熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

トランプは事件後も変わっていない

2024年07月19日 | 政治・経済・社会
   ロイターが、電子版で、「トランプ氏、指名受諾演説で暗殺未遂語る 当初の融和色は雲散霧消」と報じた。

   トランプは、。指名受諾演説を行い、自身が負傷した暗殺未遂事件について語り、「全能の神のご加護」のおかげでこの場にいると強調して、演説の冒頭でいつもの攻撃的な姿勢を抑え、融和色を前面に出した。 
   しかし、その後はいつもの激しい口調で、国を「破壊」しているとしてバイデン現政権を批判。自身が起訴されているのは民主党の陰謀の一環だと根拠なく主張し、民主党のバイデン大統領が「第3次世界大戦」を引き起こすとしたほか、南部国境を移民が越えてくることを「侵略」だと表現した。 当初の融和色は雲散霧消し、いつものように大げさな表現と不平不満を織り交ぜ、民主党が2020年の大統領選を盗んだという虚偽主張を繰り返した。また、自分だけがこの国を確実な破滅から救うことができると主張。「私なら電話一本で戦争を止めることができる」と語った。というのである。

   九死に一生を得た奇跡的な経験をしたので、人生観なり主義信条が変わるのを期待していたのだが無駄であった。

   トランプのもしトラが実現した時の経済政策については、先日スティグリッツ教授の見解「トランプよりバイデン、米国経済にとってどちらがよいか議論の余地なし 」を紹介して、経済実績も政策も、悪化すると説明した。
   このブログで、トランプ批判を繰り返してきたので、蛇足は避けるが、多少、経済政策につて触れてみたい。
   このあたりのトランプ政策を、NHK記事から引用すると、
   共和党の政策綱領案には「アメリカ第1主義:常識への回帰」と記され、アメリカのメディアはトランプ前大統領が草案の一部を書いたと伝えています。このうち、インフレ対策はエネルギー生産の規制撤廃や政府支出の削減などで、好転させるとしているほか、移民政策では、国境沿いの壁を建設するなど、対策を強化するとしています。 「アメリカ第1主義」の経済政策を支持し、中国をめぐっては、貿易上の優遇措置などを講じる「最恵国待遇」を撤回するとしています。外交政策では、同盟国が防衛への投資義務を果たすことなどで関係を強化するほか、インド太平洋地域では平和と通商の繁栄を目指すとしています。 

   要を得た解説だとは思えないが、まず第一に、「アメリカ第一主義」と「MAGA」とは、かなり矛盾する概念である。たとえば、中国を締め出し、保護貿易主義に徹して世界市場から距離を置くことは、アメリカ市場そのものを縮小して、革新の芽を摘み、アメリカ経済の成長発展を犠牲にすることになる。移民抑制排斥も、頭脳の流入を妨げ知的新陳代謝を害する。「MAGA」に逆行するのである。
   それに、 「アメリカ第一」のために、アメリカを猛追する中国をターゲットにして排斥隔離政策を取ろうとしているが、諸般の事情で経済的覇権は握られなくても、グローバリゼーションに背を向けている限り、国際競争力を失った製造業の再興など望み薄だし、科学技術等先端分野ではキャッチアップされるのは時間の問題であり、 ファーストは維持できるとは思えない。歴史の趨勢を見れば明らかである。
   政府支出の削減については、小さい政府を主張する保守党の基本姿勢だが、養育や学術分野での削減は死活問題であり、それに、老朽化して崩壊の危機にある多くのインフラストラクチャの存在は、アメリカの経済体制や社会構造、将来の成長発展そのものの足かせとなりかねない。
   トランプは、最早インセンティブにさえなり得ない富者強者への減税政策を実施して国家財政を悪化させよう。健全な中産階級の育成など眼中になければ、弱者救済の確たる処方箋も示していない。益々、格差の拡大を促すことになる。

   勿論、経済は生き物なので、実際にはどうなるかわからないが、唯一の機関車がエンストを起こすと大変なことになる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」

2024年07月17日 | 映画
   英国初の女性首相として、1979年か1990年まで英国を治めた史上屈指の政治家マーガレット・サッチャーの若年から首相退陣までの伝記映画。メリル・ストリープの熱演が、サッチャーを彷彿とさせて感動的である。
   私自身この時期に、アムステルダムとロンドンに住んでいたので、このサッチャーの映画の舞台を熟知している。
   先日、NHK BSで放映されていてその録画を再見したのだが、殆ど忘れていて、新鮮な興味を感じて面白かった。2012年にレビューしているので蛇足だが、多少コメントしたい。

   戦後、ゆりかごから墓場までと言う福祉国家の鏡であったイギリスが、1970年代後半には、行き過ぎた社会主義政策と産業の国有化などで、傍若無人のストが頻発し国民の勤労意欲が低下し、既得権益にしがみつく傾向が増長蔓延して、経済と社会がマヒして、経済社会はどん底に落ち込んだ。世界中からイギリス病と揶揄されていたこの状態から、
   たったの10年で、労働組合を叩き潰して、東京都に当たるグレイター・ロンドンを廃止して、ビッグバンなど荒療治を実施するなど大鉈を振るって大改革を敢行して、英国経済を起死回生させたのは、紛れもなく、この映画の主人公であるマーガレット・サッチャーであって、恐らく、サッチャーが登場しなければ、以降のイギリス社会の繁栄は有り得なかった筈である。
   

   サッチャーが首相になった1979年のロンドンの惨状は、次の写真のとおりで、ストでごみ収集が止まって街路は廃墟同然。
    

   

   

   そんなサッチャーも、晩年に、英国民全員一律にに税金を課す人頭税で反発を買い、著しい独裁で閣内の人望を失って排斥されてしまう。

   一人寂しく、ダウニング街10を去ってゆくサッチャーに、ベッリーニのオペラ「ノルマ」の美しいアリア『清らかな女神』が、マリア・カラスの歌声で バックミュージックとして重なって感動的。多くのスタッフに見送られて、深紅のバラの回廊をドアまで進むとフラッシュの嵐。シットリとした幕切れである。
   

   

   この映画の一つのハイライトは、アルゼンチンに占領されたフォークランド諸島を奪還するために仕掛けたサッチャーの戦争への決断。
   政治的にも経済的にも危機に陥っていたアルゼンチンが、窮地を脱すべく打った大博打。まさか、イギリスが戦争を仕掛けるとは思わなかったとアルゼンチンの大統領が述懐したと言うのだが、サッチャーの意気込みは、やはり、女性ゆえに決断できたジョンブル精神の発露であろう。
   殆ど南極に近いフォークランド海域に、経済的に疲弊していたにも拘わらず妥協策を一切拒否して、国運をかけて海軍の3分の2を派遣して戦ったと言うのだから、イギリスとしては、血の滲むような苦渋の決断だった筈であり、サッチャーが梃子でも動かない鉄の女であった査証である。また、イギリスは、ウイリアム王子を英国空軍パイロットとしてフォークランドへ派遣した。

   映画なので、夫君デニスとの実生活など興味深い逸話なども描かれていて面白い。
   政界引退後、サッチャーは認知症を患っていて、既に亡くなっている夫デニスが幻覚として登場して、そのやり取りの中で、彼女のこれまで辿ってきた政治家、妻としての半生を振り返る構成で物語が展開してゆくのが良い。

   私など、政治経済問題の方に興味があるので、もう少し、ビッグバンに沸いたシティの動向や、ベルリンの壁やソ連の崩壊など歴史的大転換時期でもあったので、そのあたりのサッチャーの動向を知りたかったと思っている。
    
   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカの深刻な分断に思う

2024年07月15日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   驚天動地のトランプ暗殺未遂事件、
   ここまでアメリカの民主主義の闇が浸透したのかと思うと、恐ろしくなる。

   私がアメリカに住んでいたのは、1972年からの2年間、ニクソン大統領の時代で、ウォーターゲイト事件がアメリカ社会を震撼させていた。
   結局ニクソンは、この事件で、私がアメリカを離れて少ししてから辞任した。
   しかし、ベトナム戦争を終結させ、キッシンジャーと中国に渡って国交を開くなど偉大な業績を残したのである。

   私が問題にするのは、このことではなく、当時のアメリカでは、思想的というか政治的な深刻な二極化はなかったということである。
   貧困の撲滅などの実現を主張した「偉大な社会」を掲げた民主党のハンフリーと大統領選挙で戦った時の争点は、公民権運動やベトナム反戦運動の過激化などであって、今日のように、国家を分断する深刻な保守とリベラルの相容れぬ対立ではなかったのである。

   深く検証する余裕がないのだが、
   「経済だ、バカ “It’s the economy, stupid.” 」で、ブッシュに勝ったクリントン時代には、まだそれほど問題ではなかったように思う。
   しかし、この間、ベルリンの壁やソ連の崩壊で世界がフラットになって資本市場が拡大して、ICT革命とグローバリゼーションの拡大が呼応して、中印など新興国の経済的台頭で、一気に、グローバル経済の発展拡大を引き起こした。
   同時に、アメリカ経済の地位が低下し始めて、リーマンショックに端を発する2008年の世界金融大危機以降、経済格差の異常な高まりで、アメリカの資本主義が暗礁に乗り上げた。
   格差と貧苦に泣き、エスタブリッシュメントに反旗を翻した国民大衆が立ち上がって、「We are the 99% ウォール街を占拠せよ」が勃発し、
   現状を批判し否定して檄を飛ばしたポピュリズムの極致トランプ現象が出現した。

   しかし、問題は深刻である。
   トランプが叩き潰そうとしている民主主義が国民の福利厚生安寧に如何に大切かを知らずに、
   保守党が堅持しようとしている弱肉強食の市場万能の市場資本主義システムが富者強者を利するだけであって国民の益にはならないということに気づかずに、
   そして、第2次トランプ政権が、弱者の見方では決してないことを知らずに、
   アメリカ国民の多くは、トランプを鳴り物入りで囃し立てている。
   知的水準の格差、民度の格差が、アメリカを窮地に追い込んでいる。
   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

また、PLALAのメールアドレスが盗まれた

2024年07月12日 | 書評(ブックレビュー)・読書
  遅い午後、外出から帰ってOutlookでメールを開こうとしたらフリーズしたままで画面が動かい、メールが開けない。
   少しすると、小さな画面が表れて、IDとPWを打ち込めと指示が出た。ログイン指示だと思って、打ち込んだが、画面には送受信エラーが出ただけで変化がない。
   PWは、先月末のメールアドレス盗難事件で変更した新しいのを何度も確認して打ち込んだが、作用しない。IDはメールアドレスであり間違いないので、PWが不具合ということである。
   先のトラブルは、PWを盗まれてメールを乗っ取られて悪質メールを拡散されるのを察知したPLALAが、PWを急遽変更して悪化を回避したと聞いていたので、この事件の再来かと嫌な予感がした。

   PLALAに電話して聞いたら、やはり、PLALAのWevメールからメールが盗まれて、危機回避のために、PWを変更したので、メールの送受信ができなくなったということであった。
   急遽PWを変更してOutlookを開いたら、怒涛のように新規メールが飛び込んできた。2000に近いメール量である。
   その大半、というよりも殆ど全てが、Mail Administratorなどの受信拒否連絡メールであった。
   
   前回は、窃盗者に勝手に2件のオプションが申請されてメールが発信されて、その拒否通知の Mail Administratorで150通くらいで治まったが、今回はその10倍以上。
   時間切れで、PLALAとの連絡電話は切れて、翌日、専門スタッフから電話するということになった。
   前回と同じことをして、このオプションを消すのであろうが、この鼬ごっこがいつまで続くのであろうか。
   
   前述したように、PLALAへ電話して、はじめてメール窃盗の話が分かって対処しているのだが、PLALAからは、メールPWを変えろというメール案内だけ。
   大々的にPLALAからMAが盗まれて私のようなケースが起こっているのかと聞いたら、いくらかそんな電話があるという返事である。
   インターネットで、「PLALAメール障害」など類似の検索をしたが、DOCOMOからの、3月の「 PLALAの インターネット接続サービスに関する重:要なお知らせ(通信障害等)」があるだけで、一切私のケースのような障害報告はない。

   2週間足らずの間に、2回もメールアドレスが盗まれるという不祥事、
   DOCOMOというべきか、NTTグループのセキュリティシステムはどうなっているのか。

   このPLALAのメールアドレスを放棄して新しいメールに切り替えるのが一番良いのであろうが、もう20年近くも使っているので、影響が大きい。
   それに、このパソコンがダウンして先月初期化したので、メールアドレスなどすべて消去してしまったので追跡のしようがない。

   さて、どうするか。
   傘寿を超えたITディバイドの老人には死活問題である。
   PLALAからの電話を待って、続報する。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

平川 祐弘 著「日本人に生まれて、まあよかった」

2024年07月11日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   「自虐」に飽きた、すべての人に贈る辛口・本音の日本論! 日本人が自信を取り戻し、日本が世界に「もてる」国になるための秘策とは? 教育、歴史認識、国防、外交―比較文化史の大家が戦後民主主義の歪みを一刀両断!というこの10年前の新書版。
   積み上げた本の山を崩していて、どこかで見た名前だと思ったら、ダンテの「新曲」やボッカッチョの「デカメロン」で読んだ山川先生の本である。

   日本の良さとは関係ないが、この本の序章で述べている見解などが、私自身の経験ともダブっていて興味深いので、一寸触れてみたい。
   まず、著者の思想遍歴であるが、当時東大ではマルクス優位で、駒場寮で不破哲三と同室であったが、唯物史観には違和感があって、一種のオカルト集団だと思った。しかし、資本主義に対する社会主義の優位は当然のことと思っていた。という。
   「朝日新聞」や「世界」の読者で、南原繁や大内兵衛などの進歩的知識人を糾合した平和問題懇談会などの論壇主流の考えに従っていたのだが、イデオロギーには信を置かず、教養部では地道に複数の外国語を学んだ。フィロソフィー(哲学)ではなく、フィロロジー(外国語)を重んじた。その人文主義的アプローチのおかげで、真面な人生を送れた。マルクスに打ち込んだ人は、みなさん政治的にも学問的にも世間の役立たずになった。というのが面白い。

   ここで考えるべきは、一つの教条的な思想哲学に入れ込んで学ぶよりは、幅広くリベラルアーツを学んだ方が常識人というか、バランスの取れた人間を育成できるということであろう。専門教育の中途半端とリベラルアーツ教育の貧弱さが、日本の教育の欠陥であろうか。

   著者より10年くらい後の安保騒動で学生運動が熾烈を極めていた頃の京大だが、元々、経済学部の教授陣の7割がマル経であったので、文句なしにマルクスであった。
   ところが、私自身は、高校時代から「世界」を購読していて、かなり、進歩的思想には興味を持っていた。
   しかし、なぜか、マルクスには何の興味もなく主義信条にも関心がなく、学生運動やサークル活動に参加していなかったので、人並みに、学生集会に参加し、河原町通りなどでのデモ行進には参加したものの、安保反対運動や学生運動には無縁であった。
   ゼミは、理論経済学の大家岸本誠二郎教授を選んだので、マル経とは関係なかったし、ケインズやシュンペーターやガルブレイスなどを独習していた。
   サミュエルソンの「エコノミクス」で、近経の基礎を叩き込んだおかげ困ることはなかったし、その後、アメリカのビジネススクールでのマクロとミクロの経済学でブラッシュアップできたと思っている。
   今頃になって、マルクスの偉大さを斜めから垣間見て、少しは、勉強すべきであったと後悔している。

   ところで、ロンドンに居た時に、マルクスが住んでいた旧宅の跡地を何回か訪れている。
   ロンドンのウエストエンドの繁華街に、「クオバディス」というイタリアン・レストランがあって、その上階の屋根裏部屋がその家である。マルクスは、ここから、それほど遠くない大英博物館に通って勉強していたのである。薄暗い小部屋が並んでいて、当時そのままだとオーナーは言っていた。
   マルクス主義者にとっては聖地のはずだが、訪れる人は殆ど居ない。

  もう一つ付記しておきたい日本の良さは、
  東アジア諸国の中で日本のように言論の自由が認めれれている国に生を受けたことは、例外的な幸福であると感じています。私はこの類まれな幸福を誇りに思い、言論の自由、」表現の自由を尊ぶ者として、その事実を率直に公言することを憚りません。という指摘である。
   私は、ビジネスや私的旅行で世界各地を歩いてきて、特に不自由を感じたことがなかったが、学者として、多くの留学生や訪問教授と付き合い、西洋のみか東アジア諸国の大学で講義や講演を体験してきた著者にとっては深刻な問題であったのであろう。

   若いころは、ビジネスで東南アジア各地も走り回ったが、21世紀に入ってからは、台湾と中国への観光旅行だけである。
   しかし、最近では、何がひっかるかわからないので、もう、行きたくない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トランプよりバイデン、米国経済にとってどちらがよいか議論の余地なし There’s No Debating Who Would Be Better for the US Economy

2024年07月09日 | 政治・経済・社会時事評論
プロジェクト・シンジケートのジョセフ・E・スティグリッツ教授の論文There’s No Debating Who Would Be Better for the US Economy
   先に、「ノーベル賞受賞の経済学者16人がトランプ再選に警鐘」で、
「われわれは多様な経済政策の細部についてそれぞれ異なる見解を持っているが、バイデン氏の経済議題がトランプ氏よりはるかに優れているということに全員が同意する」と発表したのと同趣旨だが、採録する。

   トランプが富裕層への減税、新たなインフレ圧力の導入、COVID-19パンデミックへの対応ミスを行った後、バイデンは悪い状況を最大限に活用し、最終的に米国経済をはるかに強固な基盤に置いた。米国の有権者が経済の将来を気にしているなら、11月の選択は明らかで、トランプなら悪化でバイデンの方がはるかに良い。というのである。

   バイデンとトランプの討論会では、候補者の性格や個人的な強みに関する有権者の判断は重要だが、誰もが有名な格言「経済だ、バカ “It’s the economy, stupid.”」を覚えておくべきである。多くの展開は前任者によって開始されているから、大統領の経済運営を評価するのは常に難しい仕事である。オバマ前大統領は、前政権が金融規制緩和を進め、2008年秋に勃発した危機を阻止できなかったため、深刻な不況に対処しなければならなかった。経済がようやく回復に向かったころには、オバマは退任し、トランプが就任した。
   トランプが新型コロナの責任を問われることはないが、米国の死者数が他の先進国をはるかに上回る事態を招いた不適切な対応については、トランプに責任がある。ウイルスは多くの高齢者の命のみならず、労働力に打撃を与え、その損失がバイデンが引き継いだ労働力不足とインフレの一因となった。


   バイデン自身の経済実績は素晴らしい。就任直後に米国救済計画の成立を確保し、これにより米国のパンデミックからの回復は他のどの先進国よりも強力になった。その後、超党派インフラ法が成立し、半世紀に渡る放置の後、米国経済の重要な要素の修復を開始するための資金が提供された。
   翌年、バイデンは2022年CHIPSおよび科学法に署名し、経済の将来の回復力と競争力を確保する産業政策の新時代を開始した。そして、2022年インフレ削減法により、米国はついに国際社会に加わり、気候変動と戦い、未来の技術に投資した。アメリカ救済計画は、頑固で進化し続けるウイルスの可能性に対する経済的保険を提供しただけでなく、1年の間に子供の貧困率をほぼ半減させた。その後のインフレの原因にもなったといわれるが、アメリカ救済計画による過剰な総需要はなく、責任の大部分は、パンデミックと戦争によって引き起こされた供給側の中断と需要の変化にある。

   今回の選挙にさらに関係があるのは、将来に何が起こるかである。慎重な経済モデル化により、トランプの提案は、成長率の低下にもかかわらず、インフレ率の上昇と格差の拡大を引き起こすことが分かった。
   まず、トランプは関税を引き上げ、そのコストは主に米国の消費者に転嫁される。さらに、トランプは移民を制限し、労働市場が逼迫し、一部の部門で労働力不足のリスクが高まる。そして、財政赤字が拡大し、その影響で、心配するFRBが金利を引き上げ、住宅投資が減少し、家賃と住宅費がさらに上昇する可能性がある。もちろん、これらの影響をモデル化するのはかなり複雑である。関税によって引き起こされたインフレにFRBがどれだけ迅速かつ強力に対応するかは不明だが、経済学者たちは明らかに問題が起こることを予見している。彼らは早期に金利を引き上げることで、問題を未然に防ごうとするであ ろうか?
   トランプはその後、FRB議長を解任しようとすることで制度規範に違反するだろうか?市場は(国内外を問わず)この新たな不確実性と混乱の時代にどう反応するだろうか?

   長期的な予測はより明確で、しかも悪化している。近年のアメリカの経済的成功の多くは、確固たる科学的基盤に支えられた技術力によるものだが、トランプは引き続き大学を攻撃し、研究開発費の大幅な削減を要求している。前任期中にこうした削減が行われなかった唯一の理由は、彼が党の支持を完全に得ていなかったからだが、しかし、今は支持を得ている。
   同様に、米国の人口は高齢化しているが、トランプは移民の制限によって労働力の減少を容認するだろう。
   したがって、トランプとバイデン(または彼が離脱した場合に代わる民主党員)のどちらが経済にとって良いかという問題に関しては、議論の余地はまったくない。

   以上が、スティグリッツ教授の結論だが、非常に明確である。
   しかし、経済は生き物であるので、もしトラが実現して、トランプ経済が始動しても、すぐにアメリカ経済が悪化するとは限らず、確たる思想も哲学もない行き当たりばったりのトランプであるから、後先考えずに、ドラスティックな政策転換も考え得るので、何がどうなるか分からない。
   現状では、米中の深刻な対立や戦争経済下の東西の分断などで、国際経済は縮小し弱体化の危機に直面しているので、アメリカ経済の躓きはそれほど大きな影響はないであろう。それに、たとえ、アメリカ経済が衰退に向かっても、世界経済の発展成長は止められそうにない。
   もしトラなら、民主主義に背を向けて叩き潰そうとしているトランピズムの更なる台頭が国際秩序を攪乱し、二度の大戦を経て営々と築き上げられてきた西欧型の先進民主主義が退潮に向かう方が恐ろしいと思う。

   私は、トランプの第二次政権はないと思っている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

英国の政変:問題は経済だ

2024年07月08日 | 政治・経済・社会
   英総選挙の全議席が確定して、 労働党412議席で圧勝 保守党は121議席で大幅な後退である。投票率は59・9%で、01年総選挙に次ぐ第二次世界大戦後2番目の低さで、当初から労働党の圧勝が見込まれたことや、国民の政治不信が背景にあるとみられるという。

   大統領選挙で、ビル・クリントンが、「It's the economy, stupid! (経済こそが問題なのだ、愚か者!)」とブッシュを揶揄したように、今回の英国選挙は、すべからく国民生活を窮地に追い詰めた経済が問題であった。

   詳しく分析する余裕がないので、大和総研の「英国民の生活危機は去ったのか?  」を引用させてもらって問題を論じたい。
   インフレの現状について論じているが、国民生活の窮乏について、
英国FCA(金融行動監視機構)の報告書によれば、英国民の8割弱の人々は生活費高騰に対してなんらかの対応を取っていると回答しており、日々の消費の節約・先送り、省エネによる節約を行っていると回答した人は全体の半数を上回る。しかし、それでも3割弱の人が生活費の高騰に財政的に対処できていないという。
さらに興味深い内容として、物価高騰が人々のメンタルヘルスにも悪影響を及ぼしていることにも触れられている。物価高騰に対しストレス・不安を感じている人は全体の4割超おり、さらに「お金の心配で眠れない」「メンタルヘルスに悪影響が出ている」と回答した人は、それぞれおよそ2割に上る。英国では長期疾病を理由とした労働市場からの退出者が増加しているが、物価高騰による生活苦を背景としたメンタルヘルスの悪化が、人々の労働参加に影響している可能性が示唆される。
こうした報告書の内容を踏まえると、これまでの物価高騰による英国経済への悪影響は想定以上に長引くかもしれない。インフレ率は今後も低下し、統計上は実質賃金の増加傾向は続くと見込まれるが、人々の気持ちが前向きにならない中では、個人消費の本格的な回復は期待し難い。

    先日、NHKの英国の国民医療制度の崩壊危機報道について触れたが、大規模な鉄道ストも起こっているのだが、この大和総研の報道だけでも、一般英国市民の経済状態の窮状悪化ぶりは明白であろう。
   まさに、(経済こそが問題なのだ、愚か者!)」であって、こんな状態では、政変は必定である。

   私が、英国経済というよりも、英国国家そのものが、危機的な状態になっていて、政治経済社会全体が機能不全に陥っていた時代、サッチャー政権への移行時期、をよく知っている。
   ゆりかごから墓場までの福祉政策を推進していたはずの労働党政権の失政で、まさに、国家体制崩壊の危機に瀕していたのである。

   私の経験だが、ヒースロー空港の通関では、殆ど間違いなくスーツケースが全部開けられて中身を盗まれるのは毎度のことであった。
   シティでは、ストでごみ収集をやらないので、ごみが金融街に舞って散乱しており、ロンドン全体が戦後のような混乱状態であった。
   労働組合の横暴サボタージュは極に達していて、
   たとえば、自宅の塀の補修を依頼すれば、仕事引き延ばしのために、職人が1日にごく少数のレンガを積んだだけで帰って翌日に回して、2~3日で終わる作業が、延々と1か月以上掛る状態で、こんな現象が全英に蔓延していて、国家はマヒ寸前。
   踊り出たサッチャーが、業を煮やして蛮勇をふるって、労働組合を叩き潰して政治経済社会改革を実施し、
   その後、次から次へと荒業を遂行して、ビッグバンへ突き進んでいった。

   私が、ロンドンを含めて、ヨーロッパに在住して、イギリスの国情を具に見ていたのは、1979年から1993年、
   マーガレット・サッチャーとジョン・メージャーの保守党時代である。
   したがって、英国社会の混乱から金融ビッグバンでのシティの活況への道程は、ベルリンの壁とソ連の崩壊、そして、歴史の終わりともいうべき民主主義のグローバルベースでの大変革などとともに、ロンドンで体験している。
   弱肉強食の競争優位の市場原理主義を強行して資本主義を軌道修正したサッチャリズムやレーガノミクスには功罪あい半ば、批判も多いが、英国にとっては、必然の道程だったのであろう。
   その後、トニー・ブレア政権に移って、やや、左旋回して中道左派の国家体制に移るのだが、ブレクジットで危機に直面する。

   賢い筈のイギリスが、信じられないような愚かな道に陥る。
   今回の総選挙は、奇しくも、このケースであろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界的な選挙ラッシュに思う

2024年07月06日 | 政治・経済・社会
   各メディアが、   
   「イラン大統領選、改革派のペゼシュキアン氏、決選投票で勝利」と報じた。
   穏健派であったロウハニ政権以来の対外融和路線に3年ぶりに回帰することとなり、欧米との対立を深めたライシ師の保守強硬路線が、核開発問題などを巡り国際協調を図る方向に転換することとなろう。
   最高指導者ハメネイ師の影響下にある護憲評議会は、国際協調を重視する穏健派や改革派の有力候補を相次いで失格にして候補者を絞ったのだが、有権者の体制不信を招いたこともあって、米国の制裁で疲弊した経済を立て直すためには、欧米と対話を重ねて核合意を再建し、制裁解除が必要だと訴えたペゼシュキアン氏が勝利した。
   イランは、 “ヘジャブ”事件以降、すでに、歴史の振り子が穏健派へ反転していたのである。
   興味深いのは、この記事を見て、すぐに、NYTとWPのHPを開いたのだが、トップページの記事の片鱗さえないことである。
   イランは、ペルシャ以前からの偉大な文化歴史国家であって、現下ではアメリカに盾突いているだけ、
   いずれにしろ、この選挙の結果は、イランにとっても世界にとっても朗報だと思っている。

   イギリスの総選挙は、 労働党が単独過半数を獲得して大勝して、14年ぶりに政権交代 して、スターマー党首が首相に就任した。
   1年前、BBCは、「イギリスは「失われた経済成長」が今後5年続く シンクタンクが警告、格差も拡大し貧しい人ほど影響を受ける 」と報じていた。欧州連合(EU)離脱と新型コロナウイルスのパンデミック、そしてウクライナでの戦争が、イギリス経済に悪影響を与えているというのだが、悪性のインフレにも祟られて国民生活を疲弊させて、国民医療体制の崩壊危機にまで追い込んでいる。
   ロンドン市内の1か月の家賃が平均およそ47万円!? とNHKが報じているから、正気の沙汰ではない。
   失政続きの保守党の退場は当然で変革が必要であろうが、確たる明確な施策方針が見えないうえに、財政逼迫で財源もなく妙手も見出し得ない労働党政権に何ができるのか疑問だが、ブレア時代の中道左派的なリベラル政治を目指すようだから、一応期待しよう。

   フランスの選挙だが、NHKが、「仏議会下院選挙の決選投票 極右政党は過半数獲得しない可能性」と報じている。
   200を超える選挙区で与党連合と左派の連合が候補者を一本化したことから、国民連合は第一党となるものの、当初の勢いをそがれ過半数の議席を獲得する可能性が遠のいたというのである。
   先のEU議会選挙の極右政党の躍進、特にルペンの国民連合の大躍進には、フランス政治の大激震を予感させたが、あまりにも性急な右傾化で、振り子を左側に振り戻す必要があろう。

   さて、アメリカの大統領選挙だが、民主主義を叩き潰そうとしているトランプに対する拒否反応が増すばかりで、論評を避けたい。
   バイデンでも現状維持が良いところで、何も進歩向上は望めないが、自由平等と平和を守ろうとする自由民主主義を堅持し発展させるのは人類の使命だと思っている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

旧NISAの非課税期間終了時の対応

2024年07月04日 | 経営・ビジネス
  新NISAで、システムが変わった。 
  2023年までの旧NISA(一般NISA)での非課税期間満了時の対応については、非課税期間には期限があり、その期間は5年なので、投資してから5年経ってそのままにしておくと、非課税期間終了後に保有商品は課税口座へ移管される。しかし、非課税期間終了前には非課税扱いで売却できる。
   年内に売却しなければ、NISA口座ではなくなり課税されるが、年内に売却すれば、売却益が非課税で受け取れる
   というのである。

   株価が急騰しても、バブル時に買った銀行株が大幅な赤字のままなので、動くに動けず、野村のホームトレードのページを開くこともほとんどなかった。
   しかし、何の気なしに久しぶりに、マイページを開いて、預かり証券を見ると、NISA預かりの銘柄の某株欄に「本年末NISA期間満了預かりあり」という赤字の囲い表示がなされている。

   この株が、前述の非課税機関満了前の株で、年内に売却しなければ、免税の特典を受けられなくなる持ち株なのだが、最初は何をどうすれば良いのかわからなかった。
   インターネットを叩いて、旧NISA(一般NISA)での非課税期間満了時の対応について検索してみたら、冒頭のような情報が出て、年内に売らねばならないことが分かったのである。

   株価はともかく、評価損益はプラスであり、現在日経株価はほぼ頂点にあって、株価を詮索しても意味がない。
   気付いた時が幸いと、「取引」をクリックして、即刻、成り行き任せで売却した。
   免税されていて手数料を取られただけで、泡沫少数株主なので、損益は僅かではあったが、多少助かったという思いである。
   その株を維持したければ、株価が少し下がったときに、新NISAで買い戻せばよいのである。 

   これまでは、旧NISA株は、証券会社の指示でロールオーバーを続けていて心配なかったのだが、新旧入れ替え時にはそうはいかない。
   何でもそうだが、歳を取ると、変化について行くのが難しくなる。
  



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イギリスの公的医療制度NHSが危機的状況

2024年07月02日 | 政治・経済・社会
   昨夜、NHKの国際報道2024で、「公的医療制度とインフレ 英国が直面する課題」を放送した。
   7月4日に行われる総選挙で、最大野党・労働党の政権交代が広く予想されている。その選挙における大きな争点となっているのが、「機能不全に陥っている」とも指摘される公的医療制度、そしてインフレに伴う生活苦への経済対策だ。与野党双方が争点の改善を訴える今回の選挙を通じて、イギリス社会が直面する深刻な課題を伝えている。

   特に深刻なのは、NHS(国民健康サービス)が崩壊寸前だということである。
   子供のころに「ゆりかごから墓場まで」というキャッチフレーズで、福祉国家の見本としてイギリスが称揚されていて羨ましく思ったのを思い出す。
   その一環ともいうべき、「診療・治療・原則無料」というNHSが、財政難で危機に瀕しているという。
   現在、治療を待つ人は750万人で、待つ時間は、平均3か月半だというから、機能不全である。
   財政難による保守党の緊縮財政で、予算・人員の不足、それに二けたのインフレが続いて医師たちの生活がひっ迫してストライキが頻発、待遇の良い国外に去る医療関係者も多くて、公共医療制度は崩壊寸前である。
   若い医師が、「夜勤で300人の患者を一人で担当したが、時給は14ポンド(2800円)だ」と語っており、政府は何もしないので医療の質がどんどん落ちているというのである。


   選挙前の党首討論で、両党首とも改善を公約しているが、財政の裏打ちがないので、から手形だということのようである。
   なぜ、イギリスの経済がかくまで悪化したのか、
後先を考えずに突っ走ったBrexit と保守党の無為無策なのであろうが、考えられないような没落である。


   さて、私も5年間ロンドンに住んでいたので、イギリスの医療サービスのお世話になった。
   しかし、高度な保険からいろいろな私的な健康保険があって、
   我々海外駐在員は、このようなNHSの公的保険には関わりなく、民間の医療保険に加入していたので、至れり尽くせりの医療サービスを受けることができて、問題はなかった。

   このイギリスの例と同じことをブラジルで経験している。
   一般のブラジル人は無料の公的保険に頼っていたので、何か月も待たされていたが、金持ちは私的保険で十分な医療サービスを享受していた。
   アメリカの医療制度は、最悪だが、
   外国では、完備した高価な民間の医療保険に加入するのが必須であって、病気もすべて金次第という世界である。
   アメリカ留学の時は、会社の制度もいい加減で医療費負担ということだったが、入学時に、ペンシルベニア大学医学病院で面倒を見るという通知を受けていたので、まあいいかということで、とにかく、保険を気にせず2年間過ごした。
   若くて元気だったので、家族ともども無事に過ごせたのであろう。

   ところで、イギリスもフランスも、敗北覚悟で選挙に出た。
   自由な民主主義の守り手として天下の御旗を振り続けてきたエスタブリッシュメントに失望した国民は、ドラスティックな変化を求めて動き始めた。
   アメリカの動きは危機的様相を呈していて、民主主義を叩き潰そうという勢いである。
   ガラガラポン、行きつくところまで行って、歴史の軸心を変革しなければならない、ということであろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする