめた。
 空は澄んで青く、右手にサモトラケの島塊を、そして、遠くはるかに広がるエーゲ海を見透かした。
 『ユールス、どうだ。海が好きか。朝の海は気持ちがいいな』
 父の言葉に、子供ながらにうなづくユールス。二人は、大地を離れて昇り始めた太陽をしげしげと敬虔な心持で眺め見た。
 アエネアスは、再び目線をエーゲ海のはるかに移した。彼の心には、このエーゲ海の果てに、何かがもやって、視界を閉ざし、そのもやって見えないはるか彼方にあるものを目にしたい、そこに行きたい、いや、そこへ行かねばならないのではないかといった想念がふつふつと沸いていた。
 彼は、毎朝の行事をユールスとともに終えて砦へと帰った。
 オキテスは、メッキスらの着衣も改めさせて、砦の門前に待っていた。
 『統領、こいつらをアーモンドの現場にやります。イリオネス、アレテスらに面通しした上で現地での仕事につかせますが』
 『うん、それでいいだろう』
 オキテスは、クラテスとテトラスに、イリオネスへの伝言と指示を与え、兵5人をつけてアーモンドの現場へと送り出した。

第2章  トラキアへ  336

2010-11-09 06:58:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 メッキスの長い陳述が終わった。
 三日前に訪れた交易の者たちからは、ギリシア軍の主だった者たちの消息が伝えられていたが、その話のなかには、オデッセウス云々という情報はなかった。
 オデッセウスの情報について耳にしたアエネアスとオキテスは顔を見合わせていた。
 『オキテス、オデッセウスがトラキアに、これは、ただならぬ事を耳にした』
 『しかし、変ですね。そのような風聞は耳にしていませんが。判りました。誰か情報収集に向かわせましょう』
 『おう、そうしてくれ』
 『統領、こやつらどのようにしましょうか』
 『お前どのように考えている』
 『この者どものいうことに、うそ偽りはないように思われますが。もう少し、奴らを問い詰めて見ます』
 『そうだな、オキテス、こいつらが敵ではないという証しが、いまひとつ足りない。とりあえず、朝飯を食わせてやれ』
 『判りました』
 オキテスは、かたわらのテトラスに言いつけて、メッキスら三人に朝飯を整えてやった。

第2章  トラキアへ  335

2010-11-08 07:08:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 メッキスの慟哭は続いた。彼は泣きながら話を続けた。
 『四人になった私どもは、この川原に潜んで一ヶ月は過ごしたと思います。それから、もういいだろうと、川筋に沿って、南に向かいました。戦利の物を背負い、この地方の住人を装って、旅を続けました。途中、メジデイエで持っていた荷物の半分を食べ物に替えて、久方ぶりに四人の腹を満たしました。私どもはさらに南に向かって旅を続けたような次第です。ちょっと大きい集落につきました。そこがリブレジエであることを知りました。そして、海岸近くの林の中で過ごしました。ここでも持っていた戦利品を食べ物に換えて過ごしました。リブレジエの集落に行き来しているときに、このアエネダナエの話を耳にしたのです。仲間内の一人は漁師であったことが幸いして、土地の漁師の仕事を手伝うことになりました。彼は、仲間うちから去っていきました。そして残ったのがこの三人です。二人は、自分たちの剣をも食べ物に換えて生活を続けたようなわけです。そうしているうちにアエネダナエに行こうということになり、海辺を歩いてここにたどり着いたわけです。お願いします。私どもをお助けください。お願いいたします』
 メッキスは、ここで、頭を地面にすりつけて救いを懇願した。

第2章  トラキアへ  334

2010-11-05 07:14:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『私どもは、3人と4人の二組に分かれて潅木の茂みに身を潜めました。ところがです、4人組のうちの一人がこらえきれなくなったのでしょう。4人のうちの一人が、大声をあげて、ギリシア兵の群れに斬り込んでいったのです。ここでの斬り合いは凄惨を極めました。残った三人も立ち上がり、斬り込んでいきました』
 オキテスは、メッキスの目をじい~っと見つめて口を開いた。
 『当たり前だ。やるか、やられるか。凄絶であることは当たり前だ』
 『ギリシア兵の二人が血を噴き上げて倒れ、我が方も二人が倒れました。私ら三人も立ち上がり、敵の背後から打ちかかり残っている三人を斬り倒しました。虫の息の倒れた兵を問い詰めたところ、オデッセウスの隊の者であることがわかりました。私はそ奴の止めを刺して、倒れている者どもの身に着けている武具、剣の類を剥ぎ取りました。あとあとの物々交換のものにするため友が身につけていた物も剥ぎ取り、友を穴を掘って埋めました。残った五人のうちの一人は、斬りあいで重傷を負っていました。私どもは、急いで来た道を戻り、川原の茂みのなかに身を隠しました。その夜、重傷の者の命が果てました』
 メッキスは、ここで激しく慟哭した。

第2章  トラキアへ  333

2010-11-04 07:19:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 話は続いた。
 『私どもは、これでは、ケシャンへ向かうのは危険だということになり向かう先をマルカランに変更して、山野のけものみちをたどりケシャンに向かいました。ですが、この道には川がなく5日間も歩いてマルカラン行きはあきらめました。水がなくては生きてはいけません。この道中で二人の友が命を失いました。私たちは、どうにか川のある地点に戻ってきました。私たちは川に沿って、また、歩き始めました。川をだどっているうちに、いつどこで川の流れが変わったのか気が付きませんでした。私どもが川の流れに逆らってはおらず、向かっている先が川の流れの行く先であることに気づきました。私どもはメジデイエ向かっていました。メジデイエの集落を遠くに眺めて、ここで数日を過ごしたように思います。途方にくれた生活の連続でほとほとにまいっている始末です。ここでも物々交換で食べ物をを手に入れて過ごしました。そして、海を目指して、リブレジュに向かったような次第です。私ども7人は、道中で最もといってもいい危難に出会ったのです。ギリシアの兵隊5人と遭遇したのです』

第2章  トラキアへ  332

2010-11-03 07:30:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは相槌を打ってやった。彼は事細かに話している、不思議に彼らからは落ち人特有のすえた匂いはしなかった。
 『私は、道を間違えたことを悟ったのです。そのうえ、水がなくては生きてゆけません。皆と話し合い、もとの川筋へ戻ることにしました。私どものたどった道筋では全く人に出会いませんでした。日にちを費やして川の分かれ目に戻ってきました。私どもはもうぐったりの状態です。ここで10日ぐらい身体を休めたと思います。今度は、川筋を西へと向かいました。そして、5日目、向かう先、彼方に小さな集落を見つけました。今は亡き者たちの持ち物を物々交換で食い物を手に入れて身を休めた次第です。集落の者たちの話では、3日前にギリシアの兵どもが来て、トロイからの落人狩りをしていることを耳にしました。私どもは、これは危ないと思い、来た川筋を引き返したのです。2日間くらい歩いて身を潜めました。私どもは、ここでケシャンへ向かうことを断念しました。私どもは、トロイを出てから、もう50日あまりも見知らぬ山野をうろついていた事になります』