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Opened Zipper

闇先案内人 / 大沢在昌

2005-07-02 23:58:15 | 読書
久々に大沢在昌を読みました。
この「闇先案内人」も読み終えてからちょっと時間が経ちましたが、記憶を頼りに感想を。
実は今「心では重すぎる」を読みかけなので、それを読み終える前に先に読んだ方について書いておこうかと。


書名:闇先案内人
著者:大沢在昌
出版:2005年05月 文藝春秋(文春文庫)
ISBN:4167676036(上巻)/4167676044(下巻)
価格:上下巻各590(税込)


大沢在昌には新宿鮫から入ってます。
自分は夢枕獏のファンなんですが、何かのシリーズの後書きで新宿鮫を絶賛していたので、読んでみる気になって試してみたんでした。

少し時代が旧い感じですが、それは自分が入るのが遅すぎたから執筆時期とのズレがあるせいですね。
べっとりした蒸し暑い雰囲気のハードボイルドで、とても面白く気に入りました。
以後、新宿鮫シリーズを読破した後、他の作品も読み漁りました。
かなりお気に入りの作家なんですが、多作になるに連れてだんだん安っぽい小説になっていった感じがして、最近はあまり読んでませんでした。

新宿鮫シリーズの最新もちょっと敬遠してました…というのも、自分はシリーズものって内容を記憶しているウチに次を読まないと気が済まない性質なのです。
そのため、続編が出るまで間が開いたシリーズの場合、そのシリーズの1巻から読み直すという羽目になります。
夢枕獏の各シリーズも毎回読み直しなんでキツいキツい、キマイラとか魔獣狩りとかもう助けてくれ~と思いながら読み直してます。

鮫シリーズは面白いんですが、あのべっとりした雰囲気で精神的に疲れてしまうので、また最初から読むのもちょっとしんどいかなと思って敬遠していたという訳です。
しかし書店で色々物色していたけど気に入りそうな本が見当たらず、消去法的に久々の大沢在昌となった訳でした。

さて「闇先案内人」ですが、逃がし屋の葛原が主人公。
警察や闇金融≒ヤクザに追われる人間を海外へ逃がすのが仕事で、逃がし屋が介在したことさえ気付かせないよう痕跡を消して逃がしている、関東ではトップクラスの逃がし屋チームを運営している。
その葛原に警察官僚から依頼があり、秘密裏に日本へ入国しアメリカと接触しようとしている某国(ってどう考えても北朝鮮)の独裁者の息子に接触し、公にしないまま本国へ逃がして欲しいと言われる。
この男の日本国内での行動をサポートしているのが成滝という関西トップの逃がし屋だった。
この葛原は濡れ衣の殺人容疑で指名手配され逃亡しているという秘密があった。
警察官僚はその秘密に関する情報を把握した上で葛原を脅迫し、チームの仲間も抑えたため、葛原自身も逃げることができない。
やむを得ず、成滝のチームの行動を予測し、ターゲットを追うことに。

読んでいて気付いたのは、大沢在昌のあのべっとりした雰囲気が無くなって、乾いた感じになっていた点。
以前の、どうにもちょっと安っぽい小説のときにもべっとりした雰囲気は無かったですが、アレは単に手を抜いただけっぽかったです。
この闇先案内人は内容もちゃんと気合が入ってて面白いし、アツいのはアツいんですが、昔の泥臭くべっとりした湿気が無くなって、淡々とした乾いた感じになっていると思いました。
ノンストップで息をつくヒマも無いんですが、乾いた雰囲気のお陰でそれ程疲労せずにサクサク読み進めました。
葛原のプロ意識の描き方がシブくて良いですね。
ヒーロー的なキャラじゃなく、自身も警察に追われる身で逃がし屋という仕事をする地味な男なのに、冷静に判断し行動する様が格好良いです。

また特に印象深かったのは、ただ成り行きを見守りたかったがために、歴史的な出来事の当事者よりも多くの犠牲を払ったかも知れない傍観者の話。
歴史には残らないけど、確かにそういう人間達が居たのかも知れないなぁと思わされました。

この「闇先案内人」がかなり面白かったので、書店でみかけても「ちょっと内容がウザそう」と思って手に取らなかった「心では重すぎる」も買ってしまいました。
もうすぐ読み終わるので、いずれまた感想を書くつもりです。