故郷へ恩返し

故郷を離れて早40年。私は、故郷に何かの恩返しをしたい。

さなさんー10

2014-12-19 22:12:23 | 短編小説


第十話 信ちゃん 

秋口に松茸をとりに行きます。
子供達ははぜの木で、よくかぶれていました。
だからさなは、秋の山だけは、入りませんでした。
さなの知らないうちに、松茸山は隣の三高村の子達との松茸争奪の場と
なっていました。

「こんないつら、やっちゃれや。三高のばかたれが。」
最初は、松かさの投げ合いでしたが、知らない子通しはやがて小石の
投げあいになりました。上に陣取った高田村の子に歩がありました。

「ほおら、ほら。」
男の子達は、おちんちんを振りながら放尿していました。
ある時、中でもいたずら好きの信ちゃんが、柔らかさが戻ってきた
秋の日差しの中で、背丈ほどの木にぶら下がっている足長蜂の巣に
おしっこをかけて遊んでいました。
この時期の足長蜂は気が立っているのでした。
信ちゃんは、迫ってきた蜂に気付かずまだかけていました。
見事刺されたおちんちんは、見る見るうちに徳利ほどにも
膨れ上がりました。


 信ちゃん一大事

「いそげんけえの。まっちゃれや。すれていたいんじゃけえ。」
信ちゃんは、腫れ上がったおちんちんが、ずぼんに擦れて
今にも泣き出しそうです。さなはその時初めて、あこがれていた
おちんちんにも弱点があることを知りました。

どこの家でも、実のなる木を植えていました。子供達は、どこの家の
柿の実であろうと取って、腹の足しにし、喉の渇きをいやしていました。

「さな。気い付けえよ。柿の木はもろいけんの。わしなんか、こないだ
持った枝が折れての、7mも下の地面へ落ちての、息が当分
できんかったけえの。」
と信ちゃんは、思い出したように柿を拭いてかじりました。

秋が始まる頃の夜、近所の農家では、ランプの下で、
一家総出でタバコ綱に、タバコの葉を一枚ずつ通す作業をしていました。
さなのうちからこの頃よく笑い声が聞こえてくるようになりました。

(つづく)

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さなさんー9

2014-12-19 03:43:51 | 短編小説

第九話 天狗の所業

その夕方、光男とさなはワイヤーが引っかかった岩を、
さなの家の上の畑に植えられた橙の木の横から見上げていました。
二人の男が、岩山の上に立っていました。
二人とも近くの木にかけたロープにつながれているのが見えます。
一人は、大きなハンマーを持っています。もう一人は、大のみと
長い金てこを持っています。
伊藤と忠でした。夜の間、ハンマーがのみに打ち下ろされる
「カーン」と清んだ音が、山から聞こえてきました。海からは、
海面をたたく「ターン」という乾いた音が聞こえてきました。
津久茂の瀬戸に刺し網をした追い込み漁の海面を打つ音です。
引き潮の時は外海側から、満ち潮の時は、内海側から、魚を追うのでした。
網を目指して泳ぐように魚の背後から音はしました。

海猿と天狗

夜中に起きだしたさなと光男は、岩山の上に石油ランプの
ぼんやりした灯りを見ました。
海の上では、船の上にかざしたランプが揺れて見えました。
海のほうからの音は、深夜に止みました。
岩山の二人の天狗の槌音はまだ続いていました。

夜明け前、何かが落ちる大音響が岩山の方角から聞こえてきました。
家の外に飛び出した光男は、ぼんやりと明るくなった曙の中を、
大きな岩がゆっくりと沢を踊るように落ちていくのを見ました。
沢の途中に作った泥止めのダムに食い込むようにして、土ぼこりをあげ、
大岩は止まりました。岩山を見上げると、二人が宙吊りになって残った
岩山にしがみついているのが見えました。
岩山から解放されたワイヤーが昇りかけた朝日に光って、空気を切り裂く
音を残して、大きくうねりながら、木々を切り裂いていました。
二人は、ワイヤーが食い込んだ岩を割ったのです。

「ようやったのお。あげな高いところで、一晩中割っとったんじゃの。」
男達は。作業が、元通りの工程で進められることになり、安堵しました。

(つづく)
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