熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

日本製鉄によるUSスチール買収計画の再申請を許可

2024年09月18日 | 政治・経済・社会
   各メディアが、「日本製鉄によるUSスチール買収計画の再申請を許可する」と報じている。
   買収計画は、11月の米国大統領選挙を前に政治的論争の種となっているのだが、対米外国投資委員会は、日本製鉄の提案再提出の要請を認め、買収を承認するかどうかの決定は選挙後まで延期される。というのである。

    ジェフ・メイソン、アレクサンドラ・アルパーによるロイターの「米国による日本製鉄のUSスチール買収の決定、選挙後まで延期」という記事が詳しいので、これによって考えてみる。

   日本製鉄によるUSスチール買収の149億ドルの買収を審査している米国国家安全保障委員会は、両社に買収承認の申請を再提出することを許可し、政治的に微妙な合併に関する決定を11月5日の大統領選挙後まで延期した。
   この動きは両社にとって一筋の光明となる。両社の提携提案は、対米外国投資委員会(CFIUS)が8月31日に、この取引が米国の重要な産業の鉄鋼サプライチェーンを脅かすことで国家安全保障上のリスクをもたらすと主張したことで阻止されるかに見えた。
   関係者は火曜日、CFIUSは、この取引が国家安全保障に与える影響を理解し、当事者と交渉するためにさらに時間が必要だと述べた。再提出により、提案された提携を審査して決定を下すための新たな90日間の期限が設けられる。
   バイデン、ハリス、トランプ、そして、全米鉄鋼労働組合が、この買収に反対していることは、周知の事実なので、ここでは省略する。

   CFIUSは、日本製鉄の合併により、重要な輸送、建設、農業プロジェクトに必要な鉄鋼の供給が損なわれる可能性があることを懸念していると、ロイターが独占入手した8月の両社宛ての書簡で述べた。
   また、CFIUSは、安価な中国製鉄鋼が世界的に供給過剰になっていることを挙げ、日本企業である日本製鉄の下では、USスチールが外国の鉄鋼輸入業者に関税を求める可能性は低くなると述べた。さらに、日本製鉄の決定は「国内の鉄鋼生産能力の削減につながる可能性がある」と付け加えた。
   一方、ロイターが独占入手したCFIUSへの100ページに及ぶ回答書簡で、日本製鉄は、本来なら休止状態になっていたであろうUSスチールの施設に数十億ドルを投資し、「米国国内の製鉄能力を維持し、潜在的に増強する」ことを「議論の余地なく」可能にすると述べた。同社はまた、USスチールの生産能力や雇用を米国外に移転しないという約束を再確認し、不公正な貿易慣行に対する米国法に基づく貿易措置の追求を含む、貿易問題に関するUSスチールの決定には一切干渉しないとした。
   日本製鉄は、この取引は「米国と日本の緊密な関係を基盤とした、中国に対するより強力なグローバル競争相手を生み出す」と付け加えた。

   新日鉄とUSスチールは3月に審査を申請し、CFIUSは6月に再申請を許可し、9月23日に期限を迎える2回目の90日間の審査期間が始まったとロイター通信は金曜日に報じた。12月にCFIUSは、国家安全保障上の懸念に対処する措置を講じて取引を承認するか、大統領に取引を阻止するよう勧告するか、または再度期限を延長する可能性がある。CFIUSの厳格な審査には90日かかるが、審査委員会の懸念に対処する時間を増やすために、企業が申請を取り下げて再提出することはよくある。というのである。

   同じくロイターは、「USスチールCEO、日鉄による買収成立を確信」と報じて、
   デビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は17日ミシガン州デトロイトで講演し、日本製鉄による買収成立に楽観的見方を示した。CEOは買収の審査プロセスは「非常に堅牢」だが、「われわれはそのプロセスを信頼し、尊重している」、とした。
   この統合は、両者の将来のみならず、国家安全保障、経済安全保障、雇用の安定を強化することは非常に明確であり良いことだと強調したのである。
   USスチールのHPは、
   NIPPON STEEL CORPORATION AND U. S. STEEL COMBINATION IS THE BEST DEAL FOR AMERICAN STEEL 一色、疑いの余地なし。

   9月5日に、このブログで、「米国の愚行:日鉄のUSスチール買収反対 」を書いて、アメリカにとって、この買収阻止が如何に愚行かを論じたので、蛇足は避ける。
   いずれにしろ、米国の財務省や国防省でさえコメントを控えていて、アメリカの政治経済社会に大きな影響を与える微妙な問題、
   新大統領の対応如何にかかっていると言うことであろうか。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シェイクスピア観劇の思い出

2024年09月15日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   ぼつぼつ、倉庫のガラクタを整理しようと思って、段ボール3箱の封を開いたら、ぎっしりと詰まった劇場関係のパンフレットなどが出てきた。
   一箱目は、ロイヤルオペラ関係のパンフレット類で、何度か開けているのだが、ほかの2箱は、1993年にロンドンで箱詰めして日本に持ち帰ったままなので、30年ぶりである。
   まず、出てきたのは、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)の公演パンフレットなどヨーロッパでの観劇関係の資料である。

   まず、何冊かRSCのパンフレットを書斎に持ち込んで読み始めたら、懐かしくなって前に進まず、まだ、2箱目の半分をチェックしただけで、後は手つかずで玄関に広げたままである。

   シェイクスピアについては、ロイヤル・ナショナル・シアターなどほかの劇場にも出かけたが、大半はRSCで、ほぼ5年間、ロンドンのバービカン・シェイクスピア劇場とストラトフォード・アポン・エイボンの大劇場とスワン座に通ったので、相当の回数である。
   ロメオとジュリエット、リア王、冬物語、アントニーとクレオパトラ、テンペスト、お気に召すままに、ハムレット・・・等々、シェイクスピア戯曲の半分以上は鑑賞したであろうか。
   イギリス人ではないので、パンフレットを読んだくらいでは良く分からないし、それに、古語で独特のシェイクスピアの長セリフの理解にも難渋して、最初は楽しめなかった。
   しかし、小田島雄志先生の翻訳本を友にして何十回も劇場に通っていると、不思議にも、シェイクスピアに魅せられ始めてきたのである。

   この口絵写真は、ハムレットのパンフレットの一部で、ケネス・ブラナーである。
   迂闊にも、チケットを買うまでは、ケネス・ブラナーが東西超一流のシェイクスピア役者であることを知らずに、何時でもチケットが買えるので、しばらくほっておいて買おうとしたら、ソールドアウトもあって、ようよう手に入れたのを覚えている。
   それ以降、ファンになって、著書を読んだり映画を見たりしているが、劇場では、この時(93年1月27日夜)の1回きりであった。

   シェイクスピア戯曲では、ロンドンで蜷川幸雄の「マクベス」と「テンペスト」を観ている。
   「恋に落ちたシェイクスピア」の劇場によく似たグローブ座は、帰国してから完成したので、この劇場でのシェイクスピア観劇は、その後のロンドンへの旅行の度ごとである。シアター舞台のRSCと、シェイクスピア時代の青天井の舞台のグローブ座とでは、相当雰囲気が違っていて、興味深い。

   もう一つ思い出深いのは、1991年のJAPAN FESTIVAL 。 
   

   このロンドンで、日本の古典芸能に感激して、帰国してからは、鑑賞三昧に明け暮れていたオペラやクラシックへの機会が減るので、乗り換えようと思ったことである。
   歌舞伎は、この口絵写真の”染五郎(現幸四郎)と澤村田之助のハムレット(葉武列土倭錦絵)”と、”玉三郎と勘三郎(当時、勘九郎)の鳴神、鏡獅子、鷺娘、ロイヤル・ナショナル・シアターでの公演”
   文楽は、竹本住大夫、吉田玉男、吉田文雀の「曽根崎心中」
   狂言は、野村万作萬斎父子の「ファルスタッフ 法螺侍」
 
   結局、東京行きが苦痛になり始めた最近まで、20年近く、これも、劇場に通い続けたことになる。 
   ゴルフやスポーツには縁が遠かった分、観劇と旅行で文化鑑賞に勤しんできたと言うことであろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

旅は道づれツタンカーメン 高峰 秀子; 松山 善三

2024年09月13日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   1980年6月に出版された 高峰 秀子と 松山 善三共著の『旅は道連れツタンカーメン』、もう、半世紀近く前のエジプト旅行の紀行記録であるから、古色蒼然とした昔の海外旅行の雰囲気がムンムン漂っていて、実に懐かしい。
   当時、私は、ブラジルで仕事をしていて、帰国したころで、直後に、文革が終わって門戸を開いた中国を訪れた激動の時代であったので、時代離れをしたエジプトの雰囲気が面白かった。
   アジアや欧州や南北アメリカなどには旅行経験があり、結構旅をしているのだが、残念ながら、アフリカ大陸には機会がなくて、エジプトには行ったことがない。
   ギリシャ・ローマの歴史に興味を持ち、世界史、特に、東西交渉史を意欲的に勉強してきたのだが、肝心の4大文明の発祥地のうち、訪れたのは黄河だけで、エジプト、メソポタミア、インドには行っていない。

   さて、この本のエジプト漫遊だが、歴史行脚にのめり込んで期待に胸を膨らませて感嘆頻りの夫君と、不本意ながら旅に出た妻との往復書簡風の旅行記。ちぐはぐ珍道中の雰囲気が、二人の夫婦生活での人間関係が増幅していて、非常に面白い。エジプト古王朝の歴史を追求して死生観を展開する善三と、バカでかいピラミッドを何のために作って人民を苦しめたのかという何事にも動じない秀子。スフィンクスは実在したが雌が居なかったので絶えてしまったという脚本家の善三を秀子は笑い飛ばす。冒頭から面白い。

   善三は、目的があってエジプトに行ったので、事前に知識情報を蓄えて理論武装しており、結構、旅日記に託して、エジプトの歴史や文化芸術、地理、国民性など詳細に書いていて、それなりにエジプト旅行記になっている。
   ギザのピラミッドからスタートして、アスワンハイダム、アブ・シンベル、王家の谷、ツタンカーメン、カイロ博物館、アレクサンドリアなど、中身の濃いエジプト旅行記である。
   一方、秀子は、行き当たりばったりの旅日記で、食べ物や出会った人々との交流や印象などじかの描写が多くて、エジプトのムンムンとした雰囲気を醸し出している。この旅日記を縦線にして、夫・ドッコイとの結婚話や子供をつくれなかった思いなど、人間秀子の生きざまを横線にして、随所に生身の心情を吐露していて味わい深い。
   善三の普通の旅行記に、秀子の温かい旅日記が、多彩な彩を添えていて面白い、そんな本である。

   善三の趣味というか意向で二人はアフガニスタンにも行っていて、旅行記を著しているのだが、なぜ、欧米ではなく中東なのか、
   秀子は、一人でパリに行って生活していた。

   高峰秀子の映画は、随分見た。
   高峰 秀子の「わたしの渡世日記 上下」も読んでレビューしているが、秀子の本は他にも結構読んでいて、稀有な体験をした偉大な名優なので、非常に含蓄がある中身の濃い本なので印象深かった。
   久しぶりに、高峰秀子文化を楽しんだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

PS:スティグリッツ「トランプの選挙勝利が米国経済に及ぼす影響 What a Donald Trump election victory would mean for the US economy

2024年09月10日 | 政治・経済・社会時事評論
プロジェクトシンジケートのジョセフ・スティグリッツ教授の「ドナルド・トランプの選挙勝利が米国経済に及ぼす影響 What a Donald Trump election victory would mean for the US economy」

   先に、「ノーベル賞受賞の経済学者16人がトランプ再選に警鐘」にふれて、この経済学者たちの代表であったスティグリッツ教授の「トランプよりバイデン、米国経済にとってどちらがよいか議論の余地なし There’s No Debating Who Would Be Better for the US Economy」を紹介して、トランプの経済政策がバイデンよりはるかに悪いことを論じた。
   今回のこの論文は、ハリス擁護、トランプ拒否のダメ押しである。

   論旨極めて明快なので、抄訳する。
   11月の米国大統領選挙は多くの理由で極めて重要であり、危機に瀕しているのは米国民主主義の存続だけでなく、経済の健全な管理であり、それは世界の他の国々に広範囲にわたる影響を及ぼす。米国の有権者は、異なる政策だけでなく、異なる政策目標の間で選択を迫られている。
   民主党候補のカマラ・ハリス副大統領は、まだ経済政策の詳細を完全に明らかにしていないが、バイデン大統領の政策の中心となる原則は維持する可能性が高く、その原則には、競争の維持、環境の保護、生活費の削減、成長の維持、国家経済の主権と回復力の強化、格差の緩和など、強力な政策が含まれている。
   対照的に、対立候補のトランプ前大統領は、より公正で強固で持続可能な経済の創出には関心がない。その代わりに、共和党候補は石炭や石油会社に白紙の小切手を提供し、イーロン・マスクやピーター・ティールのような億万長者に接近している。さらに、健全な経済運営には目標を設定し、それを達成するための政策を設計する必要があるが、ショックに対応し、トランプは前政権下で新型コロナウイルス感染症のパンデミックへの対応で惨めに失敗し、100万人以上の死者を出した。

   前例のない事態に対応するには、最善の科学に基づいた難しい判断が必要である。ハリス側の米国には、トレードオフを検討し、バランスの取れた解決策を考案する思慮深く実用的な人物がいるが、トランプは、混乱を好み、科学的専門知識を拒否する衝動的なナルシストである。60%以上の一律関税を導入するという提案だが、価格が上昇するだけであり、コストの矢面に立たされるのは低所得層と中所得層の米国人で、インフレが上昇し、FRBが金利引き上げを余儀なくされると、経済の成長鈍化、インフレ上昇、失業率上昇という三重苦に見舞われることになる。
   さらに悪いことに、トランプはFRBの独立性を脅かす極端な立場をとっている。トランプが再び大統領になれば、経済の不確実性が絶えず生じ、投資と成長が抑制され、インフレ期待が高まることはほぼ確実である。トランプが提案する税制も同様に危険で、企業と億万長者に対する2017年の減税は、追加投資を刺激できず、自社株買いを促しただけであった。トランプのようなポピュリストの扇動家は財政赤字を気にしないが、米国と海外の投資家は心配すべきである。生産性向上につながらない支出による財政赤字の膨張は、インフレ期待をさらに高め、経済パフォーマンスを低下させ、格差を悪化させるだろう。

   同様に、バイデン政権の代表的なインフレ抑制法を廃止することは、環境や、国の将来にとって極めて重要な重要分野における米国の競争力に悪影響を及ぼすだけでなく、医薬品のコストを下げてきた条項も廃止し、生活費の上昇を招くことになる。
  トランプは、また、バイデン・ハリス政権の強力な競争政策を撤回したいと考えている。この政策もまた、市場支配力を固定化し、イノベーションを阻害することで、格差を拡大し、経済パフォーマンスを弱めることになる。また、所得連動型学生ローンをより適切に設計することで高等教育へのアクセスを増やす取り組みを廃止し、21世紀の革新的経済の課題に対応するために米国が最も必要としている分野への投資を最終的に減らすことになるだろう。

   これが、米国の長期的な経済的成功にとって最も厄介なトランプの政策の特徴である。トランプ政権が再び誕生すれば、過去200年間の米国の競争優位性と生活水準の向上の源泉である基礎科学技術への資金が大幅に削減されることになる。トランプは前任期中、ほぼ毎年のように科学技術への大幅な予算削減を提案したが、非過激派の共和党議員らがこうした予算削減を阻止してきた。しかし今回は状況が異なる。共和党がトランプの個人崇拝の対象となっているからである。

   トランプがベンダーや請負業者への支払いを拒否してきた長い実績は、同氏の性格を物語っている。同氏は権力を行使して誰からでも奪おうとする横暴者である。だが、暴力的な反乱分子を公然と支持するようになることで、さらに大きな問題となる。法の支配は、単に私たちが大切にすべきものというだけでなく、経済と民主主義の健全な機能にとって極めて重要である。2024年の秋を迎えるにあたり、今後4年間で経済がどのようなショックに直面するかは分からない。しかし、これだけは明らかだ。ハリスが当選すれば、2028年の経済ははるかに強くなり、より平等になり、より回復力が高まっているであろう。

   さて、この論文で、特に強調しているのは、トランプが、最善の科学に基づいた難しい判断が出来ず、科学的専門知識を拒否する衝動的なナルシストであること。
   米国の長期的な経済的成功にとって最も重要な経済政策である科学技術振興に対して消極的で、トランプ政権が再び誕生すれば、過去200年間の米国の競争優位性と生活水準の向上の源泉である基礎科学技術への資金が大幅に削減されることになる。イノベーションを阻害するのみならず、経済パフォーマンスを弱めて国の将来にとって極めて重要な分野における米国の国際競争力を棄損する。
   トランプの一枚看板「MAGA」の真逆の愚行である。

   ここでは論じられていないが、トランプは勿論、保守党の基本政策は、弱肉強食の市場経済至上主義であって、強者・富者優先であり、労働者や経済的弱者のための経済政策など微塵もない。
   なぜ、疎外された白人労働者たち、保守党が見向きもしない弱者貧者たちが、トランプを岩盤支持層となって囃し立てるのか、
   今や、保守党は、穏健派が弱体化して、トランプ一色のカルト集団のように変身してしまっているので、独裁者トランプの脅威は尋常ではない。

   民主党は、今回の選挙で、明確に主義信条において一線を画すべきであって、徹底的に、中間層重視の政策を協調して、本来のリベラル色を前面に押し出して、真の国民政党に脱皮すべきである。
   リフレッシュしたハリスなら出来る。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

10歳までに読みたい世界名作

2024年09月08日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   先日書いたように、3年生の孫娘に読書習慣を付けたくて、インターネットで本を検索していたら、「10歳までに読みたい世界名作」という恰好のタイトルが出てきた。ほかにも参考になる資料もあるのだろうが、学研の記事なので信用に値する。先に選択した「小学館 世界の名作」で、本を選んであるので、追加資料として、参考になればと思ったのである。

   口絵写真は、その第一期の8冊である。
   学研の説明では、「10歳までに読みたい世界名作」シリーズとは、
   時代を超えて世界中で読みつがれてきた名作。
長い間、読みつがれてきたということは、それだけたくさんの人々が、「これはおもしろい!」と太鼓判を押した証拠。そこには、生きるために必要なエッセンスがつめこまれています。

   それ以降で小学館のとダブっているのは、アルプスの少女 ハイジ、西遊記、ふしぎの国のアリス、シンドバッドの冒険、フランダースの犬、家なき子、十五少年漂流記
   ほかで私でもよく知っているのは、ロビンソン・クルーソー、巌窟王、三銃士、海底2万マイル、長くつ下のピッピ、宝島、などであろうか。
   
   これを見ていて気付いたのは、私の子供のころから、丁度、70年以上も前のことになるのだが、子供への推薦図書世界の名作のタイトルが、ほとんど変わっていないと言うことである。
   あの頃は、終戦の直後で日本は貧しくて学制や教育も激変期で、子供が世界の名作に勤しむと言った雰囲気はなかったと思うのだが、その後の印象だとしても、日本の教育が、それほどぶれていなかったと言うことであろうか。
   古典の揺るがぬ価値というべきか、子供の世界においても、良いものは良いのである。

   子供を取り巻く環境は激変して、子供の価値観も問題意識も感性も様変わりしてしまったが、世につれ人につれ、新世代の子供たちが、どのように世界の名作に対応するのか、興味津々である。
   
   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米国の愚行:日鉄のUSスチール買収反対

2024年09月05日 | 政治・経済・社会
    日鉄が買収しようとしているUSスチールは、世界を制覇していた頃のアメリカ経済の最高峰のシンボル企業であり、アメリカ資本主義の命そのものであった。
   そのUSスチールが落ちぶれて、日本企業に買収されようとしているのだから、腐っても鯛は鯛、
   墓穴を掘っても、誇り高きアメリカ国民にとっては耐え難い。

   米大統領が、日鉄の買収阻止へ最終調整に入り、統合話が消える公算が高くなり、これに対してUSスチールが反発というニュースが日米のメディアの話題になっている。  

   買収計画には、全米鉄鋼労働組合(USW)が反対していて、11月の米大統領選を控え民主党候補のハリス米副大統領は2日、USスチールについて「米国内で所有、運営されるべきだ」と述べ買収に反対の姿勢を示し、トランプ前大統領も再選すれば買収を阻止すると明言している。 
   買収は対米外国投資委員会(CFIUS)が審査していて、CFIUSが日鉄に対し安全保障上の懸念があると伝えたと言うことで、バイデンはCFIUSの勧告に基づき、買収を禁止する行政命令を出すとみられている。 

   それを受けて、USスチールのデービッド・ブリットCEOは、日本製鉄による買収が不成立なら、製鉄所を閉鎖することになり、本社をピッツバーグから移転する可能性も高いと米紙ウォールストリート・ジャーナルに語った。ブリット氏はインタビューで、日鉄はUSスチールの老朽化した製鉄所に約30億ドル(約4300億円)の投資を約束しており、それが競争力を保ち雇用を維持する上で不可欠だが、日鉄買収が不成立に終わるなら、それは実現されない。と述べたという。 

   さて、USスチールの情報を知ろうと、HPを開いたら、日本製鐵とUSスチールのロゴが横並びで表示されて、口絵写真の真ん中に、次の表示のみ、
MOVING FORWARD TOGETHER AS THEBEST STEELMAKERWITH WORLD-LEADING CAPABILITIES  
   LEARN MORE をクリックすると、
Nippon Steel Corporation + U. S. Steel
Moving Forward Together as the ‘Best Steelmaker with World-Leading Capabilities’
Nippon Steel Announces Transformative Investments at U. S. Steel's Mon Valley Works and Gary Works
日鉄の投資提案を提示し、加えて、
The Steel CityとStandard Steel’s Comebackとの短い動画で明るい未来を描く。
   HPには、2社の統合に関する情報以外に記事はない。統合によって、USスチールの未来が如何に明るく起死回生を図れるかのオンパレードである。
USスチールにとっては、日本製鐵との統合以外には眼中になく、破談すればその未来はないと思っている。

   詳細は省くが、既に、USスチールの命運はほとんど尽きており、日本製鐵との統合がだめになれば、衰退の一途を辿るだけで、反対する労働者の生きる道もなくなってしまうのに。と思っている。
   なぜ、買収反対がアメリカにとって愚の骨頂かは、2月22日のこのブログで、プロジェクト・シンジケートの論文アン・O・クルーガー 「 アメリカの鉄鋼狂気 America's steel madness」を紹介したので、一部引用する。

   バイデンは、3つの主要な経済政策目標を定めている。外国直接投資の奨励などにより「良い仕事」の数を増やす。 米国の製造と現地生産を強化する。 そして最新テクノロジーの導入を加速する。 バイデンはまた、より多くの貿易、特に重要な物品の輸入を米国の同盟国に振り向けること、いわゆるフレンドショアリングを目指している。
   この鉄鋼合併はこれらすべての目標を前進させると同時に、米国の主要同盟国との関係を強化する可能性がある。
   日本製鉄による 買収とそれに伴う技術の向上により、US スチールの衰退は逆転するはずである。 取引条件は、この買収により米国の鉄鋼業界の生産性が向上する可能性が高いことを意味している。 米国の鉄鋼価格が下落すると、鉄鋼を輸入するインセンティブが低下し、冷蔵庫や自動車などの製品を製造する米国のメーカーはコストを削減できるため、競争力が高まるだろう。 これらすべてが米国の製造業と技術基盤を強化し、米国での「良い仕事」の継続的な提供、そして可能性のある創出を確実にするであろう。
    US スチールの運命を逆転させ、アメリカの鉄鋼産業の見通しを改善する本当の機会を意味するこの出来事を歓迎すべ きであって、このチャンスをミスるのは、America's steel madness正気の沙汰とは思えない。 と言うことである。

   日鉄はUSWに譲歩案として、少なくとも、現行の労働協約が失効するまでは従業員のレイオフ(一時解雇)、工場閉鎖は実施しないとも公約したのだが、この公約を「空約束」として、USWは首を縦に振らない。しかし、このまま、衰退して解雇されるよりは、USスチールが技術革新によって生産性が向上して起死回生すれば、雇用機会も増え労働条件も良くなると考えるべきであろう。

   選挙ともなれば、「アメリカファースト」も色あせてしまって、金の卵を殺すのも知らずに、労働者票を取りたいばっかりに、定見も知見も欠如したUSWにすり寄る悲しさ、
   トランプは勿論、ハリスも。

   日鉄のUSスチール買収反対は、アメリカ製造業凋落の象徴ともいうべき現象で、葬送行進曲の序章がかすかに聞こえてくる、と言えば言いすぎであろうか。
   米鉄鋼メーカー、クリーブランド・クリフスが買収合併に動いているようだが、斜陽の弱者同士の統合は死期を早めるだけ、
   アメリカ政府が、国内企業の統合だけで危機を乗り切ろうとするのなら、先は見えている。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

PS:ダロン・アセモグル「トランプによる民主主義への脅威は増大するばかりThe Trump Threat to Democracy Has Only Grown

2024年09月04日 | 政治・経済・社会時事評論
   プロジェクトシンジケートのダロン・アセモグルの「トランプによる民主主義への脅威は増大するばかりThe Trump Threat to Democracy Has Only Grown」注目に値する。
 
   アセモグルは、本論で、トランプによる民主主義への脅威を詳細にその理由を説明して、
   トランプの米国制度に対する脅威が如何に深刻か真剣に受け止めなければならない。米国の民主主義を守る唯一の方法は、彼を倒すために民主的な手段を使うこと、すなわち、11月の大統領選挙で彼に勝つことである。民主主義は、現実世界で成果をもたらし、人々が願望を叶えるのに役立つときに繁栄する。実際には、それは経済的繁栄、安全、公平性、有能な統治、そして安定性を促進することを意味する。これは、民主主義自体への脅威を含む定期的なショックや課題に耐えるために特に重要である。と民主主義の堅持を説く。

   米国の制度は、1930年代後半のチャールズ・コフリン神父によるプロトファシストの挑戦、1950年代と1960年代のジム・クロウ法の南部における黒人公民権への抵抗、人種差別主義者のジョージ・ウォレスの1968年の大統領選挙、そしてウォーターゲート事件に耐えた後、より強くなってきた。トランプが今年11月に敗北すれば、米国の制度は再びより強くなるであろう。と言う。
   アメリカの制度は、このような困難を乗り越え、さらに強くなることができるが、しかし、それは民主主義支持勢力が結集し、システムが一般の人々にとって意味のある結果をもたらすことができることを実証した場合に限られる。
   すなわち、「トランプによる民主主義への脅威は増大するばかり」であり、すべからく、アメリカの制度、民主主義を死守するためには、11月の選挙で、トランプに勝利することである。と言うのである。

   貧困との戦い、労働者階級の生活改善、共和党からの愛国心の回復、民主主義の強化に焦点を当てたカマラ・ハリスとティム・ウォルツの経歴、キャリア、最近の選挙演説には賞賛すべき点がたくさんある。しかし、これらの美徳を脇に置いても、民主党候補を支持する十分な理由がある。結局、代替案はトランプであり、トランプは米国の制度に非常に深刻な脅威を与えているため、彼に対抗するまともな候補者なら誰でも強力な支持を受けるに値する。という。

   トランプが米国の民主主義を脅かすのは、米国の制度が規範や法律さえも破ろうとする独裁的なポピュリストに対処するように設計されていないためでもある。2017年に指摘したように、米国の有権者と市民社会は、そのような人物を阻止できる唯一の力である。米国の民主主義は2017年から2021年にかけてトランプの大統領職に耐えたが、トランプは見つけられるあらゆる制度上の弱点を利用し、すでに二極化していた社会の分裂を深め、敗北した自由で公正な選挙の結果を覆そうとした。
   2021年1月6日のトランプのクーデター未遂にもかかわらず、民主党は2020年の選挙でホワイトハウスを奪還することに成功したが、それは彼らに大きなアドバンテージ、すなわち、それはトランプ自身が無能だったからである。長年の政治規範は深刻なダメージを受けたが、民主主義は生き残った。
   大統領としてのトランプの無能さには2つの側面がある。第一に、彼は一貫性を示すことができなかった。彼の唯一の本当の目的は権力を自分の手に集中させ、家族や取り巻きを昇進させて裕福にすることだったが、それをやり遂げる規律と集中力に欠けていた。もちろん、もっと規律のある人ならもっと大きな損害をもたらしたかもしれないという恐ろしい含意がある。第二に、トランプは多くの部下から無条件の個人的な忠誠心を勝ち取ることができず、その結果、彼の最も突飛な計画や決定のほとんどが内部から暴露されたり阻止されたりした。

   残念ながら、トランプは次の5つの主な理由から、今日のアメリカの民主主義にとってはるかに大きな脅威となっている。
   第一に、彼は怒りを募らせるばかりで、それは権力を自分の手に集中させ、それを敵に対して行使する決意を強めることを意味する。彼がホワイトハウスに戻れば、彼はより凶暴になるだけでなく、個人的な目的を追求する上でより一貫性を持つようになる可能性がある。
   第二に、トランプとその思想的同調者たちは、すでに暗黙の統治計画であるヘリテージ財団のプロジェクト2025で行ったように、高官および中堅職員の任命にもっと多くの考えと精査を注ぐだろう。トランプはこの包括的な政策の青写真を放棄すると主張しているが、これはすでに政権の人材候補を見極めるための貴重なツールとなっている。ヘリテージ財団の暗いビジョンを支持することはリトマス試験であり、今度は内部告発者や民主主義の擁護者が「部屋の中の大人」として機能できないようにする。
   第三に、共和党は今やトランプの個人的なカルトであり、つまり全国の地方共和党職員はトランプの命令に何でも従うだろう。中には選挙を不正に操作し、地方の法執行機関や公共サービスを掌握しようとする者もいるかもしれない。トランプが再び地方選挙管理官に自分に有利な票を「もっと見つける」よう要求すれば、トランプは望みをかなえるかもしれない。
   第四に、知識エリートや民主党指導者によるさまざまな誤り(国境開放や警察予算削減など、極端な「目覚めた」立場を主張するなど)により、多くの右派、中道派、非大学有権者は民主党を左翼過激派と結論付けている。民主党に愛国心が欠けていると考える人々は、ハリスやウォルツが彼らにアピールする措置を講じているにもかかわらず、トランプと決別する可能性ははるかに低いだろう。
   第五に、これらすべての理由から、トランプに反対する効果的な市民社会の行動はより困難になっている。左派が独自のイデオロギーの純粋さテストを適用し、それに満たない者を恥じ入らせてきた数年後には、大規模な反トランプ連合に加わろうとする無党派有権者や中道派共和党員は少なくなるだろう。進歩派民主党員は、彼の違憲または反民主的な行動に単独で対抗することになるかもしれないが、それだけでは十分ではない。

   これらすべての理由から、トランプの米国制度に対する脅威は真剣に受け止めなければならない。米国の民主主義を守る唯一の方法は、彼を倒すために民主的な手段を使うこと、選挙で落とすことである。

   しかし、民主主義が、これまでのように幾多の困難と試練に耐えるためには、投票用紙に良い選択肢が必須であり、人々は、問題を解決し、人々を鼓舞し、自由な制度を守るという優れた実績を持つ政治家に投票できなければならない。ハリス・ウォルツの組み合わせは、その条件を満たしており、これから、人々を動員し、民主主義への支持を回復するという大変な作業が始まる。しかし、さらに困難な作業は、貧困と不平等と闘い、両陣営の分極化と過激主義を減らし、政府が一般の人々のために働いていることを示すことによって、民主主義の約束を果たすことである。と結んでいる。

   以上が、アセモグルの見解であるが、
   先日、マーク・ジョーンズの「ファシズムはどのようにして起こるのか」について書いて、トランプ現象がナチズム台頭前夜に酷似していて危険であるという見解を紹介した。
   殆ど同じ趣旨であり、アメリカの資本主義の命運が、トランプの勝利如何にかかっており、トランプを阻止しなければ、アメリカの制度が崩壊する危険があるという警告である。

   しかし、大統領選挙論争は、「MAGA」など口から出まかせのトランプ節や個人的な批難中傷など末梢的な議論に洗脳されて、最も大切なアメリカにとっての死活問題、民主主義の死守には殆ど及ばない。
   ハリスは、この一点に絞ってでも、トランプを論破すべきである。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

孫娘に世界の名作を読ませよう

2024年09月02日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   先日日経を読んでいたら、子供が動画ばかり見ていて本を全く読まなくなって困っているという記事が掲載されていた。
   我家の3年生の孫娘も似たり寄ったりで、私のパソコンをハイジャックして、ゲーム感覚で動画を見ている。

   わが小学生の頃は、テレビもなければパソコンもなし、ナイナイ尽くしの貧しい生活を送っていたので、読書が恰好の遊びであり愉しみであったので、疑いもなく、本は子供の大切な友であった。

   さすれば、読書習慣がなくなり、動画やゲームで、パソコンやテレビ漬けの子供を、どうして、これらから引き離して、本を読ませるのか、容易なことではない。
   勿論、読む読まないにかかわらず、両親は、子供のために、結構色々な本を買って与えている。
   孫娘に、一冊何でも良いから本を選んで持ってくるように言ったら、小学館の世界の名作の「アンデルセン童話」を持ってきた。
   大型本で、個々の童話に応じて綺麗な挿絵が描かれていて、本文も簡略ながら本格的な翻訳であり、全く手抜きのない絵本と子供用単行本の中間の位置づけの本で、丁度、小学校中学年に頃合いの本である。

   世界名作全集の中から、適当な本を選んで読ませようと思って、インターネットでどんな本が良いか、どの会社の本が良いかなど検索を始めたが、どれも甲乙つけがたく、これという決定版はない。
   この小学館の本は、20年以上も前の出版だが、まずまずと思ったので、参考のために、「グリム童話」と「イソップ物語」を買って読ませたら、結構効果的であった。
   興味を持てば、一寸背伸びして岩波の少年文庫や本格的な世界文学作品に移行すれば良いので、とりあえず、3年生のうちは、このシリーズの中から適当な本を選んで、読ませることにした。
   とにかく、成功するかどうかわ分からないが、本を読む習慣をつけることである。
   子供時代の勉強の基礎は、なによりも読解力なので、その涵養のためにも、読書は必須である。

   一応、読むべき本がどんな本なのか、インターネットを叩いて検索した。
   学研が、「10歳までに読みたい世界名作」を発表している。30冊ほどで、先の小学館の本と重なっている本もあるが、参考として、これらの推薦図書から適当に追加すれば、十分だと言う気がしている。
   
   当然、日本の本も選ぶべきだが、録画していた「日本昔話」を見ており、多少の知識があるので、世界の名作の読書に目鼻がついてからにしようと思っている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

PS:マーク・ジョーンズ「ファシズムはどのようにして起こるのか How Fascism Happens」

2024年09月01日 | 政治・経済・社会時事評論
   プロジェクトシンジケートの論文、ダブリン大学ユニバーシティ・カレッジの歴史学助教授マーク・ジョーンズの「ファシズムはどのようにして起こるのか How Fascism Happens」
   まず冒頭で、
   ヒトラー政権から逃れた最初のドイツ人難民の 1 人となったトーマス・マンに言及。1938 年まで、彼はほとんどの時間をスイスで過ごし、ヒトラーの権力が増大し、ヨーロッパでの戦争の可能性が高まったため、米国に移住し、ヒトラーがヨーロッパを征服していた最盛期でさえ、マンは、頑固に楽観的であり続け、最終的には「民主主義が勝利する」とアメリカ人に約束した。という逸話から民主主義を説いた。
   しかし、本当にそうなるのだろうか?と疑問を呈して
   今日では多くの人がそう確信していない。と警鐘を鳴らす。
   ニューヨーク大学のルース・ベン=ギアットが指摘するように、私たちは「強権者」の新たな時代に生きており、世界の多くの地域で民主主義が後退している。憎悪に駆り立てられた暴力は大西洋の両側でより一般的になり、かつては考えられなかったことが常態化している。今年11月、マンがかつて民主主義が勝利すると約束した国で、何千万人ものアメリカ人が、2020年の選挙で敗北したことに応えて米国議会議事堂へのファシスト的な襲撃を扇動した候補者に投票することになる。として、
   重大な歴史的局面に遭遇しているアメリカ社会、その至宝ともいうべき民主主義の危機、その崩壊を危惧しているのである。

   民主主義を守る必要性を考えると、歴史の知識はかつてないほど重要になっている。幸いなことに、今年の米国選挙を前に、歴史家のリチャード・J・エバンスとティモシー・W・ライバックはそれぞれ、過去を掘り下げて、ますます懸念が高まる現在を乗り切るためのガイドラインを提供する本を出版した。として、克明に説明して、当時のナチズムの歴史を追求し、いかにしてファシズムが台頭したのかを説いている。

   エヴァンスとライバックは、両者の相違にもかかわらず、ドイツの歴史を、自由民主主義が現在直面している問題を見るための強力なレンズと見ている。したがって、エヴァンスはワイマール共和国の崩壊を「民主主義の崩壊と独裁の勝利の典型」と見ており、ライバックは著書『テイクオーバー』を、ナチスが選挙で最高潮に達したわずか数日後の1932年8月初旬から書き始めている。運命的な決断の時である。

   専門的な話が主体なので詳細は省略するが、次の文章で本稿を閉じている、
   『ヒトラーの人民』を読むと、今日の民主主義を弱体化させることに加担したり、公然と利益を得ている人々との類似点に気づかずにはいられない。私たちは皆、エヴァンスの怒りを共有すべきだ。民主主義が敵に内部から弱体化させられるとどうなるかは、歴史がすでに示している。私たちは、巧妙なプロパガンダやテクノロジーで強化された嘘の猛攻撃に直面しているが、マンの正しさを証明する時間はまだある。

   時間はまだあると言うのだが、11月のアメリカ大統領選の結果次第では、アメリカの民主主義の命運が危機に立つ。
   マーク・ジョーンズの見解は、あまりにも明白なので、紹介だけにとどめる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

プラトン:ソクラテスの弁明ほか

2024年08月30日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   先に、パルテノンについて書いた。
   倉庫の奥から、「プラトン ソクラテスの弁明ほか」を引っ張り出して、久しぶりにページを繰った。学生時代に読んだ旧版ではなく新しい中公クラシックスなのだが、それでも20年前の本、しかし、田中美知太郎訳で懐かしい。
   この本を9年ほど前に読んで、レビューしたのだが、感慨は全く変わっていないので、借用する。高邁な哲学理論は、さておくとして、とにかく、優しい語り口が嬉しい。

   「ソクラテスの弁明」は、ソクラテスが裁判にかけられて死刑を宣告させた一連の裁判の模様をプラトンが弁明風に展開したもので ある。
    ソクラテスの告発者は、反対派のアニュトスが、危険人物としてソクラテスを排除しようとして若いメレトスなど3人を直接の訴人に立てたもので、
   ソクラテスの罪状は、「国家の認める神々を認めず、別の新しいダイモンを祭るなど、青年に対して、有害な影響を与えている」と言うものであった。
   ソクラテスは、デルポイに出かけて神託を受け、自分より知恵のあるものがいるかと尋ねたら、巫女は、より知恵のあるものは誰もいないと答えた。
   この神託の理解に苦しんだソクラテスは、各界の代表的な知者たちを調べて歩いた結果、
   彼らも自分も、善美にかかわる重要事について何も知っていない。しかし、彼らは「知らないのに知っている、知っていると思っている」のに対して、自分は「知らないから、そのとおりに、また、知らないと思っている」。このちょっとした違いで、自分の方がより知者だということらしい。(無知の知)神ならぬ人間の望み得る精一杯の知なのだ。と悟る。
   ソクラテスは、政界はじめ高名な人物を相手にして問答しながら仔細に観察して、多くの人に知恵のある人物だと思われており、自分自身もそうだと思い込んでいる人物が、実はそうではないと言うことを、はっきり分からせてやろうと行脚し続け、ソクラテスに傾倒した若者たちにも、そうするように勧めた。
   こうした厳しい対話や詮索の結果、やり玉に挙がってコテンパンに論破されて遣り込められた人物たちが、ソクラテスはけしからんと腹を立て、多くの者たちからも、嫉妬や憎しみを受けることになった。

   続いて、「クリトン」は、プラトンの友クリトンが、獄中のプラトンを訪ねて、必死になって脱獄を説得するのだが、ギリシャを愛するが故に悪法も法であり、それに従うのが正義だと突っぱねる感動的な対話を綴ったものである。 
   そして、さらに、「クリトン」で、
   ” 「大切にしなければならないのは、ただ生きるということではなくて、善く生きるということなのだ。」その「善く」というのは、「美しく」とか、「正しく」とかということと同じだ。”と言っており、アテナイ人に対する告発も容赦がない。
   ”世にもすぐれた人よ、君はアテナイ人であり、知と強さにおいて最も偉大な、最も名の聞こえた国の一員でありながら、金銭を出来るだけ多く得ようとか、評判や名誉のことばかりに汲々としていて、恥ずかしくないのか。知と真実のことには、そして魂を出来るだけすぐれたものにすることには無関心で、心を向けようとしないのか。”
   金と評判と名誉への志向と、知と真実と魂を優れたものとすることへの志向との、平明にまた力づよく語られたこの対比は、プラトン哲学の基底をなす明確な構図を形づくることになる。息のつづくかぎり哲学することを止めない。たとえ幾たび殺されようとも、決してこれ以外のことをすることはありえない。と、死刑判決を必然の成り行きとして見定めて、「死」でもって、彼が守り通した哲学を成就させたのである。  

   ソクラテスが毒盃を仰ぐ臨終での対話を綴った「パイドン」では、
   ”死に臨んで嘆き悲しむ人を君が見たら、それは、その人が知の求愛者(ピロソポス)ではなく、身体の求愛者(ピロソーマトス)だったことの十分な証拠ではないだろうか。そして、その同じ人は、金銭の求愛者でもあり、名誉の求愛者でもある。”
   自然万有を、「知の求愛者=善く生きる」の「精神」原理と、「身体の求愛者=ただ生きる」を導く「生き延び」原理によって、プラトン哲学における基本路線の構図の見取り図が完成するのだと言う。

   口絵写真は、私が、ニューヨークのメトロポリタン美術館で撮ったソクラテスが毒盃を仰ぐ寸前の絵の写真である。ソクラテスやプラトンの片鱗に触れて胸を熱くした青春時代を思い出しながら、長く佇んでいた。
   ところで、在学中に、まだ、田中美知太郎教授が、京大で教壇に立たれていたようだったのだが、文学部の教室に潜り込んで講義を聴かなかったのを残念に思っている。  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

わが憧れの聖地はパルテノン

2024年08月28日 | 海外生活と旅
   旺盛なインバウンドブームで、日本も今や観光立国、毎日のように、テレビでは、外国人観光客の動向が放映されている。

   鎌倉に住んでいるので、外国人観光ブームの凄まじさは身に染みて感じている。
   日本各地の観光地ではオーバーツーリズムが問題になっているが、その一つとして、「SLAM DUNK踏切」で有名とかで人気の高い江ノ電の鎌倉高校前駅近くでの中国人の混雑ぶりは常軌を逸している。何の変哲もない海岸沿いの踏切に過ぎないのだが、中国観光客にとっては豊かなナラティブに満ちた聖地であって、日本観光の必須の訪問地なのであろう。

   さて、誰もが、外国への観光については、人夫々、思い入れがあって、憧れの聖地へ向かうのであろう。
   私の夢は、ギリシャのアクロポリスの丘に立ってパルテノン神殿を仰ぎ見ることであった。
   意識し始めたのは、中学生時代で、ギリシャやローマの歴史や学問芸術に興味を持って勉強していた時であった。
   尤も、1960年代の頃のことだから、やっと戦後復興から立ち上がりつつあった貧しい日本であったので、夢の夢ではあった。

   しかし、案外早く、パルテノンを訪れることができた。
   記録がないのでやや不正確だが、多分1978年の春、ブラジル赴任時の一時帰国で、ヨーロッパ経由で東京へ向かう途中に立ち寄ったのである。
   パルテノンの素晴らしい遺産に真っ先に触れたのは、その前の1973年で、ルーブル美術館のフリーズ浮き彫りの一片であった。その美しさに感激して、イギリスに住んでいたので、大英博物館のエルギン・マーブル鑑賞には足しげく通った。フリーズの彫刻は海外に持ち出されたので、現地パルテノンには殆ど残ってはいない。
   その後、ヨーロッパ在住の時に家族との休暇旅行で一度、そして、アテネで開かれたWEFの会議に出席した時一度で、3度パルテノンを訪れたことになる。
   色々なところからパルテノンを観察して、沢山の写真も撮った。
   もう何十年も前になり、写真を探せないので、口絵写真はウィキペディアから借用した。
   対面の高みから撮ったパルテノンの写真のパネルを事務所にかけていた。
   ミケーネやデルフィにも足を伸ばしてギリシャの歴史に思いを馳せた。

   もう一つ見たかったのは、スーニオン岬に沈む夕日であった。
   アテネからタクシーを飛ばして向かったのだが、間一髪で陽は波間に隠れて空は赤く染まってしまっていたが、しばらく神殿の廃墟に佇んで涼風を楽しんでいた。運転手が、アテネを離れるときに、あれがソクラテスの独房だと教えてくれたのを何故か鮮明に覚えている。 

   ソクラテスやプラトン、ギリシャ神話や悲劇や喜劇、建築や彫刻、色々なギリシャの学問や芸術が、私に学ぶ喜びを触発し続けてくれたような気がしている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やはり日本は自然災害の多い国

2024年08月27日 | 地球温暖化・環境問題
   大型台風10号が、九州に向かって接近している。
   南海トラフ地震の心配が少し遠のいたと思ったら、これからは、台風のシーズンで、毎年のように心配しなければならない。
   日本では、毎年、どこかで地震や台風などの被害を受けていて、自然災害から解放されるということは望み得ない。

   私は、もう大分前になるが、ほぼ14年間、海外生活を送っていたが、大きな自然災害に遭遇したという記憶はあまりない。
   最初のフィラデルフィアは、東海岸なので日本と気候が良く似ていて、寒かったという印象しかない。

   次のサンパウロは、公害は酷かったが、年中殆ど変化のない温暖な過ごしよい気候で、暑さ寒さには縁がなかった。毛穴が開いてしまったというか、寒暖の激しい日本に帰って、しばらく調整に苦しんだ。
   4年間いたが、一度だけ有り得ない地震が発生した。高層ビルが林立する大都会だが、夫婦げんかで投げ飛ばされた妻が壁を突き破って飛ばされたという嘘のような話があるくらい簡易な建物ばかりなので、大騒ぎとなったことがある。高速道路が崩落した。
   高速道路をリオデジャネイロに向かって走っていて、途中ゲリラ豪雨にあって、トレーラーに追突しそうになったのも嫌な思い出である。

   ヨーロッパには、アムステルダムとロンドンに都合8年住んでいた。一度だけ、大嵐galeに見舞われた。丁度この嵐の途中に、アムステルダムからロンドン経由で東京へ飛ぶ予定にしていたのだが、朝出発のKLM便が遅れてJAL便が出発済みで乗り継げず、後発のBA便で行った記憶がある。キューガーデンの100年以上の巨大な古木が何本も根元から根こそぎ倒壊していたから、ヨーロッパでは珍しいくらい強烈なgaleであったのであろう。
   ヨーロッパのばらの美しい夏は快適だが、日が短くて太陽のない毎日リア王の世界が続く冬季は陰鬱である。一度だけ、アムステルダムで氷点下20度を切って、水道管が破裂して、家中水浸しになって困ったことがある。
   普通の冬は、運河に氷が張ってスケート場になって庶民が愉しみ、オランダ全土完走大会で盛り上がる。車は青天井の駐車なので、毎朝、熱湯をかけても瞬時に凍てしまいキーを開けるのに苦労する。

   そのほか、海外を歩いていて、色々な自然災害に沿遇してはいるが、日本ほど、酷い国はないのではないかと思っている。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マーケット市況動画を見はじめる

2024年08月25日 | 生活随想・趣味
   今月に入って、日経平均株価が大きく乱高下して、マーケットが異常に激動しており、前後に、僅かながら株を買ったので、株価動向が気になり始めた。
   さしあたって、情報を得るためには証券会社の解説を見るのが一番手っ取り早いと思って、野村の「マーケット解説動画|野村の投資情報」や大和証券、日興証券などの「市況動画」などを見始めたのである。
   以前にも見ていたのだが、結構面白いのは事実である。

   ところで、この株式市況やマーケット分析の世界は、私自身の学んだ経済学や経営学とは全く違っているので、照準を合わせるのに苦労している。
   大学で経済学を専攻し、大学院でMBAを取得し、今でも専門書を読み続けてブラッシュアップしているので、それほど専門知識は落ちたとは思ってはいないのだが、残念ながら、市況動画の説明や解説が分かったとしても、さて、株の売買に、どう対応すればよいのか殆ど自信がない。
   なまじっか、経済学や経営学の知識があればこそ、役立つどころか、判断を誤らせて、邪魔になることが多いような気がする。

   例えば、私は、経済成長と景気循環を主体に勉強してきたが、資本主義がどうだとか、スタグフレーションがどうだとか、もっとスケールの大きい、経済構造の本質を学んできたのだが、直近の政治や景気状況、為替や金利、インフレなどのマーケットに立つ波風が微妙に市況に影響して、株価などが乱高下する投資の世界とは違うのである。まして、チャート分析など、馴染みがない。
   経済学の景気循環と市況のアップダウンは違うし、経営学の経営戦略戦術が、そのまま企業の業績に直結するわけでもない。
   尤も、将来の経済状況を見極めて、企業を特定して、その企業の経営分析を行って、投資対象を選択すればよいのかもしれないが、そんな気持ちもない。

   ただし、景気循環は資本主義の本質でありアップダウンは必然であって、それでも、経済社会は、成長発展を続けて上昇している。
   株も同じで、会社がつぶれない限り、下がれば上がり、長期的には、上昇トレンドで推移するのは間違いない。

   新NISAだが、将来のある若い人には、長期・分散・積立の定石に従って、こつこつ、長期にわたって投資を続けて行けば、恰好の投資手段となるであろう。
   若い時に、自社株をドルコスト方式で投資して、自宅建設資金として重宝したことがある。適当な投信を選んで、少額でもよいから、毎月積み立てて長期に保有すれば、年金や個人型確定拠出年金(iDeCo)の援軍として役に立ち、潤沢な老後資金を得ることとなるので安心である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カマラ・ハリス:大統領候補指名受諾演説

2024年08月23日 | 政治・経済・社会
   シカゴで開かれている民主党大会の最終日の22日、大統領候補に指名されたカマラ・ハリス副大統領(59)が受諾演説を行った。黒人、アジア系として米国初の女性大統領を目指して、11月の大統領選で、共和党のドナルド・トランプ前大統領(78)と対決する。
   首席スピーチライターのアダム・フランケル氏の草稿に手を加えながら数週間かけて演説を練り上げてきたというのだが、さすがに検察官のキャリアーがものを言って弁舌さわやかで、感動的なスピーチであった。
   私は、NHKの放映を通じて、全公演を聴講して、解説も読んだ。
   参考にして、感想を述べたい。

   冒頭、母はインドからカリフォルニアへ渡ってきたと自分の生い立ちを語って、「さまざまな政治的な見解を持っている人がいることはわかっている。皆さんに知ってもらいたい。私はすべてのアメリカ国民のための大統領となることを約束する」と宣言した。
   そして「力強い中間層の存在がアメリカの成功に不可欠であることを私たちは知っている。そして、こうした中間層を築き上げることが大統領に就任した際の決定的な目標になる。 (A strong middle class has always been critical to America's success. And building that middle class will be a defining goal of my presidency .)中間層の家庭に生まれた私の思いだ」と述べて、アメリカ社会の根幹はミドルクラスの健全な存在であって、この繫栄あってこそアメリカ社会の活性化と未来があるとの持論を強調した。
   さらに「私は私たちの最も高い志で国民を束ねる大統領になる。人々を導き、耳を傾け、現実的で良識のある大統領になる。そして常にアメリカ国民のために戦う。それが裁判所からホワイトハウスまでの私のライフワークだ」と述べて、非常識極まりない対戦者を揶揄し、「政党や人種、性別などに関係なく、すべてのアメリカ人のために、懸命に働き夢を追い求めるアメリカ人のために、大統領候補への指名を受諾する」と述べ て、アメリカンドリームを匂わせた。

   「今回の選挙は私たちの人生において最も重要であるだけでなく、私たちの国の歴史において最も重要なもののひとつだ。トランプ氏は不真面目な男だ。しかし、彼をホワイトハウスに戻すことの結果は極めて深刻だ。(Trump is "an unserious man" and his return to the White House would have "extremely serious" consequences.) 彼が大統領だった時の混乱や災難だけでなく、彼が前回の選挙で敗れたあとに起きたことの重大さを考えてほしい」と述べて、さらに、恐ろしいと指摘したのは、「大統領公務なら免責」とする最高裁の判断。免責特権が幅広く認められる恐れがあり、大統領の権限が法律で制約されなくなると、「自分ファースト」でモラルを欠き常軌を逸した傍若無人な独裁者が、大統領になればどうなるのか。

   ハリスは、ガザ・イスラエル問題について、イスラエル支持とガザでの平和停戦に言及しながら、「私たちは、世界の歴史上、最も偉大な民主主義の継承者だ。」として、「前向きと信念に導かれ、愛するこの国のために、そして育んできた理想のために戦う」と述べた。ハリスの命の叫びである。
   トランプはNATOから脱退すると脅迫したが、、ウクライナやNATOの同盟国を強く支持する」と述べ、国際協調を重視する姿勢を示した。トランプのように、「暴君や独裁者にすり寄ることはない」 としたのが興味深い。

   移民政策については、 国境管理「法案を復活」 させ、人工妊娠中絶については、「復活法案 誇り持って署名する」として、
   ハリス氏は「ともに戦おう。投票に行こう。これまでで最もすばらしい物語の次の偉大な章を記そう」と述べて演説を締めくくった。 
   
   さて、今度のテレビ討論会でのハリスの対決戦略は、「検察官対重罪犯」で十分だと思う。
  ハリスは、元検察官という自らのキャリアに言及して、「女性を虐待する略奪者、消費者からだまし取るペテン師、自分の利益のために規則を破る詐欺師、あらゆる種類の加害者と私は対決した。だからドナルド・トランプのようなタイプを知っている」と、大統領経験者として史上初めて重罪で有罪評決を受けたトランプと、犯罪者と対峙してきた元検事の姿を浮き彫りにした。
   トランプは、ハリスが追い詰めた重罪犯の資格は十分に持っており、その追求だけで勝負がつく。

   トランプは、ハリスをバカ呼ばわりしているが、箔付のために大学進学適性試験(SAT)を替え玉受験して入学してウォートンを出た学卒より、加州大ロースクールを出た法務博士のハリスの方が知的水準は遥かに上のはずで、その上に、法廷に立った百戦錬磨の敏腕検察官、
   口から出まかせ嘘八百で生き抜いてきたトランプがどう対峙するか。

   また、トランプは、ハリスは共産主義者だとか、ハリス政権になれば、アメリカ経済を崩壊させるとか、第3次世界大戦を引き起こすとか、根も葉もない暴言を口走っている。
   2016年の選挙でトランプが勝ったのは、エスタブリッシュメントを否定して、アメリカの東部から中西部に広がる製造業の集積地帯「ラストベルト(Rust Belt)」で、中間所得層からの転落を恐れる多くの白人労働者の怒りと不満を浮かび上がらせて集票に成功したからであった。しかし、このトランプ戦術は賞味期限切れで、産業構造も労働環境も大きく激変していて、
   今回の選挙は、中間層の取り込み以上に、女性票やマイノリティ票や若年層票がキャスティングボートを握っており、浮動票の帰趨が選挙の結果を制しよう。
   トランプ、そして、保守党の戦略戦術、ビジョンや政策は、既に既知で手垢にまみれている。たとえ、バイデン政権の遺産であっても、今回のハリス演説に徐々に斬新さを加えて独自色を出して、民主党本来の福祉国家政策などのリベラル政策をブラッシュアップすれば、ハリスの勝機は向上するはず。
   A new way forward を、どう叩き付けて、後ろ向きのトランプを粉砕するか、
   とにかく、9月10日のテレビ討論会を期待したい。
   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ハリス:中産階級活性化の経済政策

2024年08月20日 | 政治・経済・社会
   CNNは、 ハリス米副大統領は16日、庶民重視の経済政策を公表し、1億人を超える中産階級や低所得層の米国人を対象とした新たな減税計画を提案した。と報じた。
   また、副大統領候補にミネソタ州のワルツ知事を選んだことについて「米国を結束させる指導者で、中流階級のための闘士」を探していたと説明した。
   私の注目したのは、「中産階級重視」の経済政策である。

   ハリスのこの中産階級活性化の経済政策の詳細が分からないので、詳論できないが、しかし、かってアメリカには、中産階級の繁栄が、アメリカ社会の黄金時代を現出した時代があったのである。
   経済分析の余裕がないので、わがブログの一部を引用すると、
   第二次世界大戦後30年に及ぶ高度経済成長期には、経済とは、将来への希望を生み出すものであり、きつい勤労は報われ、教育は上昇志向で、より多くのより良い仕事を生み出し、殆どの人々の生活水準が上がり続け、米国では、他には見られないような巨大な中間層が形成されて、米国経済の規模が倍増すると同時に、平均労働者の所得も倍増した。
   企業経営者たちも、自らの役割を、投資家、従業員、消費者、一般国民、夫々の要求をうまく均衡させることだと考えて、大企業は実質的には、企業の業績に利害をもつすべての人に所有されたステイクホールダー資本主義であった。
   アメリカにも、そのような民主主義と資本主義が息づいた素晴らしい時があったのである。 

     ライシュが、大繁栄時代として肯定しているこの第二次世界大戦後の四半世紀には、政府は、「経済の基本取引」を強化、すなわち、完全雇用を目指してケインズ政策を採用し、労働者の交渉力を強化し、社会保障を提供し、公共事業を拡大した。
   その結果、総所得のうち中間層の取り分が増える一方、高所得層への分配は減少したのだが、経済自体が順調に拡大したために、高所得者も含めてほぼ総ての国民が恩恵を受けた。
   個人消費がGDPの70%を占めるアメリカ経済では、ボリュームゾーンの中間層が健全であることが必須で、中間層が、生産に応じて適正な所得を取得して、生産した財やサービスを十分に購買可能な「経済の基本取引」が成立した経済社会であったが故に、生産と需要が均衡して繁栄したのである。

   これは、日本にも言えることで、団塊の世代などは経験していることだと思うのだが、戦後復興効果はあったものの、日本経済はどんどん高度成長を続けて年々所得が上がって生活が向上し、1億総中流家庭と言われる幸せな時期が続いて、Japan as No.1の高見まで上り詰めた。

    ところが、その後、歯車が逆転して、政府は富裕層優遇の経済政策を推進し、賃金の中央値の上昇が止まり、国民総収入のうち中間層に流れる割合は、減少し続けて、大部分のアメリカ人にとって、賃金の伸びが止まっていないかのように生活を続ける唯一の方法は、借金であり、中間層の消費者は、最後の手段として借金漬けとなった。 
    深刻な経済格差の拡大と資本主義の挫折、We are 99%、ウォール街を占拠せよの到来。

   ところで、今日、日経が、「米企業、「株主第一」の修正進まず 労働分配率が低下」と報じた。経営の非民主化、逆転現象である。
   米企業が掲げた「ステイクホールダー重視」経営から「株主第一主義の修正」が進んでいない。利益配分の株主偏重を改め、従業員や地域社会への還元を厚くすると大手企業が宣言してから5年がたったが、労働分配の比率は低下する一方、巨額を株主に投じている。経済格差への不満が社会の分断や不安定化につながる構図は強まっている。 というのである。
 
   徹頭徹尾、弱肉強食の市場経済の魂が刷り込まれたアメリカの経済社会、
   成熟化して若いエネルギーを失ってしまって、もはや、後戻りが効かなくなってしまったアメリカ社会に、「中産階級再活性」の夢を実現できるのであろうか。
   ハリスの経済政策はアメリカ社会の起死回生には必須条件ではあるが、極めてハードルが高いと言わざるを得ない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする