OZ.

Opened Zipper

フラワー・オブ・ライフ(3)

2006-12-06 23:59:59 | 読書
気がつけば、嫁さんがよしながふみの「フラワー・オブ・ライフ」の3巻を買ってました。
いつの間に?…と思いつつ、読み始めてハマってしまいます。

よしながふみには「西洋骨董洋菓子店」から入ってます。
阿部寛と椎名桔平、藤井直人、滝沢秀明が出ていたドラマから入った口で、ドラマが面白かったんで嫁さんがマンガを買ってきました。
魔性のゲイの話とは思ってなかったですが、ドラマと違う方向へ行ってる原作も面白いんで気に入ったんでした。

その後、「1限めはやる気の民法」「子供の体温」「彼は花園を夢見る」「愛すべき娘たち」「愛がなくても喰ってゆけます。」などを嫁さんが買い込んでました。
ちょっとえげつないシーンもありますが、まぁそれはそれとして面白い。
最近は「大奥」とかも買ってたっけなぁ、まだ読んでないけど。

そんな中でも個人的に一番気に入っているのが、意外とフツーな学園モノになっている「フラワー・オブ・ライフ」。
フツーと言ってもよしながふみなので、シゲや真島がフツーでない方向に進んでますが、それでもかなり抑えられた感じでイイ。

春太郎の家族も同級生も、それぞれのエピソードが面白い。
中ではやっぱり文化祭の芝居のエピソードが秀逸かなぁ。
真島が望んだプライスレスなものに大ウケしてしまいました。

今後は武田さんがもっとハジけてくれることを期待してます。

五分後の世界

2006-12-04 00:51:18 | 読書

書名:五分後の世界
著者:村上龍
発行:1997年1月 幻冬舎(文庫)
ISBN:4877284443
価格:560円(税込)


この本を読んだのはかなり前で、もう半年くらい経ったかも。
確か5月頃に出張へ行ったときに、移動時間のヒマつぶし用として買ったんでした。

村上龍は大昔に「コインロッカーベイビーズ」を読んだことがあるだけで、ほとんどスルーしてました。
数年前に友人から「希望の国のエクソダス」を借りて読んで、こんなに面白い話書く人だっけ? とちょっと見直してから気になってました。
とはいえ、自分の好みのSFやミステリーのど真ん中には居ない作家なんで、それ以後も接点があまり無かったです。

しかしヒデとサッカーの絡みで「悪魔のパス 天使のゴール」を買って読んで、これがメチャメチャ面白かったんでした。
特にクライマックスの試合を描いたシーンが最高だったなぁ、読んでる自分までピッチのプレイヤーの疲労感を味わいつつ、必死になってしまった。

そんな経緯があって、村上龍をもっと読んでみようという気になります。
かなり自分の好みから外れきった風俗系の話も多くて、どれを読んだら良いのか迷いまくりましたが、文庫本のあらすじ説明をじっくり読んで選んだ「共生虫」がまたヒット。
勢いで「愛と幻想のファシズム」も読んでみますが、これもなかなか良かった。
しかしそれ以外では好みの本が見つけられなくて、以降はちょっと遠ざかってました。

出張用のヒマつぶしにと買った「五分後の世界」が久々の村上龍だったんですが、自分的には予想以上にヒットでした。

自分達のこの世界より5分ずれたパラレルワールドに迷い込んだ主人公を通して、「第二次世界大戦で日本が降伏しなかった場合の世界」を描いています。
物質的には悲惨な世界に思えますが、精神的には理想郷のようにも思える、奇妙な魅力のある世界。
主人公の小田切のキャラクターのアンバランスさも良かったかな、危険を察知する能力とその生業にそぐわないクラシックの好みとか。
この特殊な世界との対比で今の自分達の世界(日本)を見比べてみて、戦後アメリカにソフトに支配されてきた日本が結局何を失って何を得たのかと考えてしまうのが面白かったなぁ。

もう10年前の古い小説ではあるんですが、今でも十分新鮮なインパクトを与えてくれる小説でした。


青の進化 / 戸塚啓

2006-05-26 00:00:01 | 読書
先月の東京出張時、移動中のヒマつぶし用の文庫本を書店で漁っているときに「青の進化」という本を発見。
サッカー日本代表ネタの本です。
著者名に見覚えがあると思ったら、Webの某ニュースサイトのサッカーコーナーでコラムを書いてる人だった。

基本的に娯楽小説しか読まない人間ですが、たまにサッカー本を読みます。
そうなった理由はヒデでした。
最初にあの小松成美の「中田英寿 鼓動」を読み、ドキュメントながらサッカーに関わるストーリーの面白さを知ります。
その後、ヒデつながりで村上龍の「悪魔のパス 天使のゴール」を読みましたが、この「文字で執拗なまでに描かれたサッカーの試合」ってのがものすごく良かった。
とくにクライマックスの試合のシーンはじっくりネチネチと泥臭いサッカーの試合が細かく描かれてて、読んでいる自分までが泥にまみれつつ息をきらせつつ、疲れきった身体を動かして必死にボールを追っている気分になるのでした。
その村上龍のサッカー観に惹かれ、「フィジカル・インテンシティ」や「奇跡的なカタルシス」といったコラムも読むようになります。

そんな感じでサッカー本でも良いかなと思いつつ手に取り、もうすぐワールドカップドイツ大会が始まることだし、気持ちを高めるためにと考えて購入します。

題名:青の進化
著者:戸塚啓
発行:2006年4月 角川書店(角川文庫)
ISBN:4043823010
価格:540円(税込)



内容は前回の2002年の日韓共催のワールドカップの本戦から、現在までの日本代表の歩みが書かれています。
監督がトルシエからジーコになり、これまでどのように日本代表が変化してきたか、成長してきたかをまとめています。
ドキュメントなので「こういう試合内容でこういう結果だった」という事実の積み重ねになるんですが、著者の視点で見た日本代表や監督の姿が描かれていて、この4年間の試合を思い出しつつ楽しく読めました。

今回のドイツ大会が始まる直前に、もう1回読み返そうかな。

半落ち / 横山秀夫

2006-05-20 00:00:01 | 読書
また東京出張になったので、移動中の暇つぶし用本を漁りに書店へ。

文庫本を物色していると、横山秀夫の「半落ち」が文庫になってました。
そーか、ついに文庫化されたかー。

横山秀夫はよく読んでますが、「半落ち」は単行本のまま映画化されて人気だったので、なかなか文庫になりませんでした。
文庫しか買わない主義(=しみったれ)なので、文庫化待ちでした。
映画版「半落ち」はどうなんだろうと思っていたら、映画版を観た嫁さんの評価がかなり高かったので、自分も観てみました。
淡々とした描写や寺尾聰の抑えた演技も良く、終盤の樹木希林の演技でボロッボロに泣かされてしまい、完璧にしてやられました。
サイコーでした、映画版「半落ち」。

映画版でもうお腹いっぱいなので、いまさら文庫化されてもなーとは思ったものの、自分は基本的に原作至上主義者。
これまで色々な小説を読み、映画を観てきた経験から、「映画化されたものが原作の小説を越えることはない」と思ってます。
そう感じる理由はおそらく、映像化すると受け手の想像力を抑えてしまうからじゃなかと思ってます。
もちろん映像には映像の良さが沢山ありますが、時間の制約もフレームの制約もある中で表現する必要があるからでしょうか。
小説だと、書き手の文章を受け手が読んで脳内の中でその世界を再構築するので、制約があまりないのが大きいのかなと。
書き手と受け手の意識や想像力にギャップがあると悲惨ですが。

映画化されてヒドいことになってたので特に記憶に残っているのは「ロストワールド ジュラシックパーク2」ですね。
原作の小説の中のサラ・ハーディングのカッコ良さには惚れましたが、映画化されたらサラはただの○○になってて幻滅…なんじゃありゃ。

さてそんな思いも抱きつつ、原作の「半落ち」を読み始めます。


書名:半落ち
著者:横山秀夫
ISBN:4062751941
発行:2005年9月 講談社(講談社文庫)
価格:620円



映画版のデキがとても良かったので、そんなに原作から外れてないだろうなーと思って読み始めました。
やはり先に映画を観ていたせいで、脳内では登場人物の絵が俳優にマッピングされてしまいます。
刑事の志木は柴田恭平、梶は寺尾聰、検事の佐瀬は伊原剛志、弁護士の植村は國村隼、啓子の姉は樹木希林、裁判官の藤林は吉岡秀隆。
うーん、やっぱ映像の影響は大きいな。

読み進んでいくと、映画版では少しずつ設定を変えている箇所があるものの、ほぼ原作通りだったことが確認されます。
しかし映像では表現しきれなかったことが小説では描かれていて、そーか、そーだったかなどと思いつつ読んでました。
「既に知っている話」であるにもかかわらず、終盤やっぱり涙が止まらずに難儀しました。
空港行きバスの中でも、離陸後の旅客機の中でも、ハンカチで涙を拭いて鼻水拭いてを繰り返しつつ読んでました。
40歳前のオッサンが本読んで泣いてるなんて恥ずかしくてしょうがないんですが、羞恥心よりも小説の先が読みたい気持ちが勝ってしまい、そのまま涙と鼻水を拭き続けながら、読み終えました。

いやー良かった、あの各章の主人公達が「そっと繋いでいく」感じ、アレが良い。
やっぱ良いなぁ、横山秀夫。


K・Nの悲劇 / 高野和明

2006-05-04 00:00:01 | 読書
いつも読んでるNatsumiさんとこの「小説ブログ☆さみしがりやのかげぼうし☆」で、高野和明の「K・Nの悲劇」が紹介されてました。
高野和明の「13階段」も「グレイヴ・ディッガー」も面白かったし、今度の「K・Nの悲劇」は主題が重そうだけどNatsumiさんの評価は良さ気なので、東京出張の往復の暇つぶし用に購入しました。
1冊では時間が持たないことは分かっているので、ついでにマイケル・クライトンのSF「プレイ -獲物-」上下巻と、戸塚啓のサッカー本「青の進化」、五十嵐貴久のミステリー「交渉人」も購入。
大好きなマイケル・クライトンの「プレイ」から読み始め、更に個人的にワールドカップ気分を盛り上げるために「青の進化」を読んだ後で「K・Nの悲劇」に入ります。


書名:K・Nの悲劇
著者:高野和明
発行:2006年2月 講談社(講談社文庫)
ISBN:4062753235
価格:681円


■ストーリー

ライターの夏樹修平は妻の果波と初々しい新婚生活を送っていた。
修平の著作がベストセラーになり、その印税を頭金に念願だったマンションを購入する。
2人で新居での生活を始めるが、まだ収入が不安定な修平にマンションのローンが重くのしかかり、果波は契約社員の仕事を続ける必要があった。
そんな折、果波が妊娠していることが発覚する。
妊娠を喜んだ果波だったが、経済的に不安定な状態で育児が難しいと考える修平。
マンションの売却も検討したが、中古扱いで買い叩かれるため得策でないと分かり、悩んだ末に修平は人工中絶を提案する。
落胆しつつも修平の提案を受け入れた果波だったが、その直後から果波の言動がおかしくなり、一時的に別人のように豹変しては意味不明なことを言うようになる。
精神科医の磯貝は、人工中絶を受け入れたくない果波が無意識で抵抗し、精神が錯乱していると診断する。
しかし果波と共に暮らす修平は、果波から自分の心を読まれたり、超常現象としか思えない体験をする。
修平は、妻の状態は精神錯乱ではなく、霊に憑依されているのではないかと考えるようになる。

■感想

読んでいて、修平が中絶を決めたあたりで「もうこいつ許さん」と感じてしまいます。
経済的に不安定なのにマンションを買う無計画さや、果波の妊娠に至る経緯についても、全部修平のテキトーさに起因してます。
果波に対しては真面目な夫として描かれてるし、ライターやってて頭悪いはずはないだろうに、何だろう修平のこのいい加減さ、責任感とモラリティの無さは?

この男に拒否反応を起こすのは、自分が父親になった後だからかなぁ?
現在は3歳の息子タイトが可愛くてしょうがないんだけど、元々自分も嫁さんも子供好きではなかったので、子供を持つ前なら考えが違ったんだろうか?
いやしかし人工中絶は絶対にありえねーな、そこは人間が勝手にやって良い領域じゃねーだろ。

という修平に対するものすごい反感を抱いたまま読んでいたので、悪魔憑き(?)果波が大暴れして修平がヤられてもザマーミロって感じでした。
とばっちりの磯貝は可哀想でしたが。

「精神錯乱なのかオカルトなのか区別できん」って話になってきた時点で、映画「コーリング」を思い出します。
超常(心霊)現象が起きているのか、それとも自分の精神が錯乱しているのか? 絶対に判断できないよなコレ。
心霊現象に違いないと考えた修平がビデオカメラを回して、そこに映っていた映像と磯貝の分析は、読んでいた自分にも衝撃的で面白かったです。
なるほど、そう解釈することもできるってか。

修平の行動の描写で「周囲に霊がいるような気がするが、本当に見てしまうと怖いので、意図的に目線を上にあげない」という部分、かなり共感してしまいました。
自分はホラー映画大好きで、おバカなB級スプラッタも楽しいですが、深夜に独りで見て心理的恐怖にゾクゾクとビビリあがるのも好きです。
マジで怖い映画の後は、洗面台に行ったときに「鏡をちゃんと見るとに何かが映ってることに気付いてしまうんじゃないか」とか、「今視界の端に何かがあるような気がするけど横を向いて本当に何かが居たらどうしよう」と考えて、意図的に怖いモノを見ないように見ないようにと避けています。
ああいう心理状態と同じだなー、ナイスな描写だなんて思いつつ読んでました。

妻の異常な言動が続き、もうやっていけないと絶望する修平に対し、磯貝がかけた言葉が印象的でした。
「今がその時ですよ」
良かったです、この台詞、作中で磯貝の最高の仕事がこの台詞だったかも。
(いや、クライマックスでも駅のホームで頑張ってたけど)
ココを読んでいて、自分の嫁さんがもし果波のようになってしまったとして、そのときに自分はどう対応できるか想像しようとトライしてみたんですが…ダメだ、想像できん。
想像がつかないというよりも、あまりにも怖いので想像することを心が拒否してるような気がするな。

この本、出張中に読み終えることができず、終盤を少し残した状態で帰社してました。
残りの部分を会社の昼休みに読んでたんですが、クライマックスシーンで不覚にも泣いてしまいます。
いかん、涙が出てきたーと思いつつ必死に堪えてたら、鼻水がボタっと垂れてしまった。
慌ててハンカチで拭きましたが、涙も鼻水も後輩に目撃されたっぽくて、悔しいのなんのって。

という訳で、ヘヴィなテーマを持った「K・Nの悲劇」ですが、オカルティック・サスペンスっつーか見事なエンターテイメントになっててサイコーに面白かったです。
良いなぁー高野和明、ますます惚れました。
高野和明へのインタビュー記事を見つけたので、これを読んで以前の作品を振り返りつつ、次作の「幽霊人命救助隊」を楽しみにしています。

誘拐の果実 / 真保裕一

2006-01-13 00:43:32 | 読書
ちょっと前に書店で物色していたところ、真保裕一の「誘拐の果実」が文庫化されていたので購入しました。
買った直後に色々多忙になってしまったせいでなかなか読み進むことができず、先日ようやく読了。


書名:誘拐の果実
著者:真保裕一
発行:2005年11月 集英社(文庫)
ISBN:4087478793(上)/4087478807(下)
価格:上下巻各681円(税込)



株譲渡疑惑で追求を受けている企業バッカスの社長・永渕は、自分がスポンサーとなっている宝寿会総合病院に身を隠していた。
その病院長の17歳の孫娘が誘拐され、電話で犯人からの要求があった。
要求の内容は、「入院中の永渕を殺害すること」だった。
孫娘の命と引き換えにスポンサーでもある患者の命を求められ、苦悩した院長と娘の父親である副院長達は、警察に連絡する。
その頃、別の場所で19歳の男子大学生が誘拐される事件が発生していた。
要求された身代金は、7千万円分のバッカスの株券だった。

ちょっと変わった誘拐事件のようで面白そうだなーと思って読み始めました。
最初は読者には余分な情報が与えられているお陰で、警察や被害者達よりも先が見通せていました。
誰が犯人なのか、なぜ株券なのか、本当の目的は何か。
こんなの見え見えなのに、何で警察は気付かないのかねぇ? などと思いつつ。

ずっとそのつもりで読んでいたのですが、刑事達と同様、終盤になって犯人の真意が分からなくなってしまいました。
一体、犯人の本当の目的は何だったのか? また犯行に及んだ動機は?
これが目的だったのか、いや実はこれが目的? と何度も「分かった」と思う度に、それ自体が目的ではなかったことに気付かされていきます。

最後に明かされた目的や動機を読み、不覚にも泣かされてしまいました。
そのときは会社の休み時間に読んでいたんですが、涙が出ていることを周囲に悟られないようにするのに難儀しました。
「ちくしょー、こんなの反則だー」と思いつつも、こういう小説を読むことができてとても嬉しかったです。
なんつーんでしょうか、心が洗われたような感じ。
19年前の事件の扱いがイマイチかなとは思いましたが、そんなのどうでも良いかと思えるデキです。

やっぱり真保裕一は面白いなぁ、としみじみ感じたのでした。


文庫版「模倣犯」全5巻の体積

2005-12-30 00:41:22 | 読書
先日、犬のユニも連れて車で買い物へ行った帰りのこと。
途中の公園のところで自分とユニだけ降ろしてもらい、ユニの散歩がてら歩いて帰ることにしました。
嫁さんと息子タイトは本屋へ寄ってから帰るとのこと。

公園でちょっと走り回って遊んだ後、歩いて帰る途中、電話に着信が。
本屋に寄っていた嫁さんからの電話で、「模倣犯の文庫が出てるけど、買っとく?」という確認でした。
宮部みゆきの大ファンですが、文庫しか買わない主義なので、ハードカバーのまま売れ続けていた模倣犯は未読のままでした。
喜んで「買っといてー」と頼んでおきます。

帰宅してみると、嫁さんが買っておいてくれた文庫版「模倣犯」が置かれていたのですが、何だか妙に塊が大きい…全5巻?
もしかしてハードカバーの上下巻と値段的には大差無いんじゃ?
と思って、反射的に電卓叩いて計算してしまいました。

ハードカバー(小学館)
 模倣犯 上:1,995円
 模倣犯 下:1,995円
 ━━━━━━━━━
 合計    3,990円

文庫(新潮社)
 模倣犯 1: 821円
 模倣犯 2: 620円
 模倣犯 3: 701円
 模倣犯 4: 781円
 模倣犯 5: 781円
 ━━━━━━━━━
 合計    3,704円

やられた、286円しか差がない。

しかし文庫に固執する理由は、値段だけじゃなく体積もあります。
本棚のスペースを不当に占拠されたくないのです。
しかし文庫とは言え、全5巻ともなるとなかなかの体積です。
体積面でもハードカバーの上下巻に匹敵するんじゃなかろうか。

まるで文庫に固執する自分をあざ笑うかのような全5巻構成でした。
やるな宮部みゆき、やるな新潮社文庫。

そんな文庫全5巻を早く挑みたいのですが、今はまだ真保裕一の「誘拐の果実」が読みかけなのでした。
年末年始も色々と忙しそうなので、模倣犯を読み始められるのはきっと年明けでしょうね。

迷路館の殺人 / 綾辻行人

2005-12-07 23:59:59 | 読書
綾辻行人の「殺人方程式 切断された死体の問題」は自分にはちょっと合わなかったんですが、館シリーズも1つは試しておこうということで「迷路館の殺人」を読んでみました。


書名:迷路館の殺人
著者:綾辻行人
発行:1992年 講談社(講談社文庫)
ISBN:4061852264
価格:620円


■ストーリー

高齢の推理小説作家・宮垣が還暦祝いとして、以前から特に目をかけている若手作家4名、評論家、編集者とその妻、推理小説マニアを4月1日に自分の屋敷に呼び集める。
宮垣の屋敷「迷路館」は入口以外は地下に作られており、ミノタウロスの神話をモチーフに迷路のような廊下でつながれた18の部屋から成っていた。
呼び集められた全員が到着した後、秘書から宮垣が病苦により自殺したと告げられる。
宮垣の遺産10億円を賭けて4人の作家に懸賞小説を書かせ、どの作品が一番かを評論家達が判定するよう遺言で求められていた。
条件は舞台を迷路館とした殺人事件、被害者は各作家自身、期日は数日後で、それまでは作家・評論家達は外出しないこと。
皆が遺言に従うことを承諾し、懸賞小説の執筆が開始された矢先、1人の作家が殺害される。
その死に様は、作家自身が自分を被害者として書きかけの小説と全く同じ見立てになっていた。
迷路館の中には招待客以外では宮垣の秘書と家政婦しかいなかったが、秘書の姿が消えており入口の扉は厳重に閉じられたまま。
電話線も切られており、外部との連絡ができない状態。
招待客達の家族・知人が異変に気付いて迷路館に来るのを待つしかなく、それまでこの異常な状況の中で懸賞小説執筆が続けられることになった。

■感想

「殺人方程式」を読んで合わないなと思っていたせいもあって、あまり期待せずに読んだのですが、予想以上に楽しめました。
作中作の構成なんですが、本の中にその表紙やあとがきまで構成されてて凝ってるなかと感心します。
いかにもというかありえねーっつー感じの舞台・状況設定で、起こるべくして起きたような殺人事件だし、どう考えてもトリックや犯人はあいつだろ、と思いながら読んでいました。
実際、作中作での解決としてはその通りだったんですが、さらにどんでん返しが待っていて最後の最後で楽しませてくれました。

個人的には、作中作の中で起きる殺人事件が、実はやっぱり各作家の小説だったというオチを期待しながら読んでました。
話あった結果、皆で遺産は分け合おうということになり、各人が殺害されるシーンを各自で書いて連作とし、最後に全員で解決編を合作したと。
読んでいる側には実際に事件が起きて、懸賞小説どころではない事態になったように見せつつ、実は全部懸賞小説の内容をそのまま載せているだけだった。
誰も殺されてないし、宮垣も実は死んでない、という展開を予想してたんですが…全然違った。

面白いのは面白かったんですが、作中作が長過ぎたような気がしなくもないです。
あれを引っ張ったからこそ、最後が楽しめるのかも知れないですが、ちょっと冗長だったかなと。

綾辻行人の小説ですが、「殺人方程式」「迷路館の殺人」を読んだ限りでは、あまり人間がちゃんと描かれていないように感じます。
何だか軽いというか薄っぺらいというか、登場人物達に人間味が感じられないです。
どうもトリック優先というか、まずトリックありきというか、クイズの本を読んでいるような気持ちになるんです。
自分も読みながら、コレがひっかけか? 伏線か? コレもトラップか? などと疑いつつ読んでました。
そういうクイズ本を読むような感覚で楽しめる人が、綾辻行人を読むんでしょうね。

面白いかもとは思うんですが、宮部みゆきのような小説が好きな自分としては、イマイチ合わないタイプのような気がします。
綾辻行人、もうちょっと他の作品も読んでみるか、もうこれ以上はやめておくか、現在思案中です。


殺人方程式 切断された死体の問題 / 綾辻行人

2005-11-28 07:51:56 | 読書
綾辻行人の「殺人方程式 切断された死体の問題」を読んでみました。

今まで綾辻行人を読んだことがありません。
ほぼ「名前を聞いたことがある」程度のレベルだったし、どういうミステリーを書いてるという漠然とした情報はあったものの、全然興味が沸かなかったのでした。
読もうと思ったきっかけは「月館の殺人」です。

佐々木倫子のファンなのですが、綾辻行人原作で「月館の殺人(上)」というコミックを見つけて捕獲。
オープニングがシリアスっぽくて「しくじったか?」と不安になったのですが、すぐにいつもの佐々木倫子の世界に突入。
まだ上巻しか出ていないっぽいですが、楽しませてもらっています。

それで、原作の綾辻行人がどれほどのモノなのかを確かめるべく、作品を読む気になった訳です。


書名:殺人方程式 切断された死体の問題
著者:綾辻行人
発行:2005年2月 講談社(講談社文庫)
ISBN:4062749912
価格:661円



書店でいくつか作品が並んでいたんですが、一番興味を惹かれたコレに決定。
「切断された死体」ってところに反応してしまったのかも、B級スプラッター映画ファンだから。

マンションの屋上で、首と左腕を切断された全裸の男の死体が発見される。
そのマンションの2階の廊下で男の頭部が発見され、被害者はマンションの川向こうにある新興宗教団体の教主と判明。
事件当夜、そのマンションを出入りしたのは住人である教主の義理の息子だけだった。
その息子の車の中から、切断された左腕が発見され、息子は容疑者として逮捕。
元々、その宗教団体は息子の実母が教主だったが、数ヶ月前に死体で発見され、他殺の疑いが持たれていた。
息子は母親を殺したのは義父と確信しており、動機は十分にあったが、犯行を否認している。
あらゆる状況証拠は息子が犯人だと示しているが、教主の死体を切断した上で、わざわざ自分のマンションに運び込む理由が謎となっていた。

読んでみたんですが…何だか、軽いっちゅーか、薄いっちゅーか、幼稚っちゅーか。
死体のトリックが一番の肝のようなんですが、そのトリック自体が序盤というか事件発生前からバレバレなので、何の感動も感心もないまま読み終えてしまいました。
何だコレ?

犯人自体は分からないまま読んでましたが、判明したときも「あっそう、この人にしたの」という感じ。
驚きがなかったというか、もうやりたいようにやれば? という投げやりな気分になっていました。
どうもまず「あのトリックありき」で書いた話のようで、他のもの全てが後から付け足したように思えました。

登場人物達がコミカルな設定のキャラなんですが、その割りにあまり親しみを持ったり感情移入できないのは何故なんだろう。
双子の兄でいまだ学生(哲学者志望で変人)の響と、弟の刑事・叶が出てきますが、叶が主人公かと思ったら途中から響に主役の座を奪われてしまいます。
その響が名探偵役なんだけど、なんだかちょっといけすかない感じ。
変人だけど頭がキレるキャラ設定のせいで、非人間的になっちゃってるせいなのかなー。

そんな訳で、キャラに感情移入もできずストーリーも楽しめずに読み終えてしまいました。
残念、綾辻行人は自分には合わないのかも知れません。
軽くて読みやすそうだし、もうちょっと魅力的なストーリーやキャラクターだったら楽しめそうなんだけど。

しかしこの本を読んで一つだけ収穫がありました。
末尾に綾辻行人の作品リストがあったのですが、「○○館の殺人」というタイトルが並んでいました。
そういや書店で見たときにもいくつかあったような気が…
○○館というヤカタを舞台にした殺人事件のようですが、「月館の殺人」というタイトルはそのもじりだったのね。
月館の方はヤカタでなくツキダテという地名なんだけど、「綾辻行人ですよ」と。

タイトル自体が、「綾辻行人=○○館の殺人シリーズ」って知ってる人向けのネタでしたか。
ということに遅ればせながらようやく気付けたことが、この本を読んでの収穫でした。(そんだけか?)

綾辻行人の第一印象が悪かったですが、たまたまこの作品だけが自分に合わない話だったのかも知れません。
なのでもう1冊、今度は「○○館の殺人」シリーズのどれか1つに手を出してみようと思います。
もしそっちもダメだったら、もう見限るしかないんだけど。


北の狩人 / 大沢在昌

2005-11-18 08:21:16 | 読書
大沢在昌の「砂の狩人」が面白かったので、前作の「北の狩人」を引っ張り出してきて読み返しました。
読んでいくうちに思い出してきて、「あー、そうそう、コレコレ」などと思いつつ。
↓今は既に文庫化されているようですが、昔買った本なので新書のまま。


題名:北の狩人
著者:大沢在昌
発行:1998年 幻冬舎
ISBN:4877289291(上巻)/4877289305(下巻)
価格:上下巻各821円



新宿に現れた東北の若者・梶雪人が、暴力団が関係する場所を選んで現れ、「田代組」に関する情報を得ようとし始める。
少人数の武闘派だった田代組自体は、ある事件をきっかけに10年以上前に既に無くなっていた。
当時の田代組構成員で、現在は広域暴力団に所属する宮本は、梶の動きに注目する。
新宿署の刑事・佐江は、梶の行動によって新宿の暴力団関係者の異変が起きていることに気付く。
梶は秋田県警の刑事であり、同じく刑事だった父親が殺害された事件の真相を調べるため、その事件に関係した田代組の関係者を捜していた。

前作と言っても、「砂の狩人」との共通点は刑事・佐江だけですね。
マタギの孫で狩人としての勘が働くといっても、あまりにも的確過ぎる梶の行動ですが、そこはそれ「運命」っつーことにして。
女子高生の杏を出して梶に絡ませたことで、ハードボイルドなストーリーなのに妙にソフトな感じに仕上がっちゃってます。
杏は最初は暴力団関係の引っ掛けバーでバイトしてて梶をカモろうとし、もうどうしようもないクズって感じの女子高生だったんですが、梶と出会ってから次第に変化していく姿が良いです。
「そんなこたーありえねー」などと心のどこかで思いつつも、「これは娯楽小説なんだから」ということで。
お陰で、血なまぐさいシリアスな設定と展開にもかかわらず、軽く読みやすい小説になっているので、自分的にはとても楽しめました。

よく考えてみたら大沢在昌の佐久間公とか狩人シリーズって「ある目的を持って調査しにやって来た男が、その行動によってその場所で保たれていたバランスを崩していき、混乱を生じさせて怨まれ疎んじられつつ、真相に近づいていく」的な話なのね。
主人公を危険な目に会わせる必然性を生じさせるためには、そういう設定になるんだろうなぁ。
いえ、面白いから全然良いんですけどね。

久々に昔の大沢作品を読んでみましたが、やっぱり面白いなぁこの人と再認識です。
また比較的新作を漁ろうかなと思ってますが、良さ気なのが見つからなかったら昔のを再読するのも良いかな。


砂の狩人 / 大沢在昌

2005-11-08 15:05:03 | 読書
最近、大沢在昌が自分の中でリバイバルしたので、「砂の狩人」を読んでみました。
前作「北の狩人」を読んだのはずっと前なので、記憶がおぼろげな状態で読み始めます。


題名:砂の狩人
著者:大沢在昌
発行:2005年8月 幻冬舎
ISBN:4344406788(上巻)/4344406796(下巻)
価格:上下巻各721円(税込)


■ストーリー

漁師町で暮らす元刑事・西野の元へ女性警視正の時岡が訪れ、非公式な調査を依頼する。
東京で発生している連続猟奇殺人の被害者は、公になっていないが暴力団組長の子息らであり、暴力団と対立する中国人グループが疑われている。
被害者の身元が公になれば暴力団による中国人狩りが発生することが懸念されるが、被害者の身元を知ることができるのは警察内部の人間だけと考えられた。
警察関係者が暴力団と中国人グループの対立を仕組んだ可能性があり、そのため時岡は過去がある元刑事だが捜査にかけては凄腕だった西野に調査を依頼する。
西野は知り合いの暴力団組長の娘サチの無事を確認するため古巣の東京へ戻るが、西野が会った直後にサチも殺害されてしまう。
依頼を受けるか迷っていた西野だが、サチを殺した犯人を見つけるため、調査を始める。

■感想

読み始めてから違和感が…北の狩人の続編なんじゃなかったっけ?
前作は、東北から新宿へ来た朴訥な刑事が、執念で父親の死の真相を暴いていく話にコギャルが絡んで、重くカタい設定と血なまぐさいストーリー展開の割りに軽く読めるという不思議なバランスの小説だった記憶があります。
でも西野って前回出てきてないよね?
西野の過去が前作に出てきた話なのかと誤解していて、思いだせんなーと悩みながら読み進んでましたが、そうじゃなかったんですね。

快楽殺人者の少年を追い詰めたが、「すぐに社会に出てくる」「次はもっと上手にバレないように殺す」と西野へ告げる少年。
それが本気だと分かった西野は、いずれ起きる事件を防ぐため、無抵抗の少年を射殺。

…って過去なんですが、このストーリーで1本書けたんじゃないかって感じです。
っつーかそっちのストーリーの小説読みたいよ。

そういった過去があって警察を辞めた経緯もあり精神的に死んでるものの、猟犬のように的確に犯人に迫っていく西野。
調査の過程で新宿署の刑事・佐江やサチの父親の組員・原と係わるようになり、時には敵対しつつも互いを認め合い、行きがかり上協力して調査を進めるようになります。
佐江は前作・北の狩人でも出てきたキャラですが、ヤクザの原もかなり強烈な個性で印象深いです。

中国人グループや暴力団の抗争で荒れる新宿で、我が身の危険を顧みず調査を続ける西野の姿は、佐久間公シリーズの「心では重過ぎる」にちょっと重なるイメージもあります。
ただ、佐久間公がギリギリのところで自身を護るつもりでいるのに対して、この西野は調査を優先させて身の安全を無視して最短距離で突き進んでいます。
それが過去、自分のやってしまったことに対する清算をしたいという無意識の現われだったのでしょうが、読む方はヒヤヒヤしながら見ているしか無い状態。

危険な状況下で調査を続ける西野の姿に、ヒリヒリとした乾いた熱さのようなものを感じつつ読みました。
いやー、面白かったです。

とても良かったので、久々に「北の狩人」を引っ張り出してきて再読することにしました。
全然違う雰囲気の話の気がしますが、佐江刑事も出てくることだし。
次はちょっと過去へさかのぼって、西野が少年を射殺することになった事件のストーリーを読んでみたいですね。
書いてくれないかなぁ。


涙はふくな、凍るまで / 大沢在昌

2005-10-21 00:29:59 | 読書

書名:涙はふくな、凍るまで
著者:大沢在昌
発行:2001年10月 講談社(講談社文庫)
ISBN:4062648873
価格:650円(税込)


高野和明の「グレイヴディッガー」を読んだときにノンストップつながりで「走らなあかん、夜明けまで」を思い出しました。
どんな話だっけなーと再読したついでに、続編のこの「涙はふくな、凍るまで」も購入してみました。

「走らなあかん、夜明けまで」は、出張で初めて大阪へ来た平凡な会社員の主人公、坂田勇吉が事件に巻き込まれ、暴力団から脅されて別の組に持ち去られた現金5千万が入ったアタッシェケースを取り替えすため、大阪中を走り回る羽目に陥る話。
理不尽さ満載なストーリーですが、非力な主人公と世話焼きなヒロイン、強力な助っ人達のキャラが良く、とても楽しく読める話でした。

さてその続編の「涙はふくな、凍るまで」。
今回も主人公の坂田勇吉が、今度は北海道へ出張し、案の定事件に巻き込まれてくれます。
この人、出張は拒否した方が身のためなのでは…
港近辺を見て歩いて回っていたところ、ロシア人の男達に追われるロシア人女性を偶然助けることになり、その結果拉致されて船倉内に監禁される羽目に。
そこで謎の男が登場し坂田を救出。
坂田は警察に事情を説明するが、真剣に対応してもらえずに宿泊先のホテルへ戻る。
そこへ坂田を助けてくれた謎の男が現れ、助けた借りを返してもらいたいと言い、坂田は運び屋役をやらされることに。
その結果、北海道のヤクザとロシアマフィアの争いに巻き込まれてしまう。

今回も北海道内を移動させられることになるんですが、それは依頼された携帯電話を運ぶための移動で、前作のように走り回らされるという感じではないんですね。
また前作と比較するとどうしても今回は坂田が傍観者っぽい感じが否めません。
そりゃさすがに一介の会社員がロシアンマフィアと渡り合うっつーのも無理だから当然なんだけど。

ラストのクライマックスで坂田が男を見せるシーンなど、見せ場もあるんですが、巻き込まれたというよりもパシらされた感があって、前作と比べるとちょっとイマイチだったかも。
でも小説のデキは良いので、それなりに楽しんで読ませてもらいました。

グレイヴディッガー / 高野和明

2005-08-29 13:00:37 | 読書

書名:グレイヴディッガー
著者:高野和明
発行:2005年6月 講談社(講談社文庫)
ISBN:4062751208
価格:701円(税込)


以前、書店で面白そうな本はないかと物色していたとき、大好きな「宮部みゆき」の文字が目に飛び込んできました。
「うぉっと新書か?」と思ってよく見たら、高野和明の「13階段」。
帯に書かれた解説者の宮部みゆきの名前、デカ過ぎです…その作戦にものの見事に釣られて買ってる自分も自分ですが。
あらすじをざっと見た感じでは、面白いかも知れないけど手を出す気になる程ではない雰囲気。
しかし宮部みゆきが推すのであれば、読んでみない訳にはいかないじゃないですか?

「火車」「魔術はささやく」「スナーク狩り」「レベル7」など比較的初期の宮部作品の方が好きで、最近の作品は洗練されたけど少し魅力が減った感が個人的にはあります。
しかし時代モノを含めどの作品を読んでも今までハズしたことが無いし、その宮部みゆきの推薦ですからね。
どれどれと思いつつ読んでみたんですが、ものすごく面白かったので大正解でした。

今後の作品にも期待していたんですが、「グレイヴディッガー」がNatsumiさんのブログで誉められてていたので、入手して先日の出張時のヒマつぶしに読んでみました。

悪党・八神は子供たちの夢を喰うように詐欺った自分に嫌気がさし、生き方を改めるため何か善行をしたいと考えて骨髄バンクにドナー登録する。
適合する白血病患者が見つかり、骨髄を提供するために入院する予定の八神だったが、入院中の小遣いを借りようと寄ったホストの部屋で死体を発見。
直後に見知らぬ3人組に襲われ、窓から脱出し屋根を伝って逃げ出す八神。
このホストの死体はこれから発生する連続猟奇殺人の幕開けだった。
2日後の移植手術のため、患者は骨髄を空にしている状態であり、八神が病院に行かなければ患者は死亡してしまう。
警察に助けを求めても事情聴取のために拘留され移植手術には間に合わなくなる。
謎の男たちに追われ、警察に頼ることもできず、手持ちの金も少ないまま、東京の北端から南端の病院へ向けての八神の逃避行が始まった。

視点としては八神本人と事件を追う警察サイド、その中で捜査を指揮する警視と八神を知る刑事古寺に別れています。
八神を追うグループは警察以外にはホストの部屋で襲い掛かってきた謎のグループと、それとは別に猟奇殺人を繰り返す謎の男。
何度も襲撃を受けてノンストップで必死に逃げ続ける八神と、次第に明らかになっていく事件の内容、謎のグループや男の目的。
すごく楽しいエンターテイメント小説でした。

タイムリミットまでノンストップなストーリーにはぐんぐん引き込まれて面白いです。
大沢在昌の「走らなあかん、夜明けまで」をちょっと思い出したなぁ。
(あーこの続編まだ読んでなかった、今度読もうっと)
ノンストップな小説はノンストップで読まないと興醒めすることがありますが、今回は出張の移動中にサックリ読み終えることができて良かったです。

この「グレイヴディッガー」では、主人公のキャラが立ってるのも良いですね。
最近読んだ小説はどうにも感情移入できない主人公ばかりで楽しめなかったんですが、悪党・八神の憎めないキャラがツボにハマりました。

カーチェイスでクラッシュ後など、随所のご都合主義的な展開にしても「面白ければOK」で全然気になりません。
銃弾から身を守るマントや鉄仮面だけでは説明がつかない神出鬼没な魔人グレイヴディッガーの不死身っぷりなど、解明されない謎が残っていたりする点については、ホラー的な余韻を残したかったんだと解釈したので全く問題なしです。
個人的に一番気になったのは、ドナーのHLA型があっさり適合してるように見えた点ですが、それは「娯楽小説だし」ってことで。
(「半落ち」などと違って、この小説読んで骨髄ドナー登録する気になる人はいないだろうしねぇ)

「13階段」とは全く方向性の違う小説でしたが、読者を楽しませるツボが分かっているようで、とても面白かったです。
ってことで今後も高野和明に期待です。


国際テロ / トム・クランシー

2005-08-26 22:03:29 | 読書

邦題:国際テロ
原題:The Teeth of the Tiger
著者:トム・クランシー
翻訳:田村源二
出版:2005年08月 新潮社(新潮社文庫)
ISBN:4102472339(上巻)/4102472347(下巻)
価格:821(上巻)/781(下巻) (税込)



大好きなトム・クランシーのジャック・ライアンシリーズ最新作です。
トム・クランシーは「レッド・オクトーバーを追え」でソッコー大ファンになり、以降読み続けています。
新作が出るたびに貪るように読んでいて、次作はいつ出るのかと待ち続けるサイクルが続いています。

どのシリーズも概ね大好きなんですが、ネットフォースだけは受け付けずに1作目だけでリタイヤしました。
あとアップリンク社(ソード)のシリーズも、読むのは読んでるんですが何だかイマイチな感じ。
共著になると、ちょっと好みでない雰囲気になってたりして残念です…オプ・センターシリーズなら大好きなんですけどね。

さてジャック・ライアンシリーズですが、今回ジャックは前大統領として影しか出てきません。
クラークもレインボー・シックスの運営でイギリスへ行ってしまってて出てこないし。
本作で活躍するのはジャックの甥である双子のカルーソー兄弟と、ジャックの息子ジャック・ジュニア。
完全に世代交代し、なおかつ現代の最大の脅威であるテロへの有効な対策のために創設された、秘密組織のお話になっています。

CIAとNSA(国家安全保障局)を結ぶ直線上のビルにある投資会社の実体は、前大統領ジャック・ライアンが画策して秘密裏に結成した超法規的な私設対テロ情報組織「ザ・キャンパス」だった。
CIAとNSA間での連携情報を暗号解読して盗聴し、公的機関であれば決して行えない強行手段によって国際テロへの断固たる対応、つまりテロ組織メンバーの暗殺を計画していた。
優秀な暗殺者の素質を見込まれてスカウトされたのはジャック・ライアンの甥、海兵隊員とFBI捜査官である双子のカルーソー兄弟。
またジャック・ライアンの息子のジャック・ジュニアも情報分析担当としてザ・キャンパスに迎えられていた。
その頃、アメリカ国内で一般市民に対する無差別殺戮をテロ組織が実行に移そうとしていた。

えー…面白いのは面白かったんですが、何だか軽くなったっつーか、薄っぺらくなったっつーか。
極端に言うと、水戸黄門みたいな話ですかねぇ?
大統領恩赦という印籠を切り札に、カルーソー兄弟を助さん格さんのように使って敵をやっつけさせるっつーあたりとか。
「超法規的」「秘密組織」「暗殺」「新兵器」…なんだろう? スーパーヒーローものですか?

「こんなことできたらいいな」という理想的なテロ対策を夢見て書いてみたんでしょうか。
現実世界があまりにも荒んでいるので、こういう夢を見ずにはいられなかったんじゃないかとも思えますが、重厚感が無いのが残念です。
どっちかっつーとレインボー・シックスの方が好きだなぁ。
続編に期待です。


中村橋動物病院の犬 / 高倉あつこ

2005-08-19 23:58:21 | 読書
中村橋動物病院の犬 / 高倉あつこ

書名:中村橋動物病院の犬(全6巻)
著者:高倉あつこ
出版:1995年8月~1998年10月 双葉社(アクションコミック)
価格:各560(税込)



溜まりまくった本・コミック、もう二度と読まないなぁというものを処分することに。
タダでも良いから引き取ってもらえないかと古本屋へ持って行ったんですが、7割程度は一応値段が付いて買い取ってもらえました。(微々たるもんでしたが)
残り3割の値段が付かないものは「処分して下さい」と依頼。
これでしばらくは本棚が崩壊せずに持ちこたえそうです。

買取チェック中、店内を物色していた嫁さんが手伝ってくれと呼ぶのでついて行きます。
行ってみると「中村橋動物病院の犬」というタイトルの全6巻のコミックがあり、絵柄を確認するためにこの表紙を見たいと言います。
タイトルからは大好きな佐々木倫子の「動物のお医者さん」シリーズを連想させますが、そう連想させるだけあって安易なパクリマンガの臭いも漂ってます。
ちなみに個人的には佐々木倫子で一番好きなのは、「"人の顔が覚えられない"黒田勝久」のシリーズだったりします。
「ペパミント・スパイ」も良いなぁ、初期の荒削りな素朴感がたまりません。

話を戻して「中村橋動物病院の犬」ですが、絵柄を見ればある程度予想できるので表紙を見たい。
ウチは犬好き猫好きなので、犬モノ猫モノのコミックや本などに弱いのです。
しかしこのコミック、棚ではなくて本をパッキングした塊の山積の中にあるのでした。
上に乗っている他のコミック塊を押し上げて抜こうとしましたが、ビクともしません。

棚の方にどれか1冊だけでもバラで置かれていないか探しましたが見当たらず。
しょうがないので店員さんにお願いして探してもらおうとしたのですが、やっぱり無い。
それで結局、店員さんが山積のコミック塊を上から取り除いていって、掘り出してくれました。

絵柄を見た嫁さんは「イマイチ?」と思ったそうなんですが、店員さんが頑張ってくれたので「やっぱイイです」と言うに言えない状況。
値段も6冊まとめて630円と安かったんで、まぁ良いかってことで買って帰りました。

後日、嫁さんの感想を訊いてみると「読みやすかった」とのこと。
面白いとハッキリ言わないってことは、イマイチだったんだろうかと推測されます。
どれどれ、と思いながら時間が空いたとき(実はトイレでビッグな事をするとき)に読んでみました。

てっきり犬の話だと思っていたんですが、微妙にハズレ。
臭いを嗅ぎまくるクセがあり、雄犬とケンカしたり雌犬に好かれたりと、行動がとても犬っぽい3浪21歳の大学生が主人公。
彼の前世が、獣医師である同級生の父親が21年前に手術したものの助けられなかった犬だったのではないかと考えられる出来事が続発し、その謎が次第に明らかになっていく…という話。

主人公の前世はベルジアン・タービュレントという珍しい種類の犬という設定だったんですが、そんな犬種があったんだなぁと勉強になりました。
ウチは犬を飼う夢を見続けていた頃に犬関連本を買い漁り、各犬種の特徴(飼い易さを計るための抜け毛の量や運動量、遺伝性疾患、従順性など)を調べてたんですが、ベルジアン・タービュレントって犬種は初めて知りました。

かなりお気楽脳天気なシチュエーションコメディで、大爆笑はしないが次を読みたくなる程度には面白いマンガでした。
全6巻で630円だったので、かなりコストパフォーマンスが良かった点も含めての評価ですが。

古い本なので廃刊になってると思いますが、マンガ文庫化されてるっぽかったです。
犬好きな方にはオススメできると思いますが、新しいのを買うコストと見合う内容かどうかはビミョーかも。