第二十話 おかめ
さなは、伊藤の額にのっているタオルをたらいの水に浸し絞って
額に戻しました。何度も繰り返しました。
冷たくなった手でほほに触り冷ましてあげました。
布団の周りには、寝巻きと着替えが用意してありました。
蒸して寝苦しい夜でした。
月が昇り始め、明るい夜でした。
伊藤は汗びっしょりでした。
さなは、伊藤の身体の背中に手を回し伊藤の身体を前向きに
位置を変えました。
濡れた寝巻きをはがすようにとりました。
伊藤の背中に、顔が浮かんでいました。
そこには、おかめの刺青がありました。
月明かりのなか、さなはそれをしばらく見つめていました。
さなの知らない、およびもつかない伊藤の人生を見たように思いました。
伊藤が、どんなに暑い日でも行儀よく上着を着ていたことを思い出しました。
伊藤は相変わらず弱い息遣いでした。
さなは、新しい寝巻きをおかめの顔を覆うように着せ掛けてやりました。

「伊藤さん、ほんにありがとう。」
さなは、思わず伊藤のほほに自分の冷たいほほを重ねていました。
そして身体を寄せていました。伊藤は相変わらず苦しんでいました。
そっと伊藤の身体を元に戻しました。
タオルを代えて見つめていました。
母がそっと部屋に入ってきました。
「あとは、うちがやるけえ。」とさなに寝るよう、うながしました。
さなはもっとそばにいたかったのですが、母のいうとおり自分の部屋に
戻りました。胸がどきどきしていました。
(つづく)