熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

台頭するブラジル(仮題 BRAZIL ON THE RISE)(20) 真面目な国になる

2011年12月05日 | BRIC’sの大国:ブラジル
   この章のタイトルは、「BECOMING A "SERIOUS COUNTRY"」。
   SERIOUSをどう約すか難しい問題だが、発端は、1960年代初期に、フランスとの漁業交渉で、ド・ゴール大統領が、ブラジルは、SERIOUS COUNTRYではないと言ったことに始まると言う。
   ところで、この問題の答えになるかは別にして、ローターは、2009年10月2日に、リオが、2016年のオリンピック開催地に決定した時のルーラ大統領の言葉を、引用して、ブラジルが世界に認知されたと捉えている。
   ルーラ大統領が、喜びの演説で、”Today is the day that Brazil gained its international citizenship."と宣言したのである。

   ブラジル人が、世界中に、唯一認知されたいと願っていたのは、ブラジルが、great powerだと言うことだったと言う。
   名実ともに経済的にも巨大な国であり、天然資源にも恵まれた広大な国土と2億人に達する人口を擁する国であるが、国際舞台では、一等国としては、認めれれておらず、また、ブラジル人自身も、劣等感(a feeling of inferiority)が強くて、自分たち自身にも自信がなかったのである。
   ところが、オリンピックに選ばれ、今や、BRIC’sの大国として21世紀にもっとも期待される新興国の代表として脚光を浴びたのであるから、一挙に、ブラジル人の鼻息が荒くなって、多少、自信過剰状態になってしまったと言うのだから興味深い

   この章では、ローターは、当然のこととして、ブラジルの外交や軍事などを含めて対外関係や国際関係に焦点を当てて論じている。
   まず、ブラジルは、自国自身が、ラテンアメリカでのリーダーだと思っているので、他の大陸の大国ばかりを意識して比較をしており、近隣の中南米諸国に対しては、軽視気味だと言う。
   面白いのは、元宗主国のポルトガルには、殆ど関心がなく、イタリアやドイツなどからの移民が多いにも拘らず、非常にフランスびいきらしい。
   日本、中国、インドなどアジアに対しては、経済成長の見本として、高く評価しているのだが、逆に、アフリカに対しては、非常に評価が低い。

   興味深いのは、アメリカに対するブラジル人の錯綜した複雑な気持ちである。
   「アメリカに出来ることが、ブラジルに出来ない筈がない」と言う気持ちを持ちながら、現実のアメリカとの格差の大きさを考えれば、何故、ブラジルは、同じ新興国であった筈なのに、こんなに遅れてしまっているのかと言う気持ちを持たざるを得ないと言うことである。
   
   歴史はゼロサム・ゲームであるので、アメリカは、ブラジルを犠牲にして、今日の繁栄を勝ち取ったとのだと言う。
   この考え方は、ブラジルの左翼系の人に多いと言うことで、ブラジルが、当然、達成すべきだった筈の偉大さを、アメリカは、初期の段階で、奪ってしまったのだと言うことで、名のある学者が、外交官養成機関で講義していると言うのだから驚く。

   面白いのは、飛行機の生みの親は、ライト兄弟ではなく、ブラジル人のサントス=デュモンだと主張して譲らないと言う話である。
   ライト兄弟の飛行は1903年で、デュモンは1906年だが、ライト兄弟は、金儲けのために一切を秘密にしたが、デュモンは、図面をはじめ飛行機に関する発明の一切合財を公に公開したということだが、ライト兄弟はアメリカ、デュモンはヨーロッパと言うこともあるが、面白い。
   また、前にも触れたが、アメリカが、アマゾンを、支配下に置こうとしていると言うブラジル人には強烈な疑念があると言う。

   ブラジルが、アメリカとの関係が良かったのは、クリントンとカルドーゾ時代で、最悪だったのは、カーターと軍事政権時代とブッシュとカルドーゾ時代だったと言う。
   ブラジルのルーラ政権以降とオバマ政権とは、良好のようだが、イランやベネズエラなどに対するブラジルの独自外交では利害の対立がありギクシャクしているケースもかなり出ているとも言えよう。
   2009年にマフムード・アフマディーネジャード大統領を招き、2010年にルーラ大統領自身イランを訪問し、イランの核開発をバックアップしている。
   この核開発に対しては、ブラジルもソ連崩壊後、ロシアから核科学者を招聘して、密かに海軍などを中心に進めていて、核保有国の手前勝手な核保有について反発しており、IAEAに参加しているが、核拡散防止条約の趣旨にも納得はしていないと言う。
   核兵器を保有する意思はなさそうだが、他のBRIC’s諸国が核を保有しており、ナショナリストたちは、大国の資格要件として核保有は当然だとと考えているようである。
   ブラジルのロケット開発に対して、アメリカが、悉く、妨害し続けていることなどにも、ブラジルのフラストレーションが高まっていると言う。

   軍事については、特に、仮想敵国がある訳ではなく、ラ米での軍事的脅威が存在する訳でもないので、現在、375,000人の軍人が存在するが、目的は、国境警備、国内治安の維持、国内政治への干渉などである。
   現に、隣国との紛争と言えば、ボリビアのモラレス大統領によるペトロブラス国有化や、パラグアイとのイタイプ発電プロジェクトの価格紛争くらいである。
   しかし、その拡大整備は、大国としての権威として必要だと考えており、特に、最近開発された原油資源や、外国からの干渉が激しくなってきているアマゾンを守るために、その必要を感じ始めていると言う。
   興味深いのは、資金と経験確保のために、国連のPKMに積極的に参加して、平和維持に貢献していることである。

   もう一つのブラジルの悲願は、国連安全保障理事会の常任理事国への参加である。
   あらゆる機会を利用して、その推進を進めているようだが、まず、メキシコ、そして、アルゼンチンが反発するであろうし、中国も賛成しないであろうと言う。
   ブラジルのラ米での立ち位置だが、比較的仲の良いチャベスのベネズエラとの問題でギクシャクしているのも、チャベスが提唱している南大西洋条約機構SATOでの主導権争いにあるようである。
   したがって、ラ米において、ブラジル自身が、名実ともに、リーダー大国として認知されるかどうかと言うことが、ブラジルとしての重要な外交案件でもある。

   いずれにしろ、表立って紛争を興すことを嫌い、どことでも仲良くしたいと言う八方美人的な国民性の強いブラジルが、如何に、真面目な成熟した大国として、世界中から認められるのかと言うことが、ブラジル、ひいては、世界の為にも重要だと言うことであろうか。
   
   

   
   
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