矢野(五味)晴美の感染症ワールド・ブログ

五味晴美の感染症ワールドのブログ版
医学生、研修医、医療従事者を中心に感染症診療と教育に関する情報還元をしています。

最近のご質問から。。。

2010-11-15 12:07:11 | 感染症関連
最近、抗菌薬の使い方でのご質問がありましたので、この場で回答させていただきます。

抗菌薬の処方には、大きく3種類あります。この10年間ぐらいでもうひとつ増え、正確には4種類になりました。

Presumptive therapy= empirical therapy 初期治療
Presumptive とは、「推定の」、empirical とは、「経験的な」という意味。

すなわち、日本語訳として、「初期治療」という用語を私は2000年ごろから使用しています。
初期治療とは、感染症が鑑別診断にあがっているが、原因微生物と感受性結果が判明していない状況での抗菌薬処方。

通常、72時間以内に培養結果は判明しますので、その間の治療のことです。

Definitive thearpy = specific therapy 最適治療
Definitive 確定した(絶対の)という意味。
Specific とは、特異的な、という意味。

最適治療では、原因微生物と感受性が判明した状況で、それに対する標準薬を使用している処方。
感染部位、原因微生物が判明すれば、おのずと、治療期間も標準的な期間がありますので、その期間を使用します。

例:MSSAの感染性心内膜炎 最低6週間、MRSAの骨髄炎 最低6週間、腎盂腎炎なら、最低10-14日間、など。

Prophylaxis 予防投与
現在は、起こっていないが、将来起こるかもしれない感染症に対して使用する抗菌薬

例:術前投与、弁膜症の患者の感染性心内膜炎の予防投与など

そして、
Preemptive therapy 先行投与
Preemptive とは、先行して、という意味。


この投与の概念は、10年ぐらい前から、主に、末梢幹細胞移植後の患者、臓器移植後の患者のCMV 感染、深在性真菌感染症に対して起こりました。極度に免疫不全がある患者では、「発症」すること=「致死的」であることを意味するため発症する前に早期に感染症の徴候を、biomarkerなどで検知し、先制的に治療する、という概念です。

実際、このpreemptive therapyで、当初、CMVの典型的発症時期が移植後2ヵ月後といわれていたものが、100日以内やそれ以降などに時間的にシフトしてきたりという疫学的な変化も生じています。移植医療においては大きな変化がこの数年でも起こっています。真菌についても同様で、日本では未承認ですが、Posaconazoleというムコールなどの接合菌(菌糸)にも感受性のあるAzole系の真菌薬の予防効果によって、mortalityが下がったことが2007年 NEJM 掲載のClinical trialで報告されています。

真菌については、欧米主流のガラクトマナン、日本発のbeta-D-glucan, アスペルギルスPCRなど、さまざまな
biomarkerがあります。これらが早期検知に役立っていることは、主に臓器移植患者を対象としたstudyでは報告があります。
ただし、biomarkerの検査自体の限界を理解しておくことは重要です。