熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

台頭するブラジル(仮題 BRAZIL ON THE RISE)(21) これからの政治の課題

2011年12月13日 | BRIC’sの大国:ブラジル
   1985年に右翼系軍事政権が崩壊して以降、今日のブラジルを築き上げた偉大な大統領は、カルドーゾとルーラであろう。
   カルドーゾが、ルーラ・プランを実施して、ブラジルのハーパー・インフレを終息させて通貨を安定させ、経済を軌道に乗せると同時に、混迷続きの政治を安定させ、これを継承したルーラが、経済成長を図って、国民の所得を引き上げて生活を豊かにし、国際収支を好転させて深刻であった債務超過経済を一気に債権国に格上げする一方、外交関係においても近隣諸国と貿易を拡大し平安を保っている。

   しかし、政治的には、ルーラ政権の8年間は、共和国の歴史上でも、金額的にもスキャンダル数でも、最も汚職が多かったと言われるくらい、いまだに、腐敗体質から脱却していない。
   汚職、詐欺、たかり、欺瞞、違法行為、縁故優遇主義などに対して、世論調査毎に、ブラジル人は、嫌悪感を示すのだが、ルーラが悪いことをしたと糾弾するのではなく、国会議員や閣僚たちに怒りの矛先を向けていたと言うのである。
   ルーターは、ルーラの酒癖が悪いと記事に書いた時、ルーラ自身が口封じに適用された軍政時代と同じ法律で、追放されたと権力乱用に息巻いているのだが、いくら法制度上は権利が認められていても、例えば、プレス報道をコントロールして脅迫威嚇をしているのだから避けようがない。
   ブラジル人にとっては、所得が増えて、中流国民が増加して生活水準が上がり、社会的インフラ投資が拡大し、生活が豊かになったのだから、ルーラ政権には好意的なのである。

   ローターは、ブラジルが豊かになればなるほど、継ぎはぎだらけの政治システムにビルトインされた欠陥故に、益々、政治が悪化し、汚職が増加する傾向にあると言う。
   1988年制定の憲法では、ブラジルの選挙制度は、アメリカのようにウイナー・テイクス・オールではなくて、比例代表制である。州毎に政党が選挙名簿を作成し、リストの上位から選ばれて行くので、最も金を使って買収した候補が当選すると言うことになっている。
   したがって、選ばれた議員には党へのロイヤリティなどはなく、慢性的に弱くて規律のない党を蔓延させる公算が強くなると言うのである。
   政治家が党を渡り歩くのはざらで、自分や領袖たちにとって有利な党へ靡いて行くのである。ある党から立候補して当選し、登院した段階で他党に移り、止める時には第3党に移っていると言うのは異常では何でもないらしく、某党の副党首は8回も変わったと言う。

   ブラジルには、必ずしも国会に議席を持っていないものもあるが、20以上の政党が乱立している。
   民政移行後、サルネイ大統領以外は、政権政党が国会の過半数を占めたことがないので、議案を通すためには、たえず交渉してコンプロマイズする必要があり、政局の混乱を招くこととなり、汚職や買収などの違法行為や腐敗行為が介入することになる。
   2005年6月にルーラ大統領が率いる与党・労働党は、政権基盤を磐石なものとするために連立を組む他党の議員に毎月3万レアルをばらまいていたと言われ、2006年3月27日には、経済政策の面でルーラ大統領を支え、「ブラジル経済の守護神」といわれたパロシ財務相までが汚職問題で辞任すると言うスキャンダルの連続だったが、ボルサ・ファミリアで最貧層に無償補助金を支給していたこともあって、貧困層の支持があって2次政権も持ったのであるが、とにかく、政権維持のためにも、金が動く国柄であるから、抜本的な政治改革は必須なのである。

   金銭であろうと他の報奨であろうと、このグルになって助け合い、裏工作をして、買ったり売ったりする買収工作塗れのシステムは、1988年成立の憲法に由来すると言うのだが、ブラジル人が、clientelismoと呼んでおり、従属と報奨の垂直連鎖を含む独裁モードのレギュレーション・システムだと言うことらしい。
   しかし、チリ―やアルゼンチンなどの他のラテンアメリカ諸国と違って、ブラジル政治で特異な点は、民主政治への移行をスムーズに推進したのは、ガイゼル大統領など穏健派の軍事政権のお蔭でもあると言うことである。
   メジチ大統領時代でさえ、クーデターを粉砕して、ある程度のデモクラシーの維持に努めていた。
   マルキスト・ゲリラの粉砕などによって、チリ―やアルゼンチンのように過激な軍事的政治闘争を避け得たことや、独立当初から、国家分裂を一度も起さすことなく、ブラジル一国で通し続けたと言うことも、ブラジルの特質かも知れない。

   ブラジルの政治システムがオーバーホールされない限り、誰が成っても、ブラジルの大統領は、民主的な国家の舵取りは不可能だろうとローターは言う。
   経済は、どんどん成長して大国になって行くのに、政治システムは、時代遅れの体制と慣習のままで進歩から取り残されて、そのギャップが拡大する一方である。
   経済的に豊かになった大企業や億万長者たちが、益々、民主主義的な原則や価値観を主張するようになって、時代錯誤の政治システムへの反発を強めて来ており、改革は急務となって来ている。
   改革には多くの問題を内包しているが、政党の安易な移動の制限や、比例代表制の選挙制度の改正などは、その一歩となろう。
   いずれにしろ、16世紀の建国以来培ってきたブラジル文化社会や価値観が、果たして、21世紀のBRIC’s大国ブラジルの将来に如何にあるべきかが、厳しく問われていると言うことであろうか。
   
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