故郷へ恩返し

故郷を離れて早40年。私は、故郷に何かの恩返しをしたい。

さなさんー17

2014-12-24 00:05:09 | 短編小説

第十七話 砲台

夏前から、この工事の目的を示す構築物が姿を現し始めました。
砲台と弾薬庫でした。円形に石で築いた台は、大小合わせて
10基ありました。竹林は、砲台を隠す役目をしていたのです。
台の上には頑丈な屋根が構築されました。屋根の上にも木が
植えられるという念の入れようでした。ここでも石を積み上げた
トーチカに黒光りする大砲、重機関銃が据えられたのは、
秋になってからでした。
砲台の下に、据えられたトーチカからは、東側に江田島湾を
目の前にし、古鷹山の向こうに呉の山が見渡せました。
西側は、黒神島と周辺の島々が一望できました。
北側には、似島の向こうに広島の山並みが見渡せました。
要塞として、すべての建物に正確な測量の基本となる地図、
南北の表示と合わせ、実際に見える景色が正確に示されて
いました。敵の来襲に備え、木に見立てた見張り台にも同様の
絵図があり、情報を共有できるようになっていました。
見張り台の情報は、各砲台に電話で通信できました。
停電に備えた大きなバッテリーと湧き水で発電する設備を
もっていました。要塞としては絶好の位置です。
南側の山は、要塞を守っていました。

 砲台のある景色

伊藤の任務はほぼ終わりを向かえようとしていました。
伊藤の顔は、黒光りし、切れ上がった目だけが光っていました。
ひょろひょろとした身体は、変わりませんでした。

夏休みも終盤に差し掛かったさなは、実に良く働き母を助けました。
田の草取りをし、畦に大豆を植えました。
畑に植えたトマト、茄子、胡瓜に、毎日湧き水を汲んではかけていました。
水汲みの仕事は、重労働でした。さなは歯を食いしばって運んでいました。

「おいしいけん。伊藤さん食べてみんさい。」
湧き水で冷やしたトマト、胡瓜と西瓜は、光男や伊藤の
水分補給になりました。激務を支える栄養になりました。
何よりも、さな達女3人の笑い声が、家の中に充満しているのが
男達を和ませました。

(つづく)

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