熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

台頭するブラジル(仮題 BRAZIL ON THE RISE)(17) 燃えるエネルギー その2

2011年10月21日 | BRIC’sの大国:ブラジル
   ブラジルは、アメリカと並んで世界屈指のエタノール大国であるが、最初は、嘲りや失敗すると言われ続けながらも、ものともせずに、無視して挑戦した科学者や政府の役人がいたからこその成功である。
   それに、ブラジル最古の栽培植物であるサトウキビを500年間も育て続けていたお蔭で、このサトウキビをエタノールに転用する技術を開発して、21世紀に必須となる再生エネルギーのスーパーパワーとなったとローターは言う。
   エタノールは、ビールやワインと同じ発酵なので、色々な植物のセルロースから生産可能であるが、サトウキビは、アメリカのエタノールの原料であるトウモロコシよりも、はるかに効率が良く、それに、生産コストや土地代の安さが貢献して、他国よりも、競争力がある。

   エタノールは、単位当たりの走行距離は、ガソリンには劣るが、オクタン価が高く、再生可能であり、何よりも、地球温暖化に優しいのが利点である。
   ブラジルが、エタノール開発を決心したのは、1973年に勃発したイスラエル・アラブ戦争の結果、石油が一挙に高騰したオイル・ショックのために、繁栄を謳歌していた「ブラジルの奇跡」が、失速して窮地に立った時である。
   私は、オイル・ショックは、アメリカ留学中に経験したのだが、その翌年、まだ、余燼が残っていたブームのブラジルに赴任したので、ブラジル経済の混乱ぶりは具に知っている。

   当時、エネルギー対策として、ブラジルが考えていたのは、原子力発電で、1975年に、ドイツと契約を締結して2000年までに7つの原発をリオ近郊の海岸線に建設することだったが、実際には、2010年までに2基が完了しただけだと言う。
   一方、ブラジルの軍事政権は、1975年に、Pro-Alcool計画を打ち上げて、砂糖産業に補助金を支給して、更に、自分たちの生産する車につかえるような新しい燃料が生産されるまで、エタノールで走るエンジン装備の車の生産を渋っていた、大手の自動車会社にも、同様のインセンティブを与えて尻を叩いた。

   砂糖産業にしても、大量にエタノールを作って売れ残れば、致命的なダメッジで、正に、鶏が先か卵が確かのチキンレースであったが、1980年半ばには、主にサンパウロだが、新車80万台の内、75%の車が、エタノール・エンジンを搭載して走り始めたのである。
   私自身、この頃、サンパウロに出張して、エタノール・タクシーに乗ったが、全く違和感がなかったのを覚えている。

   ところが、面白いのは、1989年に、世界的な砂糖の需要拡大で、一挙に砂糖価格が高騰したので、砂糖農家は、エタノール生産を縮小して、外貨獲得のために砂糖生産に切り替えたので、エタノールが不足して、自動車会社も、エタノール車をガソリン・エンジン車に切り替え始めたのである。
   農家は、生産段階で、砂糖にもエタノールにも切換自由なのだが、そこは、資本主義の市場経済であるから、この混乱はしばらく続いたのだが、2003年に、ガソリンでもエタノールでも、どちらの燃料でも走る車「フレックス・カー」をフォルクス・ワーゲンが開発したので、一挙に問題が解決した。
   消費者は、スタンドで、どちらでも安い方を選んで給油すれば良いのであるが、現在売られているガソリンにも、25%エタノールが混入されていると言う。

   このフレックス車の登場で、ブラジルの自動車産業は活況を呈して、輸出も拡大し、今や、フランスを抜いて、世界第5位の自動車生産国となった。
   しかし、破竹の勢いである筈のブラジルのエタノールの輸出が振るわないのは、単純な経済的政治的な理由で、アメリカやEUの強い自国農業保護政策の為で、それを見越して、ブラジルが喉から手が出るほど欲しがっている外資が逡巡して投資して来ないのだと言う。

   もう一つ問題なのは、世界の環境団体が、ブラジルのエタノール生産が増大すれば、貴重なアマゾンの自然環境の破壊に繋がると懸念しており、また、人権団体が、植民地時代に逆戻りするような劣悪な労働環境を助長することになると反対運動を展開していることである。
   しかし、現在では、サトウキビの処理は、オートメーション化されており、アマゾンは、トウモロコシ生産には不向きで、大半サンパウロ近辺で生産されている言うことだが、エタノールか砂糖かと言うエネルギーと食との争いも含めて、如何せん、世界世論の抵抗は厳しい。

   それよりも、先に論じたように、ブラジルが、プレサルの膨大な油田の発見で、殆ど、エネルギー問題は解決済みと言う認識で、プレサルの開発に関心が行ってしまって、エタノールの影が薄くなってきたのも事実である。

   しかし、エタノール車の開発とフレックス車の開発は、一種の自動車のハイブリッドたるイノベーションであって、今後、新興国発のリバース・イノベーションの一種として、グローバル・ベースで展開される可能性も大であろうと思う。
   やれば、どうにかなると言う楽天的なブラジル精神の発露である。
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