熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

企業の持続的な生産性上昇こそ大切

2024年03月22日 | 政治・経済・社会
   今日の日経の経済教室に、祝迫得夫・一橋大学教授の
   「個人消費、低迷脱却の条件 企業の生産性上昇こそ本筋」と言う論文が掲載された。
   ポイントは、
   ○恒常的な所得増加でないと消費は増えず
   ○企業より個人・家計に対する安全網強化
   ○持続的な賃上げの鍵は企業の生産性上昇
   これに加えて、ゾンビ企業を駆逐する企業の新陳代謝の促進

   色々な日本経済についての理論が展開されているが、この論旨が一番自分の考え方に近いので、持論を加えながら考えてみたい。

   さて、株価が急上昇し、インフレの進行と同時に大幅の賃上げが発表されるなど、鳴かず飛ばずであった日本経済がデフレ脱却模様で、好循環が始動し始めたと、世論も色めきだしてきた。
   ”しかし景気回復がすべての経済主体に恩恵だけをもたらすわけではない。「失われた20年」の間にあったゼロインフレ下での緩やかな景気回復と異なり、現在の景気回復は明確なインフレと賃上げを伴っていて、経済全体の価格・賃金水準が上昇する中で、相対価格や相対賃金も大きく変化するだろう。企業ごとの競争力の差が値上げや賃上げの余力の違いという形で明確化する結果、競争力のない企業は市場からの退出を余儀なくされつつある。このままインフレと景気回復が継続し、金利がゼロを持続的に上回るような状況に至れば、金融面からも企業の選別が始まるはずだ。”という。
   コロナ禍の下、政府による救済策で生き延びていたゾンビ企業が救済策の終了とともに倒産している現状を踏まえれば、競争により振り落とされる企業をすべて救済しようとしていた民間企業全体にセーフティーネット(安全網)を用意することが経済政策として非効率なのは明らかである。と言うのである。

   重要なのはこの一点、私は、これまでに何度も繰り返して論じてきたが、
   日本の経済政策の問題は、競争を喚起して積極的な企業の参入・退出を図らずに、特に、競争力をなくしたゾンビ企業を温存させる愚をおかしたこと、
   企業の新陳代謝を促してイノベイティブな新規参入を促進できなかったことが、日本の生産性上昇率の低迷や国際競争力の低下の最大の原因になっていた。
   民間企業への過度なセーフティーネットやサポートを取り外せば、ゾンビを駆逐できる。
   
   ”企業に対するセーフティーネットを今までより限定的なものにして、その代わりに個人・家計に対するセーフティーネットを強化すべきだ。”という。
   新しい技能の獲得(リスキリング=学び直し)による労働者個人の人的資本への投資と生産性の上昇を通じた就業支援に重点を置くべきであり、
   健康寿命が延び退職年齢が次第に上昇して労働者が人的資本をアップデートすることが必要となり、また、生成AI(人工知能)や自動運転に代表される現在進行中の技術革新により、企業内での技術の向上・改善よりは、もっと汎用性の高い技術の獲得・導入の方が、労働者にとっても企業にとっても重要になっている。労働者にスキルの取得と人的資本への投資を促すような、社会的な制度設計が重要になり、個人を対象とした社会的セーフティーネットを充実させる方が理にかなっている。と言う、至極尤もである。

   ところで、この論文のタイトル「企業の生産性上昇こそ本筋」と言うことだが、
   個人消費を向上させ経済を活性化させるためには、個人・家計が持続的だと思えるような所得、すなわち恒常所得の上昇が必要である。
   政府の実施する一時的な所得減税や給付金による景気浮揚政策や少額を経済全体に均等にばらまくような財政支出等は、極めて限定的で効果は薄い。
   企業が恒常的所得の上昇を維持するためには、持続的に賃上げを実施することであり、そのためには、その前提となる企業の生産性の上昇を持続させる必要がある。
   したがって、政策面からは、一時的な財政出動による需要刺激策ではなく、労働者個人の人的資本への投資を促すなど企業部門全体の生産性上昇を促すような施策が求められる。と説く。

   この生産性の上昇であるが、
   日本の労働生産性は、先進国で最下位であり目も当てられない位低い。
   経済成長要因は、「全要素生産性の上昇、労働の増加、資本の増加」の3要素なので、日本の場合、人口増は少子高齢化でマイナス要因であり、投資も低迷しているので、経済成長のためには、全要素生産性の上昇アップ、すなわち、技術革新・規模の経済性・経営革新・労働能力の伸長・生産効率改善など幅広い分野の技術進歩が必須である。
   特に、少子高齢化で、移民を活用しない限り、労働人口減が急速に進み経済成長の足を引っ張るので、全要素生産性上昇率と資本装備率の上昇で労働生産性を上げて国際競争力を涵養して経済の質を向上させることが重要である。
   問題は、日本の潜在的経済成長力がどの位あるのかにもよるが、人口減をカバーするのがやっとだとすれば、今まで眠っていたゾンビ企業主体の日本企業が、起死回生して創造的破壊に邁進してイノベーションを起して、前述のような全要素生産性上昇を策するとは考えにくい。
   そうなれば、持続的に生産性が上がらないので、恒常的な所得のアップなどは期待出来なくなり、今年の春闘景気は一時的な現象に終って、岸田内閣の言う成長と所得の好循環など実現不可能となろう。
   人口減という十字架を背負った日本経済、
   持続的な企業の生産性アップによって分配原資を確保し続ける以外に生きる道はない。

   歴史は韻を踏むとか、ネオリベラリズムへの回帰とは言わないまでも、ケインズ政策を少し脇に置いて、サプライサイド経済学に目を向けても良い時期ではないかと思っている。
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最貧国ハイチの悲劇:フランス植民地のネガティブ遺産

2024年03月13日 | 政治・経済・社会
   ウクライナ戦争とガザーイスラエル戦争で影が薄いのだが、アメリカ大陸で最貧国のハイチで暴動が勃発して、治安が悪化している。
   ハイチの首都ポルトープランスの主要刑務所が2日夜、武装ギャングに襲撃され、4000人近い収監者の大多数が脱走した。
   アリエル・アンリ首相の退任をもくろむギャングのリーダー「バーベキュー」が率いるギャング団が、首都ポルトープランスの8割を掌握しており、多国籍治安部隊に対して団結して戦うと示唆し、アンリ首相が退陣せず、国際社会がアンリ氏を支持し続ければ、ハイチは内戦状態に陥り、最終的に大量虐殺が起きると警告していた。
   米政府もかねてより、アンリ氏に「政治的移行」を要請しており、アンリ首相は11日、辞任する意向を示した。

   さて、ハイチは、中米では珍しくフランスの植民地であった。フランスは、アフリカ大陸から無理矢理連れてきた奴隷を、サトウキビの大農園で働かせて生産した砂糖によってばく大な富を享受した。ハイチ国民は圧政をはねのけて、1804年に独立を勝ち取ったが、軍事独裁やクーデターなど政情不安が続き、更に過酷なフランスの搾取を受けて、政治経済社会など国家体制の基盤が整備されないまま、「西半球で経済的に最も貧しい国」となった。
   21世紀に入ってからも、国連の介入を招いたクーデターや、2010年の25万人以上の死者を出した大地震などに見舞われており、国力および国民生活は極度に疲弊した状態で今日に至っている。

   ところで、ハイチの貧しさについて、一度、このブログで書いたことがあったので、調べてみると、2018年8月のジャレド・ダイアモンド著「歴史は実験できるのか――自然実験が解き明かす人類史」のブックレビューであった。
   ハイチとドミニカ共和国の際立った比較で、カリブ海に浮かぶ、同じイスパニョーラ島を、東西に政治的に分断されているのだが、上空から見ると、直線で二等分された西側のハイチの部分はむき出しの茶色い荒地が広がっていて、浸食作用が著しく進み、99%以上の森林が伐採されている。一方、東側のドミニカ共和国は、未だに国土の三分の一近くは森林に覆われている。
   両国は、政治と経済の違いも際立っていて、人口密度の高いハイチは、世界有数の最貧国で、力の弱い政府は基本的なサービスを殆どの国民に提供できない。一方、ドミニカ共和国は、発展途上国ではあるが、一人当たりの平均国民所得はハイチの6倍に達し、多くの輸出産業を抱え、最近では民主的に選ばれた政府の誕生が続いている。と書いている。
   

   さて、この発展の違いはどうして起こったのであろうか。
   ドミニカ共和国に比べて、ハイチは山勝ちで乾燥が激しく土地は痩せていて養分が少ないと言った当初の環境条件の違いに由来している分もあるが、最も大きいのは、植民地としての歴史の違いだろうと言う。
   西側のハイチはフランスの、東側のドミニカ共和国はスペインの夫々の植民地であったのだが、その宗主国の奴隷制プランテーション、言語、人口密度、社会の不平等、植民地の富、森林破壊などに関して大きな違いを生み出し、これらの違いが、独立戦争への取り組みの違いを生み出し、次に海外投資や移民への受容性の違いを、そして、欧米各国による認識の違いを生み出した。さらに現代、独裁者の在任期間の違いを生み出し、最終的に両国の条件は今日全く異なってしまったのだと言うのである。

   ここで思い出したのは、最近、フランスの植民地であったアフリカ中・西部の国で、政変に歯止めがかからないこと。
   2020年にマリでクーデターが発生。その後も21年にギニア、22年にブルキナファソ、23年7月にニジェールで時の政権が武力によって転覆し、その多くでフランスに敵対的な軍政が発足し、マクロン仏大統領が「クーデターの伝染だ」と危機感を表明した直後に、ガボンで軍が反乱を起こしてボンゴ大統領を軟禁。
   何故、フランスだけが火を噴くのか。

   フランスの植民地政策や統治形態などについて確たる知識も知見もないので、何とも言えないのだが、ダイヤモンド教授が説く如く、フランスの宗主国としてのハイチの植民地統治が、
   奴隷制プランテーション、言語、人口密度、社会の不平等、植民地の富、森林破壊などに関してドミニカと大きな違いを生み出し、これらの違いが、独立戦争への取り組みの違いを生み出し、次に海外投資や移民への受容性の違いを、そして、欧米各国による認識の違いを生み出した。さらに現代、独裁者の在任期間の違いを生み出し、最終的に両国の条件は今日全く異なってしまった。原因だとするなら、
   フランスの植民地統治の熾烈さ残酷さ、その植民地政策のネガティブ遺産が、ハイチの命運をかくまで窮地に追い込んだとは言えないであろうか。

   何故、こう思うのかは、このブログで、”BRIC’sの大国:ブラジル(23篇)”を著して、ラリー・ローターの「BRAZIL ON THE RISE」を底本にして、ブラジルを徹底的に分析して、
   世界一大自然や膨大な資源に恵まれた一等国ブラジルが、政治経済社会の機能不全で、いまだに、鳴かず飛ばずでいつまでも未来の国であって、政治的にも腐敗塗れで後進状態のまま、
   この原因の大半は、ポルトガルの植民地統治によって刷込まれたポルトガルの後進的なネガティブな遺産の為せる業にあることを説明した。
   
   植民地支配が、如何に、世界の文化文明史をスポイルして、多くの人々をいまだに苦しませ続けているか、弱者に優しい世界統治を目指すことが如何に重要か、
   戦争も必死になって忌避すべきではあるが、発展途上国へのサポートを今ほど必要とするときはない。
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日本GDPドイツに抜かれて第4位に

2024年02月16日 | 政治・経済・社会
   昨年末頃から日経などメディアが、「日本GDPドイツに抜かれて第4位に転落」というニュースを報じていた。
   15日の夕方7時のNHKニュースで詳しく報じていたので、考えてみたい。

   日本の去年1年間の名目GDPは、平均為替レートでドルに換算すると4兆2106億ドルだったが、一方、ドイツの去年1年間のGDPは、4兆4561億ドルと日本を上回った。
   日本の経済規模は、1968年にGNP=国民総生産で当時の西ドイツを上回って、アメリカに次いで世界2位とった。その後、2010年にGDPで中国に抜かれ、世界3位が続いていたが、去年、人口がほぼ3分の2のドイツに逆転され、4位となった。
   1993年にGDPが500兆円を超えてから、それ以降30年間も500兆円台をアップダウンしていて、殆ど成長せずに低迷し続けている体たらくであるから当然である。
   

   日本では1990年代にバブル経済が崩壊して以降、長年にわたって低成長やデフレが続き、個人消費や企業の投資が抑えられてきた。
   また、円安ドル高の影響で、日本のGDPをドルに換算すると目減りすることや日本に比べて物価上昇率が高いドイツは名目のGDPの伸びがより高くなることも影響した。と言うのである。

   それでは、なぜドイツに抜かれたのか?
   NHKは、3つの要因を挙げて、次のように報じている。

   【円安と物価上昇】
   要因の1つは、為替相場と物価上昇率の影響。
   円相場は2011年には一時、1ドル=75円台をつける円高水準だったが、去年は平均で1ドル=140円台まで値下がりしていた。円安が進むとGDPを円からドルに換算する際、目減りすることになる。
   また、名目GDPは物価の変動に左右される。ドイツでは去年、物価の変動を除いた実質のGDPの成長率はマイナス0.3%だったが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあってエネルギーなどを中心に物価が高騰したことから、名目のGDPはプラス6.3%となった。

   【生産性の低迷】
   どれだけ効率的に製品やサービスを生み出すかを示す生産性の低迷も続いている。
   日本生産性本部のまとめでは、日本の1時間あたりの労働生産性は、おととし2022年、OECD=経済協力開発機構の加盟国、38か国中30位。比較可能な1970年以降で最も低い順位となり、11位だったドイツに差をつけられている。
   とりわけサービス業は、製造業に比べてデジタル化や省人化が十分に進んでいないと指摘されている。
   また、政府が打ち出してきた成長戦略や構造改革もなかなか実を結ばず、国の経済の実力を表すとも言われる「潜在成長率」も伸び悩んだ。

   【国内の消費・投資伸びず】
   一方、日本では1990年代のバブル経済の崩壊以降、長年にわたって低成長やデフレが続いてきたことも今回の逆転の背景にあると指摘されている。
   賃金が十分に上がらず個人消費が伸び悩んだほか、企業も国内への投資に慎重な姿勢を強めた。
   「輸出大国」を支えた製造業では、貿易摩擦や円高の影響で海外向けの製品を現地生産にシフトする動きも進んだ。
   日本の名目GDPのうち、「設備投資」の伸び率は、1988年にはプラス16.5%だったが、去年はプラス4.6%にとどまっている。

   IMFが去年10月に公表した試算では、日本の名目GDPは再来年・2026年には、人口14億人のインドに抜かれて世界5位となる見通しとなっている。
   日本では、今後、さらなる人口減少も予想される中、成長率の引き上げに向けて投資の拡大や生産性の向上にどう取り組んでいくのかが急務となっている。

   日経もほぼ同様な記事で、
   ドイツ経済は物価高がロシアのウクライナ侵攻以降長く続き、欧州中央銀行(ECB)の利上げもあって、23年は実質でマイナス成長と足元では振るわない。
   一方で、自国通貨建てで長期の推移をみると、日本の伸びはドイツと比べて低く、日本経済の生産性の低さを映しているといえる。ドイツでは2000年代以降の労働市場改革が生産性を向上させ、ドイツ企業の競争力を高めている。と報じている。

   さて、日本生産性本部の資料によると、経済成長に寄与する生産性要因との関係は、次表の通りである。
   
   このうち、労働生産性上昇要因としては、少子化高齢化による人口減傾向があり、資本ストック増加率は投資の停滞が続いているので、経済成長への寄与は期待出来ない。
   さすれば、労働生産性上昇には、全要素生産性の上昇率(伸び率)のアップであるが、
   これは、技術革新・規模の経済性・経営革新・労働能力の伸長・生産効率改善など幅広い分野の技術進歩を指しており、日本経済のアキレス腱は、この分野の異常な遅れで、生産性の向上の足を引っ張っている。全要素生産性上昇率と資本装備率の上昇が停滞していては、労働生産性の上昇など期待出来ないのは当然で、経済成長など望み得ない。

   実際の22年の1時間当りの労働生産性のの国際比較だが、次表の通りで、ドイツが87.2ドルで、日本は53.2ドルで、G7では最下位で、目も当てられないような惨状である。
   
   
   ドイツでは、企業競争力を高めるために企業振興公社が輸出を支援したり、労働者に対する教育・支援を定期的に行いスキルの向上を図っており、更に、ドイツには研究資金・税法・イノベーションの促進・税の優遇措置というメリットがあるので国内で投資を続ける価値がある と言うのである。
   日本政府は、どうであろうか。
   新しい資本主義等と称して「成長と分配の好循環」を唱えているが、生産性を上げ得ずに何の成長か、
   分配などはパイを大きくしてからの話である。

   失われた30年の間に、経営革新等に成功して成長した日本の大企業が一体いくらあるのか、
   優良企業のトヨタでさえも不祥事を起す日本企業の状態を思えば、経団連などで大口を叩く大企業の多くが、ゾンビ化したとしか思えない。

   いずれにしろ、生産性をアップして経済を成長軌道に導くこと。生産性のアップ、これ以外に道はない。
   人口減で成長が無理でも、全要素生産性上昇率と資本装備率の上昇で労働生産性を上げて国際競争力を涵養して経済の質を向上させることが重要である。

   蛇足だが、為替レートが少し円高に振れれば、日独GDP順位が逆転する。
   22年の購買力平価によるGDPは、日本が6,144.60、ドイツが5,370.29(単位: 10億USドル)、実質的には、まだドイツには抜かれていない。
   いずれにしろ、一人当たりのGDPになるとドイツとは大きく差が開いていて、日本は、G7で最低水準であり、貧しい国に成下がっている。
   こんな哀れな日本は、Japan as No.1の時代には想像できなかった。
   特に情けないのは、今回の物価上昇による便乗値上げで、多くのメーカーが増益だという、この体たらく、救いようがない。
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大阪万博2025の成功を祈る

2023年12月21日 | 政治・経済・社会
   万博と言えば、私には、1970年に大阪で開催された日本万国博覧会。
   今でも跡地に岡本太郎のシンボルタワーが建っているが、77カ国の参加のもと6400万人を超える入場者によって好評のうちにその幕を閉じた。

    ところが、今、喫緊に迫ってきた大阪万博2025について、コストが異常に高騰したとか、外国の意欲後退で準備が遅れているとか、批判が噴出して、逆風が吹き荒れている。
   しかし、ここに至っては、万難を排して、絶対に前向きに対処して成功させるべきだと言いたい。
   本来、文化文明の発露、お祭り騒ぎのイヴェントなどと言うものは、金に糸目をつけない贅沢の象徴のようなものであって、セコイ商業主義が跋扈する事業なら、最初から手を上げるべきではなかったのである。
   ルネサンス時代のフィレンツェでの、ダ・ヴィンチの壮大な遊び心の開花やその後の文化文明の礎となったメディチ・エフェクトの爆発を見れば、このことが良く分かる。
   税金の無駄遣いだとオウム返しに唱える分かったような物言いをする賢しい人が多いが、もう、ここまで来たら、愚痴をこぼさずに、当初の目的通りに完遂して、国際的信義を果たすべきである。

   さて、私自身の万博の思い出だが、
   丁度、1970年の大阪万博の頃、会場直近の高槻に住んでいたので、何回も出かけ行ったので、かなり記憶に残っている。後半の何度かは、割安だったし人ごみを避けられたので夜間入場で通った。 
   バスだと、会場から高槻駅、高槻駅から最寄りの団地駅、これを乗り継げば会場通いができたのだが、万博客に加えて通勤通学の路線バスなので始終混んでいて、1歳の娘を抱えての往復は大変であったのを覚えている。
   月の石を見るために、何時間も並んだりして結構苦労したが、異国情緒や外国の文化文明に直接触れる魅力には抗しがたく、楽しかった。
   私は、特に高校時代に、ギリシャやローマ文化などに惹きつけられて、世界史や世界地理を意識して勉強していたので、まさに、願ったり叶ったりの格好のチャンスであった。

   ところが、そのすぐ後に、期せずして、会社から留学命令が出て、アメリカのフィラデルフィアのペン大のビジネス・スクールで勉強して、そのクリスマス休暇に、パリ経由でヨーロッパ各地を訪れており、夢が実現して海外行脚がスタートした。
   しかし、最初に万博を見て、前哨戦と言うべきか、万博会場で受けたカルチャーショックと新鮮な感動には、比べようがなかった。

   帰国するととんぼ返りのように、すぐにブラジルへ赴任、
   弾みがついたように、東京勤務になってからも、海外業務を担当して世界中を走り回ってきており、その後、ヨーロッパに赴任して、アムステルダムとロンドンで過ごし、
   都合、14年間の海外生活を含めてほぼ20年以上も海外を行き来して、その後も、かなり頻繁に海外旅行に出ているので、ずいぶん昔の話にはなるのだが、私にとっては、外国はそれほど遠い世界ではない。   

   日本でも、筑波や名古屋などで、万博が開かれたようだが、興味が薄れたのか日本に居なかったのか、行っていない。
   その後、一回だけ、ロンドンから、スペインのセビリャ万博に出かけて、かなり、エキゾチックなイベントを楽しんだ記憶がある。
   いずれにしろ、私に取っては、大阪万博1970は、世界へ飛躍への原点であった。

   今、日経小説で、辻原昇の「陥穽」が掲載されている。幕末から明治維新にかけての日本の文化文明の躍動、文明国への台頭が、非常に鮮やかに活写されているが、当時の日本のリーダーや為政者たちが、如何に多くを、欧米との接触で啓発されて指針としてきたか、如実に語っていて、欧米化・近代化がなければ文明開化も富国強兵もなかったであろうことが良く分かる。
   最近では、若者の海外留学が激減して、海外雄飛を忌避傾向だという。日本人ノーベル賞学者の殆どが米国経由である。
   しかし、グローバル時代でありながら、世界から距離を置く日本人の現実を思えば、日本が、世界での政治経済社会的地位を落として、先進国の下位集団に落ちぶれてしまって、G7の位置確保も怪しくなってきたという憶測も、よく理解できる。
   文化文明の十字路に位置し、異文化異文明の触発を受けて新陳代謝を遂げない限り、世界の潮流から取り残されて、歴史の発展、国家の成長は、間違いなしに止まってしまう。

   Japan as No.1の時代、日本が破竹の勢いで驀進して、日本人が地球狭しと世界中に雄飛し、欧米人と対等以上にわたり合って切った張ったの激戦に明け暮れていた若かりし頃の猛烈ビジネスマン時代が懐かしい。
   死ぬまで、そんな凋落した日本を観たくないと言っていた日銀の友人がいたが、現に「茹でガエル」状態の日本を観ている。

   「大阪万博2025」が、少しでも、日本再生の起爆剤となることを祈っている。
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米国の政治:少数派が多数派を支配

2023年12月17日 | 政治・経済・社会
   スティグリッツ教授の「プログレッシブ キャピタリズム」を読んでいて、気になったのは、米国は、多数派が少数派に支配されている政治経済社会であると言う記述である。常識的には、多数派の横暴を阻止し、数的弱者の少数派の権利や生存を無視することなく大切にするのが民主主義の建前だと思っていたので意外だったのである。
   しかし、よく考えてみれば、米国のみならず世界全体が、少数者に支配されていると言うことが歴然としているのに気付いた。
   例えば、国連の常任理事国の拒否権、欧州議会の全会一致によるハンガリーの反逆、そして、プーチンなどの専制主義的為政者等々枚挙にいとまがない。

   この本は、トランプ政権時代に著されたので、徹頭徹尾トラン糾弾、トランプ批判に徹していて凄まじいのだが、経済学の専門書なので、表立って、トランプがクレームしたり反論していないようなのが面白い。

   アメリカの政治が時代に追い付けず、行き詰ってしまっているのみならず、少数派から多数派を守るために設計された制度が機能しなくなった。いまや少数派が権力を手に入れ、それを使って支配を続けようとしている。問題は、この少数派ばかりがルールを作成している点にあり、その少数派とは、超富裕層、宗教的保守派、不満を抱く労働者階級の寄せ合集めでありながら、経済的政策は主に超富裕層が決めており、必ずしも3者の利害が一致しないのだが、超富裕層は、集団の利益を図るために、危険な保護主義を主張したり、貧困者の妊娠中絶を妨害したりする。
   これらの酷さに加えて、もっと深刻なのは、意識の問題で、彼らの運動によって惹起した、例えば、公的機関に対する攻撃、良い社会を実現してゆくために必要な考え方の変化、所得や資産の格差の拡大に伴う価値観や信念の違いの拡大、多様な社会を機能させるために必要な信頼の喪失などの問題である。と言う。

   スティグリッツは、崩壊しつつある市民社会を再生するために、これらの問題を詳細に論じているが、特に、ゆがんだ価値観が、ゆがんだ経済やゆがんだ政治を生み出し、ますます悪化中で、金融産業に蔓延していたモラル崩壊が、ほかの産業にも広がり、もはや、反倫理の手本とも言うべき人間を大統領に選ぶほどモラルを失ってしまった。とまで言う。
   より高い価値観とは、知識や真実、民主主義や法の支配、自由で民主的な制度や知識機関を尊重する価値観であり、それらがなければ、過去250年にわたる進歩をこれからも維持してゆくことはできない。と説く。
   利己主義で行き当たりばったりで、哲学も思想もなければ高邁な理想もない、嘘八百の指導者には、この高い価値観の片鱗も見いだせなかった。
   この怪物が、次期大統領の呼び声が高いという。アメリカは何処へ行くのであろうか。

   トランプやプーチンのように、根っからのトラブルメーカーが居る。善と悪の闘いの中で、残念ながら一時的に悪辣な指導者によって社会が多大の損害を被ることがある。だが、少なくともこれまでは、大多数の良識が最終的に勝利を収めてきた。と言う。
   一抹の救いである。

   さて、ウクライナ戦争はプーチンの戦争であり、イスラエル・ハマス戦争はネタニヤフの戦争である。
   まさに、一握りの権力者が、戦場をハイジャックして、世界中を恐怖に陥れている。
   それを制止しえず囃しさえしている国民の不甲斐なさ、毎日、断末魔のような地獄絵を見ていて、80億の人類が何の手の施しようがないのが悲しい。
   アメリカの民主主義は、国内のみならず、国際舞台においても、地に落ちてしまった。
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日経:「フードデザート(食の砂漠)」の拡大

2023年12月13日 | 政治・経済・社会
   日経が、12日の朝刊で”「食の砂漠」都心にも買い物難民”を報じた。
   肉や魚、野菜など生鮮食品が入手困難になる「フードデザート(食の砂漠)」が地方だけでなく、東京都心にも広がっている。地方で主にアクセスが問題となる中、都心では大型開発で移り住む富裕層が増加。手ごろな価格で買えるスーパーや個人商店が撤退し、・・・

   今、日経の「私の履歴書」で、倍賞千恵子が執筆しているが、要するに、「下町の太陽」や「男はつらいよ」と言ったような昔懐かしい庶民が肩を寄せ合って生活しながら育くんできた「寅さん」の世界が、消えつつあると言うことであろうか。
   格差の酷さを如実に感じたのは、10年ほど前に鎌倉に移ったときに、市役所前の高級スーパーの値段の高さで、同じトカイナカでありながら、千葉の地元スーパーで、1匹50円か100円以下の生きの良いサンマが、ここでは、2倍以上の価格で売られており、ばら苗に至っては、手が届かない程の高さであったことである。今住んでいる西鎌倉では幸いCO-OPがあって助かっているのだが、安くてふんだんにものがあった千葉の田舎と比べれば、生活環境の不便さは、比べようがない。

   欧米でも同じような問題を抱えているようなので、時代の潮流に逆らえないというか、成り行き任せなのであろう。

   暴論かも知れないが、良くなれば良いと言う功利に徹した野放しの都市開発というか都市計画に問題があって、何が社会にとって、また、コミュニティにとって善であり向上なのか、基準を設定して、開発に箍を嵌めれば良いと思っている。
   フードデザート対策のみならず生活必需品需要をも満たすために、イギリスのパブ建設の場合と同様に、(この場合は既存のバブ維持のためだが、)どんなに素晴しい高級建築の開発であっても、必ず便利な場所にパブを備えて、名目程度の安い家賃で貸し与えるという例を踏襲して、一定の範囲内の新しい開発物件に、一定基準の庶民的なスーパーなどのショッピング施設を、必ず併設することを義務づけるのである。
   更に、その他に庶民生活を維持するために必須な施設を特定して、必ず組み込むと言う方針を確立できれば更に良いであろう。

   世界全体に、経済格差が拡大して、益々、貧富の差による住空間の乖離分離が進んできているが、日本の場合は、まだ、その程度は、欧米並みには酷くはなっていないような気がする。
   しかし、日本の貧困率は、欧米先進国でも群を抜いて高くて、社会騒動を起さないのが不思議なくらいである。

   先進国のみならず新興国でも、古くからゲーテッドコミュニティ(gated community)、すなわち、周囲を塀で囲んで門を設けて、住民以外の敷地内への出入りを規制して通過流入を防ぎ、防犯対策を図る街造りが一般化していて、富裕層が自己防衛を図っているのだが、このまま行けば、日本も、ゲーテッドコミュニティが定着してしまう。
   もう、何十年も前になるが、マニラで、厳重に警護隔離された高級住宅街の知人を訪問したことがあるが、日本も、転ばぬ先の杖である。

   フードデザート論から、話がそれてしまったが、
   貧富、老若男女関係なく、住居や生活空間を分離せずに一体化して文明生活を営める都市開発、コミュニティ開発を、今から十分に考えて開発すべきだと思う。
   今後、間違いなく、経済格差そして生活格差の拡大が酷くなって行くのは歴史の必然であろうから、弱者が安心して生活できるような住空間を確保すべく、政治経済社会政策を策定して推進すべきであろう。
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日本の労働者の所得賃金が何故上がらないのか

2023年11月30日 | 政治・経済・社会
   「成長と分配の好循環」による新たな日本型資本主義の実現が、岸田内閣の歌い文句である。
   しかし、まず、分配の原資であるGDPのアップ、すなわち、経済成長を策するための生産性の向上が緊急要件だが、現下では、これに対応した政府の経済政策なり日本企業の取り組みが不十分なので、インフレばかりが加速して、国民生活は困窮度を増している。

   先日、会社時代の同期同窓会があって、H君(早大政経)が、何故、日本の所得賃金が上がらないのか、問題提起した。
   まず、これに持論を展開したのは、S君(慶応経済)。
   経済成長が思わしくないのは、我々が企業戦士として働いていたときには、国のためにと必死に頑張っていたが、最近では、国民は、政府にあれをしてくれこれをしてくれと頼るばかりで、自主的敢闘心と努力に欠けていてダメである。それに、女性が働き出して、多くがパートなので賃金が低く、数字を引き下げているのも問題だ。とにかく、カネカネで、意欲に欠けて嘆かわしい。と慨嘆する。

   それを聞いていて、私は、持論は差し控えて、スティグリッツ教授の見解を元に、ほぼ似通った日本の現状を説明した。
   「プログレッシブ キャピタリズム」から要約すると以下の通り。
   まず、国富を産み出すのは、第1に、国民の生産力・想像力・活力、第2に、過去2世紀半の間に見られたような科学他テクノロジーの進歩、そして、第3にその同じ時期に見られたような、経済・政治・社会組織の発展である。経済・政治・社会組織の発展には、法の支配、規則正しい競争市場、抑制と均衡にとって制御され、「真実を語る」機関を備えた民主主義体制の確立が含まれる。これらの発展が、過去2世紀にわたり生活水準の大幅な向上を支えてきた。
   しかし、40年ほど前から、憂慮すべき2つの変化が起こった。経済成長の鈍化と、大多数の国民の所得の上昇停滞または減少である。それとともに、最上層にいる極少数の国民と、残りの大多数の国民との間に、強大な溝、極端な所得格差が生まれた。
   企業の利益に沿う形で経済政策や政治方針が定められてきた所為で、経済力や政治力の集中が進んだ。このままほっておけば、国民が経済や政治から見捨てられた状態が、今後も続くであろう。

   真の国富の基準は、全国民に高い生活水準を持続的に提供できる能力である。この能力は、持続的に生産力を向上させて行けるかどうかで、そのためには、工場や設備への投資が必要で、なによりも重要なのは、知識への投資、そして、資源を無駄にしない完全雇用経済への投資である。
   しかし、国家を豊かにするためには、2つある。かって植民地の宗主国がそうしていたように、他の国から富を略奪するか、イノベーションや学習を通じて富を創造するかである。世界全体を真に豊かにするのは後者だけである。
   ところで、現在のアメリカ経済でも巧妙な形で搾取が行われている。市場支配力を行使して高い価格を設定する。医薬品産業の用に、不透明な価格構成を採用する。略奪的な貸し付け、市場操作、インサイダー取引、金融産業の機能不全などの悪辣な行為、そして、米国流の汚職などである。
   市場支配力のある企業は、その力がなければ出来ないような低い賃金を設定するなど、様々な方法で労働者を直接搾取する。
   市場支配力は、また、政治力に繋がる。米国のように金権政治がはびこる国では、企業支配力にによって、価格を釣りあげ賃金を搾取して産み出した膨大な利益を元手に影響力を手に入れて、利益や権力を更に高めている。労働組合の力を弱める、競争政策の実施を抑制する、銀行に一般市民を搾取する自由を与える、労働者の交渉力を更に弱めるような形でグローバル化を進める、と行ったことが可能になる。

   これらはアメリカ経済の説明だが、ほぼ、形を変えた状態で、日本経済にも当てはまると思っている。
   大きな違いは、GAFAに匹敵するような最先端産業を産み出せなかったと言うこともあるが、根本的にイノベィティムな企業経営を目指せず生産性を高められなかったために、経済成長に見放されて、失われた30年を引きずってきたことであろう。

   以下のグラフは、令和3年11月19日 経済産業省が発表した「日本経済の現状」報告で、
   日本の労働分配率は、他の先進国に比べ低水準に留まる。と言及した資料の転載である。
   日本の労働生産性が、それなりに上がっているにも拘わらず、日本の労働分配率は最低水準であり、長期にわたって実質賃金がアップせず低いまま推移していることが一目瞭然である。
   30年間の実質賃金の上昇は、一般労働者の賃金下落に泣く米国の48%に比べても、信じられないような低い数字の4%。スティグリッツ教授が説く如く、企業が、労働者を搾取し続けてきたのであろうか。
   
   
   

   無為無策の沈み行く日本。
   Japan as no.1であったはずの日本が今や、先進国で最低グループに成下がり、国民は、何も言わずに、支持率30%切った内閣の「成長と分配の好循環」のお題目を信じてかどうか、太平天国を決め込んでいる。S君の嘆きが身に染みて、さびしい。
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一人あたりGDPの語る真実

2023年11月25日 | 政治・経済・社会
   今、大変な戦争状態にあるイスラエルとガザ地区の経済力の差を、調べたくて、パソコンを叩いた。
   先に、何かの記事でガザのひとりあたりのGDPは、イスラエルの40分の1だと書いてあったのを、そのまま引用して使っていたが正確を期すためである。
   統一した指標が見つからなくて、ほぼ確かだろうと思える数字は、イスラエル 54,336ドル、パレスチナ 3,587 ドル、その倍率は、14.3倍である。
   ガザ地区単独の数字をさがしたのだが見つからず、東洋経済の記事に、
   「ガザ地区の所得水準は、1人当たりGDP(国内総生産)で3000ドル未満。経済成長率はマイナス12%で、失業率は32%とあまりにも高い(いずれも2020年)。住民たちは思うように大学に行けないし、働きたくても仕事がない。結婚したくてもできない。結婚できても独立して新居を構えられない。大家族が養えなかったり、子どもに食べさせるものにさえ困っている人たちがたくさんいる。その他、山積する問題を抱え、鬱憤が溜まる。短気で不機嫌な人たちがたくさんいて、四六時中揉めている。」
   3,000ドルだとしても18分の1、まず、考えられるのは、ガザ地区の一人当たりGDPは、イスラエルの20分の1という数字であろう。
   念のために、日本は、33,854ドルで、イスラエルより遙かに貧しい、それでも、ガザの12倍はある。

   いずれにしろ、何10年間にもわたって、天井のない牢獄としてイスラエルにブロックされて、成長発展の芽を摘まれ続けてきたと言う歴史上稀に見る辛酸を嘗めてきた悲劇の傷跡は、あまりにも深い。
   故郷を追われて迫害と差別に晒され続けて、ホロコーストという歴史上最大の悲劇を被るなど、イスラエルの人々の憎しみや憤りなど苦しいい思いも、法を完全に無視した残虐なハマスの殺戮行為に対する憤りと自衛権の行使も痛いほど良く分かる。
   しかし、私は、ハマスの行為を擁護する気持ちはさらさらないが、今回の行動は、猫を窮鼠が食んだのだと思っている。そして、イスラエルの国際法違反の残虐な報復攻撃は、度を超している。
   いつまでも、憎しみあって対立しておれば、中東の火薬庫は永遠に燻り続ける。
   今や、イスラエルは、押しも押されもしない最先端の科学技術を誇る経済大国であり、国際舞台に於ける燦然と輝く一等国である。パレスチナの地を、イスラエルとパレスティナの独立した2国家に分離して平和共存を図ると言うことを決定して、世界一賢い筈のユダヤ人が発案してガイドできないはずがないと思っている。

   さて、一人当たりGDP論ついでだが、
   アメリカの数字は、76,343ドルで、世界でも最高峰に位置しているが、問題は、経済格差が異常に高くて、富は、トップの富裕層に集中して底辺の弱者はどんどん貧困のに追い込まれていくという傾向である。
   アメリカの相対性貧困率は、17.8%、世界第4位という最悪に近い数字であり、アメリカ人の40%は、子供が病気になったり車が故障したりして400ドルが必要となったとしても、それを賄う力がないという。その一方で、アメリカで最も富裕な3人、ジェフ・ベゾス(アマゾン)、ビル・ゲイツ(マイクロソフト)、ウォーレン・バフェット(バークウェイ・ハサウェイ)の資産の合計は、アメリカの所得階層の下位半分の合計よりも多い。これは、最上層にいかに多くの富が集まり、最下層にいかに僅かな富しかないかを示している。
   

   このアメリカの異常な経済格差の現実は、ある意味では、イスラルとガザの格差拡大の悲劇にも劣らないほど、深刻な問題を投げかけていると思う。
   市場原理主義の傾向の強いアメリカでは、政府は企業や個人の行動の介入を基本的に避け、その結果社会保障制度も最小限に、公的医療保険も不完全であり、弱者保護のセキュリティのセイフティ・ネットが機能していないので、格差拡大を更に増幅している。アメリカン・ドリームと言う幻想が生き続けているのであろうか。暴動が起きないのが不思議なくらいである。
   トランプ現象は、正に、その反動であり、大統領経験者が、公然とアメリカの至宝とも言うべき民主主義を貶めてそれを多くの国民が支持して追随すると言う、常識的には考えられないような現象が、アメリカを危機に追い込んでいる。
   ハード・パワーの戦争ではないが、いつ暴発してもおかしくないダイナマイトである。
   
   毎日、ウクライナ戦争やガザの戦争の筆舌に尽くしがたい悲惨な状況をTVで観て、胸を痛めている。
   一時停戦で、ガザの市場の賑やかな状況が映し出されていて、廃墟の中でも必死に生きようとする人々の姿を見て、痛く感激して、平穏無事が如何に尊いことか身に染みて感じた。
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クルーグマン説で岸田内閣の「新しい資本主義」を考えると(その2)

2023年06月22日 | 政治・経済・社会
   まず、この論文で、クルーグマンは、岸田政権の経済政策について、次のように述べている。
   現在の岸田政権では、安倍政権の頃に掲げられたアベノミクスの「3本の矢」のように、聞こえの良さそうな言葉を並べた「新しい資本主義」を経済政策として打ち出しています。しかし、内容が本当に伴っているのかと言うと、否でしょう。どこか空虚に聞こえます。

   日本のインフレ率は30年ぶりに3%を超えたが、日本人はデフレマインドなので、欧米と比べてこのように低いインフレ率でも消費を抑制する。
   日本企業の内部留保を賃金の引き上げのために用いることが、日本経済の景気を好転させ、国民にとってどれだけプラスになるかを企業家たちに説くことが、岸田首相の大きな役目であると言えるでしょう。と言う。

   さて、クルーグマンは、何度も、日本の企業は、内部留保を増やすだけで、従業員の賃金の引き上げを頑なに拒んできているが、賃上げが出来れば需要が増大して「良いインフレ」を生じさて、生産性を上げる健全な投資を産み出せ、更なるイノベーションに向けた適切な投資が行われて、好循環に転じて経済成長を策せる。と強調している。
   日本企業の経営効率の悪さは、その低い資本効率が株価に反映されていて、株価純資産倍率(PBR)が、メガバンクは勿論、日本を代表する優良企業でさえも1倍割れが多いのだが、これは、市場が「株主資本が毀損されており、上場しているより解散した方がましだ」すなわち、叩き売った方が良いと判断していることで、上場の意味がない。 内部留保や政策保有株が多いことのほか、収益力の低さ、株主還元の少なさなど、さまざまな要因が考えられ、対策として、短期的には余剰資金による自社株買いや増配が有効だが、これらは株価対策であって、強者富者を益するだけである、

   有効需要拡大のためには、クルーグマンが説く如く、賃金の引き上げが一番有効であることは間違いなく、所得分配の公平性にも資する。
   クルーグマンは、それも、僅かな額ではダメで、抜本的に上げなければならない。少なくとも最低賃金を1.5倍に上げないと意味がない。それくらいに給料が上がらないと、消費に回らないからだと、追い打ちをかけている。
   また、非正規雇用についても、社会保障的にも安定していないのであるから、同じ仕事をしているのなら、正規社員より高い賃金を払うことが望ましいと真っ当なことを言う。

   ところで、低すぎると言う日本の労働生産性についてだが、
   G7では最低だと言うから、Japan as No.1の時代にグローバル戦争に明け暮れていた我々企業戦士には信じられないような体たらくであり、僅かに得た利益を、新規投資に投入して攻撃に立つのではなく、内部留保に汲々として内向きの経営に堕しているのであるから、成長から見做され、従業員の給与所得に資金を配分する才覚に欠けてしまう。これが、日本の企業の現状であろうか。
   日本企業の生産性が何故低いのか。東洋経済によると、
   日本の生産性が低い原因には、イノベーション不足、人材や設備への投資減少、低価格化競争、企業の新規開業や統廃合の少なさ、労働人口の多いサービス産業の生産性の低さなどが挙げられる。また、無駄な作業や業務が多いこと、会社の価値観や仕事のやり方が以前と変わっていないことも原因として挙げられる。日本の組織での仕事の進め方が、成果主義になっていないことやITに対応していないことも原因の一つである。残業時間の増加や休日出勤によるストレスや、労働生産性の高い従業員のモチベーション低下も問題である。と言う。完全に落第生の極致である。

   ところで、ジョブ型雇用だが、職務に必要な責任、資格、必要なスキルの明確かつ簡潔な概要であるジョブ・ディスクリプション(職務記述書)が重要な役割を果たす。現状では、ジョブ型雇用はエンジニアや管理職など、特殊なスキルや高度な能力を要する一部の職種や階層に限定した導入が主流のようだが、この日進月歩で大変革を遂げている企業を取り巻く経営環境に、キャッチアップし続けられるのかどうか。
   例えば、前世紀ではアメリカ型の株主至上主義が企業経営の要諦であったが、今やESG重視の日本型のステイクホールダー経営が常識となるなど、驚天動地の変化さえ起こる、
   激変する経営環境下で制度疲労しつつあるジョブ型雇用人事システムがサステイナブルかどうか。である。

   いずれにしろ、岸田内閣の「新しい資本主義」と、その実行計画の改定案なり、時宜に沿った文言を鏤めた秀才の作文と言った感じで、注目には値するとは思うが、クルーグマンの言うように、聞こえの良さそうな言葉を並べた、内容が本当に伴っているのかと言うと、否で、どこか空虚に聞こえて、こんなことで、日本の経済が再び回復して、MAKE JAPAN GREAT AGAIN出来るのかどうか、疑問に思っている。
   クルーグマンの日本の経済分析は適切であって、日本企業の生産性アップをどうするののか、企業の過剰な内部留保をイノベーション投資と賃上げに振り向けるためにはどうするのか、無意味なお題目は厳禁で、有無を言わせずに強制的に企業に迫って実行させる確実な政策を企画立案して推進する、それ以外にないであろう。
    
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クルーグマン説で岸田内閣の「新しい資本主義」を考えると(その1)

2023年06月21日 | 政治・経済・社会
   大野和基の「常識」が通じない世界で日本人はどう生きるか の、ポール・クルーグマンの日本経済論が面白いので、これで、岸田内閣の最近の雇用制度改革案など「新しい資本主義」について考えてみたい。

   まず、クルーグマン説
   FRBの量的引き締めと利上げ策は、日本経済にも影響を与え、日本は、物価高騰と円安の二重の打撃を受けている。
   現在のインフレは、コストプッシュのインフレで、日本の労働者の賃金は上がらないので「悪いインフレ」である。企業側が賃上げをして需要を拡大することが最も重要かつ有効なのだが、日本の企業は内部留保を増やすだけで、インフレ率にマッチした賃金の引き上げを頑なに実施しない。ここで、賃上げが出来れば、「良いインフレ」を生じさて、生産性を上げる健全な投資を産み出せ、更なるイノベーションに向けた適切な投資が行われて、好循環に転じるはずである。
   日本人の最大の問題は、貯蓄を好むと言うことである。たとえ賃金が上がっても貯蓄するだけで使おうとしなければ、市場の好循環は生まれないし、経済を刺激することもない。
   日銀の政策効果を最大限に発揮させるためには、企業側の努力として賃金を上げること、消費者側の努力として貯蓄に回しすぎずによりお金を使うことである。人体の血液と同じで、お金の流れをもっと良くして、循環させねば意味がない。
   日本のインフレは、アメリカの好景気を伴う需要拡大のディマンド・プルではなく、コスト上昇によるインフレに過ぎないので、雇用の促進や賃金上昇が起きていない以上、景気は回復するどころか後退して行く。これが、より深刻化すると、不況とインフレが共存するスタグフレーションに突入する。
   スタグフレーションを回避し、不況を改善するためには、政府の施策だけでは無理なので、」やはり、企業が内部留保ばかりを増やしていないで、もっと利益を従業員の賃金に回すべきである。
   日本経済の衰退の要員の一つには労働生産性の低さがある。日本の労働生産性は、OECD38カ国中23位と非常に低い。
   日本の労働生産性の低さは、定年制度から来ている。熟練したスキルを持った従業員が、一定の年齢を迎えると一律に仕事からひき剥がされてしまうのは大きな損失で、働く意欲も体力もある労働者を年齢を理由に追い出してしまえば、国民一人あたりの生産性が下がるのは当然である。

   さて、岸田内閣の「新しい資本主義」だが、   
   岸田首相は昨年10月、ニューヨーク証券取引所で、日本企業にジョブ型の職務給中心の給与体系への移行を促す指針を2023年春までに官民で策定することを明らかにし、「年功序列的な職能給をジョブ型の職務給中心に見直す」と述べた。専門的なスキルを給与に反映しやすくして労働移動を円滑にし、日本全体の生産性向上や賃上げにつなげる狙いがある。「一律ではなく仕事の内容に応じたジョブ型の職務給を取り入れた雇用システムへ移行させる」と語った。

   また、政府は2023年6月6日、「新しい資本主義」実行計画の改定案を発表した。 時代の流れに即応した「分厚い中間層」育成を目論む 改定案だが、退職金「優遇制度」見直しなど老年労働者の多くの人には「不利」な内容が盛り込まれた「在来の日本型雇用制度潰し?」と思しき改革案でもある。
   その改革案だが、
   政府は勤続20年を超えた人を優遇している退職金への所得税の軽減措置が、転職など労働移動の円滑化を阻害しているという指摘を踏まえ見直しを検討する。労働力の成長分野への移動を促すためで、自己都合で離職した人への失業給付制度も再検証し、年功序列や終身雇用を前提とした日本型雇用慣行の改革に取り組む。
   退職金への課税制度については、今年度の与党税制改正大綱も「適正かつ公平な税負担を確保できる包括的な見直し」が必要と明記。
   失業給付制度の見直しも明記した。「労働移動の円滑化」、自発的に転職しやすい環境を整備するため、自己都合で離職した場合の失業給付のあり方を検討し、自己都合で離職すると求職申し込みから2-3カ月を経ないと受給できない現行制度の要件緩和を検討する。
   実現会議は、リスキリングなどを含めた労働市場改革の全体像を6月までに指針として示す。

   ところで、クルーグマンの論点と岸田内閣の政策とで重なるのは、定年制度だけだが、クルーグマンは日本の熟練労働者の長期雇用の価値を認めており、岸田内閣は雇用の流動性を勧めたいので長期雇用に価値を認めない。私は、日米の経済構造や企業経営には大きな差があるので、是々非々主義で対応すれば良いと思っている。

   私が、まず、問題としたいのは、岸田内閣の雇用制度改革案が、一本調子で早急なアメリカ型の雇用制度への傾斜である。
   私がフィラデルフィアのビジネス・スクールで学んでいたほぼ半世紀前のアメリカの雇用制度と殆ど同じ制度を目指していると言う、この危うさである。

   日米根本的に違うのは、まず、労働者の教育システムである。
   プロフェッショナルを例にひくと、アメリカでは、大学は教養課程の位置づけで、エンジニアも医師も弁護士も経営者の卵も、大学院のプロフェッショナル・スクールで、育成される、例えば、トップビジネススクールの人事管理を専攻したMBAが、即刻、企業の人事部長としてヘッドハントされる。ケーススタディなどで多岐にわたる厳しい教育訓練を受けて最新最高の知見を得て、それだけの資格があると認められると言うことである。日本では、OJTなどを経て企業の長い経験を重ねなければ人事部長には成れない。それに、日本企業は、個々の企業が独特のコーポレート・カルチュアを持っていて、外部者は殆どすぐには馴染めない。
   フランスでも、ポリテクの卒業生は、卒業間もない若い頃にお礼奉公として中堅企業などのトップに天下っていた。欧米では、学歴や資格などによって、ジョブ階層や位置づけが決まるので、上位のジョブに就くには資格要件を上げる以外にない。
   そのようなシステムを受け入れる経済社会構造が醸成されているからこそ出来るのであって、長期雇用定年制度が根付いている日本にごり押しすれば、長年培ってきた公序良俗が廃れて道理が引っ込む。

   日本の企業のトップは、精々大卒なので学歴が低く、リベラル・アーツの知識不足以外にも、欧米の博士や大学院のプロフェッショナルスクールを出た若くから百戦錬磨の経験を積んだカウンターパーツに、名実ともに見劣りする。
   このような経営トップやプロフェッショナルが、卒業後20年経っても、まだ45歳、
   クルーグマンが説く如く、これ以降の人材が日本経済を支えている。知ってか知らずか、岸田内閣は、この20年をやり玉に挙げようとしている。

   クルーグマン説での、岸田内閣の「新しい資本主義」については、次に回したい。
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NHK BS1:ロシアの頭脳が流出する

2023年02月06日 | 政治・経済・社会
   昨夜、NHK BS1スペシャル ロシアの頭脳が流出する 〜世界のIT産業は変わるのか〜を見た。

   ウクライナ侵攻をつづけるロシアの国内から次々と脱出しているのがITの技術者たちだ。プーチン大統領が動員令を出したことでその動きに拍車がかかかり、いまやその数は30万人ともいわれている。出ていく先は様々だ。アメリカ、ドイツ、そして東ヨーロッパの国々、世界的にも優秀といわれるロシアのIT頭脳の流出はどんな意味をもつのか、脱出していくIT技術者、企業、研究者などさまざまな角度の取材をもとに考えていく。
   と言う番組で、ロシアの高度なIT技術者達の民族大移動を活写していて凄まじい。

   TVで、まず最初に、ウクライナ戦争の勃発直後から危険を避けるために、多くのロシア人が、陸路でフィンランド国境から脱出する様子が放映されてから、頻繁にロシア人の国境越えが伝えられてきた。
   徴兵忌避だとか、危険回避のためだとかと言った面からの報道が主体であったが、この番組は、ロシアの頭脳流出と言う側面から捉えて、ロシア国家の真奥の脅威を抉り出したのである。

   ロシアのトップIT企業で働いていた高度なITエンジニア夫妻のアルメニアへの脱出、そして、好条件の職を得て、ジェネレーティブITのモデルやアルゴリズム開発する夢を実現したいのだ、もうロシアには戻らないと、イギリスへ旅立つ、
   ロシア人ヘッドハンターが、ロシア最高峰の大学でPhDを取ったITエンジニアを、アメリカのユニコーン企業に紹介、
   ロシア人IT技術者を一網打尽に抱き込んでITパークを立ち上げて国家上げてIT立国を目指すウズベキスタン、ect.
   1時間弱の番組だが、興味深いロシア人IT技術者の脱出と世界のその争奪戦を語っていて面白い。

   さて、私が問題にしたいのは、ウクライナ戦争勃発によって、国家の存続と威信を窮地に追い込み、ロシアの疲弊没落で、ロシアの経済が壊滅状態になり、悪くすれば、世界の孤児となり中国の従属国に成り下がると、悲観的に見ているのだが、
   更に、ロシアの宝とも言うべき最高峰の頭脳を失うという慚愧極まりない悲劇を引き起こしていることである。国家存亡の危機に直面しながら、墓穴を掘る愚挙に、一層拍車をかけているとしか思えないのである。
   この番組では、ITエンジニアにしか焦点が当てられてはいなかったが、先に報じられていたスポーツ選手達の脱出を筆頭にして、文化芸術は勿論、多くの学者や知識人など高度な知的頭脳の流出が起こっていることは間違いないので、ロシア国家の損出は筆舌に尽くしがたい。

   このロシアの頭脳流出について、留学中に経験した1972~3年頃のユダヤ人の国外脱出ストップの騒動を思い出した。
   フィラデルフィアのアカデミー・オブ・ミュージックでの、ムラビンスキー指揮のレニングラード・フィル演奏会のことである。
   ソ連が、在住のユダヤ人の専門家や医師など高度な技術や識見を持った人々のイスラエルへの出国を認めず出国ビザを発給しなかったので、在米のユダヤ人たちが激しく抗議活動を展開していた。演奏会当日、会場入り口で、ユダヤ人たちが抗議活動を行っていたが、会場に入ってみると、客席の真ん中から真っ二つにして半分は、完全に空席で、誰も座っていないのを見て、その異様さにびっくりした。半分の座席が空席のまま、最後まで演奏されて終わったのだが、アメリカでは、興行主の多くがユダヤ人なので、このようなことが出来たのであろう。

   これと比べて理解に苦しむのは、当時のユダヤ人知識層の頭脳流出よりもはるかにロシア国家にとって致命的なはずのITエンジニアを筆頭とした頭脳流出を、プーチン政権は国境閉鎖してでも、何故、ストップしないのかと言うことである。
   世界全体、そして、グローバル経済にとっては、知識情報の拡散であり、更なる成長発展のためには良いことかも知れないが、ロシアにとっては、深刻な悲劇である。
   初期の目的から極端に悪化した戦況に対処するために、更なる予備役募集や国家総動員法発令しようとする妨げになると考えているのであろうか。

   プーチン政権が、いくら強烈な情報統制や恐怖政治を敷いても、ベルリンの壁崩壊当時に、東側のインテリや知識人が、あらゆる報道手段を駆使して西側の情報や知識を得ていたように、知的水準の高いロシア国民は、デジタル革命の恩恵を受けて、ウクライナ戦争の悪とロシアの未来に明日がないことを百も承知している。役に立つ生き方をしたい、夢を叶えたいと言う必死の思いで、望郷の念冷めやらず、それでも、故国を捨てざるを得ないのである。
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世界経済フォーラム:グローバルリスク2023年

2023年01月20日 | 政治・経済・社会
   今、ダボスで開催されている世界経済フォーラムの広報をチェックしていて、1月11日に、Global Risks Report 2023(グローバルリスク報告書2023年版)を刊行したことを知った。
   同報告書は、現在の経済的・社会的・環境的・技術的緊張から生じる主要なリスクを分析し、今後2年と今後10年のリスクを予測しており、次表の通りである。
   

   今後10年間の深刻なグローバルリスク上位10位を列記すると、
1位:気候変動緩和策の失敗
2位:気候変動への適応(あるいは対応)の失敗
3位:自然災害と極端な異常気象
4位:生物多様性の喪失や生態系の崩壊
5位:大規模な非自発的移住
6位:天然資源危機
7位:社会的結束の侵食と二極化
8位:サイバー犯罪の拡大とサイバーセキュリティの低下
9位:地経学上の対立
10位:大規模な環境破壊事象

   同報告の趣旨を纏めると、
   短期・長期的なリスク:短期の上位リスクは生活費の危機で、長期の上位リスクは気候変動関連である。特に生物多様性の喪失は今後10年間で最も急速に悪化するグローバルリスクの一つとみられている
   地経学上の対立が及ぼす影響:地経学上の対立と自国優先姿勢は今後、経済的制約を強め、短期リスクと長期リスクを悪化させると考えられる。エネルギーおよび食料の供給危機は、今後2年間続く可能性が高い。こうしたリスクは、特に気候変動・生物多様性・人的資本への投資など、長期リスクに立ち向かう取り組みを弱体化させるとともに、社会の一体性に損失を与えている。最終的には、地経学を武器とするリスクに留まらず、再軍事化リスクにもつながり、新興技術が利用され悪意あるプレイヤーが台頭する可能性がある
   報告書は、各国政府は今後数年間、社会・環境・安全保障面で問題を抱え、厳しいトレードオフと向き合うようになるとし、各国が「短・長期的な視点の均衡を保ちながら、連携的かつ断固とした行動を起こす」ことの重要性を強調している。

   なお、参考に列記すると、2022年版の「今後10年間の深刻なグローバルリスク」上位5位は、気候変動への適応(あるいは対応)の失敗、異常気象、生物多様性の喪失、社会的結束の侵食、生活破綻(生活苦)であり、2021年版の上位5位は、大量破壊兵器、国家の崩壊、生物多様性の喪失、技術の進歩の阻害、天然資源危機。であったが、ほぼ傾向は似ていてそれ程異動はない。イアン・ブレマーのユーラシアグループの単年度毎の世界10大リスクとは違った長期的な視点からのリスク予測で、非常に面白い。
   ウクライナ戦争下にあるにも関わらず、原爆危機や第3次世界大戦の勃発については、一顧だにもしていないのが興味深い。
   人口爆発危機の心配はないのであろうか。

   ところで、私が、このGlobal Risks Report 2023を知ったのは、ダボス会議の前に、レポートされたThe global economy is under pressure — but how bad is it? Two experts share insightsの記事からで、

   2023年の経済については、
   COVID-19 パンデミック後の「ニューノーマル」への復帰は、ウクライナでの戦争の勃発によって急速に中断され、食料とエネルギーに新たな一連の危機をもたらした。2023 年が始まると、世界は一連のリスクに直面、 インフレ、生活費の危機、貿易戦争、新興国市場からの資本流出、広範な社会不安、地政学的対立、核戦争の亡霊など、「古い」リスクの復活を目の当りにし、 これらは、持続不可能なレベルの債務、低成長の新時代、世界的な投資の低迷と脱グローバル化、数十年にわたる進歩の後の人間開発の低下、急速で制約のない開発、デュアルユース(民間および軍事)技術、および気候変動の影響の増大する圧力などのグローバルなリスク環境における比較的新しい展開によって増幅されている。 これらが一体となって、ユニークで不確実で激動の 10 年を形作るために収束している。と言う。

  このことからも分かるように、この報告で注目すべきは、この傾向を表象したポリクライシス("polycrisis.")という概念で、「複合的な影響を持つ関連したグローバルリスクのクラスターで、全体の影響が個々のリスクの総和を上回」)ものと言う認識である。
   二人の経済学者のうちLandry Signéは、
   「今日のポリクライシスは、世界経済が直面している課題が、世界の政治経済、国際安全保障、世界の健康、教育、エネルギーなど、すべての世界のシステムと深く結びついていることを意味する。 世界がパンデミックから回復するにつれて、ウクライナでの戦争によるエネルギー危機は、インフレ、気候変動、大規模な移住、不平等に加えて、新たな複雑性を引き起こした。 今日のポリクライシスには、共通の要因、ドミノ効果、同時に相互作用する悪循環を含むシステム間の関係が含まれており、脆弱性を悪化させ続けている。と述べている。
   個々のポリティカルリスクやエコノミックリスクに対処するのではなくて、ポリクライシスにチャレンジして新境地を開拓せよと言うことであろう。

   「世界は、第一次世界大戦後、1970 年代のオイル ショック、2008 年の金融危機など、以前にも相互に関連した危機を経験してきたが、第 4 次産業革命によって加速された相互関連性を考えると、現在の状況は独特である。 今後、世界は対話、複数の利害関係者の協力、多国間主義など、過去にうまくいったことを活用する必要がある。 そのためには、説明責任があり機敏なリーダーシップが不可欠である。歴史はまた、デジタル技術が破壊的である可能性があることを示しているが、不確実性を減らし、複雑な関係を視覚化するための強力なツールにもなり得る。と言うのだが、古くて新しいポリクライシスにどの様に挑戦するのか、難しい問題である。
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ユーラシア・グループ 2023年10大リスク(2)

2023年01月09日 | 政治・経済・社会
   「2023年10大リスク」の前に、昨年の「2022年10大リスク」を参考に列挙すると次の通りである。
   ゼロコロナと中国とロシアに関する以外は殆ど当たっていないと思われるのだが、それ程、昨年勃発したロシアのウクライナ戦争が、23年度の地政学的な世界リスクにインパクトを与えているということであろうか。
リスク No.1 ゼロコロナ政策の失敗
リスク No.2 「テクノポーラー」な世界
リスク No. 3 米国中間選挙
リスク No. 4 中国の国内回帰
リスク No. 5 ロシア
リスク No.7 環境対策は二歩前進、一歩後退
リスク No.8 力の空白地帯
リスク No. 9 文化戦争に敗れる企業
リスク No. 10 トルコ
リスクもどき>
   第二の冷戦、台湾の苦境、ブラジル、移民、

   さて、「2023年10大リスク」だが、ロシアと習近平中国やイランやアメリカの分断、そして、インフレやエネルギー危機や水問題などは、直近の世界的な地政学的な状況から良く分かる。
   私が興味を感じたのは、このタイトルだけでは良く分からない次の3つのリスク、すなわち、リスク No.3 「大混乱生成兵器」 WEAPONS OF MASS DISRUPTION、リスク No.7 世界的発展の急停止 ARRESTED GLOBAL DEVELOPMENT、リスク No.9 TikTok な Z 世代 TIK TOK BOOM である。
   それぞれ、冒頭で概説文章を表示しているので、これを紹介して、少し私見を加えてみたい。

   リスク No.3 「大混乱生成兵器」 WEAPONS OF MASS DISRUPTION 日経は、「テクノロジーによる社会混乱」
   ベルリンの壁が崩壊したとき、米国は世界で最も主要な民主主義の輸出国であった。常に安定していたわけでも、常に良い結果を生んだわけでもないが、追随できる国はなかった。それ以来、ほとんどの期間、技術革新(その多くは米国で起きた)は自由化の原動力となってきた。しかし今日、米国は、意図的にではなく、成長を追求するビジネスモデルの直接的な結果として、民主主義を弱体化させるツールの主要な輸出国となっている。その結果、人工知能(AI)の技術的な進歩が社会の信頼を損ない、デマゴーグや権威主義者に力を与え、ビジネスや市場を混乱させている。
   2023 年は、社会における破壊的テクノロジーの役割の転換点になり、政治的・経済的に広範な影響を及ぼすだろう。デマゴーグやポピュリストは、小さな世界での政治的利益を得ようとして AI を武器に使うだろう。犠牲となるのは民主主義や市民社会だ。ドナルド・トランプ、ジャイル・ボルソナロ、ビクトル・オルバンらはソーシャルメディアと偽情報の力を利用して有権者を操り、選挙に勝ってきた。技術の進歩により、どのような政治的な立場にあろうと、すべての政治指導者にはこれらのツールを活用することに構造的利点が生まれるだろう。
   更に、世界中各地で拡散している選挙妨害や、ロシアや中国などの自国の反対意見を封じ込めようとする独裁者にも利用されるなど、ICT技術が他国の民主主義を弱体化させていると危機的状況を説いている。
   しかし、AI は驚異的な生産性の向上ももたらしている。印刷機から核分裂、インターネットに至るまで、革命的な新技術には、人類の進歩を促す力と同様に、人類の最も破壊的な傾向を増幅させる力がある両刃の剣である。前者は歓迎され、促進されるが、後者は過小評価され、通常は無視されて危機を招く。と言うのだが、どの様にしてリスクを避けるのか、ホモサピエンスの叡智が試されている。
    MASS DISRUPTIONと言う英語のMASSの迫力を思えば、ハードパワーではなくソフトパワーのワンクリックで一瞬にして人類社会が崩壊する恐ろしさが迫ってくる。

   リスク No.7 世界的発展の急停止 ARRESTED GLOBAL DEVELOPMENT 日経は、「途上国成長打撃」
   過去 2 世代の人類は、広範な繁栄が急拡大する前例のない時代を経験した。世界経済の規模は 3 倍に拡大し、ほぼすべての国が著しく豊かになり、10 億人以上が極度の貧困を脱して史上初のグローバルな中産階級の仲間入りをし、発展途上国と先進工業国の間の機会格差が縮小した。乳幼児死亡率や平均寿命、教育、女性の権利などが構成する人間開発指数は、世界中で生活水準と生活の質がほぼ絶え間なく向上していること
を物語っている。
   その進歩が逆行した。コロナのパンデミック、ロシア・ウクライナ戦争、世界的なインフレの高騰という衝撃が 3 年にわたり相互に強化し合いながら続いたことが原因だ。2023 年には、経済、安全保障、政治における利益がさらに失われ、何十億もの人々がより脆弱な状況に置かれるであろう。インフレの世界的な衝撃によって物価上昇、金融引き締め、世界的な成長鈍化が国民の経済的政治的な不安をあおり、途上国の脆弱な人々に特に大きな打撃を与えるだろう。   
   ほとんどの途上国の政府は、こうした惨状や人道的危機に対処するための財政的余力を欠いており、さらに、先進国も、経済成長鈍化や金融情勢の緊迫化によって政府開発援助を削減し、ウクライナへの援助が原因で、その支援助成が抑制されることになろう。
   地球規模の問題なので、こんな時ほど、中途半端な国連ではなく、世界政府や真面な能力を備えた国際機関の存在が希求される。

   リスク No.9 TikTok な Z 世代 TIK TOK BOOM 日経は、「デジタルネーティブ世代の台頭」
   1990 年代半ばから 2010 年代初頭にかけて生まれた Z 世代は、生まれたときにすでにインターネットが存在していた最初の世代だ。デジタル機器とソーシャルメディアは、国境を超えて彼らを結びつけ、最初の真にグローバルな世代を作り出した。そしてそのことが、特に米国とヨーロッパにおいて、彼らを政治的・地政学的に新しい存在にしている。Z 世代は、企業や公共政策を再構築するためにオンラインで組織化する能力と動機の両方を持ち、ボタンをクリックするだけで世界中の多国籍企業の活動を困難に陥れ、政治を混乱させることができるのだ。
   Z 世代は、2008 年の金融危機、アラブの春とシリア内戦、英国の EU 離脱(ブレグジット)、トランプの当選、ブラック・ライブズ・マター運動の拡大、#MeTooなどの時代の激動と、指導者や既存の制度の失敗によって生まれた過激化した世代で、その前の世代よりも幅広い期待、要求、政策への衝動を持っており、政治的変化や経済的達成のための制度や既存の手段に強い不信感を持っている。
   Z 世代は、職場を再定義し、人材の採用、組織作り、保持、育成、新しいキャリアパスと機会の提供、真の多様性とインクルージョンの促進、そして社会、政治、環境に与える影響の見直しといった根本的な変化を企業に促している。企業は、好むと好まざるとにかかわらず、政治的・地政学的な議論に参加するよう、かつてないプレッシャーを感じることになるだろう。と言うのだが、
   過激かも知れないが、格差の拡大や富の集中など自由市場経済をスキューして資本主義システムを危機に追い込み、民主主義さえ危うくした元凶の一つは多国籍企業であるから、良いか悪いかは分からないが、Z世代の活動は軌道修正でもあり、多国籍企業への挑戦は時代の潮流であって、リスクではなく受けて立つべきだと思っている。
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ユーラシア・グループ 2023年10大リスク(1)

2023年01月08日 | 政治・経済・社会
   ユーラシア・グループが、恒例の「2023年10大リスク:最も重要な地政学リスク・トップ10」を公表した。
   
   その10大リスクとは、
   リスク No.1 ならず者国家ロシア  ROGUE RUSSIA
   リスク No.2 「絶対的権力者」習近平 MAXIMUM XI
   リスク No.3 「大混乱生成兵器」 WEAPONS OF MASS DISRUPTION
   リスク No.4 インフレショック INFLATION SHOCKWAVES
   リスク No.5 追い詰められるイラン IRAN IN A CORNER
   リスク No.6 エネルギー危機 ENERGY CRUNCH
   リスク No.7 世界的発展の急停止 ARRESTED GLOBAL DEVELOPMENT
   リスク No.8 分断国家アメリカ DIVIDED STATES OF AMERICA
   リスク No.9 TikTok な Z 世代 TIK TOK BOOM
   リスク No.10 逼迫する水問題 WATER STRESS
   リスクもどき RED HERRINGS
      ウクライナ支援に亀裂 CRACKS IN SUPPORT FOR UKRAINE
      機能不全化する  EU POLITICAL DYSFUNCTION
      台湾危機 TAIWAN CRISIS
      技術をめぐる米中報復合戦 TECH TIT-FOR-TAT
      
   この10大リスクに関連して、ユーラシアグループは、特に日本の読者に対して、
   「Top Risks 2023:日本への影響」というダイジャスト版の解説を加えており、参考になるので、まず、考えてみたい。
   日本に関わりのあるリスクも挙げられているが、中国の習近平国家主席の権力強化の帰結を分析したリスク No.2「『絶対的権力者』習近平」は、日本にとって重大だ。その他、ロシア、インフレ、エネルギーなどのリスクも、国際貿易や米国との同盟関係に大きく依存する島国にとっては見逃せない。しかし、日本はその歴史を通じて、新たなリスクに立ち向かうことのできる強靱な国家であることを証明してきた。
   2023 年の日本にとって、巨大な存在となった習近平は巨大なリスクだ。日本の最も緊密な同盟国である米国を除けば、中国ほど日本の経済、政治、安全保障に大きな影響力をもつ国はない。習近平が国家主義的な政策を打ち出し、毛沢東以来の権力を手に入れる以前から、中国は日本で不人気だった。
   岸田文雄首相は、日本は中国と「建設的かつ安定的」な関係構築を進めると頻繁に発言している。しかし、習近平の下での恣意的な決定、政策の不安定さ、不確実性の増大は、2023 年に逆のことが起こると予見させる。
   中国は依然として日本の最大の貿易相手国であり、全面的なデカップリングは不可能だ。しかし日本はすでに戦略的デカップリングの方向に進んでいる。サプライチェーンを国内中心に転換し、対内投資の審査を厳しくするなど、可能な限り中国に対し経済安全保障を保とうとしているが、2023年、習近平は、日本政府がさらにこうした動きを加速させる原因となるだろう。同時に日本は安全保障や技術に関係のない財やサービスでは、中国との開かれた貿易の流れを維持しようと努力するであろうが、習近平の下で自己主張を強める中国は、日本政府がそのバランスを取ることをさらに難しくするだろう。

   2023 年における日本の最大のリスクはやはり習近平なのだ。と言うのが結論だが、習近平の存在に明るい兆しがあるとすれば、それは日本が世界の舞台でより自信を持ち、発言力を高めていることだといえる。と言う指摘が興味深い。日本がしっかりとした国力を維持して、世界のリーダーとして誇りを持って毅然たる態度で中国に当たれということである。
   台湾問題を含めて、 米中間の緊張が高まっても、短期的には武力衝突に至ることはないだろう。日本企業は中国による台湾侵攻が迫っているのではないかと危惧するだろうが、なすべきは、冷静に問題を考察し、中国による台湾へのサイバー攻撃、封鎖、船舶への嫌がらせなど、起こる可能性が高い事態を想定した計画を立てることだ。と述べている。

   興味深いのは、日本にとっての朗報は、リスク No.8「分断国家アメリカ」の政治的二極化が対日政策には無関係ということだ。これは日本が、米国の中国への戦略的対抗において不可欠な存在になっているためだ。日本は、重要な同盟国であり貿易相手である米国が結束して強くなることを切に望んでいるが、二極化が依然として大きな懸念材料ではあるが、米国の中間選挙が民主主義プロセスに大きな問題を生じずに終了したことで、日本は安堵のため息をついている。と言っていることである。

   勿論、「ならず者国家ロシア」やウクライナ戦争、「インフレショック」などについても言及しているが、今回は省略する。
   明日は、本文の10大リスクについて、私見を述べてみたい。

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2023年はどんな年になるのであろうか

2023年01月03日 | 政治・経済・社会
   新しい年を迎えた瞬間は、テレビで、カウントダウンを観ていた。
   この年は、ドボルザークの「新世界」の第4楽章であった。
   何故、この曲かは分からないが、時宜を得た交響曲であって、
   チェコの作曲家であるドボルザークが、アメリカで着想を得たこの「新世界」は、まさにウクライナとアメリカの現状を映し鏡のように、時代を象徴しているような気がしたのである。
   ウクライナはスラブの国とは言え、隣国のハプスブルグ王朝の文化伝統の影響を色濃く体現したヨーロッパの国であり、その同根の古色蒼然とした古都プラハから訪れたドボルザークが、新しい文化文明に沸き返る新世界という異文化に遭遇した意義は大きい。
   私は、何度か、ベルリンの壁崩壊後にプラハを訪れており、まだ、完全に復興はしていなかったが、訪れた都市では、世界一美しい都市だと思っている。それに、アメリカにも2年間居た。この「新世界」については、アメリカの黒人やインディアンの民族音楽の影響を受けたとか色々言われているが、私は勝手ながら、新世界アメリカにおいて異文化異文明との遭遇で体感した新鮮な思いが、ドボルザークの創作心をインスパイアーしたのだと思っていて、いつも、コンサートホールで、そんな思いでこの曲を聴いている。
  ウクライナ戦争は、言うなれば、アメリカの代理戦争であり、アメリカがウクライナに肩入れし続けて、如何にアメリカの意図する國際秩序の構築に終るかだと思っているのだが、弱体化したロシア抜きのグローバル体制に進む可能性も考えられるであろうし、 いずれにしても、覇権国を欠いたGゼロの多極化した國際システムから脱却できないであろうと思っている。

   さて、元旦、朝起きて、近くのコンビニに行って、新聞を一揃い買った。
   日経は取っているので、読売、朝日、毎日、産経の全国紙である。
   気の利いた元旦特集号的な記事を期待して読んでみたのだが、皆無であった。
   もう、半世紀も前の話だが、米国留学でフィラデルフィアに住んで居た時、寮の傍の大通りの交差点の片隅に、NYタイムズの新聞売りスタンドがあって、日曜版は、今の日本の新聞の元旦号の2倍ほどのボリュームのある膨大な紙面で、興味深い特集記事があって、毎週楽しみながら読んでいたのを思い出す。

   さて、日経のトップ記事は、
   グローバル化は止まらない 世界つなぐ「フェアネス」
   Next World 分断の先に
   この記事のポイントは、
・米・メキシコ国境の「トランプの壁」は有名無実に。グローバル化の奔流は止まらない
・ロシア・フィンランド国境に新たな「壁」の計画。世界を分断の嵐が襲う
・分断と融合。正反対の力が日常の風景になるNext World。世界をつなぐフェアネスが重要に 
   だと言う。
   米国と中国の対立、ロシアのウクライナ侵攻。分断の嵐が世界を襲い、グローバリゼーションは停滞する。それでも、外とのつながりに豊かさを求める人々の営みは途切れない。試練の先の「Next World(ネクスト・ワールド)」。世界をつなぐのはイデオロギー対立を超えたフェアネス(公正さ)だ。
   と言うのである。

   「グローバル化は止まらない」とは、脱グローバル化だとか、グローバリゼーションの時代の終焉だとか言われている一般的見解とは違った意表を突く表題だが、記事の趣旨は、フェアネスを礎に分断をつなぐ取り組みが不可欠であって、企業や個人の日々の判断が、国際ルールや人権などを尊重しない独断的な政治の暴走を抑え込み、民主主義と権威主義の二項対立を超えた新しい世界づくりの始まりである。とのフェアネスのグローバル展開のことである。
   この基本となる「フェアネス指数」は、日経が、案出した指標で、10指標を①政治と法の安定(30点)②人権や環境への配慮(30点)③経済の自由度(40点)の3分野に分け、合計100点満点で評価したもので、図示すると次の通りである。
   

   問題は、「フェアネス」そのものの定義である。
   「フェアネス」は、あくまで、現在支配的だと考えている欧米先進国を中心とした自由民主主義的な思想考え方を是として指数化しているものであって、現在分断化されている世界において、勢いを増しつつある専制主義的な体制をフェアではないとして、切り捨てて良いのかどうかと言うことである。
   単純に考えても、極めて長い市民社会の伝統と歴史を積み重ねて成熟段階を経て達成された自由民主主義制度が、遅れて台頭しつつある新興国や発展途上国にとっては達成不可能であって、ショートカット方式で、専制国家体制を敷いてキャッチアップする方が、はるかに理にかなっているとさえ思える。
   世界の趨勢が、非民主主義陣営の増加傾向にあることに鑑みても、「フェアネス」のグローバル化から逆行して、その期待から遠ざかって行く懸念さえある。
   信じられないようなウクライナ戦争が勃発してしまうような、そして、自由と平等、平和を希求す民主主義でさえトランプ現象で危機に瀕する時代において、「フェアネス」など全く念頭にない世界勢力が、日経の意図した意味と違ったかたちでグローバル化しつつある現状をどう見るべきなのか。と言うことである。
   大半の新興国や発展途上国にとって、激動の国際競争下で生き抜くためには、鄧小平が言ったように、「白猫でも黒猫でもねずみを捕る猫がよい猫」であって、人権や民主主義など「フェアネス」を無視してでも、富国強兵がすべてなのである。

   日経の意欲的な未来志向の提言は、時宜を得た企画として注目すべきだと思うが、一寸違和感を感じたので記してみた。
   コメントは省略するが、私には、産経の「民主主義を守る闘いは続く 民主主義の形」の記事の方が、現実を踏まえた理論展開であり、違和感を感じなかった。
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