熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

台頭するブラジル(仮題 BRAZIL ON THE RISE)(13) 創造性、文化、カニバリズム

2011年08月22日 | BRIC’sの大国:ブラジル
   1500年にブラジルが植民地化された初期には、到着したヨーロッパ人たちの一部は、インディオ原住民に食べられたと言うことなのだが、ローターは、ブラジル文化には、そのカニバリズム・食人習慣が濃厚に反映されていると説いている。
   イパネマの娘やカーニバル、或いは、ブラジリアの広大な道路と聳え立つガラスとコンクリートの建物など、驚嘆すべきバイタリティとバラエティに富んだ力強いブラジル文化を見れば、ブラジル人にとっては、これら総てが、antropofagia(cultural canibalism)現象で説明がつくと言うのである。

   最初から、ブラジル文化は、ヨーロッパ人とアフリカ人と原住民の要素の混合であったのだが、他の世界との関係においても、例えば、19世紀のフランス文学にしろ、ハリウッド映画にしろ、20世紀の英国のポップ音楽にしろ、何でも、貪るように貧欲に吸収消化して、それらの文化を器用にもブラジル流にアレンジし生成し直して、再び、新しい文化として世界に逆発信している。
   ボサノヴァが良い例で、アントニオ・カルロス・ジョビンが、アメリカのジャズとショパンなどのクラシック音楽の影響を吸収して、サンバなどのブラジル音楽をミックスしながら新しい典型的なブラジル音楽を創り上げた。
   このような外来文化を、食人種のように飲み込んで、独特なブラジリアン・フレイバーで味付けをして典型的なブラジル文化を生み出す現象を、文化の食人習慣(cultural cannivalism)と称しており、このことが、ブラジルの文化の需要と発信の特色を成していると言うのである。

   何故そうなのかと言うことについて、ブラジルでは、人生そのものが、予想通りに上手く運ばなくて軌道を外れることが普通であるから、ブラジル人には、どんなことがあっても、敏捷に、創意工夫を凝らして、即興的に対応できる能力が要求されており、これが当たり前の処世術であるから、ことに及んでも、即座に創造性が発揮されて難局を乗り切ることができるのだと言うのである。
   人生は思い通りには行かないのだから、どんなことが起こっても、受けて立って上手く処する。先回に論じたブラジル人の人生を楽天的に生きるラテン的トロピカル感覚に相通じるメンタリティでもあろうか。
   他の国では、人生が破壊的で無秩序であっても、ブラジルでは、生産的に変え得ると言うのである。
   人生において、その場その場で臨機応変に適応できると言う特質から生まれる創造的な行動力は、特に音楽やダンスなど文化方面で如何なく発揮される。

   英国のパブリック・スクールで生まれた消化不良を起こすような肉体的にもぎこちないスポーツでも、ブラジル人にかかるとダンスや芝居のように楽しいスペクタクルに変わってしまって、そのスタイルが、世界に普及することになる。
   これは、先回、ブラジル人が、軍人教育や訓練の場であったようなサッカーを、カーニバルの先頭を行くサンバダンサーのような俊敏さを発揮するサッカー選手の目の覚めるような名人芸披露のスポーツに変えてしまったと言うケースと全く同じであろう。
   何でも賭けようとするメンタリティのイギリス人によって、殆どの球技など目ぼしいスポーツは、イギリスで生まれているのだが、この無味乾燥な勝負のみのスポーツを、血の通った楽しくてワクワクするようなスポーツにイノベイトするのが、お天道様はわれらが味方と信じて、今日が楽しければ何でもすると言うブラジル人気質だと言うことであろうか。

   この文化のカニバリズムは、音楽から建築まであらゆる部門に広がっていると言う。
   ブラジルでは、バスや地下鉄に乗っていても、乗客のなかで、急にサンバのリズムが湧きおこり、踊り出すと言うのは当たり前で、リオの高級レストランでは、支配人が、客にリズムを取らないで欲しいと頼まなければならない程だと言うから、とにかく、じっと大人しくしておれないのである。
   ガソリンがなければ車は走れないが、外貨がなくて高くて買えない。同じ油ならアルコールで走れないかと、エタノール車を生み出したブラジル人の心意気も、この国民性の発露であろう。

   ローターは、この章で、ブラジルの文化について、サンバからボサノヴァ、シネマ、絵画、文学、芝居など多方面にわたって、ブラジル文化の創造性、文化創出、カニバリズムについて持論を展開していて面白いのだが、私の得意とする分野ばかりではないので詳細説明は省略する。

   いずれにしろ、ヨーロッパ人と黒人とインディオの血のミックスしたブラジル人の、cultural cannivarism,
すなわち、人食い人種のような旺盛で貧欲な吸収欲で外来文化を吸収消化して、即席即興の創造性の才を発揮して、ブラジル流の新しい価値を付加した文化を生み出して世界に発信すると言う素晴らしい才能が、カラフルで内容豊かな世界文化のエンリッチに貢献していると言うことである。
   私が、このブログで何度も書いているイノベーションを生み出す秘密であるメディチ・イフェクトと同じような効果が、ブラジル人気質には、ビルトインされているのである。
   外来文化を吸収して独特な新しい文化を生み出すと言うのは、何となく、日本人に似ているような感じがするのだが、日本の場合には、即興的刹那的名人芸ではなく、もう少し緻密に磨き上げられた精神性の高い高度な文化のような気がすると言うのは、偏見であろうか。

   とにかく、岩山にそそり立つ巨大なキリスト像を真横に眺めながら、真っ青に輝く空と海の狭間に浮かぶ可愛い恐竜のような姿をしたポン・デ・アスーカと真っ白な砂浜に縁どられた海岸線のコパカバーナやイパネマの高層ビルが立ち並ぶ街並みを上空から眺めると、こんな美しいところだと、どんな素晴らしい文化が生まれても不思議ではないと思えるのだから楽しい。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 私のミシュラン・ガイドの使い方 | トップ | 八月花形歌舞伎・・・怪談乳房榎 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

BRIC’sの大国:ブラジル」カテゴリの最新記事