今回ご紹介したいアルバムは、80年代後半に制作されたOVA「メガゾーン23シリーズ」で主要キャラ声優兼主題歌歌手としてデビューした宮里久美のサードアルバムで1987年7月発売、はや23年前、、、、。
正直情報量としては某ウィキ以上のものは持っていないけれど、聞き込んだ感想を参考にしていただければと思う。
CDのクレジットを見ると、作詞は来生えつこ、セカンドアルバムのプロデュースをした松井五郎、麻生圭子、田口優、三浦徳子、そして沙都美のペンネームで宮里久美本人が名を連ねている。
作曲は、大橋純子の旦那でシティーポップの雄・佐藤 健、宇崎竜童、山川恵津子、井上ヨシマサ、SHOJI。編曲は川村栄二と中森明菜のヒット曲の多くを手掛けた椎名和夫。
ここまでの面子を揃えたレコード会社側の姿勢に意気込みが感じられ、また録音参加したミュージシャンもドラムに青山 純、ベースに伊藤広規、渡辺直樹、ギターにアレンジも担当した椎名和夫や松原正樹、パーカッションに斎藤ノブとキーボードに富樫春生などこれまた錚々たる面々にて、全曲、トラック(演奏面)について私がケチをつけられるようなものではなく、上質なポップスとして成立している。
1曲目は「SUMMER LOVERS」。ミディアムバラードで正直、中森明菜に歌わせても良いような、ムードのある佳作。もちろん宮里久美のふわっとした甘いトーンの声色にあっていて、破綻なくまとまっている。
2曲目は「あ・い・つ」、宇崎竜童の曲で8ビートのロックぽいアレンジで前作「ALLERGY」の横浜Coolの世界観を引き継ぐ。
3曲目が麻生圭子/山川恵津子コンビの「WalterBlue」。サビやアレンジのキャッチーさから今風に言えばこのアルバムのリード曲であり、このアルバムがヒットしていればおそらくシングルカットされたであろう作品。個人的にはこのアルバムの中で一番好きな曲だ。
4曲目の「GREEN」は嫉妬をテーマにこの曲の中ではロックなアレンジで、このアルバムの中ではハードな印象の曲。作曲はのちにAKBグループの曲を多く手掛ける井上ヨシマサ。
続く「RAINY BOY」はミディアムバラードで、山川恵津子のPOPなメロディーに沙都美のペンネームで宮里久美本人が詞を書いている。タイトルの通り、雨の日に彼と別れ離れてしまった後悔を私小説風に切り取っている。
6曲目「腕の中のジェラシー」は中森明菜のミ・アモーレ、ユーミンの真夏の世の夢、のようなラテンアレンジ。緩急をつけて、スローな「パーセンテージ」が続き、佐藤 健の上質なポップスに三浦徳子の詞が乗る、ヒットメーカーの佳作。サビ入りの「DayDream♪」のフレーズが印象的。
8曲目はまたロックアレンジに戻し、アップテンポな「INTO THE NIGHT」。これも佐藤 健の曲で詞は来生えつこ(!)。ここまでは中森明菜のような大人っぽいポップス路線で引っ張ってきたのだが、次の「自分自身」はガラっと変わり、可愛らしいアイドルな曲が差し込まれる。実はこのアルバムの中で一番の違和感がこの曲なのだ。曲そのものはポップだし、悪くはないのだが、ここまでの8曲の流れに対して、この曲だけが妙に明るすぎ、若すぎるのだ。
ラストの「イマージュ」は井上ヨシマサの曲でラブバラードになっていて、最初の曲である「SUMMER LOVERS」とシンメトリーになっているような詞の世界になっている。
宮里久美のボーカルは、音程やリズム感などはデビュー当初から非常に安定していて歌唱力に不安はない。しかし、持って生まれた声色がよく言えば、つつみこまれるようなやさしい声であり、シャウトするような強い歌い方が似合わない。
ロック色の強い曲でパンチのあるボーカルが求められる場合は、かなり工夫が必要になるかな、という感があった。
この「UNFINISHED」ではこの宮里久美のボーカルを「生かす」、上質なポップスを歌わせれば、これだけできるのだ、という点をプロデューサーは狙っていたんじゃないかと思われる。豪華な作家陣を集めているのだが、前作「ALLERGY」に比べるとアルバムとしてのコンセプト・統一感が薄く、いろいろなジャンルに挑戦させるという意味もあったのだろうが、トータルとしての魅力が不足してしまっている。「WATER COLOR」以外にキャッチーなシングルカットできそうな曲が少ないのも影響しているかもしれない。全体の仕上がりという意味ではもっと良くできたのじゃないかと残念に思う。
ともあれ、このアルバムをもって、宮里久美は歌手活動を停止してしまう。前述の通り、独特な声質をもっていたし歌唱力はもっと磨きがかかると期待していた逸材だった。単にアニメアイドル歌手で終わる人ではないのだ。
その声で、カバーでもいいから、アルバムを出してほしいボーカリストである。