『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 1304

　キドニス浜頭の操舵操作に応じて艇尾が振れる、そして、左方向、右方向へと舳先が波を割る、キドニス浜頭が舵の操作効果、切れ具合、船体の反応を敏感に感じとっている。
　同行の者と操舵を交替する、ヘルメス艇が舵操作に応じてジグザグに大きく弧を描いて海上を走行する。
　『キドニス浜頭、櫂舵に比べて操舵の反応がいいですな。おう、感心感心と言える』
　『そうか、ほめることのないお前がそのように言うとはな。多くを語らずでよい、お前の感触さえ良いようなればな。それでいい』
　キドニス浜頭がオキテスのほうへ顔を向ける。
　『オキテス隊長、俺の船に、この舵構造を取り付けれるか？』
　『はい、取り付けられます』
　『よし！考える。試乗はこれで十分だ。船だまりに帰る』
　オキテスがギアスに指示をする。
　『ギアス、船だまりへ戻る。やってくれ！』
　ヘルメス艇が進行方向を船だまりへと向ける。風にあらがいながら船だまりに帰り着く。
　キドニス浜頭がオキテスに話しかける。
　『オキテス隊長、新舵の取り付けに日時はどれくらいかかる？』
　『はい、朝、艇を預かれば、夕刻には、引き渡し出来ます』
　『費用は？』
　『実費でよろしいです』
　『いくらだ？』
　『１ドラクマです』
　『それでいいのか？』
　『よろしいですとも』
　『よし！三日後の朝、船だまりで艇を預ける』
　『解りました。艇を預かり、夕刻には、船だまりで艇を引き渡します。それでよろしいでしょうか？』
　『おう、それでいい！決まりだ！新舵構造の取り付けよろしく頼む』
　『承知しました。三日後の朝、船だまりで艇を預かります』
　『オキテス隊長、１ドラクマとは破格だな！本当にそれでいいのか？』
　『はい、私どもとして充分です。キドニス浜頭、心遣いありがとうございます』
　キドニス浜頭がスダヌスに声をかける。
　『スダヌス浜頭、ありがとう。世話をかけたな。聞いての通り、新舵を取り付けることにした』
　『そうですか。キドニス浜頭、決断が早いですな』
　『それにしても、オキテス隊長の言う、１ドラクマは安い！彼らのサービスマインドと考えられる。深くは詮索しない、喜んで厚意をもらい受ける』
　キドニス浜頭の語尾に力のこもったトントン拍子の話し合いが終わる。一同が握手を交わす、キドニス浜頭の試乗航走を終える。
　オキテスは、キドニス浜頭ら一行を岸壁上で見送った。