熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

台頭するブラジル(仮題 BRAZIL ON THE RISE)(19) アマゾン その2

2011年11月09日 | BRIC’sの大国:ブラジル
   アマゾンでのもう一つの深刻なブラジルのアキレス腱は、ブラジル政府の原住民対策や保護の手抜きと、今様奴隷とも言うべき賃金奴隷(wage slavery)の存在の問題である。
   奴隷制度が、19世紀に廃止されて、世界でも屈指の人権尊重の憲法を誇るブラジルだが、何百年前の建国当時と殆ど変らない非人道的な労働慣行が行われているなどと言う問題を、ローターは、レポルタージュを交えて詳述している。

   トランス・アマゾン・ハイウエーは、いわば、アマゾン地帯のバックボーンとも言うべき貴重な道路で、ブラジルの経済発展のため、そして、貧しい地方からの膨大な農民たちの移動を助けたのだが、長い間アマゾナス州知事であったジルベルト・メストリンニョと言った地方の大ボスたちが、このメリットを最大限に使って、私腹を肥やして行った。
   アマゾンには、満足なインフラがないので、1966年軍事政権が、SUDAM(アマゾン開発公社)を設立した。
   政府は、一定率のSUDAM配賦金を所得税のような形で徴収していたので、私も払っていたが、本来、アマゾン川住民のために使われるべき筈の資金が、殆ど、メストリンニョや隣のパラ州のバルバリョと言った大ボスや関係者に贈収賄の形で流れてしまって、何十年も全く実質的な効果が上がらなかったので、2001年に廃止されたと言うお粗末さ。
   アマゾン川の住人と称されるカボクロ、すなわち、原住民であるインディオは、いまだに、狩猟や初期農業をして生活しており、生活に困窮し、その多くは、貨幣経済の埒外にあると言い、マラリアやデング熱など風土病で若くして死んで行くと言う。

   ブラジル政府が、インディオ達の厚生福利と言わないまでも、生活水準の向上に殆ど手を付けないので、インディオ達は、むしろ、自分たちに同情的な内外の機関や個人と協力して、自分たちの生活や文化を守ろうとしているのだが、このインディオの自衛手段が、以前に書いた、アマゾンを外国人に取られるのはないかと言うブラジル人の疑心暗鬼に火を点けているのだと言う。
   ブラジル人は、インディオの法的ステイタスは、ブラジル人の子供で、外国人の餌食になる可哀そうな奴だと、一人前扱いにしていないとローターは言う。

   ローターは、ベネズエラとの国境地帯にあるヤノマミ保護居住区に行ってレポしているが、ここには、ブラジル軍が駐在しているのだが、インディオの保護に当たるどころか、少なくとも18人のインディオ少女に妊娠させて他にも性病をうつしたり、幼いヤノマミ族を兵隊にとったりしているので記事に書いたらえらいことになったと言っている。

   ところで、インディオの人口だが、ブラジル建国時には600万人いたのが、1970年には、20万人に激減し、その後、人口が3倍くらいに増えているので、テリトリーの問題でトラぶっていると言う。
   インディオは、少人数の集団を形成して移動する狩猟民であるので、広大な土地を必要としており、1%以下の人口で10%の土地を名目上支配しているので、それが増加するとなると、アマゾン開発に虎視眈々と身構えている開発業者など多くのブラジル人が、利権保護のために、大反発するのである。
   しかし、現実には、インディオの所有権が厳然と存在しているインディオ保護居住区は、地方の大ボスや鉱山業者や開発業者たちの違法極まりない侵入や乱開発で無茶苦茶に権利が侵害されており、駐屯している軍隊も、インディオを保護するどころか高飛車に対応してトラブルが絶えないと言うのだが、これも、ローターの2004年と2007年の、ベネズエラとギアナ国境のラッパ・セラ・デ・ソル保護居住区訪問時のレポである。
   現在でも、武装した開発団などが、どんどん、インディオ・テリトリーに押しかけて権利を侵害し、アマゾンの乱開発を進めていると言う。

   もう一つは、今様の賃金奴隷制度の存在である。元々、19世紀から20世紀初頭のゴム景気の時に端を発しているのだが、現在では、輸出用の植物栽培や、木材業、鉱山業と言った過酷な労働に、貧窮した農民労働者などが各地から集められて、粗末な住居に寝起きして奴隷のように酷使されていると言う。
   身分証明書や労働手帳は、燃やされてしまい、毎日朝の6時から仕事に出て夜の11時に終わり、生活必需品はすべて強制的に労働キャンプで買わされ、生活経費はすべて天引きされるので、賃金は一度も支払われたことがないと元賃金奴隷がローターに語っているが、ある宗教団体によると、そのような労働者が、少なくとも、2万人存在し、政府機関の急襲で、毎乾季に、1000人以上が解放されるのだと言う。
   武装した監視人によって厳重にガードされているので、逃げるに逃げられないというのだが、現実は、あの植民地時代の東北地方のサトウキビのエンジェニーニョ制度と殆ど同じような過酷さが、ブラジルに存在するのをどう見るか、BRIC’sのどこも似たり寄ったりかも知れないと思うと、経済の発展段階と文明の連鎖を感じざるを得ない。

   勿論、ブラジル政府も、国のイメージダウンであり国際信義にも反するので、問題を看過している訳ではなく、調査員を置いたり急襲調査したり、対策を講じているのだが、何しろ、メインロードや集落から深く入り込んだ遠隔地のジャングルの中の人跡未踏に近いペルーやボリビアとの国境地帯にあるので、思うように進まない。
   それに、インスペクターの体たらくは、十分な人員も装備もなく、車のガソリンや修理パーツ不足に泣いていると言うのであるから話にならないので、ブラジル政府は、逆に、国際的な批判を叩くのに汲々としていると言うのであるから恐れ入る。
   とにかく、この人権問題とも言うべき深刻な問題が、飛ぶ鳥落とす勢いの筈のブラジルの、過去の歴史の暗部を背負った悲劇の一端でもあり、世界には見えないアマゾンでの深刻な一側面でもあるのである。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 核なき世界を求めて・・・日... | トップ | ギリシャでのビジネスが難し... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

BRIC’sの大国:ブラジル」カテゴリの最新記事