熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ブラジルのハイテクMNEは政府支援あったればこそ

2011年09月19日 | BRIC’sの大国:ブラジル
   日経ビジネスが、「強敵!BRIC's企業」と言う特集記事を組んでいたが、ブラジル企業で、小型民間航空機で、カナダのボンバルディと覇を競っているエンブラエルが取り上げられている。
   また、深海油田プレ・サルで湧くペトロブラスも、深海油田開発関連では右に出る企業がないほど卓越した技術を持つブラジルのみならず、世界有数のMNE(多国籍企業)で、いずれも、高度な独自技術とその開発で有名だが、同じBRIC'sのMNEでも、中国、インド、ロシアなど、夫々が歴史的な背景を引きずっていて、国によって、大きな特色の差があるのが面白い。

   この口絵写真は、ブルッキングズ研究所の「BRAZIL AS AN ECONOMIC SUPERPOWER?」だが、経済のブラジル経済の現状をかなり詳しくレポートしていて非常に興味深い。
   その中の第3章「Extending Brazilian Multinational' Global Reach」で、ブラジルの大企業が、政府の支援をテコにして、政府の後押しで技術を開発し、如何にして国際市場に打って出て来たかが活写されている(特に、エドムンド・アマンの論文)。

   「国産の多国籍企業が、今日のブラジル経済興隆の立役者であることは疑いない。ブラジル企業の海外投資が、市場と資源確保のために加速されて来たが、ブラジル企業に、特別なテクノロジー能力の開発発展と言う利点があったからである。今や、積極的な海外投資によって、培った技術ノウハウを国際市場で活用する段階に入った。
   しからば、ブラジル企業に、このようなハイテク能力を付与した要因は何か。それは、紛れもなく、ブラジル政府のなせる業である。」と言うのである。
   
   元々、ブラジルの大企業は、殆ど、国有か公営の企業であったし、それに、長い間の輸入代替産業育成政策で外資の侵入を締めだして保護して来ており、更に、公営の研究所やR&Dなどの技術開発機構や大学の研究機関からの積極的なサポートを受け、政府機関の資金的支援など、ブラジル政府のバックアップ援助が続いていた。この傾向は、1990年代の民営化後も変っておらず、キメ細かく続けられていると言う。
   レアル高で、国内企業が窮地に立っているので、最近、輸入車に大幅増税を発表したが、元々、遵法欠如で法制度が有効に機能しないブラジルであるから、いざとなれば、国内保護のために、政府は、何でもする、いわば、社会主義国家体制に似たところがある。

   興味深いのは、最近、ブラジル政府に財政的余力がなくなって、これまでの様には民間企業へのサポートがままならず、MNEなど大企業が、方向転換を迫られていると言うのである。
   唯一の明るい兆しは、マクロ経済の安定と株式市場の発展で、民間ルートを通してR&Dや国際化への資金調達が可能になったことで、今まで、政府援助を望めなかった中堅企業が、従来の伝統的な公的支援なしで、技術集約的なMNEへ飛躍できる道が開けたと言うのだが、いかにもブラジルらしくて面白い。

   ところで、エンブラエルだが、航空省の航空技術開発研究所CTAから、1969年に航空機の輸出を目的に創立された国有企業で、航空省や空軍とは密接な関係にあり、技術者の多くは、隣の優秀な工科大学航空技術大學卒業生だと言うから、正に、産軍共同体的連携である。
   経営が悪化した時点で1996年に民営化されたが、50人乗りの小型ジェット機ERJ-145が、アメリカでバカ売れして起死回生し、最大の輸出企業に返り咲いた。
   いずれにしろ、政府べたべただったエンブラエルが、以前に、三菱重工の小型ジェット旅客機「MRJ」(三菱リージョナルジェット)に対する日本政府の支援について、「WTO協定違反の可能性」を指摘していたと言う記事を見た記憶があるが、良く言うなあと言えないこともない。

   このエンブラエルが、MNEなのは、中国への進出とポルトガルの軍用機製造会社の買収。
   中国では、ERJ-145の組み立て工場の建設だが、目的は、勿論、中国の膨大な市場で、更に、中国のテクノロジーやノウハウの獲得も目論んでいると言う。

   ペトロブラスも、エンブラエルと良く似た過程を経た大石油企業で、1953年創立で、当初は、国内オンリーの国有会社であったが、1970年代の石油危機で海外志向を始めた。
   しかし、1980年代に、国内に石油が発見されてから国内回帰して、更に、最近では、リオ沖の広大な深海油田プレ・サルの発見で、ブラジルが、世界第8位の産油国にランクアップして、ペトロブラスの技術開発が一挙に加速して、今では、深海油田開発関連技術では最高峰だと言う。
   この技術にモノを言わせて海外進出に打って出たのだが、世界銀行がグローバル・エコノミック・プロスペクト2008で、
   「ペトロブラスは、この先進技術を活用して、アンゴラ、アルゼンチン、ボリヴィア、コロンビア、ナイジェリア、トリニダード・トバゴ、米国で、油田開発生産を行っており、赤道ギアナ、リビア、セネガル、トルコでオフショア油田開発などを実施している。」と言うのだから、新興国企業の域を超えている。
   
   ところで、このエンブラエルやペトロブラスを見ていると、ブラジルのMNEは大したものだと言う感じがするが、ブラジル国産の大企業は、ヴァーレを筆頭に、殆ど鉱業や食糧などのローテク企業で、自動車やエレクトロニクスなど国際級の工業の殆どは、主に1990年代以降自由化民営化で進出してきた外資系企業で、これが主要輸出ドライバーである。
   輸出の相当部分は、これら工業製品であり、ブラジルは、鉱物などの資源大国であり、農業大国であるのみならず、工業大国でもある特異な新興国だと言われているが、本当にバランスの取れた産業国家であるかどうかは、中身を十分考慮しなければ判断できない問題である。
   自然資源や食糧価格高騰で潤っているブラジルだが、何時までも、「オランダ病」の不安を拭い切れないのは、資源高のアブク銭を、付加価値の高い産業構造への変換に投入できないブラジルの現状を変えられないからだとも言われている。
   
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