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故郷へ恩返し

故郷を離れて早40年。私は、故郷に何かの恩返しをしたい。

さなさんー20

2014-12-26 05:46:40 | 短編小説

第二十話 おかめ

さなは、伊藤の額にのっているタオルをたらいの水に浸し絞って
額に戻しました。何度も繰り返しました。
冷たくなった手でほほに触り冷ましてあげました。
布団の周りには、寝巻きと着替えが用意してありました。
蒸して寝苦しい夜でした。
月が昇り始め、明るい夜でした。
伊藤は汗びっしょりでした。
さなは、伊藤の身体の背中に手を回し伊藤の身体を前向きに
位置を変えました。
濡れた寝巻きをはがすようにとりました。

伊藤の背中に、顔が浮かんでいました。
そこには、おかめの刺青がありました。
月明かりのなか、さなはそれをしばらく見つめていました。
さなの知らない、およびもつかない伊藤の人生を見たように思いました。
伊藤が、どんなに暑い日でも行儀よく上着を着ていたことを思い出しました。
伊藤は相変わらず弱い息遣いでした。
さなは、新しい寝巻きをおかめの顔を覆うように着せ掛けてやりました。
 おかめ

「伊藤さん、ほんにありがとう。」
さなは、思わず伊藤のほほに自分の冷たいほほを重ねていました。
そして身体を寄せていました。伊藤は相変わらず苦しんでいました。
そっと伊藤の身体を元に戻しました。
タオルを代えて見つめていました。
母がそっと部屋に入ってきました。

「あとは、うちがやるけえ。」とさなに寝るよう、うながしました。
さなはもっとそばにいたかったのですが、母のいうとおり自分の部屋に
戻りました。胸がどきどきしていました。

(つづく)
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さなさんー19

2014-12-25 05:06:03 | 短編小説

第十九話 生きている 

さなが動き出せたのは夜中でした。長い時間寝ているようでした。
伊藤の連絡で、広島の病院に血清の手配がされていました。
さなは、足の先に多少の痛みと腫れを感じました。恐る恐る
噛まれた足を動かし、指を確かめるように動かしました。
「うちは、生きとる。」
さなは、大事にはいたりませんでした。
自分は助かったと思いました。
伊藤の処置がすばやく正確であったからでした。
さなは、伊藤の処置を思い出し顔が火照るのでした。
そして伊藤に強く感謝の気持ちが沸き起こってくるのでした。
さなは、起きだすことが出来ました。
普段どおり歩けました。
両親にそのことを伝えに居間に向かいました。
二人とも居ませんでした。

  ありがとう

さなは、離れの伊藤の部屋に向かいました。
両親は、伊藤のふとんのまわりに沈んだ顔をして座っていました。
蚊帳が吊ってありました。
さなが現れると両親は驚いたように顔をあげました。
さなが回復していることを伝えると驚き、やがて喜びの目に変わりました。
娘はなんでもなかった。感謝の目を二人は、伊藤に注ぐのでした。
伊藤の顔は普段の2倍にも膨れ上がり紫色に変色していました。
息をするのがつらそうでした。

「顔や首の回りが熱うなってきた。ほっぺたも、ちいとかとうなってきた。」
「大丈夫じゃろう。」
と光男が二人に言いました。
伊藤は、歯の治療ができていなかったのでした。
仕事が終わるのを待って治療をする予定でした。
二人は、さなを残し居間に戻って行きました。

(つづく)
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さなさんー18

2014-12-25 02:35:17 | 短編小説

第十八話 お弁当

「さな。できたけえ。持って行きんさい。」
さなは、農作業の合間をぬって母が作る2人分の弁当とお茶を
毎日山の上まで届けていました。
伊藤は大変だからもう良いと何度もさなに伝えるのですが、
さなは頑として譲りませんでした。
昼間も伊藤に会えるのが楽しみで仕方がなくなっていたのでした。
「花も嵐も乗り越えて。」と二年前に空前のヒットになった
旅の夜風を口ずさみながら、沢伝いに緑の中を登るのでした。
緑の中に、日の光をかすかに通すトーチカが出来るのを見て、
さなはなんと美しいと思ったり、
こんな残酷なものが必要なのだろうかと思ったりしました。
でも決して口にはしませんでした。

事件は突然起こりました。さなが、弁当を届けるために、いつもの
ように頂上への道を急いでいた時です。緑の中から、道一杯になって
トラックが降りてきました。
中には、伊藤と光男が運転手と共に見えました。ゆっくりしたスピードでした。
さなは、よけるために道の端の茂みに降りました。
湧き水がわずかに流れていました。さなは、もんぺに靴を穿いていました。

 お昼だよう

「せまいんじゃけえ。」
さなは、何かちくっとつま先に感じるものがありました。
向かってくるトラックに手を振りました。
さなは崩れるように倒れてしまいました。
トラックは、急ブレーキをかけて止まりました。
中から光男と伊藤が降りてきました。
伊藤は、さなの足元に動くものを発見しました。
蛇です。
頭は三角で、さなの靴に牙が刺さったまま逃げ出せないでいました。
伊藤がはがして、光男が持っていたハンマーで頭をつぶしました。

「さな。たいしたことは、ないけんの。がまんせえよ。」
光男が叫んでいますが、さなにはよく聞こえません。
伊藤は、すぐさま頭に巻いていた手ぬぐいを取って、
さなの腿の内側を縛り上げました。
靴をゆっくり脱がしました。
さなの右足の親指と人差し指にまたがって歯形が上下に4つついていました。
すぐさま、伊藤は足の指を口に含み思いっきり吸い上げました。
何度も吸い出しました。
指にやけ火箸を当てられたような激痛が走りました。
みるみる紫色に変色していきました。
さなは、激痛の中でも、若い男に指を吸われていることで
身体の芯がはじけるような感覚を覚えました。
橙の木で感じたものと同じ感覚であることに気付きました。
意識が失われて行きました。

(つづく)

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痛風のお酒飲み

2014-12-24 00:27:08 | よもやま話

短編小説に挿絵を載せるために、時間を費やしました。
1枚描き上げるのに、長い時は3時間短くても1時間かかります。
構想から、下絵そして色のせです。

出来るだけ、写真を見ないで自分のイメージを絵に仕上げます。
どういう気持ちで書いたかを、浮かんでくるイメージを絵にします。
苦しいけど楽しい時間です。
けっして出来は良くないのですが、オリジナリティー溢れる
私の心の泉の再現です。

前置きが長くなりました。

土曜日に、上野である会社のOB会がありました。
OBと言っても、ほとんどの方がスピンアウトされています。
仲間の飲み会です。全員、先輩です。ここでも一番歳下でした。

中に、痛風の先輩がおられました。
お酒を遠慮しながらお注ぎすると、旨そうに飲まれました。 
二杯目も愛おしそうに飲まれました。
常に、盃は空でした。それからもずっと姿勢を正して飲まれました。
明日は、飲めないかもしれない、今日が最後かもしれない。
一旦、痛風が爆発するともう飲めないのでしょう。
醸造酒は痛風には良くない。いいえ蒸留酒も同じだそうです。
先輩は、やっぱり日本酒が良いと言われました。
焼酎は、アルコールで酔えるけど日本酒が楽しいとも。

皆さん、ドクターストップ寸前で、アルコール中毒のなり損ないのようでした。
飲めるのは、良いことです。
胃に入れる肴は少なくなるけど、思い出話ばかり増えていくのでしょう。
今のことより、昔のことを話されることが多いようにも感じました。

雨の中、2軒目の飲みどころを探して歩きました。
楽しい酒でした。正直な話ばかりでした。

来年もまた、痛風の先輩と飲みたいと思いました。

2014年12月24日






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さなさんー17

2014-12-24 00:05:09 | 短編小説

第十七話 砲台

夏前から、この工事の目的を示す構築物が姿を現し始めました。
砲台と弾薬庫でした。円形に石で築いた台は、大小合わせて
10基ありました。竹林は、砲台を隠す役目をしていたのです。
台の上には頑丈な屋根が構築されました。屋根の上にも木が
植えられるという念の入れようでした。ここでも石を積み上げた
トーチカに黒光りする大砲、重機関銃が据えられたのは、
秋になってからでした。
砲台の下に、据えられたトーチカからは、東側に江田島湾を
目の前にし、古鷹山の向こうに呉の山が見渡せました。
西側は、黒神島と周辺の島々が一望できました。
北側には、似島の向こうに広島の山並みが見渡せました。
要塞として、すべての建物に正確な測量の基本となる地図、
南北の表示と合わせ、実際に見える景色が正確に示されて
いました。敵の来襲に備え、木に見立てた見張り台にも同様の
絵図があり、情報を共有できるようになっていました。
見張り台の情報は、各砲台に電話で通信できました。
停電に備えた大きなバッテリーと湧き水で発電する設備を
もっていました。要塞としては絶好の位置です。
南側の山は、要塞を守っていました。

 砲台のある景色

伊藤の任務はほぼ終わりを向かえようとしていました。
伊藤の顔は、黒光りし、切れ上がった目だけが光っていました。
ひょろひょろとした身体は、変わりませんでした。

夏休みも終盤に差し掛かったさなは、実に良く働き母を助けました。
田の草取りをし、畦に大豆を植えました。
畑に植えたトマト、茄子、胡瓜に、毎日湧き水を汲んではかけていました。
水汲みの仕事は、重労働でした。さなは歯を食いしばって運んでいました。

「おいしいけん。伊藤さん食べてみんさい。」
湧き水で冷やしたトマト、胡瓜と西瓜は、光男や伊藤の
水分補給になりました。激務を支える栄養になりました。
何よりも、さな達女3人の笑い声が、家の中に充満しているのが
男達を和ませました。

(つづく)

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