『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 ２０９

　朝食を終えた彼らがアヱネアスの宿舎の前に集まってきた。彼らは、ごく自然に口を衝いて出てくる雑談を交わした。イリオネスがオロンテスに声をかけた。
　『おう、オロンテス、昨日はご苦労であった。疲れは残っているか？』
　『あ～、軍団長、そのようなことはありません』
　『それならいい。オロンテス、あの『ガンガン』打ち鳴らし方を考えたぞ』
　『ええっ！それはそれは、どのように』
　『打ち鳴らしの担当も決めた。俺につき添っている従卒のドンガスに決めた』
　『ありがとうございます。これで、あの『ガンガン』がものの役に立つということですね』
　『そうだ』と答えてイリオネスは一同のほうに体を向けた。
　『諸君！おはよう。今日もいい朝だ。お前たちの元気が我ら一統の元気だ。そこに安心立命の境地がある。いいか判るかな。では打ち合わせを始める。まず、俺から一同に伝える。あの『ガンガン』の事だ、いいか言うぞ！』
　『軍団長、元気がいいですね』
　『当り前だ！元気が取り柄の俺だ。元気でお前らに負けてなるかよ、いいか、よ～く聞け！二度は言わん！３打して１打、これを５回繰り返す。これが『皆でめしを食べるぞ』の合図だ。次が３打して２打だ、『幹部全員集まれ』の合図だ。３打した３打は、『全員集れ』の合図だ。３打して連打は『全員至急集まれ』の合図だ。判ったな。今日から直ちにこれをやる、判ったな』
　『なかなかいいですね』
　『では、打ち合わせを始める。まず、オロンテス、君から話してくれ』
　『判りました。テカリオンの仲介でキドニアの集散所の取り締まりの者たちとの話し合いがとんとんと進み、むつかしい条件もなく、簡単とも言っていい約束事のみで話がまとまりました。先ずは重畳といったところです。取り締まりの面々の中に皆さんの知っているハニタスもいました。取り扱う品物は、パンから始めることになっています。見本に携えていったパンを手渡したところ、面々の驚きは特別でしたな、なかなかの好評を得ました。ハニタスも両手放しで喜んでいました。約束事はごくごく簡単です、出品物の約１割くらいを場所代として負担して納め、私どもが出品物を求めると負担した半分が返してもらえるということでした。私の段取りでは、明後日から集散所の仕事を始める予定にしています。今日は対応、対策、体制それらを整えることに没頭します。皆さんに協力を要請した時は宜しくお願いいたします』
　『質問があったら聞いてくれ』
　『質問はありません。事の次第もありますが、魚を集散所に持ち込むことができるか否かについて、オロンテスに調査を頼んでおきたいと考えています。アレテスの調査の答えが、ここ五日くらいで出ると思います』
　『おっ、そういうことか。オロンテスどうだ？』
　『判りました。それについては、心して調査いたします。ところで集散所に行き来することについてですが、私の考えでは、海上輸送に頼りたいと希望していますが、これについての考えを聞かせていただければと思っています』
　オロンテスは、言い終えて一同と目を合わせた。