熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

NHK BS:ウィーン国立歌劇場「トゥーランドット」

2024年08月05日 | クラシック音楽・オペラ
   昨年12月に上演されたウィーン国立歌劇場の歌劇「トゥーランドット」(プッチーニ) アスミク・グリゴリアン&ヨナス・カウフマン スター歌手の競演!を、NHK BSが7月に放映した。

   NHK解説の番組内容は、
   ウィーン国立歌劇場 歌劇「トゥーランドット」(プッチーニ) 当代きってのスター歌手がタイトル・デビュー。役になりきった圧巻の歌唱は必見! 出演:アスミク・グリゴリアン(トゥーランドット)、ヨナス・カウフマン(カラフ)、イェルク・シュナイダー(皇帝)、クリスティーナ・ムヒタリヤン(リュー)他 管弦楽:ウィーン国立歌劇場管弦楽団、指揮:マルコ・アルミリアート 演出:クラウス・グート

   プッチーニが、「トゥーランドット」を未完で世を去ったので、「リューの死以降」を補筆したのが、フランコ・アルファーノだが、初演を指揮したトスカニーニが大幅に削除を要求して、以降このカット版で上演されてきた。しかし、今回は、完全版の上演だという。

   それに、古代の中国ムードたっぷりのエキゾチックな従来のような舞台ではなく、今回は、
   ファシズムの影が差す、初演時のヨーロッパの連想から、演出家グートは、舞台から中国趣味を排除して、カフカとジャック・タチ「プレイタイム」をヒントにスタイリッシュな不条理空間を創造するという。
   衣装も、口絵写真のとおりで、合唱団はもちろん殆どの出演者は背広や洋服姿であり、セットもシンプルで、時空を超えた中性の演出。
   時代考証のしっかりした演出のオペラが好きだし、
   これまでの、中国趣味の「トゥーランドット」の舞台の印象が刷り込まれているので、華麗なプッチーニ節はそのままとしても、やや、戸惑いを感じた。

   さて、この「トゥーランドット」は、ペルシャなどの「謎かけ姫物語」の一類型。
   先祖の姫が異国の男性に騙され、絶望のうちに死んだので、世の全ての男性に復讐を果たすために、絶世の美女トゥーランドット姫 は、言いよる王子たちに三つの謎を与えて解けなかったので総て斬首する残忍な話。ところが、一目ぼれしたチムールの 王子カラフが謎解きに成功して氷のように冷酷なトゥーランドットを陥落させる。勿論、カラフの愛をすぐに受け入れる姫ではなく、拒絶して逃げるので、カラフが自分の名前を言えば許すという。
   ここで、名前を探索するために布告を出す有名なアリア「「誰も寝てはならぬ」Nessun dorma 」の舞台。トゥーランドットは、唯一名前を告白できるチムールの娘リュー(カラフに密かに想いを寄せる召使)を痛めつけるが、自殺する。
   この舞台では、秘密を守り抜いて喜びさえ感じて死んでゆくリューに、何故それほどまでに強いのかと問い詰めて、「愛」だと応えられて、自殺にショックを受けて思いつめるトゥーランドットを描いていて印象的であった。
   終幕に、玉座の前に進み出た姫が、「彼の名は……『愛』です」と宣言する のだが、このオペラのメインテーマは、「愛」であり、氷の女トゥーランドット姫の謎解きの熾烈さ冷酷さと対比させたのである。
   トスカニーニが削除した部分がどこか良く分からなかったが、カラフに接吻されて一変したトゥーランドットが、最初会ったときからカラフに英雄の姿を感じて愛を覚えたと心情を吐露していたので、このあたりであろうか。

   オペラで、最も好きなキャラクターの一人がリューなのだが、このオペラでも、第1幕の、「「お聞き下さい、王子様」Signore, ascolta 」から、第3幕のトゥーランドットへ歌いかける「心に秘めた大きな愛です」Tanto amore, segretoと「氷のような姫君の心も」Tu che di gel sei cinta 等々、切々と歌い上げる美しい愛の賛歌ともいうべき素晴らしいアリアを歌って感動的であり、クリスティーナ・ムヒタリヤンはすごい歌手である。

   さて、次の写真は、主役のアスミク・グリゴリアン(トゥーランドット)とヨナス・カウフマン(カラフ)の二人。
   文句なしに、感動的な素晴らしい舞台を見せて魅せてくれた。コメントなどは蛇足なので止める。
   美しいプッチーニ節を連綿と情感豊かに歌わせるマルコ・アルミリアートの指揮の冴え。
   とにかく、久しぶりの「トゥーランドット」。感激頻りであった。
   


  

   さて、ビデオも含めて随分「トゥーランドット」の舞台を観ている印象だが、このブログの記録によると、ニューヨークのMETとロンドンのロイヤル・オペラで1回ずつ、それに、イタリア・ヴェローナのローマ時代の野外劇場で 鑑賞して、最も最近は、ウクライナ国立歌劇場の来日公演であるから、随分前の話である。

   やはり、一番印象的であったのは、ヴェローナのローマ時代の古代劇場の舞台で、記録を再録すると、
   ヴェローナ野外オペラは、世界屈指の夏のオペラフェスティバルなので、その壮大なスケールに圧倒されるのだが、兎に角、舞台そのものが巨大なアリーナの一角に設営され、横幅の長さは端から端まで大変なもので上は観覧席の最上階までを使っての公演であり、開演前に場外に置かれている舞台装置や道具を見ても巨大な高層ビルほどの大きさもあり度肝を抜かれる。
   トゥーランドット(アンドレア・グルバー)を載せて舞台を動くドラゴンの迫力も凄いが、広大な舞台を埋めつくす多くの兵士や群集の数など大変なもので、その群衆たちが舞台を縦横無尽に移動しながら合唱やバレエを演じるのであるから、そのスペクタクルは特筆に価する。
   片隅に設えられた舞台で、ホセ・クーラのカラフが「ネッスンドルマ 誰も寝もやらず」を歌い始めると巨大な場内も水を打ったように静かになる。
   このローマの野外アリーナは非常に音響効果が良いのである。
   グルバーのトゥーランドット、ホセ・クーラのカラフ、マヤ・ダシュクのリューの素晴らしさは言うまでもないが、イタリアのコーラスの途轍もないサウンドの凄さ、バレエの迫力、とにかく圧倒的なトゥーランドットの舞台であった。

   翌日観たのは、壮大なスペクタクル演出の「アイーダ」。
   「ロメオとジュリエット」の故郷、ヴェローナは素晴らしい古都である。
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