熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

台頭するブラジル(仮題 BRAZIL ON THE RISE)(14) 産業の巨人、農業のスパーパワー その1

2011年08月31日 | BRIC’sの大国:ブラジル
   ブラジルはBRIC'sの一国ながら、中国やインドと比べて、人口は一桁少ないのだが、既に、GDPは、世界第8位で、カナダ、イタリア、フランスを抜き去るのは秒読みであると言う。2050年には、中国、アメリカ、インドに次ぐ世界第4位の経済大国になると予測されている。
   ブラジルの貧困と所得格差は極めて深刻な問題なのだが、一人当たりのGDPや制度の強化などの面では、アジアのライバルよりも、はるかに高いレベルで開発を進めて近代化を図っていると言う。
   一人あたりのGDPは、2008年に、1万ドルを突破しており、中国やインドよりもはるかに高い。

   ブラジルは、農産物や鉄鋼などの鉱産物の大産地ではあるのだが、輸出の過半は、航空機、自動車などの工業製品であり、非常にバランスのとれた工業国でもあると言うことである。
   こうなったのは、須らく、ハイパーインフレを抑えてブラジルの経済社会の方向を変えたカルドーゾ大統領とその路線を継承したルーラ大統領治世のこの16年間にある。
   ブラジルには、大航海時代を開いて世界に雄飛したポルトガル魂が息づいており、天然資源に恵まれるなど経済的ダイナモを秘めた無限の可能性があったのだが、政治的意思、経済的インテリジェンス、政策の持続継続性が著しく欠けていたために、あたら、貴重なチャンスを棒に振って来たのだが、インフレを抑制し、経済を広く世界に開放することによって、一気に、ブラジル人の発展のための火ぶたを切った。
   ラ米の常として、ブラジルのインフレも、苛烈を極め、1970年代初期に、コレソン・モネタリア(インデクセーション)を実施して、一時小康状態となり、「ブラジルの軌跡」を現出したのだが、所詮は、インフレをビルトインした経済であるから、デノミや通貨変更を何度繰り返しても終息せず、1980年末には、年率2700%を越え、経済社会を暗礁に乗り上げてしまったのである。その数千%のインフレを、「レアル・プラン」で一挙に一桁台にまでダウンさせてしまったのだから、カルドーゾの功績が、如何に、偉大であったかが分かる。

   ドルにリンクした新通貨レアルの導入にあたっては、徹底的な財政規律の確立と収支のバランス維持に努め、実施後は、高金利を実施するなど、経済全般には多くの後遺症を残してはいるが、インフレが終息したので、これまで市場からはみ出ていた沢山の労働階級や下位の中産階級たちが、市場に参入して、耐久消費財などを買い始めて、経済が拡大に向かい始めた。
   その後のルーラ政権で、最貧層に無償で支給するボルサ・ファミリアが実施されたことになり、更に、貧民層を市場に取り込むなど、ブラジル経済の拡大に拍車をか駆けることになったのだが、何故か、著者ルーターは、このBolsa familiaについて言及していないのが不思議である。

   ブラジルの貧困と社会格差の酷さは、世界でも群を抜いた悲惨さで、これが、ブラジルの治安の悪化を招いているのだが、このレアル・プランとボルサ・ファミリアの導入で、下位の労働者階級や貧民層の経済状態を向上させ、市場に巻き込んでブラジル経済を拡大させたお蔭で、先年の世界的な金融恐慌からのダメッジは軽微に済んだ。
   尤も、ブラジルは、輸出が大きな比重を占めていて内需拡大を目指している中国などと違って、国民の消費がGDPの60%を占める国内市場経済優位の経済構造であり、これが、ブラジルの将来の経済発展に大きな意味を持つであろう。
 
   ところで、アメリカでは、ブラジルは、コーヒー・イメージの国のようだが、ラ米全体の5分の3の工業製品を生産する工業国なのである。
   サンパウロからリオ、ベロホリゾンテの三角地帯が、この工業の中心で、自動車、鉄鋼、セメント、電気機器および部品、紙、化学・肥料等々、これらの製品の多くが輸出されていると言う。
   この工業の隆盛が、豊かな鉱物資源の開発を誘発し、石炭を除いて、殆どの鉱業品の生産の拡大を助長している。

   しかし、ブラジルの経済大国の将来を更に明るくしているのは、農業のポテンシャルと生産力であろう。
   中国やインドには、殆ど拡大の余地はないが、ブラジルには、農業生産を拡大するための無限の緑野や未開の土地と、そして、豊かな水資源がある。
   ローターは、アメリカは農業で得た富を工業基地の建設に活用して来たが、ブラジルは、農業および工業ともに経済発展の原動力になるであろうと言う。
   この章の原題が、INDUSTRIAL GIANT, AGRICULTUAL SUPERPOWER と言うことなのだが、この言葉を冠し得る国は、今のところ、ブラジルだけであろう。

   ブラジルは、ポルトガル植民地以来、殆ど単独の農産物に依存するモノカルチュア経済で、砂糖、ココア、コーヒー、ゴムと言った調子で、サイクルを打ちながら経済を維持して来たのだが、1970年以降、農産物生産を多角化して、今日では、これらの他に、大豆、オレンジ、綿花、たばこ、コーン、牛肉、豚肉、鶏肉等々多くの産品を生産して、その多くを輸出している。
   この多角的農業政策が功を奏して、農産物価格の乱高下に対して抵抗力がついたと同時に、世界市場でのバーゲニング・パワーが格段に強くなった。
   砂糖のために育成していたトウモロコシを、エタノール生産のために転用するなど、如何にもブラジルらしいが、サバンナのカンポ・セラードやアマゾンの開発など、環境問題も含めて、農業のスパー・パワー・ブラジルにも、多くの宿題が、前途に山積している。
   ブラジルの産業政策についての問題点など、次回に論じることとする。
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