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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

日本の病院経営が赤字だという

2025年06月03日 | 政治・経済・社会
  先日、NHKが、
  “全国6割以上の病院が赤字” 調査団体「地域医療は崩壊寸前」と報じていた。
  こうした背景には物価高などによる経費の増加が大きく、病院給食などの「委託費」は、2023年に比べて4.2%上昇したほか「給与費」も2.7%増えたということで、物価や人件費の上昇に診療報酬などの収入が追いつかず、地域の医療は崩壊寸前だと指摘している。
   調査を行った日本医療法人協会の太田圭洋副会長は「病床の利用率が90%を超えないと黒字にならない病院もあるとみられ、地域の病院が突然無くなるような事態にある。国には、物価などの上昇に応じて診療報酬が上がる仕組みを考えてもらわないと、持続的に医療を提供することは不可能だ」と話している。と言う。
   もう一つ深刻なのは、病院の建物や設備などの老朽化で、経済的に再構築不可能であり、廃業の危機に瀕する病院がある。と言うことである。

   イギリスでも、財政の悪化で、深刻な医療崩壊の危機に瀕しているようであり、事情は個々の国情によって違っていても、先進国の医療情勢は、悪化の一途を辿っていると報じられている。
   私など、医療制度に恵まれている日本を離れて、海外での生活や旅行が多かったので、その地の医療事情の如何は死活問題であり、看過できなかったが、分からない異国で分からない医療に頼るのは不安であったし、若かった所為もあり、多少の病気は無視して押し通してきた。
   日本でも、地歩医療の崩壊の危惧だけではなく、首都圏だけではなく大都市でも、病院経営が危機に陥っている場合があるというから、抜本的な救済策なり政策変更が必要であろう。

   さて、私の場合だが、幸いと言うべきか、今のところ、病院には恵まれていて、現役引退後も、長く、赤坂の山王病院にお世話になり、鎌倉に移ってからは、湘南鎌倉総合病院に通っていて、特に苦労することはない。
   海外に居た時には、費用に関係なく現地の信用できる健康保険に加入できたので、最高の医療サービスを受けられる状態になっていた。
   それに、サンパウロでは、日本人街に日本人医師の病院があり、アムステルダムには日本で医師免許を取った医師が居たし、ロンドンには、何らかの日本の医療機関の出先があり、日本人医師が常駐していたので、頼ることができた。私自身は、現地の医療制度で十分であったが、家族などは、簡単な手術などお世話になった。

   幸せだと思ったのは、日本の国民皆保険制度で、健康保険があれば、日本中どこででも、リーゾナブルな料金で医療サービスを受けられると言うことである。これほど、恵まれた制度はないと思っている。
   これが普通でないことを知ったのは、ブラジルに居た時で、詳細は忘れてしまったが、一般のブラジル人は、無料制度であっても、何日も待たされて、受診さえ受けられないと言うことであった。医療サービスを受けるためには、結構高い民間の健康保険に加入する必要があったのである。
   アメリカの一般的な医療制度の劣悪さは、世界周知の事実であり、論述は避けるが、国民の何十パーセントの貧民は健康保険さえなく医療とは無縁であり、オバマケアさえ叩き潰されて、メディケアやメディケイドさえ縮小傾向になっている。それに、アメリカの医療費は異常に高い。
   オランダとイギリスはどうであったか記憶にはないが、真面な医療サービスを受けるためには、それなりの民間の医療保険に加入する必要があったように思っている。
   良く分らないが、病気の治療を受けられるか、真面な医療サービスを享受できるかどうかは、金次第と言うのが、世界の趨勢であるようである。

(追記)はてなブログに、引っ越ししました。
   https://harunak0404.hatenablog.com/
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アメリカの海外留学生拒否に思う

2025年05月30日 | 政治・経済・社会
   アメリカのトランプ政権は、ハーバード大学に対して留学生を受け入れる機関としての認定を取り消すと発表した。在学中の留学生もほかの大学に転出しなければアメリカでの滞在資格を失うと説明していて、日本人を含め各国の留学生の間に混乱や不安が広がっている。と言う。
   更に、アメリカに留学するための学生ビザ(査証)の取得に必要な面接の予約受け付けを停止するよう、各国の米大使館に命じた。同政権は学生ビザ申請者について、ソーシャルメディアの調査を強化する準備を進めている。と言うのであるから、
   最高の学問教育そして研究開発の砦であり理想の知の宝庫であり巨人であったアメリカへの門戸を閉ざそうという暴挙であり、文化文明に対する恐ろしい反動である。  

   本件に対するコメントは避けて、私自身がアメリカに留学していた、何の問題もなく学生生活を送れていた、あの牧歌的な良き時代の思い出を回想してみたい。
   1972年から74年にかけて、フィラデルフィアのペンシルベニア大学のビジネスクール:ウォートン・スクールで勉強してMBAを取得した。この口絵写真のベンジャミン・フランクリン創立の全米最古の総合大学であり、最古のビジネススクールでもある。

   人事部長に呼び出されて、海外留学せよとの命令を受けての泥縄式の準備なので、何が何だか、どうすれば留学できるのかさえ分からなくて、四苦八苦した。
   内示を受けたのは、前年の中秋だったので、赤坂のフルブライト委員会の事務所に出かけて調べてみると、留学先を決めて願書を出し、ビジネススクールなら、TOEFLとATGSBを受験する必要があることが分かった。
   英会話など正式に習ったこともなければ、映画館に行ってアメリカの映画を見ても良く分らない状態からスタートしたので、まさに難行苦行であった。
   ローレンス・クラインのエコノメトリックス・モデルで名前だけ知っていただけで、ウォートン・スクールが、全米トップのビジネススクールだとも知らずに、まさに暴挙敢行で、色々助けて貰って、膨大な論文や資料を添えて出願書類を提出した。
   全く、天の恵みであろう、初春に入学許可通知を貰た時には、嬉しくてすぐに入学申し込みをした。しかし、トラブったのは、返送書類で封印しろと言う意味が分からなくて、郵便局で指示を仰ぐと、蝋を流して密封することだとして、おかしな形で送ったのだが、間違わずに良く着いたものだと思う。
   入学許可書など一式書類が来た時には、冷や汗が出たが、嬉しかった。

   初夏に、はじめての海外へ、羽田を発った。
   入管の指示だと言うことで、聖路加病院で検診を受けて撮った大きなレントゲン写真を手元に持ってである。とにかく、飛行機に乗れば、もう異国で何が起こるか分からない。
   JAL便の窓からサンフランシスコの風景を見た時には、無性に日本が恋しくなって、これから異国での生活が始まるのだと思うと身が引き締まる思いで緊張しきりであった。

   アメリカでの学生生活は、全く、日本での生活の延長と言った感じで、多少のカルチャーショックは感じても、特に苦労も不安もなかった。
   勉強のボリュームやハードさは、日本とはけた違いで、流石にアメリカであった。
   たとえば、経済学では、マクロとミクロの2科目で、日本の経済学部の2年間の全専門教育に匹敵するほどの量と質で価値が高く、サミュエルソンのECONOMICSなど、3回くらいの授業で終わり、夫々の授業の最後には最新の経済論文を読めるまでのレベルに上げる。
   これ以外に、専門は勿論、20科目近くを履修するのであるから、MBAコースの完遂は非常にハードルが高い。
   一晩に、100ページを超えるリーディングアサインメントは常態で、アメリカ人でさえ、学期中は、勉強勉強で手を抜けないと言うのであるから、我々海外留学生は大変であった。
   別な例では、人事関係を専門にして、2~3科目関連科目を履修したMBAが、即刻、しかるべき企業の人事部長に採用されたというから、プロフェッショナル・スクールとしての威力は傑出しているのである。
   
   この2年間のアメリカ生活の後、ブラジルで4年、ヨーロッパで8年の海外生活が始まった。
   ロンドンパリを股にかけ、切った張ったの国際ビジネスに邁進できたのも、このMBAが、パスポートになったお陰だと思っているので、アメリカには、一宿一飯の恩義を感じている。
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発展途上国の経済援助、「債務の罠」は必然?

2025年05月05日 | 政治・経済・社会
  先日、クリステンセンの「イノベーションの経済学 「繁栄のパラドクス」に学ぶ巨大市場の創り方」について論じて、
   成長発展を目的に実施された公的なトップダウンプッシュ型の繁栄計画、繫栄するはずの計画が繫栄せず、ことごとく失敗しているという「繁栄のパラドクス」論を紹介した。

   近年、中国の開発途上国への投融資による「債務の罠」が問題となっている。 重点国に対し過剰な融資を行う傾向があり、債務残高に占める中国の割合が高い「中国依存国」のなかには、債務不履行に陥るリスクが「高い」ないし「窮迫」と評価される国が多く、国家経済を窮地に追い込んでいる。
   しかし、中国の融資が良いとか悪いとか言う以前に、この「繁栄のパラドクス」論によると、貧困国への融資は殆ど失敗している。たとえ、中国の融資が善意であり優良なものであろうとも、債務の罠が起こるのは当然だと言うのである。

   世界の貧困は、支援を必要とする地域を特定し、資源を投入し、時間の経過ととも発展を期待して、教育から医療、インフラ整備から汚職の撲滅に至るまで、多くの解決策を実施して、貧困国の経済軌道を変えるべく開発計画を推進してきた。しかし、この期待は効果的な戦略ではなく、殆ど失敗しており、数十億ドル相当の援助を受けた少なくとも20カ国が、現在ではより貧しくなっている。と言う。
   「繁栄のパラドクス」論から言えば、開発計画を実施した国に、その計画を受け入れて活性化するだけの国力、自律的能力と体制が備わっていなければ、失敗に終わるのは必然であって、経済力がなく自律能力の乏しい貧困国が、「債務の罠」に陥るのは、当然なのである。先進国のインフラの複製のような分不相応な近代的な空港や港湾、鉄道などいくら建設しても、使われずに閑古鳥が鳴いているケースが多く、資金は回収不能であり、過重な債務だけが残っている。

   アメリカでは、初期の道路、鉄道、運河の殆どは、個人起業家や民間企業によって建設された。初期の起業家がインフラ構築のために何百万ドルも投資したのは、インフラ自体から利益を得るためではなく、道路や鉄道、運河、快適な通信環境が彼らの本来のビジネスを成功させるために必要だからであった。フォードやエジソンなどが膨大なインフラや事業環境整備を実施したのは必然であった。
   同じ状況を、今日、貧困国で活動している多くの企業にも見ることができる。低所得国および中所得国で成功するためのプロセスと、市場を創造する必要性をよく理解していて自社のビジネスに必要だから投資をしているのである。
   「市場創造型イノベーション」の場合、この傾向は特に顕著で、イノベーションがインフラに先行して起こって機動力となり、遅れた国民経済を一気に活性化して、経済成長を牽引する。

   現実には、インフラ開発は、経済的、政治的、社会的にも高いコストをかけながら、富裕国でも、10中8、9のプログラムが、遅延が発生し、予算超過を起こし、計画段階の成果の見通しを下回っている。
   これらは、大規模プロジェクトに必要な制度、技術、運営能力が備わった富裕国での事例であるから、インフラ投資の資金も持ち合わせず、新たにインフラを構築し維持管理してゆくための投資を引き寄せる魅力にも乏しい最貧国に、インフラを押し付けても成功は一層困難になる。
   「一帯一路」の鳴り物入りで注ぎ込まれる中国の膨大な海外援助融資などは、もとより、貧困国に砂上の楼閣を積み上げ、窮乏化させるだけ。
   クリステンセンは、最期に、シュンペーター張りの「市場創造型イノベーション」による壮大な経済発展論を説いて逝ったのである。

   追記すべきは、これらのイノベーションや新市場開発についての理論は、もう、20年前に、C・K・プラハラード教授が著書『 ネクスト・マーケット「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略 』で先鞭をつけており、このブログでも論じてきた。
   ブルーオーシャン戦略や、多くの経済成長発展論と併読すると面白い。
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トランプ経済、物価高騰で窮地に

2025年04月30日 | 政治・経済・社会
   ニューズウィーク日本版が、
「トランプ関税にノーベル賞学者が緊急警告「このままでは経済が沈む」 Gene Medi via Reuters Connect」と報じた。
   クルーグマンが、トランプ大統領による予測不能な関税政策──さまざまな関税の導入・一時停止や税率変更を繰り返すやり方──が、米国での景気後退を「あり得る」ものにしていると警鐘を鳴らした。 のである。
   トランプの関税政策とその実行方法がビジネス環境に深刻な不確実性をもたらしている 、「皮肉なことに、問題は関税そのものではない」「安定した関税率なら景気後退は起きない。しかし、翌日には変わるかもしれない不安定な関税率は、需要に本当に冷や水を浴びせる 」「トランプ関税の『秘伝のタレ』は、極度の不確実性にある。誰もそれがどうなるかわからない。次に何が起こるかもわからない」 。と言う。
   トランプはこれまでに、包括的、特定分野向け、報復的な関税を発表、実施、一時停止、再導入を繰り返してきた。特に、4月9日に大規模な報復関税が発動されたわずか数時間後に、その大部分を一時停止している。こうした状況が、企業投資や消費者行動、住宅建設業者などに悪影響を与えており、「景気後退があり得る」とする理由になっている。
   ただし、クルーグマンは「今回の景気後退は深刻なものにはならないだろう」としつつ、「もし消費支出が急落すれば、深刻な景気後退になる可能性もある」と警告している。

   現説を読んでいないので詳細は分からないが、関税などのころころ変わる朝令暮改のトランプの経済政策が惹起する不確実性が問題であり、消費支出が急落すれば深刻な景気後退になり得る。と言う事であろうか。

   私自身は、もっと単純な話で、今度のトランプ関税で引き起こされた急速かつ高率のインフレーションが、今後浸透してゆくと、アメリカ人の日常生活を圧迫して、政治経済社会を混乱させると思っている。
   ウォールマートの棚を見れば分かるが、その多くの商品が安価な中国製品であり、今や、棚には欠品が目立ち、価格が高騰して、消費者を困らせているという。食品や衣料、雑貨やおもちゃなどのアメリカの大衆消費財の大半は輸入品であり、高関税を課されるので、尋常な手段では対処できないであろう。
   それに、アメリカ製の自動車の部品の多くは25%関税の外国からの輸入品であるから、国産の自動車価格も高騰する。サプライチェーンを自国のみで完結できずに、外国貿易に依存しているアメリカのほかの製造業においても似たり寄ったりで、アメリカ経済そのものが、関税による悪性のコストプッシュ・インフレに見舞われつつあり、消費支出の急激なダウンが危惧され始めている。
   トランプが言うように、アメリカが世界中からぼったくられているなどと言うのは幻想で、むしろ、アメリカ経済自体が、安い外国製品に依存した、いわば、強者が弱者を利用した搾取型経済であった。その関係が、今回のトランプ騒動で人為的に外れて、構造改革とも言うべき現象で一気に輸入品が高騰するのであるから、容易に対応できるはずがない。

   これに対するアメリカ人一般大衆の強烈な半インフレ行動が拡大して、反トランプ運動を引き起こして関税政策の撤廃を迫るなど、トランプ政権は、何らかの形で、経済政策など対応を軟化せざるを得ないであろうと思っている。
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トランプがどう足掻こうとも、実体経済は騙せない

2025年04月07日 | 政治・経済・社会
   トランプ関税と異常な経済政策が、世界経済に激震を起こし、未曽有の経済危機を招いている。
   トランプの常軌を逸した暴挙であることは間違いないのだが、始動し始めてしまったので、当面は、流れに任せる以外にしようがない。

   はっきりしていることは、トランプが、どんなに強弁を弄して正当化して足掻こうとも、実体経済は、必ずトランプの経済政策を後追いして、その甚大な弊害なり無残な結果を露呈するであろうということである。
   まず、アメリカを筆頭に世界中の株価が大暴落しており、日経株価など、一時31000円を割り込んでしまった。
   アメリカでは、株価の大暴落と大衆の抗議デモだが、まもなく、トランプの唱えるお題目とは逆に、
   国家経済全体が変調を来してインフレが強襲するなど一気に経済情勢が悪化して、国民生活を窮地に追い込み、国民の不満が爆発しよう。国際経済の破壊は凄まじい筈である。
   世界の信認を失って凋落して行き、国民が離反して行くアメリカの黄昏に、トランプアメリカが耐え抜いてゆけるかどうか。

   日経株価の暴落だが、日本経済が健全なので、時間はかかるであろうが、元に戻る。右往左往することはない。
   また、景気循環の常で、日本経済のみならず、世界経済も、いずれ適当な時期に、上昇局面に向かって進行して行き、新秩序を形成して均衡状態に落ち着く。今度は、アメリカ弱体の新秩序なので状況は一変するであろうが、歴史の必然なので、気長に待つこととなろう。

    信じられないのは、民主主義のリーダーであった筈のアメリカで、何故、このような民主主義と資本主義の根幹を揺るがせ、国際秩序を根本から破壊するような狂気じみた暴挙が起こり得たのかと言うことである。
    更なる悲劇は、この暴挙を制止するカウンターベイリング・パワーが働かなかったアメリカの良識の著しい退潮、民主主義の崩壊の予感である。
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時事雑感:アメリカの迷走に思う

2025年03月04日 | 政治・経済・社会
   トランプ・ゼレンスキー両大統領の激しい口論が衆目の注視するところとなり、国際情勢が一気に不透明感を増した。
   昨日、日経の朝刊「春秋」で、
   ”よくぞ言った。・・・大国風をふかせて恫喝する相手に、じっと耐えつつ一歩も引かないゼレンスキー大統領の姿に胸のすく思いがした。” ”助けてやっているのだから礼を言え。小国の客人を見下して隠そうともしない。”と報じた。
   ”祖国を背負うゼレンスキー氏の言葉には、重みがある。多大な犠牲を払って侵略者と戦ってきたのだ。後に禍根を残すうわべだけの合意など出来るはずがない。”とも述べている。
   私もそう思うし、世界中の殆どの良識派の考え方もそうであろうと思う。
   ワシントン・ポストは社説で、トランプ大統領のゼレンスキー大統領に対する振る舞いは、映画「ゴッドファーザー」の主人公でマフィアのボスである「ドン・コルレオーネのようだった」と批判した。 と言うから、アメリカにも良識があるのである。
   アメリカの凋落の兆しを思わせるような、アメリカの迷走ぶりが世界を震撼させた。

   トランプ大統領の頭から欠落しているのは、ロシアが、国際法など国際秩序を無視して独立国家のウクライナに一方的に軍事侵攻して、破壊と殺戮を重ねて蹂躙し続けているという考えられないような極悪非道の国際犯罪を侵していると言う認識であり、更に、ウクライナが、アメリカが建国以来国是として確立して育み続けてきた自由民主主義を死守するために矢面に立って必死になってロシアに対峙している厳粛なる事実の理解が皆無だと言うことである。
   この本源的な事件の根幹、この価値判断さえできる良識人であれば、ウクライナのレアアースを人質に取って、交換に軍事援助を継続するという姑息極まりない取引をしてMAGAを押し通そうとした筈はないし、決裂で成果をアピールすべきセレモニーが吹っ飛んでしまい、会談でメンツをつぶされたとして、ウクライナへの援助を中断するというガキの喧嘩にも等しき愚策に及ぶ筈もなかった。

   アメリカは、既に、前世紀の後半から、経済力や国力の低下によって、国際的な覇権的地位を喪失して、世界の警察官としての役割を放棄して、パクス・アメリカーナの時代が、過ぎ去ってしまっている。
   その上に、今回のトランプ・ゼレンスキー会談決裂が、さらに追い打ちをかけて、為政者の姿や対応の稚拙さが、アメリカが、もはや、世界のリーダーでも世界平和の導き手でもなく、その器にも値しないことを、白日の下に晒してしまったのである。

   さて、アメリカの変節によって、同盟国であろうと何であろうと、アメリカを信じて付き合えなくなった。
   すべて、アメリカに頼れない、アメリカ抜きで考えよ、自力で生きて行けと言うことである。
   MAGAと同じで、MJGA、すなわち、日本第一で、日本は自分自身で自分の国の安全と平和を守らなければならなくなった。
   「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」ただけでは、 国家の存続さえ危うい。当然だが、現実である。
   どうするか、それが問題である。
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ジョセフ・ヘンリック (著)WEIRD(ウィアード)「現代人」の奇妙な心理 上

2025年02月15日 | 政治・経済・社会
   欧米人に典型的なWEIRD 以下の頭文字を綴ったもの
   ((W:Western(西洋の)/ E:Educated(教育水準の高い)/ I: Industrialized(工業化された)/R:Rich(裕福な)/ D:Democratic(民主主義の)))
   この普通ではない( Weird奇妙な)と著者が特定するWEIRDの心理を、経済的繁栄、民主制、個人主義の起源 を追求しながら浮き彫りにしてゆく、上下巻合わせて900ページに及ぶ大冊ながら、興味深い本である。

   さて、本筋からちょっと離れるが、私が、まず興味深かったのは、キリスト教会が行ってきた信者たちへの教化と権力集中の歴史である。
   歴史的にWEIRDの心理を形成してゆく過程において、宗教、この場合は、キリスト教の影響が大きく影響していることは自明の理であるが、その展開が興味深いのである。
   16世紀にレオ10世が財政難を切り抜けるために、カトリック教会が発行した罪の償いを軽減する証明書贖宥状(免罪符)などその鬩ぎあいの典型だが、マルティン・ルターが『95ヶ条の論題』で 批判して宗教革命が起こった。 

   まず、キリスト教会が大成功を収めるに至った最大の要因は、婚姻や家族に関する禁止、指示命令、優先事項を定めた極端な政策パッケージにある。と言う指摘。
   キリスト教の聖典には(あったとしても)希薄な根拠しかないにも拘わらず、これらの政策は次第に儀式の覆いに包まれてゆき、説得,陶片追放、超自然罰の脅威、世俗的処罰といったあの手この手を組み合わせて、可能な限りあらゆる地域に普及していった。この教会の婚姻・家族政策は、緊密な親族ベース制度や部族的忠誠心を切り崩すことによって、個人を徐々に自らの氏族や家の責任、義務、恩恵から引き剥がし、その結果、人々が教会に身を捧げる機会が増え、教会自身の拡大を促進した。
   教会は、一夫多妻婚、取り決めによる結婚、血族間や姻族間でのあらゆる婚姻を禁ずることによって、社会技術でもあり、家父長権限の源泉でもあった婚姻の効力を劇的に削いだ。近親婚禁止のむいとこ婚禁止に至っては婚姻相手が居なくなるなど、この婚姻をめぐる禁忌事項や処罰が、国王や君主に至るまで情け容赦なく繰返されて、破門や財や資産が収奪され、最終的にヨーロッパ諸部族を消滅させた。と言う。
   
   また、興味深いのは、富める者は、教会を通じてその富を貧民に施すことによって、本当に天国へ行けるという説を広めて、それによって教会の金庫室を創設した。慈善の教えに加えて、相続権や所有権の変更を加えることで、教会の成長拡大が促され、その懐も潤った。慈善寄付の広まりは、高額の贈与がもたらす説得力によって、新たな信者を引き付けるとともに、既存の信者の信仰心を深める働きもし、同時に、こうした遺贈によって、激流のごとく収入が、教会に流れ込んできた。

   教会は、死や相続や来世を利用して、その財力を増して権威を築き続けてきた。と言うのである。
   
   何も、キリスト教に限った話ではなかろうが、教会と世俗社会との鬩ぎあいのような感じがして興味深かった。

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バルセロナの市民参加型の市政

2025年02月03日 | 政治・経済・社会
   先日、斎藤 幸平 (著)人新世の「資本論」のブックレビューで、「脱成長コミュニズム」 への道程で、バルセロナでの脱成長社会を目指す「経済モデルの変革」、すなわち、資本主義の終わりのない利潤競争と過剰消費が気候変動の元凶だと糾弾して気候非常事態宣言を発して、国家が押し付ける新自由主義的な政策に反旗を翻す革新的な地方自治体「フィアレス・シティ」の先陣を切った最先端のモデルケースであると紹介した。
   市民参加型の「脱成長コミュニズム」である。

   これに呼応したような記事が、日経日曜版に、掲載された。
   「人に優しいスマートシティー、バルセロナが問う未来の街 NIKKEI The STYLE」である。

   住民がオンラインで政策決定に参加する仕組み「デシディム」。提案を書き込めば市の担当者から実現可能性などの返信が必ず来る。書き込みを見た別の住民が「いいね」を付けたり、「こういう方法もあるのでは」などとオンライン上で議論したり。全人口170万人のバルセロナで約15万人が利用する。 
   使い方も日々進化していて、20年からは4年に1度、3千万ユーロ(約50億円)の使い道をデシディム上の投票で決める「参加型予算」も始まった。公園の改修や街の緑化など、住民の書き込んだ要望を投票で絞り込む。
   デシディム以外にも住民が街づくりに参加するためのオンラインシステムが増えた。例えば「イリス」は「通りのごみ箱があふれている」など、その場で写真を撮って市にクレームを投稿できる。
   底流に流れるのは「街を良くしよう」との気風。今日のこのバルセロナの気風は、フランコ独裁政権末期のムーブメントが淵源である。1975年まで続いたフランコ政権下でバルセロナは冷遇され、信号や学校などインフラが不足していて、集会の自由も制限されていたが、祭りの準備などと見せかけて住民集会を開いて話し合い、結束して少しずつ街を良くしていった。
   テクノロジーの発達によってデシディムなどの仕組みが整い、昔より誰もが簡単に政策に意見を言えるようになり、議事録など情報にもアクセスしやすくなった。バルセロナに根付いた住民参加の文化がテクノロジーによってさらに進化した。のである。

   バルセロナを訪れたのは、もう、3~40年も前のことで、ガウディの建築物やフラメンコ、市場の賑わい、オペラ鑑賞くらいしか覚えていないが、エキゾチックな素晴らしい多くの観光資源に恵まれたスペインでも、特異な観光地市であった。
   このカタルーニァ地方は、言葉も違うし独立意識の強いところで、スペインと一線を画した政治文化文明、
   どこまで、集権意識の強いマドリード政府に抗し得るのか、興味のあるところである。

(追記)口絵写真は、ウィキペディアから借用。
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トランプ大統領就任演説「黄金時代が今始まる」

2025年01月21日 | 政治・経済・社会
   トランプ大統領の就任演説をNHKの録画で見て、読売新聞電子版の演説全文を読んだ。
  今から、アメリカの黄金時代がはじまる。The golden age of America begins right now. からスタートした30分ほどの演説。
   ホワイトハウスのHPを開いたら、先日のバイデンから、全く様変わりで、第1ページは、トランプの映像写真の下に、次の文章、
   America Is Back
Every single day I will be fighting for you with every breath in my body. I will not rest until we have delivered the strong, safe and prosperous America that our children deserve and that you deserve. This will truly be the golden age of America.
   さて、the golden ageになるのか、the dark ageになるのか、神のみぞ知るということであろうか。

   私が気になったのは、
   「今日、私は一連の歴史的な大統領令に署名します。これらの行動により、私たちはアメリカの完全な回復と常識の革命を開始します。まず、南部国境に国家非常事態を宣言します。あらゆる不法入国は直ちに停止されます。 」と言うところの「常識の革命the revolution of common sense 」と言う文言で、「常識 common sense」と言う言葉などトランプには最も縁のない言葉である。アメリカの発展もその後の爆発的な成長も、すべからく、移民あってのアメリカ。その移民排斥が、「常識の革命」と言うのなら、何をか況やである。
   尤も、バイデン政治を否定した一連の歴史的な大統領令が、「常識の革命」と言うのなら、殆ど常識外れのような気がする。

   しかし、一番気になるのは、
   バイデン氏が退任演説でトランプ政権で少数独裁到来と警鐘を鳴らした
   「ハイテク産業複合体」―の不気味な台頭。
   軍産複合体による支配の危険性を唱えたアイゼンハワー元大統領の退任演説に言及し、人工知能(AI)開発を含む「ハイテク産業複合体」の台頭が「同様の脅威をもたらす可能性がある」と指摘した。のだが、 
   今回の就任演説会場では、テスラのイーロン・マスク氏、グーグルのスンダー・ピチャイ氏、アマゾンのジェフ・ベゾス氏、メタのマーク・ザッカーバーグ氏などビッグテックのCEOたちが、閣僚より前の席に配置されて目を引いた。と言う。正面演台のすぐ後ろ左側、トランプファミリーとの並びである。
   
   トリプルレッドで殆ど白紙委任状を得て超独裁権を握ったトランプ政権と、人類の文化文明史上最先端産業であり最高の経済権力を握るハイテク産業が癒着してアメリカのみならず世界全体を支配すれば、どんなことになるか、バイデンは、最後の白鳥の歌を歌って去ったのである。
   移民問題や関税の問題、ウクライナや中東の問題より、はるかに強力な文明破壊力が炸裂するような気がしている。
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ウォートンM:高技術移民の影響 The Impact of High-Skilled Immigrants

2025年01月14日 | 政治・経済・社会
   ドナルド・トランプのシリコンバレー/MAGA連合内でのH-1Bビザ(高技能労働者向け就労ビザ)論争は、いくつかの重要な疑問を提起しているのだが、
   ウォートンマガジン2024年秋冬号に掲載された「高技能移民の影響」外国人労働者が米国企業、そして経済全体を改善する方法」が、アメリカにとって、海外からの高技術者移民が非常に貢献しているとレポートしていて興味深い。

   移民と米国経済に関する大きな論争は、通常、海外の労働者が米国の求職者に損害を与える可能性があるかどうかに焦点が当てられているのだが、、移民と米国経済に関するさまざまな研究を分析したウォートン経営学部のブリッタ・グレノン教授は、新しいエッセイで、高技能移民のメリットについて考察した。
   グレノン教授は、移民が米国生まれの熟練労働者の仕事を奪っているわけではないことを発見し、実際、熟練移民は起業することが多いため、むしろ雇用を生み出している。ある研究によると、移民は米国生まれの市民に比べて起業する可能性が約 80% 高く、高技能移民のおかげで企業の業績が向上し、投資が増えると、通常はより多くの人を雇用することになり、それは経済にとって良いことである。「移民は、特に新興企業にとって、企業の成果に大きなプラスの利益をもたらしている」と言う。

   グレノン教授は、「移民に関する公共政策の議論が企業の役割を無視し、移民政策の影響は国境内に限定されていると想定する傾向にあることに、私は不満を感じてきた」と述べた。「このエッセイは、政策議論における企業の重要性を示し、ある国の移民政策の変更が他の国にどのような影響を与えるかを示すことで、その状況を変えようとしている。ここには、見落とされがちな国家競争力の観点がある。」という。

   移民は、ビジネスをより効率的にし、全体的な賃金を上げることができる新しいアイデアや技術を頻繁に持ち込む。例えば、米国企業に雇用されている人工知能の博士号取得者の59%は移民である。また、移民は多国籍企業が製品やサービスを海外に輸出する際にパフォーマンスを向上させるのに役立つと指摘する。
   これらの利点を考えると、多くの国が最も才能のある移民を誘致し、選ぶという共通の目標を共有している。米国は移民の主な目的地の 1 つであり、2020 年には世界の海外労働者の 18% が米国に移住した。多くの場合、企業からの雇用ベースのグリーンカードの需要が国ごとの制限を超え、永住権の待機期間が長引いている (中国、インド、メキシコ、フィリピンが顕著な例である)。米国で働くことを目指すインド国民の場合、これらの待機期間は現在 100 年を超えると予測されている。

   グレノン教授は、これらの問題が米国企業の決定と結果を形作っていると考えている。熟練した移民は、特に新興企業にとって、企業の成果に大きなプラスの利益をもたらしており、その入手可能性が変化すると、企業は生産方法を調整したり、事業を拡大したり、熟練労働者を海外に移転したりする可能性があると言う。

   グローバル経済では、熟練した移民の流入を制限する国の企業は、よりオープンな政策を持つ国の企業に比べてうまくいかない可能性がある。最終的に、企業が選択を行い、熟練移民の入手可能性の変化に適応する方法を考慮した、より洗練された移民モデルを求めていて、結論として、「制限的な熟練移民政策で自国の企業を妨害する国は、投資とイノベーションを海外に移すことで、自国の競争力を損なう可能性がある。」と言うのである。

   外国出身の高技能労働者とH-1Bビザ(高技能労働者向け就労ビザ)を巡って、MAGAとシリコンバレーの間で勃発したアメリカ文化に関する激しい非難合戦が、共和党内部とドナルド・トランプ次期大統領の支持層内で生じている深い分断を反映している。
   イーロン・マスクは、最初に南アフリカから渡米した際にJ-1ビザ(交流訪問者ビザ)を取得し、その後H-1Bビザに移行した恩恵派。テスラなどハイテク関連企業を経営しているので、このプログラムを利用した多くの従業員を抱えるなど大いに恩恵に預かっていて、MAGA派の急先鋒でことごとく移民反対の極右インフルエンサーのローラ・ルーマーやトランプ元側近で昨年10月に刑期を終えたスティーブン・バノンなどと敵対している。
   さて、どうなるか、アメリカの命運がかかっている。
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TOP RISKS 2025 日本への影響

2025年01月13日 | 政治・経済・社会
   ユーラシアグループが、恒例のTOP RISKS 2025を発表した。
   全リスクとも、トランプリスクと言っても良いほど、トランプ塗れの2025年バージョンだが、
   末尾に、各国への影響が収録されていているので、今回は、そのうちの 日本への影響(View implications for Japan )について触れてみたい。

   この項を要約すると、ほぼ、次のとおり。
   まず、冒頭、現代の日本に とって孤立は選択肢とはならず、国際貿易は日本の経済の生命線だ。米国なしでは日本 の安全保障が危機にさらされる。リスク回避の傾向が強い日本社会ではあるが、地政学上 のリスクを巧みに管理する必要がある。として、
   今年は日本の外交 手腕が試される年になるだろう。トランプ次期大統領や中 国の習近平(終身)国家主席のような強引な世界の指導者たちに対応しなければならな い。また、貿易摩擦、インフレ圧力、不安定な円相場の悪影響にも対処し なければならない。と説く。

   米国に関連して、二つの重大なリスクがある。トランプ関税は、特に日本から輸入する自 動車が標的となった場合、日本経済に打撃を与える可能性がある。またトランプノミクス が米国のインフレを再燃させれば、日本の消費者物価、金融政策、円相場に混乱を招く可 能性がある。また日本にとって、「米中決裂」も深刻な懸念材料だ。中国と米 国は日本の最大の貿易相手国であり、米国と中国の関係が悪化すれば日本も巻き添えを食 う可能性が高い。と言う。

   米国は日本にとって最も重要なパートナーで、これほど緊密な関係にある国は他にな く、その米国への依存こそが、リスクNo. 4「トランプノミクス」を2025年の日本 にとっての最大のリスクとする理由だ。貿易に関してトランプを動かすものは二つ、関税への愛と、貿易赤字への憎悪だが、米国の対日貿易赤字は長年にわたり年700 億ドル前後で推移し、赤字のほとんどは日本からの自動車輸入が原因だ。この対日貿易赤字もトランプの 貿易ターゲットのリストに載る。
   しかし、トランプノミクスは日本にとって関税リスク以上のものをもたらす。日本の 消費者物価、金融政策、円相場も影響を受ける可能性がある。トランプの政策が米国 のインフレを再燃させて円安が進み、日本のインフレ率上昇につながる場合、日銀の 金融政策正常化の計画に影響を及ぼすことになる。
   
   リスクNo. 2「トランプの支配」のリスクは米国でビジネスを行う日本企業だけでなく、石破茂首 相にも重くのしかかる。 次期大統 領による恣意的な決定、例えば在日米軍駐留経費負担の大幅な増額要求などから石破 を守るものではないが、石破にはトランプに対していくつかの切り札がある。日本は 米国への海外直接投資額で5年連続トップであり、トランプはこの状態を維持したい と考えている。また、トランプの側近たちは、戦略上の最優先事項である中国への対 応を効果的に行うには日本の支援が必要であることをトランプに思い出させるだ ろう。

   米国に次いで、日本に影響力があるのは中国だ。日本経済の健全性は中国経済に大き く依存しているため、リスクNo. 3 「米中決裂」が日本にとっての懸念事項のリ ストの上位となる。トランプが大統領に返り咲けば、中国との関係における脆弱な安 定は崩れるだろう。彼は就任後すぐに中国に対して大幅な関税を課す可能性が高い。 また、日本などの主要な同盟国や貿易相手国が、国家安全保障関連の対中輸出規制の 拡大で米国に同調することを期待しており、それは日本の経済に多大なコストを強い る可能性がある。さらに、米中関係の崩壊はグローバルなサプライチェーンを混乱さ せ、日本企業を含む世界中の企業は貿易の流れを再構築することを余儀なくされてコ ストが増加する。

   リスクNo. 10「米国とメキシコの対立」は、移民、麻薬、貿易をめぐる米国とメキシ コの関係における火種に焦点を当てているが、日本との関連も大きい。トラ ンプの最大の不満は、中国が米国への商品販売の裏口としてメキシコを利用している ことだ。日本の自動車メーカーは米国への輸出拠点としてメキシコで製造工場を運営 しており、この問題に巻き込まれるリスクがある。米国におけるメキシコからの輸入 品に対する関税引き上げや原産地規則の厳格化が行われれば、日本の自動車メーカー とサプライヤーに直接的な影響を与えることになる。  

   トランプをリーダーとする米国は、リスクNo.1「深まるGZERO世界の混迷」で述 べられているように、世界的なリーダーシップを発揮することを望まないだろう。日 本は、米国が長年担ってきた「世界の警察官」や「自由貿易の擁護者」という役割を 放棄することを望んでいない。これらの役割は、米国に何十年にもわたって平和と繁 栄をもたらしてきた。米国は日本が望むようなリーダーシップの行使には抵抗するだ ろう。米国は依然として、敵対者たちよりも強い。中国はここ数十年で最悪の経済危機 に苦しんでおり、ロシアは深刻な衰退に陥り、イランは存亡の機にある。これらはす べて、チームUSAの一員である日本に有利に働く。

     島国である日本は天然資源に恵まれず、エネルギーの輸入に依 存しているため常に危険にさらされている。この脆弱性のため、リ スクNo.5「ならず者国家のままのロシア」とNo.6「追い詰められたイラン」が日本 のエネルギー安全保障にとって重要なリスクとなる。日本は世界第2位のLNG輸入 国であり、G7による制裁があるにもかかわらず、依然としてLNGの9%をロシアか ら輸入しているが、政治的な現実によ り、日本はロシアのLNGへの依存を低下せざるを得なくなり、他の潜在的な供給源 (アラスカやカナダ西部など)を検討することになるだろう。 
   日本は原油も90%を中東から輸入しており、2024年の原油価格の低迷から恩恵を受 けている。米国とイランの対立が拡大し、原油価格が上昇する事態は望んでおらず、特に、イランが報復 として地域のエネルギーインフラを攻撃したり、ホルムズ海峡を封鎖したりした場合 にその懸念は高まる。

   民放テレビで、日本としてどのようにトランプに対応すれば良いかと聞かれて、ブレマーは、悪目立ちしないようにして、単独行動を避けて同盟国などと連携して当たること、適当な妥協は必要だが、基本的に大切な事項は妥協すべきではないと答えていた。
   確たる思想も哲学もないトランプの行き当たりばったりの政策に、真面に対応しておれば振り回されるだけであるから、目立った対応は避けて、流れに乗って、臨機応変に賢く立ち回れということであろうか。

   トランプの2度目の大統領就任は、民主主義を窮地に追い込み、外交政策の混乱を招き国際秩序を破壊する。 そんな心配はないであろうか。
   1 期目における絶え間ない衝突と予測不可能性が倍増し、米国の同盟関係に緊張をもたらし て弱体化させ、世界における米国の影響力や地位を低下させ、平和を促進してきた国際機関を弱体化させ、世界的な紛争 の可能性を高めるなど、長期的には、地政学的な不安定性を高め、Gゼ ロの世界を進行させ、世界をより危険な 場所にするだろう。とも予言する。
   興味深いのは、 しかし序盤戦では、トランプが得点を重ねる可能性があるので注意すべきだ。という付言である。  行きはよいよい帰りは恐い、ことに大衆は気付かないかもしれない。
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NHK:人新生の地球に生きる

2025年01月11日 | 政治・経済・社会
   NHKのBSスペシャル
   人新世の地球に生きる 〜経済思想家・斎藤幸平 脱成長への葛藤〜を見た。
  
   人類の経済活動が地球環境に深刻な影響を与える「人新世」の時代、 経済思想家、斎藤幸平が、ドイツや北米を訪ねながら、新たな生き方を探す思索の旅。 「人新世」の時代、私たちはどう生きていくのか‥マルクスの「資本論」に新たな光を与えて、“脱成長”を提言し、今、彼は、自らの思想をどう実践に結びつけていくか、悩んでいる。若き思想家が、ドイツの環境運動の最前線や北米の先住民族を訪ね、対話を重ねながら、新たな生き方を探す思索の旅を追った。番組である。

   斎藤准教授は、一世を風靡した「人新生の資本論」の著者だが、まだ読んでいないし、NHK100分de名著カール・マルクス「資本論」を見たくらいで、よく知らなくて、2022年1月の日経の「民主主義、気候変動でも試練」という論文 を読んで、「脱成長コミュニズム、脱成長共産主義」 に疑問を呈した。計画的なコミュニズムをイメージするならば、ソ連や冷戦以前の共産主義社会は例外としても、中国などの今様共産主義国家を考えるしかないが、人権など文化文明にとって最も重要な公序良俗を軽視する専制国家であって、理想的な社会だとは思えない。 としたのである。

   しかし、NHK放映の番組では、コミュニズムについては、ヨーロッパで生まれ育まれてきた原初のコミュニティと言うか民主的な共同体コモンを意図しているようで中国型のような国家主体のコミュニズムではなさそうである。
   また、NHKのマルクス講座でも、資本主義の構造的矛盾について論じた主題に加えて、マルクスが晩年に遺した自然科学研究、共同体研究の草稿類も参照し、パンデミックや気候変動といった地球規模の環境危機をふまえ、いまこそ必要なエコロジー・脱成長の視点から 社会変革に向けた実践の書として『資本論』をとらえ直す、まったく新しいマルクス論を展開している。
   経済成長について、今回感じたのは、「脱成長」と言う言葉が、反経済成長論者として誤解を招いていることである。自然環境を破壊して遂行する大量生産大量消費のエコシステムを無視した経済成長を非難しているのであって、スケールダウンやスローダウンは意図しているが決して成長を否定しているのではないと言うことである。

   次の写真がフンボルト大学のエントランスロビーの2階へ上る階段の踊り場壁面のマルクスの言葉である。
   哲学者たちは世界をさまざまに解釈してきた
   肝心なのはそれを変革することである

   斎藤准教授は、要するに資本主義がだめならどう変えて行くかなど、理論と実践の問題であって、これをどうやって21世紀に、もう一回発展させたり継承してゆくか、自分の中での学問的なミッションみたいな気持ちで勉強している。と言う。

   ベルリンの壁崩壊直後に、東ベルリンに入ってフンボルト大学に行って、この壁面を見たはずだが、記憶は全くない。
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民主主義は経済成長の結果であろうか

2025年01月09日 | 政治・経済・社会
   先に引用した岩井克人教授の論考で、教えられたのは、迂闊にも知らなかったシーモア・リプセットの「豊かな国ほど民主主義を維持できる可能性が高い」と言う説である。
   Wikipediaの英語版で、この部分を引用すると、
   リプセットの「民主主義の社会的要件: 経済発展と政治的正当性」は、近代化理論、民主化に関する重要な著作であり、ここで、経済発展が民主主義につながるという「リプセット仮説」を立てた。
   リプセットは「近代化理論」の最初の提唱者の 1 人であり、民主主義は経済成長の直接的な結果であり、「国が裕福であればあるほど、民主主義を維持する可能性が高くなる」と述べている。 リプセットの近代化理論は、民主主義への移行に関する学術的な議論や研究において、引き続き重要な要素となっている。

   私が注目しているのは、これまで何度も書いてきたが、国家経済が成長発展して成熟の段階に達しなければ、民主主義制度を確立することも維持することも不可能である。と言うことで、このことが論証されたことである。
   成熟経済国家になった欧米先進国には民主主義が定着しており、日本を追いかけて雁行成長で離陸した東南アジアの台湾、香港、韓国、シンガポールなどもそのケースである。
   一方、民主主義政治体制を取りながら、中所得や低所得の新興国に留まっている国、例えばインドなどは、まだ、民主主義もどきと言った段階であろうか。

   欧米先進国の識者たちは、驚異的な経済成長を遂げて大国へと驀進した中国に対して、民主主義国家への脱皮を期待したが、ロシアと共に、西欧型民主主義を否定して、専制主義的独裁国家に変貌して、違った発展経路を打ち立てた。
   本来の民主主義体制を構築するためには、ウォルト・ロストウの経済発展段階説を昇りつめて離陸するために、大変な努力と時間を費やして経済発展を遂げなければならなかった。
   しかし、今日では、知識情報化社会でノウハウが拡散し、かつグローバル経済世界で多くの成長発展の先例が生まれて、そのショートカット方式を採用して、中国やロシアのように専制主義国家体制を取って、独裁的に、経済の成長発展を策した方が、手っ取り早く実現可能となった。
   多くの発展途上国がこれに倣って、七面倒な自由や人権やと言った問題に悩まされることなく、発展を遂げられるので、欧米よりの民主主義国家がどんどん減って行くのは、歴史の当然の帰結である。

   したがって、前述のリプセット仮説は、欧米先進国型の民主主義と経済成長の直接的な結果を述べているのであって、現下では、欧米型の「国が裕福であればあるほど、民主主義を維持する可能性が高くなる」国もあれば、国の富裕貧困に拘わらず、従来の民主主義には縁のない国が多くなってきた、
   民主主義(?)の変質と言うべきか、全く異なった政治経済社会体制が形成されつつあると言うことである。

   ところで、トランプアメリカの民主主義の危機はどう見るべきなのか、
   「国が裕福であればあるほど、民主主義を維持する可能性が高くなる」と言うのだが、その豊かなアメリカが、民主主義の最大の危機に直面している。
   ディストロイヤー・トランプが、民主主義を破壊すると豪語している(?)のである。
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日本の民主主義の使命とレジリエンス

2025年01月08日 | 政治・経済・社会
   6日の日経に、岩井克人教授の「日本の世界的使命は何か」と言う興味深い論文が掲載されていた。
   これまで、資本主義や貨幣、法人について研究してきて、今後も続けられることが当然と考えてきたが、ここ数年、自分の足元が崩れつつあるという気がしている。「歴史の終わり」から説き起こして、現下の国際情勢の惨状を分析し、自由に基づく近代的な民主主義の最も声高な提唱者であった米国の内側で、反逆が始まっている。として、民主主義と言う制度がいかに脆弱であるかが白日の下に晒された。と言う。

   今世界は大きく混乱しているのだが、その混乱の中で見えてきたのは、日本の国という使命だという。
   かっては世界支配からの東洋の開放こそ日本の世界史的使命であると唱えていたが、敗戦後、西洋から極東と呼ばれたこの島国で、戦後80年にわたって近代的な民主主義が曲がりなりにも機能してきた。自由がなくては思考ができないが、その自由を当たり前のこととして人間が好きに学問ができた。その事実が、近代的民主主義が西洋的な理念ではなく、洋の東西を問わない普遍的理念の証である。
   日本の世界的使命とは、どれだけ凡庸であろうとも、そのような社会であり続けること。そして、その事実を世界全体に向けて語り続けることにある。と説いている。

   もう一つ、日本の民主主義についての論考で興味深いのは、ニューズウィーク「2025年の世界を読む」特集号のトバイアス・ハリスの「日本政治のしなやかさは民主主義の希望となり得る」と言うコラムである。
   総選挙で大敗した自公政権と野党の意外な協調ムードが、日本の多党制民主主義に驚くべきレジリエンス(しなやかな強さ)があることを見せつけて、世界の模範になる。と言うのである。
   自民党主導の少数与党の政府が誕生しても国会が膠着せず、むしろ与野党がより柔軟な協調体制を見せるようになった。野党は、与党の動きに誠実に対応し、弱った自民党政権を潰そうとはせず、日本式「コビタシオン(保革共存)」のパートートナーとして振舞っている。
   トランプの政敵への復讐、韓国の尹大統領の非常戒厳宣告、フランスやドイツの政治の混乱等々他の民主主義国とはその違いは鮮明である。日本の現在の政局は、ポピュリズムの台頭や格差と貧困の拡大、SNSが煽るデマと偽情報の拡散に負けず、民主主義のレジリエンスを世界に見せつけるチャンスである。と言う。

   私も世界中を駆け回ってきて、日本の民主主義の有難さは肝に銘じているので、全く異存はない。
   さて、まず、今25年の日本は、このしなやかな多党制民主主義を発展させ得るのかどうか、そして、日本の安穏な民主主義社会を維持し続けていけるかどうかが問題であろう。
   いずれにしろ、トリプルレッドで白紙委任状を手にした今世紀最も恐怖の民主主義ディストロイヤーと目される独裁者トランプの強烈な破壊工作の挑戦を受けて、いかにして、日本が虎の子の民主主義を死守できるか、厳しい挑戦が待ち受けている。
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バイデン日鐵のUS Steel買収を拒否

2025年01月04日 | 政治・経済・社会
   バイデン米大統領は3日、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの143億ドル(約2兆2500億円)規模の買収を阻止する考えを表明した。「何度も述べているように、鉄鋼生産や生産に携わる鉄鋼労働者は我が国の屋台骨だ」とコメントして、「国内で所有・運営される強力な鉄鋼産業は国家安全保障上の重要な優先事項であり、強じんなサプライチェーン(供給網)にとって不可欠となる」との認識を示し、安保への懸念を強調した。
   同盟国間の民間企業どうしが合意した買収を、米大統領が認めないのは極めて異例 であり、ワシントン・ポストによると、側近らがバイデン氏に対して、買収の阻止は今後の日米関係に悪影響を与えるとして翻意を求めたが、バイデン氏の考えは変わらなかったという。 
 
   しかし、米シンクタンクのハドソン研究所によると、USスチールの取引先は自動車や建設など民間部門が多く、国防関連先に鉄鋼を供給していない。また、国防総省が必要とする鉄鋼は米生産量の3%にとどまり、米鉄鋼業界は十分な生産量を確保できているという。  同研究所は、安さを武器に世界の鉄鋼市場の支配を強める中国に対抗する必要性を強調。同盟国の日本からの投資を受け入れれば、「米国の安全保障を強化するだろう」と指摘していた。と言う。

   このバイデン大統領の買収阻止の正式発表にたいして、USスチールのブリットCEOは、「バイデン大統領の行動は恥ずべきもので、腐敗している」としたうえで、「労働組合の幹部へ政治的な見返りを与えたが、それはUSスチールと社員の未来、国家の安全保障を損なうものだ」と批判した。 さらに「経済的にも安全保障のうえでも重要な同盟国である日本を侮辱し、アメリカの競争力を危険にさらしている。中国共産党の指導者たちは、小躍りして喜んでいるだろう」と指摘した。

   レイムダックで死期を迎えたバイデンの白鳥の歌ならず、最後の悪あがき、
   US Steelの今後が哀れだが、アメリカのレッドオーシャン製造業の晩鐘が聞こえてくる。

   US SteelのHPの表題ページは、口絵写真のままで変化なし
   NIPPON STEEL United States Steel
   MOVING FORWARD TOGETHER AS THE
   BEST STEELMAKER
   WITH WORLD‐LEADING CAPABILITIES

   日鐵とUS Steelの理路整然とした声明がすべてを語っているので、今回は蛇足を避けて、
   日テレ記事からの引用にとどめる。
   【日本製鉄とUSスチールによる共同声明全文】
日本製鉄とUSスチールは、バイデン大統領が、本買収に対して禁止命令を決定したことに失望しています。この決定は、バイデン大統領の政治的な思惑のためになされたものであり、米国憲法上の適正手続き及び対米外国投資委員会(以下、CFIUS)を規律する法令に明らかに違反しています。大統領の声明と禁止命令は、国家安全保障問題に関する確かな証拠を提示しておらず、今回の決定が明らかに政治的な判断であることを示しています。バイデン大統領の決定を受けて、日本製鉄とUSスチールは、法的権利を守るためにあらゆる措置を追求する所存です。
日本製鉄とUSスチールは、本買収により、ペンシルバニア州やインディアナ州をはじめとする米国鉄鋼業がある地域が再び活性化し、米国の鉄鋼労働者の雇用確保、米国の鉄鋼サプライチェーンの強靭化、米国鉄鋼業の中国に対する競争力の強化、及び米国の国家安全保障の強化につながるものと確信しています。日本製鉄は、USスチールが事業を行う地域コミュニティ及び米国鉄鋼業界全体に利益をもたらすため、米国の象徴的な企業としてのUSスチールを支え、成長させるために必要な投資を行うことができる唯一のパートナーです。日本製鉄は、既にコミットしている27億ドルの投資の一環として、ペンシルバニア州モンバレー製鉄所に少なくとも10億ドル、インディアナ州ゲイリー製鉄所に約3億ドルの投資を行うことを決定しています。本買収を禁止することは、USスチールの設備を長期間にわたり稼働させるために必要な27億ドルの投資が実行されないことを意味し、良好な処遇条件で家族を養う何千もの労働組合員の仕事が危機に晒されることになります。バイデン大統領による今回の買収禁止命令は、自身の政治的な思惑のために、米国鉄鋼労働者の未来を犠牲にすることに他ならないと考えます。また、USスチールの株主に対して、買収完了時に1株当たり55ドルを支払うとの約束を果たすべく、日本製鉄とUSスチールは、法的権利を守るためのあらゆる措置を講じてまいります。 
日本製鉄とUSスチールは、CFIUSの審査において、当初から、誠実かつ透明性をもって真摯に協議に応じてきました。CFIUSに提出された記録を見れば、日本製鉄によるコミットメントを伴う本買収は、米国の国家安全保障を弱体化させるのではなく、強化するものであることが明らかです。CFIUSの審査プロセスが、政治によって著しく適正さを欠いていたことは明白であり、その結論は、実質的な調査に基づかず、バイデン政権の政治的目的を満たすためにあらかじめ決定されたものでした。米国政府が、米国の利益につながる競争を活性化する本買収を拒否し、同盟国である日本国をこのように扱うことは衝撃的であり、非常に憂慮すべきことです。残念ながら、米国へ大規模な投資を検討しようとしている米国の同盟国を拠点とする全ての企業に対して、投資を控えさせる強いメッセージを送るものです。 
日本製鉄は、CFIUSの示した懸念に対応すべく、本買収完了後のUSスチールの取締役の過半数は米国籍とし、そのうち3名の独立取締役はCIFUSが承認すること、CEOやCFO等の重要職位は米国籍とすること、USスチールが提起する通商措置に日本製鉄は一切関与しないこと、生産や雇用を米国外へ移転しないこと、ペンシルベニア州、アーカンソー州、アラバマ州、インディアナ州、テキサス州にあるUSスチールの拠点の生産能力をCFIUSの承認なく10年間削減しないこと、国家安全保障協定(National Security Agreement)の遵守状況等をCFIUSに定期的に報告すること、CFIUSは取締役会にオブザーバーを派遣する権利を有すること等を含む、米国政府にとって完全に強制執行が可能な様々な問題解消措置を自主的に約束しました。しかしながら、CFIUSは、日本製鉄とUSスチールが100日間にも亘って、自主的に提示した4つの確固たる国家安全保障協定案に対して、書面によるフィードバックを全く行わなかったことから明らかであるように、両社が提案した問題解消措置のいずれについても適切に検討することはありませんでした。本日、バイデン大統領が決定を下したことに、日本製鉄とUSスチールは、深く失望しています。
日本製鉄とUSスチールは、本買収に際し、USスチールの従業員、地域コミュニティ、政府関係者、政治家、経済界をはじめ、米国および日本の様々なステークホルダーの皆様に多大なる協力と熱烈な賛同を頂いたことに感謝申し上げます。我々は、米国のステークホルダーの利益のために、米国で事業を遂行することを決して諦めません。日本製鉄とUSスチールのパートナーシップが、USスチール、特に全米鉄鋼労働組合との基本労働協約対象拠点をはじめとして、USスチールが将来にわたって競争力を保ち、発展し続けるための最善の方法であると確信しています。それらの未来を確かなものとするために、日本製鉄とUSスチールは、日米政府関係者を含むステークホルダーの皆様と引き続き緊密に連携し、法的権利を守るためのあらゆる措置を追求してまいります。
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