熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

台頭するブラジル(仮題 BRAZIL ON THE RISE)(18) アマゾン その1

2011年11月03日 | BRIC’sの大国:ブラジル
   「ナショナリズムとジャングルのパラノイア」と副題のついたこの「アマゾン」の章は、アマゾンの乱開発に反対していたアメリカ生まれのシスター・ドロシーが、酋長たちとの面会に向かう途中のアマゾン横断道路で暗殺された事件から説き起こしている。
   1970年代以降彼女が活動していた地域の老朽ハイウエーを、ブラジル政府が再舗装すると発表した瞬間、一気に、周りの土地価格が急騰し始め、全国から、森林業者や牧畜業者や投機家などが雪崩れ込んで来て、見るも無残な乱開発を始めていたのである。
   シスター・ドロシーは、その無法者たちの犠牲になったのである。
   (2006年12月30日のブログ「地球の悲鳴・・・消え行くアマゾン熱帯雨林」で、ナショナル・ジオグラフィックの記事を紹介し、アマゾンの乱開発を論じた。)

   ローターによると、「アマゾンは、ブラジル人のモノだ。」と言うスローガンは、幼稚園に入った瞬間に叩きこまれて、死ぬまで何回も繰り返して教え込まれるブラジル人のマントラになっていて、国土をどのように使おうと自分たちの勝手であると言う感覚が染みついていると言う。
   このアマゾン地区は、ヨーロッパ全体より広大なのだが、この40年間に、その5分の1を破壊しつくしてしまっている。
   牧場に、大豆のプランテーションに、ハイウエーに、木材や製鉄工場に、発電施設に、鉄道に、ガスや油田開発に、追放農民の居留地に等々に変えてしまったのだが、この行為が、本当に国の経済発展に役立っているのか、或いは、単なるユニークな天然資源のタダ乗りの浪費なのか、考えてみる価値があると、ローターは糾弾する。

   国土の60%を占めるアマゾン地帯には、人口の10%しか住んでおらず、大半は南部の沿岸地帯に住んでおり、非常に遠くて訪れた者も非常に限られているので、ブラジル人には、アメリカ人にとってのワイルド・ウエストのように、殆ど、神秘的で無関心だと言う。
   ところが、我々、先進国の人間にとっては、アマゾンは、真水の4分の1を保持し、魚類、植物、鳥類など地球上最大の宝庫であり、地球温暖化問題の最大の焦点である。科学者たちは、このアマゾンの破壊が続いて、酸素供給源としてのエコシステムが崩壊してしまうと、宇宙船地球号の運命が危機に直面すると予言しており、正にアマゾンの環境破壊は、人類に取っては死活問題である。  
   現下のようなブラジルの急速なアマゾンの熱帯雨林破壊が続くと、地球は一気に帰らざる河チッピング・ポイントに到達してしまって、ブラジルのみならず世界全体が沈没してしまうのは必定なのである。

   ブラジル政府も、世界的な圧力で、不法開発を阻止すべく試みても、たとえ、科学の進歩で、上空からアマゾンに立ち籠る煙を発見しても、地上の違法開発を阻止する能力は殆どない。2009年のコペンハーゲン・サミットで、森林破壊の減少分半分を加味して、40%温室効果ガスの削減義務を負ったのだが、今や、中国、アメリカ、インドネシアに次ぐ世界第4位の排出国で、生活廃棄物と化石燃料による産廃がひどく、その相当部分は、アマゾンの熱帯雨林の破壊によるものだと言う。
   深刻な問題は、環境破壊対策に対する、ブラジル政府のアマゾン地帯の統治能力の欠如で、世界の各機関が援助等サポートしてくるのだが、外部勢力の接近が、アマゾンの存在を羨むアメリカなどがアマゾン支配を目論んでいると言った不安を増幅させて、ブラジルのパラノイアになっている。
   ブラジル軍の極秘レポートによると、グリーンピースや、国際保護団、熱帯雨林行動ネットワーク、ワイルドライフ・ファンドなどは、アマゾン支配のためのアメリカの手先だとまで書いている。
   嘘か本当か、アメリカの中学の地理の教科書からの引用だとして、アマゾンを国際コンソーシャムの管理下にあると書いた地図を示して物議を醸して、米伯外交問題になったが、その引用地図に到底ネイティブの英語だと思えないような拙い英語が書かれていたと言うのだから驚くが、更に、アメリカ人のローターは、ブラジル各所での、外国人がアマゾンを欲しがっていると言うプロパガンダや、でっち上げ報道やデマ情報について克明に描いている。
   アル・ゴアも餌食になったようで、ノーベル賞受賞時に、「アル・ゴアは、アマゾンは、ブラジル人の考えとは違って、人類全体のモノだ。と言っている。」とブラジル紙が報道したと言う。
   とにかく、ブラジル人は、アメリカがアマゾンを狙っているのではないかと始終心配しているのだが、インディオの保護なども含めてそのアマゾンをまともに統治できないパラノイアにも呻吟していると言うことである。
   
   かって、フォードやダニエル・ルードウッヒなどがアマゾンに投資して開発を手掛けたのだが、政治的な問題やジャングルでの開発スケールなどの問題で失敗しており、こんなこともあって、実際には、アマゾンへは、外資はあまり近寄らないようである。
   しかし、ブンゲ、カーギル、ADMなど穀物メージャーが、セラードからアマゾンにかけて、どんどん、ブラジル農業と国土を侵食し始めているし、アマゾンを、ブラジルが、有効に国家統治出来なければ、宇宙船地球号の未来のためにも、国際管理下に入るのは、時間の問題であろうと思われる。

   私が、ブラジルと関係を持っていた1972年から、出張も含めて、1990年代の初め頃までは、飛べども飛べども、ジャングルに包まれたアマゾンの熱帯雨林地帯の風景が、どこまでも変わらない程巨大な空間であったが、最近の上空写真を見ると、あっちこっち乱開発されて、魚の骨のような状態の所や、ハゲチョロケの空間が嫌に多くなったような気がする。
   今回の福島のように無味無臭で見えないので分からない原子力の恐ろしさは格別だが、見えているにも拘わらず、手を打てずにいて、それがどんどん、地球環境を破壊して、人類の首を絞め続けていると言うのも、極めて恐ろしいことである。
   自然の宝庫、アマゾンをどうするのか、私の子供頃には30億人であった人口が、70億人を突破してしまった今日、恐ろしさはつのるばかりであるのだが、しかし、ブラジルには、ブラジルの言い分があるのであろうと思う。
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