矢野(五味)晴美の感染症ワールド・ブログ

五味晴美の感染症ワールドのブログ版
医学生、研修医、医療従事者を中心に感染症診療と教育に関する情報還元をしています。

「イギリスの医療は問いかける」 著書のご紹介

2009-06-28 21:01:30 | Weblog
「イギリスの医療は問いかける」(医学書院) 森 臨太郎著 2800円


森先生は、私の母校でもある岡山大学を95年にご卒業で、オーストラリア、イギリスで臨床、疫学修士取得、イギリスの医療政策に関するお仕事などをされました。
http://rmori.blogspot.com/
(ご経歴などご参照ください)

森先生は、「イギリスの医療は問いかける」(医学書院)を最近、出版され、現在、小児科、周産期医療の医療政策、医療供給体制などの政策などに関するお仕事をされています。偶然にも、London Schoolでも私とは同窓でもあり、疫学のマスターを修得されています。

米国とヨーロッパは、「欧米」としてまとめられることが多いですが、欧州と米国はかなり異なっています。医療政策面でもその違いは大きいことは周知のとおりです。

森先生は、イギリスを、日本の医療を見つめる「鏡」としてとらえ、現状を紹介し、最後に日本への提言をまとめられています。私もざっくりと読みましたが、非常に冷静、客観的、説得力があり、また、思考面でのバランスがよく、その筆致に感銘を受けました。

是非、読んでみてください。

私は、岡山大学、London Schoolの同窓のご縁で、お会いしてお話しましたが、そのお人柄も温厚で、医療政策に関する豊富なご経験とご見識は、とても魅力的です。

現在、いろいろなところで、「ひっぱりだこ」のご様子で、前述のとおり、とくに小児科、周産期医療面がご専門のため、その領域での医療政策、供給体制でご活躍中です。


FYI: お勧め本 「国をつくるという仕事」          西水美恵子著

2009-06-15 15:08:42 | Weblog
「国をつくるという仕事」西水美恵子著 英治出版 1800円

前世界銀行副総裁の西水恵美子氏の著書。

主にアジアの国の首相、大統領、一般市民らとの交流をつづっていますが、その内容の奥深さに魂が震撼する感じです。

日経ビジネス関係の雑誌にも、「リーダーシップのあり方」を描いた著作と紹介されていました。絶賛されています。

私は、冒頭の数ページを読んだだけで、著者の奥深さ、リーダーシップのあり方を教えていただき、深い感動を覚えました。

アジアの現状も草の根レベルで描写されており、本当に勉強になります。

ぜひ、読んでみてください。

私見: 日本の抗菌薬における最優先事項

2009-06-11 16:42:06 | Weblog
抗菌薬開発の領域では、なかなか新薬を世に出すことは難しい時代となっていることは周知のとおりです。その場合、既存の抗菌薬をいかに有効に使用するかは世界の大きな課題であります。

私見では、国内の抗菌薬の領域における課題には、その解決に明確な優先順位があると考えております。(下記は私個人の意見であり、所属先の公式見解を反映してはおらず、関連企業等に一切利害関係はございません)

ここでは、使用方法(保険診療における用法、用量)について言及します。

国内の抗菌薬は非常に「類似製品」が多く、同じカテゴリーに4-5種類、新規性がそれほどないにもかかわらず承認されているという現実があります。

静脈注射では、第4世代セフェムが4種類、カルバペネムが5種類など。

国家政策として、抗菌薬の適正使用などに関する制度が不足していた結果ではないかと考えられます。

また、試験管レベルでなく、臨床現場での抗菌薬、診療に関する専門家も不足していた背景もあり、いわゆる治験段階での適正な判断が困難であったのではないか、と私は推測しております。そのため、使用法において、諸外国と際立った相違が認められる抗菌薬が、世界の標準的な抗菌薬にあたるもので認められています。

しかしながら、国内でも、近年は、1980年代から欧米で提唱されてきた薬物動態に基づいた抗菌薬の投与法が関係学会等では主流となりつつあり、また、情報やモノ、ヒトのグローバル化で、医療の質の標準化が急速に進行することとなりましたので、現場でも認識されるようになりました。

そうした中で、投与法において、これまで大多数の諸外国と際立った相違があった抗菌薬の投与法が改善されてきました。

2008年7月 Piperacilliin/tazobactam 4.5 g IV 6-8時間ごと (1日13.5-18g)
(以前は、2.5 g IV 1日2回, 1日5g)


2009年   Levofloxacin 1回500 mg を1日1回投与 (1日500 mg)
 (以前は、100mgを1日3回, 1日300mg)


このような中で、改善が早急に望まれる抗菌薬に、
Ampicillin/sulbactam 3 g IV 6時間ごと(諸外国標準は、1日12 g)
(日本では、1日6gまで保険適用)

Cefazolin 1-2 g IV 6-8時間ごと(諸外国標準は、1日最大8g)
(日本では、1日5 gまで保険適用)

が挙がってきます。

さらに、日本では承認されていない最重要な抗菌薬が、
もっとも重要な感染症のひとつの黄色ブドウ球菌MSSAによる感染症の第一選択薬です。

Nafcillin ナフシリン、または、Oxacillin オキサシリン です。

また、嫌気性菌の第一選択薬のMetronidazole メトロニダゾールの静脈注射も日本では未承認。

metronidazole 経口薬はありますが、保険適用微生物が極めて不十分で、主には、女性の膣トリコモナス症です。

世界の「常識」ともいえる適応微生物の、嫌気性菌やClostridium difficileには保険適用がない状況です。

患者さんの不利益を考えると、一刻も早く、使えるようにしたい抗菌薬です。

上記4つ、ampcillin/sulbactam, cefazolin, nafcillin, metronidazole この4種類の問題が改善されることにより、日本の感染症診療は、世界の標準的な診療により近づき、患者さんにとって朗報になると確信しております。



医学界新聞: ノエル先生と考える日本の医学教育  連載開始

2009-06-09 23:44:03 | Weblog
下記で、臨床医、教育者として、わたしも大変尊敬しているオレゴン大学のノエル先生らが、日本の医学教育に関して連載開始されました。

私は、ノエル先生が東京大学の客員教授をされていたときに、何度もその講義を聴きに足を運びましたが、そのすばらしいレクチャのスキル、ベッドサイドでのティーチングスキルに感動しました。その模様は、出版もされています。

「変貌する日本の医学教育、米国医学教育者の提言」金原出版
http://www.bk1.jp/product/02466424


外国人であり、医学教育に造詣の深い彼の目を通しての提案、あるいは、日本の医師たちの間での熱い議論が次回からも楽しみです。


http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02833_08

乳がん検診

2009-06-09 11:00:54 | Weblog
先進国では、日本も含め、40歳ぐらいから一般に乳がん検診が推奨されています。
私も39歳から乳がん検診を毎年の人間ドックで受けるようにしています。

母親など直近に家族歴のある方ではもっと早い時期にも検診を受けるように言われています。

厚生労働省が、一定の年令の女性に、乳がん検診と子宮頚部がん検診の無料検査券を配布することを決めましたね。多くの方が検診を積極的に受けるといいなと感じます。

余談ですが、日本でも有数の乳腺外科医の聖路加国際病院の中村清吾先生がNHKの
プロフェッショナルに本日出演されるそうです。(NHKの宣伝で知りました)

私はとても興味があるのでぜひ拝見したいと思っています。

肺炎球菌ワクチン接種の勧め

2009-06-09 10:39:28 | Weblog
成人に対しては、欧米先進国では、23種類の血清型が含まれるPPV (Pneumovax(商品名))という肺炎球菌ワクチンが、下記の方などに推奨されています。

1)65歳以上の成人
2)心臓、肺などに基礎疾患のある患者
 (心不全、心筋梗塞、COPD、喘息などを含む)

米国では、2008年10月には、若くても、COPDはまだ発症していなくても、喫煙者Smokerにも公式に推奨、となりました。
http://www.cdc.gov/vaccines/recs/provisional/downloads/pneumo-Oct-2008-508.pdf

3)糖尿病
4)人工透析患者
5)HIV患者
6)臓器移植後患者
7)そのほか免疫不全のある患者
8)脾臓摘出患者 (日本では、PPV接種の保険適応は、この脾臓摘出者のみ)
などです。

一方、小児は、上記の23血清型を含むPPVでは抗体が産生されず十分な免疫ができないため、抗体ができやすく改良したPCV (Pneumococcal conjugate vaccine)が2000年に米国で承認され接種開始されました。

接種開始後、小児を対象にしていたのに、地域での老人の肺炎球菌による敗血症などの重症感染の発症率が低下したことが報告され、集団免疫の効果も明らかになりました。

また、PCVワクチンの対象としていた小児では、発症する疾患の肺炎球菌の血清型がワクチンに含まれない型へシフトするという現象が起こったり、ワクチンに含まれていた型の薬剤耐性率が低下している、といった報告が欧米諸国で多く出てきています。


下記、成人対象のワクチンPPV23, 小児対象のワクチンPCV-7に関する参考文献などが掲載されているCDCのサイトです。
http://www.cdc.gov/vaccines/vpd-vac/pneumo/default.htm#recs

今秋冬の新型インフルエンザ対策では、季節性および新型インフルエンザのワクチンの接種と併行して、上記のハイリスク患者には肺炎球菌ワクチンは必須です。

インフルエンザウイルスによる感染で、一般に、入院、死亡率の原因となる二次性の細菌性肺炎を予防するため、肺炎球菌ワクチンの接種を国家政策として推進、推奨する必要があると私は考えています。



WHOがRota virusのワクチンを すべての子どもに接種を推奨

2009-06-09 10:36:51 | Weblog
6月8日付けのInfectious Diseases Newsというメディアが、
下記を報じています。

http://www.infectiousdiseasenews.com/

WHO (世界保健機構)が、Rota virusのワクチンを、すべての子どもに接種することを推奨しました。

今回の新型インフルエンザ対策の勢いで、いろいろなワクチンの接種が、
「定期接種」にならないか、と強く感じます。

国民の認識も変わってきています。
ワクチンに関して、若い親御さんの中には、自分で英語サイトを見たり、良識的な小児科医の先生方を受診して、小児用の肺炎球菌のワクチンを接種するにはどこの病院にかかるのがいいのか、を尋ねたりしているようです。(特に、基礎疾患のあるお子さんをお持ちの方は必死のご様子が伺えました)

新型インフルエンザ対策で明白になっていますが、国家間での対応内容の相違点、対応力の相違、「平常時の感染対策のインフラ状況」など、歴然とした相違点をなんとか埋められないでしょうか。。。

第14回国際女性ビジネス会議 2009年7月18日(土)開催

2009-06-03 22:42:11 | Weblog
佐々木かをりさんという方が中心で開催されております国際女性ビジネス会議というのがあります。男性ももちろん参加しています。

今年は、2009年7月18日(土)に開催されます。

詳細、申し込みは下記。(先着順だそうです)
http://www.women.co.jp/conf/index-j.html

私も過去に2回ほど参加したことがありますが、異業種の方とのネットワーク、特にビジネス界の方とのネットワークやお話がとても魅力的です。

昨年2008年は、参加者1000名ほどで、平均年齢38才ほど、平均年収740万ほど、英語を仕事で使える方が64%と、かなりすごい集団のようです。でも内容はとてもアットホームです。

(下記にレポートあり)
http://www.women.co.jp/conf/visitors.html

ご興味のある方は、是非、ご参加ください。

毎年、元日本BMW社長、前ダイエー会長、現在、東京日産自動車代表取締役の林史子氏もこられます。

私は、今年は、伊藤忠の弁護士の茅野みつるさんにお会いしたく参加したいなあ、と考えています。


Hib ワクチン接種の推奨・定期接種化につきまして

2009-06-03 16:06:06 | Weblog
日本人初の米国小児感染症科専門医で、

現在、成育医療センター感染症科医長の斉藤昭彦先生らが、

Hibワクチン(インフルエンザ菌 Haemophilus influenzae type b)のワクチンの定期接種化について、座談会をされています。

1980年代の終わりから1990年代はじめに欧米で導入されたHibワクチン。
疾患自体がほぼ「消滅」したといわれるくらい高い有効性と、その安全性が証明されています。

日本では、2007年1月に欧米先進国に遅れること20年、やっと導入されたHib ワクチンです。まだ、任意接種で、その普及には経済的障壁、国民の意識改革など課題が山積しています。


医学界新聞 2009年6月1日号
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02832_01

日米のワクチン接種の現状を比較し、日本でも、ワクチン予防可能な疾患(Vaccine-preventable diseases, VPD)による感染症を防ごう、と呼びかけています。

http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02832_02


ぜひ、ご一読ください。


(ご参考まで)
私自身も2003年に日本の予防接種行政に関して、医学界新聞に寄稿したことがあります。
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2003dir/n2547dir/n2547_03.htm#00



上記のようなVPD の制圧が日ごろから、いかにできているかは、今回の新型インフルエンザ対策でも、その対策が現場で確実に実行されるかどうかの指標となりうると私は感じています。

「日ごろできていない対策」は、やはり「一夜漬け」や「付け焼刃」レベルで徹底させるのは非常に困難です。

従いまして、「平常な状態」で、感染対策を確実にできるようにしておくことが、今後、いかなる「感染性疾患」の対策を立てるうえでも、大前提となるのです。


Infectious Disease News   June 1, 2009

2009-06-02 10:42:47 | Weblog
2009年6月1日付けの下記、Infectious Disease News によると、

http://www.infectiousdiseasenews.com

近日中に、米国CDCは、今回のH1N1のワクチン製造候補株を米国内のワクチン製造業者および諸外国に送付するそうです。

北半球のこの冬のインフルエンザ対策、注目されます。

ワクチン接種の重点がどこに置かれるか、

どの株のワクチンを接種するのか (今回のH1N1 vs. 季節性)

だれを対象に、どうやって接種するのか (対象者、優先者、費用面など)


さまざまな議論を生むことになると思います。


WHO, CDCなどが一定のガイドラインを提示してくることが予想されます。

国内でも、小児、高齢者、既往歴のあるハイリスク患者、などを優先するのか、

特定の自治体などで地域全体の接種をめざし集団免疫をめざすのか、

など実践的な対策が要求されると思います。